語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】フランソワ・ヴィヨン「昔日の美女たちのバラード」

2015年09月24日 | 詩歌
 おしえてよ 今どこに どんな所にいるんだい
 あのローマの美しい遊女フロラは
 アルキピアダは そして
 彼女の血を分けた従姉妹タイースは?
 川べや池のほとりで
 音をたてればこだま返すエコー
 あの人間には及びもつかぬ美の精霊は?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 どこにいるのですか まこと賢婦人エロイーズ
 彼女のためピエール・エバイヤールが
 宮せられてサン・ドニの僧院入りした あの美女は?
 彼女への愛ゆえにあんな不幸に見舞われたのだ
 また 同様に どこにいるあの王妃
 総長ビュリダンを袋に詰めて
 セーヌ川へ投ぜよと命じた女王は?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 その歌声はセイレーンさながら
 百合のごとく純白(ブランシュ)な孤閨のブランシュ太后は
 大足ベルト ビエトリス アリス
 メーヌの州を司ったるアランビュルジス
 そしてあの勇敢なロレーヌむすめ
 ルーアンで英軍に焼き殺されたジャンヌ
 どこにいるんだ、マリア様 みんなどこにいるんです?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 公子よ かの美女たちがいまどこにいるか
 決してたずねてはなりませぬ
 ただもうこの同じルフランに立ちもどるばかりです―
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?

□フランソワ・ヴィヨン「昔日の美女たちのバラード」(天沢退二郎・訳)『ヴィヨン詩集成』、白水社、2000) 
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 語れ いま何処(いづこ) いかなる国に在りや、
 羅馬の遊女 美しきフロラ、
 アルキピアダ、また タイス
 同じ血の通ひたるその従姉妹(うから)、
 
 河の面(おも) 池の辺(ほとり)に
 呼ばへば応(こた)ふる 木魂(こだま)エコオ、
 その美(は)しさ 人の世の常にはあらず。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処(いづこ)。

 いま何処(いづこ)、才抜群(ざえばつくん)のエロイース、
 この人ゆゑに宮(きゅう)せられて エバイヤアルは
 聖(サン)ドニの僧房 深く籠(こも)りたり、
 かかる苦悩も 維(これ) 恋愛の因果也。
 
 同じく、いま何処に在りや、ビュリダンを
 嚢(ふくろ)に封じ セエヌ河に
 投ぜよと 命じたまひし 女王。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

 人魚(シレエヌ)の声 玲瓏(れいろう)と歌ひたる
 百合のごと㍗眞白き太后(たいこう)ブランシュ、
 大いなる御足(みあし)のベルト姫、また ビエトリス、アリス、
 メエヌの州を領(りやう)じたるアランビュルジス、
 
 ルウアンに英吉利人(イギリスびと)が火焙(ひあぶり)の刑に処したる
 ロオレエヌの健(たけ)き乙女のジャンヌ。
 この君たちは いま何処(いづこ)、聖母マリアよ。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

 わが君よ、この美しき姫たちの
 いまは何処(いづこ)に在(いま)すやと 言問(ことと)ふなかれ、
 曲なしや ただ徒(いたづ)らに畳句(ルフラン)を繰返すのみ、
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

□フランソワ・ヴィヨン(鈴木信太郎・訳)「疇昔の美姫の賦」(『ヴィヨン詩集』、岩波文庫、1965)
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