語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】税制が作った“富裕老人”400万人

2011年12月20日 | 社会
 日本人の個人金融資産は、この20年間に急増した。1990年に1,017兆円、2006年に1,500兆円、わずか16年で5割増えた。リーマン・ショックで若干減ったが、それでも今1,400兆円だ。国民一人あたり1,000万円を超え、米国に次いで世界第2位だ。
 バブル崩壊以降「失われた20年」に陥った日本経済を尻目に、儲けている人は儲けているのだ。

 問題は、1,400兆円が一部の人に集中していることだ。
 個人金融資産の6割は、60歳以上の高齢者が所有している。60歳以上人口は、全人口の3割弱だ。この3割が840兆円を握っている。しかも、これは金融資産に限った話だ。不動産を含めれば、莫大な資産になる。日本の富の大半を高齢者が支配している、とさえ言ってよい。
 これが、日本の“金回りの悪さ”を引き起こしている。
 高齢者は、他の世代に比べてお金を使う機会が少ない。→ために、多額の金融資産がなかなか社会に出てこない(休眠状態)。→消費が増えない。→働き口が増えない。→若い世代になかなかお金が回らない。→ワーキングプア/ネットカフェ難民の発生。
 かくのごとく億万長者の過半数が高齢者であることが、貧富の格差とともに、日本経済の抱える厄介な問題なのだ。

 ここで留意しなければならないのは、貧富の格差は、あらゆる年代の中で、実は高齢者層において最も激しいことだ【注1】。
 個人金融資産の6割(840兆円)を握っているのは、高齢者のうち一部の“富裕老人”だ。高齢者のうち10.3%の世帯(人口にして400万人)が年収700万円以上なのだ【注2】が、これが“富裕老人”という特権階層だ。

 なぜ“富裕老人”が生まれたのか。
 その最大の要因は税金だ。
 20年前、高額所得者の所得税率は今より高かった【注3】。
 20年よりもっと前は、もっと高かった。
 所得1億円の所得税率の推移をみると、75%(1980年)→70%(1986年)→60%(1987年)→50%(1989年)・・・・と軽減されてきた。今40%だ。
 住民税率も、ピーク時には18%だったが、今は10%だ。
 かくて、所得1億円の場合、1980年には所得税と住民税とを合わせて88%だったが、今は50%に激減している【注4】。
 この結果、最高額26.7兆円もあった所得税は、2009年には12.6兆円に半減した。いや、半分よりもっと多く減った。
 この減税分は、大半が貯蓄に向かった、と推定される。金持ちは、元からいい生活をしているから、収入が増えても消費にはそれほど回さない。減税あれれば貯蓄に向かう。“富裕老人”という特権階層が生じた所以だ。

 税制によって作られた“富裕老人”の富は、社会に還元しなければならない。

 【注1】高齢者の多くは、他の世代より貧しい。高齢者世帯は、若年世帯より低収入で暮らしている。高齢者の生活保護受給世帯は57万世帯で、受給者全体の4割だ(2010年1月現在)。万引きで検挙された約102,500人のうち22%(20,000人以上)が65歳以上の高齢者だった(少年は28%)。この20年間に高齢者の万引きは3倍に激増した。高齢者の犯罪はこの20年間で5倍に激増し、その65%が万引きなどの窃盗だ(2008年『犯罪白書』)。それだけ生活に困っている高齢者が増えた、ということだ。
 【注2】総務省統計局2004年「全国消費実態調査」に拠る。
 【注3】「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
 【注4】1980年:所得税75%+住民税13%=88%、2010年:所得税40%+住民税10%=50%。

 以上、武田知弘「税金で作られた〝富裕老人〟400万人 ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第5回~」(「週刊金曜日」2011年12月16日号)に拠る。

 【参考】「【経済】消費税は失業者を増やす
     「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。