(1)消費増税と復興特別法人税の前倒し廃止の背後に、まやかしの構造が隠れている。
(2)日本の法人税は、途上国はもとより、米国以外の先進国に比べてもかなり高い。最近は、企業の海外流出を止めたり、海外企業を国内に誘致するために国際的な法人税引き下げ競争が激化している。そこで、日本も引き下げよう・・・・というのが、もともとの議論としてあった。
その第一弾として、2012年度から法人税の実行税率が40.6%から35.64%に引き下げられるはずだった。
しかし、東日本大震災の復興予算の財源のために、次の措置がとられている。
(a)法人税の実行税率・・・・38.01%に引き上げ(2012年度から3年間)
(b)個人の所得税額・・・・税額に2.1%を上乗せ(2013年1月から25年間)
(c)個人の住民税・・・・税額に2.1%上乗せ(2014年6月から10年間)
(3)(2)-(a)だけ1年前倒しで廃止するのはおかしい、という批判があるが、もっと強く批判されるべきことがある。
交際競争と雇用維持の観点から法人減税が、中長期の「成長戦略」の課題となっていたが、その観点から言えば、やるべきことは、
(a)まず法人税の本則の税率を恒久措置として引き下げ、
(b)その上で復興特別製上乗せを継続する。
ということだ。
しかし、法人税本則を見直して恒久減税をするとなれば、財源捻出のために法人税に関する「租税特別措置」を全面的に整理(廃止)しろ、と財務省に言われるのが必至だ。
(4)「租税特別措置」とは何か。ある一定の条件を満たす場合に限り、法人税を特別にまける制度だ。<例>省エネ投資をしたら減税。IT投資をしたら減税。研究開発を増やしたら減税。
各制度には非常に細かい条件が設定されているが、その条件の決定に当たっては、関連の業界団体が担当省庁と族議員に陳情する。これを受けて、各省庁と財務省が交渉し、最後は自民党税調の議員との調整を経て減税措置が決まる。
団体は、その見返りに
(a)天下りポストを提供し、
(b)パーティー券を買い、選挙に協力する。
複雑で巨大な利権の構造だ。
(5)既得権者たちから見れば、「租税特別措置」の全面見直しなど、あってはならない。
しかし、法人税引き下げを求める市場の声に安倍総理は押された。
そこで官僚たちが考え出したのが、復興特別税の1年前倒し廃止だ。これなら、
(a)「租税特別措置」と関係なく、財務省や自民党税調を含む既得権者たちも異論はない。
(b)1年限りのまやかしだが、法人税を下げた、と言えるから安倍総理の顔も立つ。
(c)恒久的な減税ではなく、復興特別税1年分の減税だけで済むから、財務省から見てもさほど痛手ではない。
(6)かくして、肝心の「租税特別措置」の抜本的見直しは行われず、法人税の抜本的引き下げの議論も先送り。
他方 規制改革も看板倒れで「成長戦略」はカラッポのままだ。
「消費増税とバラマキのスパイラル」だけが日本国民に残された選択肢となる。
□古賀茂明「「租特」という巨大利権 ~官々愕々第80回~」(「週刊現代」2013年10月12日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~」
「【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~」
「【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~」
「【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~」
「【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~」
「【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~」
「【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~」
「【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~」
「【経済】円安による費用増はすでに政治的問題」
「【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~」
「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場」
「【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~」
「【経済】円安を止められなくなるリスク」
「【税】富裕層への増税を支持する富裕層」
「【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~」
「【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~」
「【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~」
「【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~」
「【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~」
「【経済】税制が作った“富裕老人”400万人」
「【経済】消費税は失業者を増やす」
「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~」
「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~」
(2)日本の法人税は、途上国はもとより、米国以外の先進国に比べてもかなり高い。最近は、企業の海外流出を止めたり、海外企業を国内に誘致するために国際的な法人税引き下げ競争が激化している。そこで、日本も引き下げよう・・・・というのが、もともとの議論としてあった。
その第一弾として、2012年度から法人税の実行税率が40.6%から35.64%に引き下げられるはずだった。
しかし、東日本大震災の復興予算の財源のために、次の措置がとられている。
(a)法人税の実行税率・・・・38.01%に引き上げ(2012年度から3年間)
(b)個人の所得税額・・・・税額に2.1%を上乗せ(2013年1月から25年間)
(c)個人の住民税・・・・税額に2.1%上乗せ(2014年6月から10年間)
(3)(2)-(a)だけ1年前倒しで廃止するのはおかしい、という批判があるが、もっと強く批判されるべきことがある。
交際競争と雇用維持の観点から法人減税が、中長期の「成長戦略」の課題となっていたが、その観点から言えば、やるべきことは、
(a)まず法人税の本則の税率を恒久措置として引き下げ、
(b)その上で復興特別製上乗せを継続する。
ということだ。
しかし、法人税本則を見直して恒久減税をするとなれば、財源捻出のために法人税に関する「租税特別措置」を全面的に整理(廃止)しろ、と財務省に言われるのが必至だ。
(4)「租税特別措置」とは何か。ある一定の条件を満たす場合に限り、法人税を特別にまける制度だ。<例>省エネ投資をしたら減税。IT投資をしたら減税。研究開発を増やしたら減税。
各制度には非常に細かい条件が設定されているが、その条件の決定に当たっては、関連の業界団体が担当省庁と族議員に陳情する。これを受けて、各省庁と財務省が交渉し、最後は自民党税調の議員との調整を経て減税措置が決まる。
団体は、その見返りに
(a)天下りポストを提供し、
(b)パーティー券を買い、選挙に協力する。
複雑で巨大な利権の構造だ。
(5)既得権者たちから見れば、「租税特別措置」の全面見直しなど、あってはならない。
しかし、法人税引き下げを求める市場の声に安倍総理は押された。
そこで官僚たちが考え出したのが、復興特別税の1年前倒し廃止だ。これなら、
(a)「租税特別措置」と関係なく、財務省や自民党税調を含む既得権者たちも異論はない。
(b)1年限りのまやかしだが、法人税を下げた、と言えるから安倍総理の顔も立つ。
(c)恒久的な減税ではなく、復興特別税1年分の減税だけで済むから、財務省から見てもさほど痛手ではない。
(6)かくして、肝心の「租税特別措置」の抜本的見直しは行われず、法人税の抜本的引き下げの議論も先送り。
他方 規制改革も看板倒れで「成長戦略」はカラッポのままだ。
「消費増税とバラマキのスパイラル」だけが日本国民に残された選択肢となる。
□古賀茂明「「租特」という巨大利権 ~官々愕々第80回~」(「週刊現代」2013年10月12日号)
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「【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金制度(戻し税)~」
「【消費税】増税で景気はどうなる? ~賃金と雇用~」
「【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~」
「【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~」
「【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~」
「【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~」
「【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~」
「【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~」
「【経済】円安による費用増はすでに政治的問題」
「【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~」
「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場」
「【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~」
「【経済】円安を止められなくなるリスク」
「【税】富裕層への増税を支持する富裕層」
「【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~」
「【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~」
「【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~」
「【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~」
「【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~」
「【経済】税制が作った“富裕老人”400万人」
「【経済】消費税は失業者を増やす」
「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~」
「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~」