事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「舟を編む」 (2013 松竹)

2013-05-01 | 邦画

Funewoamuimg01_2 出版社のさえない営業マンとして松田龍平が登場したとき、誰もがびっくりしたはずだ。あまりにも亡き父親にそっくりだったので。

これまでだって確かに似ている親子ではあったけれど、もうそんなレベルではない。少し猫背で、長身をもてあましている感じが「野獣死すべし」あたりの優作そのまま。

で、龍平はそれでもかまわないと開き直ったのだと思う。それほどに、この作品における松田龍平の演技はすばらしい。あの父親のことだから、そのことに喜ぶよりも先に嫉妬したことだろう。父親に対抗心を燃やさせるレベルまで来たぞ龍平。

三浦しをんの原作は未読。辞書づくりに題材を求めるとはさすがだ。しかし映画化はかなり困難だったはず。「はじめに言葉ありき」とするストーリーは、たとえば

「『右』をどう定義するか」

という部分などでは小説の方がうまく描きやすいし、月の光の下に登場するヒロイン(その名も香具矢)を、実際に登場させるのもきつかったはずだ。

そこを「川の底からこんにちは」で満島ひかりを演技開眼させ(ついでに妻にしてしまった)石井裕也は、的確なキャスティングと丁寧な演出でうまくしのいでいる。

……とか冷静ぶって語ってますけどね、途中からわたしは涙ボロボロだったのである。

他人とうまくコミュニケーションをとることができないことも影響して猫背だった男が、一生の仕事として辞書づくりにまい進するなかで姿勢がよくなっていく。用例採集という形でしか恋愛を実感できないあたりの不器用さは、典型的な“聖なる愚者”のパターン。だから観客はみんな彼を応援する。そしてその恋愛は……

宮崎あおい、オダギリジョー、加藤剛、八千草薫、伊佐山ひろ子(!!)、渡辺美佐子など、役者がみんないい。しかも、意地悪な石井監督は、彼らの老いもまた、うまくドラマに活かしているのだ。必見ですよこりゃあ。

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コメント (11)
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