事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「フロスト気質」(上・下)R.D.ウィングフィールド著 創元推理文庫

2008-10-07 | ミステリ

48829104 あなたが完全犯罪をめざすとする。本格ミステリで設定されるような「誰がやったかわからない」あるいは「自分は犯人ではありえない」タイプではなく、とにかく警察の追跡をふりきって逃亡を成功させるたぐいの完全。

確実なのは県境近くで行うこと。「日本の警察」で特集したように彼らは縄張り意識が強く、警察庁がいくらやきもきしても手柄を向こうに渡したくないものだから情報伝達がうまくいかないので。それに幸か不幸か日本にFBI的組織はないしね。

続いては、殺すなら自分とまったく縁もゆかりもない人間を狙うことだ。共犯者も金銭的つながりだけの方がいい。NシステムだのDNA鑑定だのと捜査は科学的進歩はしているけれど、容疑者となるのはどうしたって被害者となんらかのつながりがある人間を優先する。仲間も、一人がつかまることによって芋づる式に逮捕されるのではたまったものではない。

そしてもうひとつ。きわめつけは“同時多発的”に行うことだ。警官の人員が増やされる傾向にあるといっても、ひとつの所轄内でふたつもみっつも犯罪が同時に発生することは想定されていない。想定してもそんな予算はない。本庁から応援がやって来る前にいっきに片をつけるのは、だからかなり有効だと思う。エド・マクベインが87分署シリーズでその手を一回使っていて、犯人が逮捕されるのはほとんど偶然に左右されていたし。ん?でもそのためには犯人グループは鉄の結束を誇っていなければならないのか。うーん、むずかしいもんですな。

「クリスマスのフロスト」Frost at Christmas

「フロスト日和」A Touch of Frost

「夜のフロスト」Night Frost

とつづいたR.D.ウィングフィールドのフロストシリーズは、常に“結果として同時多発してしまった”複数の事件に、下品きわまりないオヤジ刑事フロストがどう立ち向かうかが核になっている。無能で傲岸な署長からのストレスと、もう若くない身体(今回の原題はHard Frost)と闘いながら、中年の星フロストは、迷い、ふらつき、間違いながらも事件を解決にもっていく。特に下巻の面白さは圧倒的。今作は陰惨な事件が多く、フロストの軽口がなければしんどい思いをしたはず。

ウィングフィールドは、縁もゆかりもない人間に悪意を抱ける現代人と、次第に醜くなっていく英国への憎悪をかくそうともしていない。そして同じくらいのレベルで、哀しい現代人と疲れたイギリスへの愛も。このふたつは同時に成立した。傑作。

え!ウィングフィールドは去年亡くなっちゃったの?もうフロストは二作しか残っていないのか……残念。東京創元社よ、訳すのはゆっくりでいいぞ。終わっちゃったら淋しいじゃないか。

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緒形拳

2008-10-07 | 芸能ネタ

緒形拳さんが急死…先月末には元気な姿も
Ogataken  新国劇を経て、映画やドラマ、CMなどで幅広く活躍した俳優の緒形拳(おがた・けん、本名明伸=あきのぶ)さんが5日、死去した。71歳だった。死因は不明。横浜市鶴見区の自宅で親族がスポニチ本紙の取材に明かしたもので「(7日の)密葬が終わったら正式に発表します」と答えた。新国劇の舞台ほか、カンヌ映画祭で最高賞に輝いた「楢山節考」など代表作は数知れず。昭和の名優が慌ただしく逝った。 (スポニチ 08年10月7日)

……現在の日本映画界は役所広司を中心にまわっている。こう断言しても異論は少ないはず。彼が次作にどんな作品を選ぶかは業界の注目の的だろうと思う。コメディもシリアスなドラマもこなし、いつも濃密な時間を約束してくれる。文句なく名優。

 緒形拳はそれ以上の存在だった。どんな役でもこなすだけでなく“緒形拳でなければやれない役”が確実にそこにはあったではないか。ひょうひょうとした渋い演技で、少なくともあと十年はわたしたちを楽しませてくれるはずだったのに。惜しい。本当に惜しい。

 キャリアのピークは今村昌平とのコラボ「復讐するは我にあり」「楢山節考」で文句なし。でも粋でスケベな藤枝梅安や、善良な警察官を演じた「砂の器」(「ひでおーっ!」は泣かせたなあ)も忘れがたい。凄惨な殺陣がさすがにみごとだった「丹下左膳」や、勝新太郎とのからみが憎い「座頭市」も。

 実はもうひとつ訃報がある。

「日本の素顔」元NHKディレクター吉田直哉さん死去
Yoshidanaoya  大河ドラマ「太閤記」、ドキュメンタリー「未来への遺産」など数々の話題作を手がけた元NHKディレクターの吉田直哉(よしだ・なおや)さんが9月30日午前3時45分、肺炎のため亡くなった。77歳だった。後日、お別れの会を開く予定。喪主は長男、一哉氏。(08年10月4日 読売新聞)

……「太閤記」は65年の作品だからわたしは5才だったんだけど、なんか、断片的におぼえてます。信長役の高橋幸治の人気が沸騰した名作。時代劇なのに新幹線を登場させるなど、テレビを違うステージに引き上げたのはまちがいなく吉田氏の功績だ。この人と緒形がつくりあげたのが「太閤記」だったわけ。このあたりはむかし石坂浩二がNHKの番組で論証していた。

 二人の死は、ひとつの時代の終わりを容赦なく告げている。もう顔中を口にしてカラカラと笑う緒形拳は「歴史」になってしまった。さみしい。

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「ブレイクスルートライアル」伊園旬著 宝島社

2008-10-07 | ミステリ

31826350 「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。直訳すれば「敵陣突破試技」。難攻不落の研究所に侵入し、時間内に“あるもの”を持ち帰るイベントに参加した主人公たち……設定に無理があることは重々承知。でも現代の日本で、金庫破りストーリーをとりあえず成立させようというのがうれしいじゃないっすか。

セキュリティ技術のお勉強にもなる。醒めた主人公はやはりいい☆☆☆★★

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