語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】円安を止められなくなるリスク

2013年04月26日 | 社会
 (1)デフレ脱却の第一のハードルは、資本主義経済に不可欠な投機マインドをいかに取り戻すか、だ。
 日本銀行が4月4日に決めた金融緩和策は、黒田東彦・日銀総裁が記者会見で述べたとおり、「異次元の金融緩和」だった。
 日銀の発表は、即座にマーケットを株高、円安に大きく動かした。当面は、盛り返した投機マインドがいつまで持続するかが焦点になる。2つのケースが想定できる。
  (a)1、2ヵ月で投機マインドがしぼみ、元の黙阿弥になる。市場が日銀に対し、“次の一手”を催促する。その時、日銀に打つ手はあるか。ないわけではない。民間金融機関が日銀に預ける当座預金の金利をマイナスにすることだ。しかし、マイナス金利を導入すると、海外から「円安誘導」と強く批判される可能性が高い。摩擦を恐れずにマイナス金利に踏み込めるか。ためらって、マネタリーベース拡大目標の上積みや達成時期の繰り上げなど、小手先の追加策でお茶を濁せば、市場に足元を見られる懸念も出て来る。・・・・そうした展開になる可能性は低いだろう。プラザ合意(1985年9月)に匹敵する政策転換だと思うからだ。
  (b)正常化した投機マインドはしばらく持続する。

 (2)4月4日以降の株高、円安は、1980年代後半のバブルの再来ではない。当時とは、今の日本経済は決定的に「違うからだ。当時は主要な産業で世界最高の輸出競争力を誇示していた。だが今や、その競争力が相当落ち込んでいて、新たな輸出産業が生まれる兆しさえない。l

 (3)(1)-(b)になれば、実験は成功したと言えるか。
 為替相場の円安が1ドル=110円で落ち着けば、そう評価できるだろうが、そうなる保証はどこにもない。プラザ合意と同様、「異次元の金融緩和」にも落とし穴があるからだ。すなわち、円安を止められなくなるリスクだ。
 プラザ合意はG5の戦略で、日米欧主要国の通貨当局が為替市場に協調介入し、ドル高を是正することで貿易不均衡を是正しようとした。市場には寝耳に水の戦略で、相場の流れは一変した。天井知らずの円高が始まった。
 マーケットの流れを変えることは至難の業なのだ。
 過度の円安が進むと、お手上げになってしまうおそれがある。
 1980年後半も円高を止められなかった。他方、内需拡大を求める米国の圧力に屈し、日銀が低金利政策を続け、バブル経済が惹起した。だから、円高にもかかわらず株式も熱狂相場を続けた。
 だが今は、円安を止められないと分かれば、輸入物価の急上昇という負の側面に反応し、株価は下落するだろう。しかも、債権市場は、世界最悪の債務残高を嫌気して金利が上昇する懸念も強まる。

 (4)外需拡大に照準を置いた成長戦略を策定せずに金融政策だけでデフレ脱却の実現が不可能なことを肝に銘じるべきだ。

□大塚将司(作家・経済評論家)「円安を止められなくなるリスク ~黒田日銀総裁「異次元の金融緩和」策の“落とし穴”」(「週刊金曜日」2013年4月12日号)

    *

 過激な金融緩和は、実体経済への波及が不確実な半面、さまざまな危険を抱えている。

(1)キャピタルフライト
 円安が進むと、円資産からの脱出が始まる。FXや富裕層では、そうしたことがすでに生じている可能性がある。日本政府が円安の進行を歓迎しているため、政府の介入を心配せずに円安方向への投機ができる。海外ファンドなどによる円安への投機は、すでに生じているし、今後さらに激化する可能性がある。
 今後円安がさらに進めば、輸入物価が高騰し、消費者物価指数の伸び率が高まる可能性はある。だが、そうなっても、日本人の暮らしは苦しくなる一方だ。

(2)財政界規律の喪失
 今回の国際購入は、新規国債発行額以上を日銀が買う、という意味だ。しかも、日銀引き受けに近い形だ。ために、財政規律は今以上に弛緩する。社会保障制度の見直しなど、基本的な問題はなんら対処されていない。問題が深刻化していくばかりだ。
 通常なら金利の上昇が国際増発をチェックするが、日銀の購入によってそれが現実化しないから、問題が隠蔽され、財政状況はとめどもなく悪化する。何かのキッカケで国債市場に変調が起き、金利が上昇すると、破滅的な事態になる。

(3)日本企業の体質改善が中途半端に
 日本の製造業(<典型例>電気産業)は、ビジネスモデルの抜本的組み替えを要求されている。しかるに、円安や株価上昇は、問題を覆い隠す。2004~07年頃にも同じことが起きた。
 リアルな問題は、リアルな対応によってしか解決できない。「期待」が動かすことができるのは、為替レートや株価などの資産価格だけだ。賃金や消費者物価は、「期待」によっては動かない。

□野口悠紀雄「円安・株バブルでは実態経済は改善せず ~「超」整理日記No.657~」(「週刊ダイヤモンド」2013年4月27日号)
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