事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察~その65「代官山コールドケース」 佐々木譲著 文藝春秋

2014-01-10 | 日本の警察

51zmtfksqul_sl500_aa300_ その64「刑事のまなざし」はこちら

北海道警ものだけではなく、佐々木譲の新シリーズも快調だ。

今度の主人公は警視庁の刑事。水戸部というコールドケース(迷宮入りの事件)担当者の性格がなかなか陰影に富んでいる。

無能なキャリアにたてついたために干されそうになるが、昔の事件を扱わせるというアクロバットな人事を上司に用意してもらい、事件捜査の現場から離れずにすむ。

コールドケース担当という役職が生じたのは、刑法の改正によって殺人事件に時効がなくなったからであり、水戸部が選ばれたのはひたすらに有能だから。その有能さは微細に描かれる捜査の記述によって読者が納得できるように仕掛けてある。

ただし、水戸部自身の感情はほとんど描かれない。これは前作「地層捜査」と同様。そちらの担当は水戸部につけられる相棒だ。「地層捜査」では退職した頑固な元刑事。今作は性犯罪を憎む女性刑事。いいんですよ両人とも。

このシリーズの勘所は、事件はその背景となった町と分かちがたく結びついている、とする点だ。「新参者」で加賀恭一郎が人形町にこだわったパターン。第一作では新宿の荒木町(四谷のほう?)の老婆殺人事件が描かれ、この町がむかし色街だったことの重みを水戸部は知る。

今作においては、おしゃれなイメージが定着した代官山に、貧しい若い女性がなぜ住み続けたのかが語られ、しみじみとさせる。裕福な人たちを乗せる東横線が、線路沿いでは暴力的な音を立てているあたりの対比もいい。

「おれ、実は学生時代に代官山住んでたんすよ」

同僚が衝撃的な告白。

「そ、そんなに金持ちだったのか!」

「違うんですよー、渋谷からひと駅ったって、ブームになったのは卒業してからだし、けっこうしょぼいアパートもあったんですよ」

そうだったんだろうなあ。このミステリを読み終えていたわたしは深く納得した。

その66「福家警部補の挨拶」につづく

代官山コールドケース 代官山コールドケース
価格:¥ 1,943(税込)
発売日:2013-08-29
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