語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~

2011年11月29日 | 社会
 戦前の日本は、今以上に格差社会だった。富のほとんどが財閥に握られ、産業の収益の多くが財閥に集中された。財閥のトップは、国民の平均収入の1万倍を得ていた。しかも、当時の所得税は一律8%だったから、今より貧富の差が厳しかった。
 軍部が暴走したのは、そういう国民の不満を吸収したから、という一面があった。
 戦後、かかる格差を日本の欠陥と見たGHQは、貧富の解消に努めた。1949年、シャウプを団長とするが税制使節団が来日し、「負担の公平」をめざして直接税を中心とした税制を構築した。大企業と金持ちに高い税率を課す税制だ。1951年、日本政府は、シャウプ勧告に則る税制改革を行った。
 戦後日本社会は、シャウプの税制を守り続けてきた。しかし、1980年代に入って、シャウプの税制が崩れ始めた。戦後40年を経ると、日本は経済大国に成長し、国民は戦前の貧富の格差を忘れ始めていたのだ。大企業/金持ちが、永年念願としてきた税制変革を求めて、政治家に一気に圧力をかけてきた。
 かくて、1980年代後半から、怒濤の勢いで大企業/金持ちの税金が下げられた。

 減額された税額がどれほど巨額であったかは、1988年と2010年の国税収入を比較するとよくわかる。
 仮に、今の経済状態に1980年代の税制をあてはめるなら、税収は今の2倍くらい増えるのだ。消費税を増税しなくても、大震災の復興費など、簡単に賄える。

 1988年は、今より13兆円も税収が多かった(国税収入50.5兆円)。この年は、バブル崩壊の直前で、消費税導入の前年だ。つまり、消費税による収入はまだ無い年だ。
 いまは1988年よりGDPが25%増加している。だから、税収も25%増えているはずなのだが、実際には逆に25%以上も下がっている(2010年の国税収入37.4兆円)。
 なぜか。
 この20有余年間に、税制が大きく変ったからだ。主な変更点は4つ。
 (1)大企業の法人税率が大幅に下げられた(40.2%→30%)。
 (2)高額所得者の所得税率が大幅に下げられた(60%→40%)。
 (3)資産家の相続税率が大幅に下げられた(75%→55%)。
 (4)消費税が導入された(0%→5%)。
 要するに、大企業/金持ちの負担減、庶民の負担増だ。
 仮に、今の税制を1988年代の税制に戻せば、GDPが25%増加しているのだから、60兆円以上の税収が見込まれる。これに今の消費税による収入(9.6兆円)を加えれば、70兆円の税収となる。今の税収のほぼ2倍だ。

 日本政府は、大企業/金持ちを減税する一方で、近年、中間層以下には大増税を連発している。給料取りの大半が、最近手取りが少なくなった、と感じるのは、増税されているからだ。
 <例1>配偶者特別控除(現在の配偶者特別控除とは別)の廃止(2004年)。年収1,000万円以下の人で配偶者に収入がない場合に適用されていた。この制度が廃止されたため、4~5万円の増税となった。
 小さな子どもを抱える家庭に4~5万円も増税するとは、少子高齢化対策に逆行する。
 <例2>定率減税の廃止(2007年)。低所得者の負担を減らすための減税制度で、最高で所得税の2割が減税された。多い人では20万円以上にものぼった。この制度には、事実上の所得制限があったので、高額所得者にはあまり減税にならないものだった。ところが、これが廃止されたため、中間層以下の給与所得者は、おおむね4~5万円の負担増となった。 

 以上、武田知弘「あり余るカネ持つ大企業と金持ち! ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第2回~」(「週刊金曜日」2011年11月25日号)に拠る。

 【参考】「【経済】「億万長者激増」の政治学 ~新自由主義~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
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