語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】アマゾンと日本企業の物流との間には「大学生と小学生」の差がある

2018年02月25日 | 社会
 (1)翌日配送や、1時間以内配送など、驚くべき配送スピードを実現し、高い顧客満足度を維持するアマゾン。ユーザーから見ると、生活を便利にしてくれるありがたい存在だが、アマゾンと直接取引をしている企業には、そのビジネスのやり方が「冷酷だ」と映ることも多いという。
 日本でもアマゾンが通販ビジネスのサービスレベルを圧倒的に引き上げ、他の企業はそのレベルについていこうと必死になっている・・・・そんな構図が見える昨今だが、なぜアマゾンはこのような強さを発揮できるのだろうか。俗に言うような冷酷さが、アマゾンの本当の姿なのだろうか。そして、日本企業は、アマゾンに対抗することができるのだろうか。

 (2)林部健二(現・株式会社鶴代表)は、アマゾンジャパンが設立された翌年の2001年に同社に入社し、10年ほど、サプライチェーン部門とテクニカルサポート部門の責任者を歴任した。そこで見えたアマゾンの強さの秘密と、日本企業がアマゾンに対抗する術を、ここで紹介する。より詳しくは、林部著『なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか』(プチ・レトル)が参考となる。

 (3)まず、アマゾンの物流面での強さは、その特異な「物流戦略」にある。
 アマゾンでは、一般の会社に比べて物流の重要度が非常に大きい。それは物流への投資の大きさに表れている。アマゾンの2016年12月期の業績を見ると、売上高15兆9,431億円(2016年12月28日時点の為替レートで計算)に対して、その13%をFulfillment(フルフィルメント、物流関連)費用にあてている。
 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会の「2016年度物流コスト調査報告書」によると、日本の小売業の売上高に対する物流コストの比率の平均は4.85%であるから、アマゾンの物流コストがどれほど大きいかが分かる。

 (4)この物流に対するコミットメントが、人材の面にも表れている。アマゾンでは、MBAを取得した人間が倉庫管理者に就いていることが多い。物流を管理するには、物流のことだけがわかればいいのではなく、経営がわかり、システムがわかる人材が必要であるとの考えがベースにある。その視点で、優れた人材を物流にあてているのだ。

 (5)その他、EDIと呼ばれるシステムで他の取引企業とデータ連携し、製造業並みのサプライチェーン管理を行っていることや、独自の需要予測システムによる購買管理、注文から納品までフルフィルメントパスを最適化する仕組み、需要予測やEDIと連動した在庫管理、Kivaというロボットを活用し、フリーロケーション(商品ごとの保管場所が決まっていない保管形式)を前提とした倉庫管理などが、アマゾンの物流の高いサービスレベルを作り上げている。そのどれか一つが欠けるだけで、このサービスレベルは維持できなくなるだろう。
 また、その物流戦略のベースにあるのが、「アマゾン式ロジカル経営」とでも言うべき、数値に基づく経営だ。KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)、オペレーション、システムの3本柱が、このロジカル経営を支えている。KPIを定めている会社は多いが、アマゾンほど厳密にレビューし、オペレーション改善に活かしている会社を見たことがない。
 KPIをレビューするための週次経営会議と、そこでのアクションプランに基づくオペレーション改善が、アマゾンのオペレーションをどんどん最適化していく。そしてそれ以外にも、社内に根付いているオペレーション改善の意識と、それを具体的なタスクに落としていくための課題管理票のシステムが、日々の高速なPDCAを実現している。

 (6)さらに、アマゾン独自の要求と、日々変わるオペレーションに柔軟に対応するシステム開発を可能にするため、内部で開発者を抱え、あらゆるシステムを内製化している。アマゾンのビジネスにおけるシステムの重要度を表すかのように、エンジニアの地位も待遇も、社内では非常に高いのが特徴的である。
 アマゾンが取引企業に「冷酷だ」と見られることがあるのは、このように、あくまで数値に基づいてロジカルな判断を行うからだ。というのも、アマゾンの判断基準はあくまで「最終的に顧客のためになるかどうか」「アマゾンの利益になるかどうか」だからだ。
 アマゾンの利益になれば、「安さ」という形で顧客に還元できるので、それも最終的には顧客のためになる。つまり「顧客至上主義」がアマゾンのビジネスのベースにある。そのビジネスのやり方は、日本企業の商慣習である「昔からお世話になっているから」といった浪花節的な判断基準とは相反する。だから反感を買うこともあるのだ。

 (7)アマゾンは商品カテゴリを増やし続けており、今や小売企業で通販を行う企業のほとんどは、アマゾンと競わざるを得ない。特に物流の面で、アマゾンの強さに対抗していく必要がある日本企業も多いだろう。
 では、日本企業はアマゾンの真似をすべきなのだろうか。否。
 「アマゾンと他の日本企業の物流システムの現状は、大学生と小学生ほども差がある」
 アマゾンの物流の強さは、アマゾンが20年以上かけて毎年莫大な投資をしながら作り上げてきたものであり、一朝一夕に真似できるものではない。同じ土俵に立っても勝ち目がないとするならば、アマゾンの真似をするのではなく、別の戦い方をすべきである。
 それはアマゾンにはない、自分たちだけの強みは何かを考えることだ。それを見つけ、磨いていくことができれば、全ての顧客をアマゾンに持っていかれることはない。

□林部健二(株式会社鶴代表)「アマゾンと日本企業の物流には「大学生と小学生」の差がある」(「週刊ダイヤモンド」2017年1月27日号)
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