(1)円安が進み、株価が上がっている。これはまさに、アベノミクスとは何の関係もないことの証明だ。安部政権は、具体的には何もやっていないからだ。実際にやったのは、金融緩和をものすごくやる、と言って騒いだだけで、まだ貨幣供給量を増やしてはいない。予算を増やす、とは言っているが、まだ増やしていない。金融緩和も財政拡大もまだ何もやっていない。やるぞ、と言っただけだ。
それに対して効果があったとしたら、期待効果が大きいか、もともと何かが変わり始めていて、この発言をきっかけに顕在化したか、そのいずれかだ。
今の状況は、アベノミクスの中身それ自体の効果ではない。
民主党政権時代から円安トレンドに入っていた。円安にならないとおかしいのであった。日本が貿易収支赤字になって、経常収支が悪くなれば円安になって、よくなれば円高になる。政権交代をきっかけに顕在化したのだ。
(2)金融緩和の効果があるかどうかは、100%、経済の状況による。
実際のデータを見れば明らかだ。横軸を貨幣の発行量(0~120兆円)、縦軸を物価(30~110)の表で1970年から2005年までの推移をみると、がんだれ(厂)の曲線を描く。1990年代まで貨幣を発行したら物価は上がっている。しかし、1990年代に入ると、貨幣を発行しても物価は全然上がっていない。1990年代の最初の時点で貨幣量が40兆円、2000年代が120兆円に迫っている。この間、物価はほぼ水平だった。80兆円増やしても物価は上がらなかった。
これでも、いま金融緩和して効果があると言うのか?
景気のよかった1990年代には謳歌があったけれども、1990年代以降成熟社会になったら、全然効果がないのだ。
1990年以前の日本では購買意欲が高くて、みんなモノを買いたがった。どんどん売れるから企業も投資する。購買意欲が高いときに貨幣量を増せば、みんながモノを買い、生産量も上がっていく。GDPも増えるし、物価も上がる。これが1980年代だった。米国もリーマンショック以前は購買意欲が高くて、カネを渡せばみんながモノを買った。
ところが、バブル崩壊で不安になって、モノを買うよりカネを持ってお9きいたい、と思うようになった。需要が減り、生産能力を下まわってしまった。そんなとき、カネをポッと渡しても、買わずに貯めこむだけだ。売れ行きは改善しないから物価も上がらないし、GDPも増えない。これが最近の状況だ。
(3)インフレターゲット派は、大量にカネを発行すれば何時かはターゲットのインフレ率に届くじゃないか、と言うが、(2)に明らかなとおり、貨幣量を増やしても物価は上がらない。もっともっと貨幣量を増やしていったら、ハイパーインフレが待っている。インフレターゲット派は、ハイパーインフレが起こる寸前にやめればいい、と言うが、普通のインフレとハイパーインフレの区別がまったくついていない。
普通のインフレは円への信用が維持されていることが前提となっている。ところが、ハイパーインフレとなると円というカネはもう紙にすぎない。すると、ドルや金に走る。ハイパーインフレになった国は、実際そういうことが起こっている。
信用が維持されるかどうかが分かれ目だ。
信用が維持されていれば、景気がよくても深刻な不況でも、金融緩和に実質的な効果はない。カネが100万倍あり物価も100万倍に上昇した場合、需要も実質貨幣量(カネの量/物価)も、もとと同じだ。不況だと、消費するより貯金するから、需要も増えず物価も上がらない。結局、どちらも実質的な効果はない。
金融緩和を洪水のようにやって、それが消費にまわらずに死蔵されていくと、一番あり得るのは何の効果もなく、長い不況のままという結果だ。それでは足りないとどんどん金融緩和を続ければ、下手をするとハイパーインフレになりかねない。
(4)公共事業自体はよい。ただし、中身が重要で、意味のない公共事業はダメだ(穴を掘って埋めるような事業)。必需品もダメだ(民間の仕事を政府が取っただけで経済活動は増えない、クラウディングアウト)。真ん中ぐらいがよい。贅沢品だ。民間は本格的にやってなくて、でもあれば嬉しいという程度の事業をやるべきだ。民間がすでにある程度やっていたら、それを支援する予算をつけてもよい。観光地開発、介護、再生可能エネルギー、安心安全。
最も重要なのは、直接国民生活に役立つものであること。
二番目に、雇用を作ること。雇用を新規に作れば、インフレターゲットよりもよほどデフレを抑える効果がある。さらに、恒常的に雇用を作るような制度があれば、賃金は下げどまりする。今から毎年50万人ずつ雇用を増やしていけば、3~4年で完全雇用だ。すると、もうデフレは絶対に止まる。心理状態としても、今年も来年も再来年もずっと仕事が続くなら、安心して消費できる。だから、安定した雇用が必要だ。
能力に応じて収入に差があってもかまわない。深刻なのは、働ける人と働けない人の格差だ。働けない人は所得がゼロだし、雇われている人はものすごく働かされる。企業はコスト削減のために必死でリストラしている。2人雇うべきところを1人クビにして、1人に2倍働かせ1.5倍給料を払うようなことをしている。今いる人をクビにして新人を入れて訓練するのは面倒だから、若者雇用を止めてしまったりする。それで若者に皺寄せがきている。
だから、若者を雇う仕事を作ればいい。そうすれば格差などなくなる。民間が作らないなら、政府が作ればいい。
□小野善康(大阪大学フェロー)「「アベノミクス」の金融緩和は、デフレ脱却への道筋とはならない」(「SIGHT」2013年春号)
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それに対して効果があったとしたら、期待効果が大きいか、もともと何かが変わり始めていて、この発言をきっかけに顕在化したか、そのいずれかだ。
今の状況は、アベノミクスの中身それ自体の効果ではない。
民主党政権時代から円安トレンドに入っていた。円安にならないとおかしいのであった。日本が貿易収支赤字になって、経常収支が悪くなれば円安になって、よくなれば円高になる。政権交代をきっかけに顕在化したのだ。
(2)金融緩和の効果があるかどうかは、100%、経済の状況による。
実際のデータを見れば明らかだ。横軸を貨幣の発行量(0~120兆円)、縦軸を物価(30~110)の表で1970年から2005年までの推移をみると、がんだれ(厂)の曲線を描く。1990年代まで貨幣を発行したら物価は上がっている。しかし、1990年代に入ると、貨幣を発行しても物価は全然上がっていない。1990年代の最初の時点で貨幣量が40兆円、2000年代が120兆円に迫っている。この間、物価はほぼ水平だった。80兆円増やしても物価は上がらなかった。
これでも、いま金融緩和して効果があると言うのか?
景気のよかった1990年代には謳歌があったけれども、1990年代以降成熟社会になったら、全然効果がないのだ。
1990年以前の日本では購買意欲が高くて、みんなモノを買いたがった。どんどん売れるから企業も投資する。購買意欲が高いときに貨幣量を増せば、みんながモノを買い、生産量も上がっていく。GDPも増えるし、物価も上がる。これが1980年代だった。米国もリーマンショック以前は購買意欲が高くて、カネを渡せばみんながモノを買った。
ところが、バブル崩壊で不安になって、モノを買うよりカネを持ってお9きいたい、と思うようになった。需要が減り、生産能力を下まわってしまった。そんなとき、カネをポッと渡しても、買わずに貯めこむだけだ。売れ行きは改善しないから物価も上がらないし、GDPも増えない。これが最近の状況だ。
(3)インフレターゲット派は、大量にカネを発行すれば何時かはターゲットのインフレ率に届くじゃないか、と言うが、(2)に明らかなとおり、貨幣量を増やしても物価は上がらない。もっともっと貨幣量を増やしていったら、ハイパーインフレが待っている。インフレターゲット派は、ハイパーインフレが起こる寸前にやめればいい、と言うが、普通のインフレとハイパーインフレの区別がまったくついていない。
普通のインフレは円への信用が維持されていることが前提となっている。ところが、ハイパーインフレとなると円というカネはもう紙にすぎない。すると、ドルや金に走る。ハイパーインフレになった国は、実際そういうことが起こっている。
信用が維持されるかどうかが分かれ目だ。
信用が維持されていれば、景気がよくても深刻な不況でも、金融緩和に実質的な効果はない。カネが100万倍あり物価も100万倍に上昇した場合、需要も実質貨幣量(カネの量/物価)も、もとと同じだ。不況だと、消費するより貯金するから、需要も増えず物価も上がらない。結局、どちらも実質的な効果はない。
金融緩和を洪水のようにやって、それが消費にまわらずに死蔵されていくと、一番あり得るのは何の効果もなく、長い不況のままという結果だ。それでは足りないとどんどん金融緩和を続ければ、下手をするとハイパーインフレになりかねない。
(4)公共事業自体はよい。ただし、中身が重要で、意味のない公共事業はダメだ(穴を掘って埋めるような事業)。必需品もダメだ(民間の仕事を政府が取っただけで経済活動は増えない、クラウディングアウト)。真ん中ぐらいがよい。贅沢品だ。民間は本格的にやってなくて、でもあれば嬉しいという程度の事業をやるべきだ。民間がすでにある程度やっていたら、それを支援する予算をつけてもよい。観光地開発、介護、再生可能エネルギー、安心安全。
最も重要なのは、直接国民生活に役立つものであること。
二番目に、雇用を作ること。雇用を新規に作れば、インフレターゲットよりもよほどデフレを抑える効果がある。さらに、恒常的に雇用を作るような制度があれば、賃金は下げどまりする。今から毎年50万人ずつ雇用を増やしていけば、3~4年で完全雇用だ。すると、もうデフレは絶対に止まる。心理状態としても、今年も来年も再来年もずっと仕事が続くなら、安心して消費できる。だから、安定した雇用が必要だ。
能力に応じて収入に差があってもかまわない。深刻なのは、働ける人と働けない人の格差だ。働けない人は所得がゼロだし、雇われている人はものすごく働かされる。企業はコスト削減のために必死でリストラしている。2人雇うべきところを1人クビにして、1人に2倍働かせ1.5倍給料を払うようなことをしている。今いる人をクビにして新人を入れて訓練するのは面倒だから、若者雇用を止めてしまったりする。それで若者に皺寄せがきている。
だから、若者を雇う仕事を作ればいい。そうすれば格差などなくなる。民間が作らないなら、政府が作ればいい。
□小野善康(大阪大学フェロー)「「アベノミクス」の金融緩和は、デフレ脱却への道筋とはならない」(「SIGHT」2013年春号)
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