事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

White Collar Exemption PART3

2008-10-03 | 事務職員部報

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07年1月31日付事務職員部報より。

White Collar Exemption②はこちら

 それでは勤務時間の自由度が高まるとはどんなことでしょう。自分の仕事を完遂するために、ある一日は18時間ぶっ通しで働き、翌日はオフにする……なるほど“自律的”でしょう。しかしそれが実現可能だと本気で厚生労働省は考えているのでしょうか?

・退勤するときに上司の顔色をうかがい
・残業が多いと無能だと評価され
・あふれるほどの仕事を抱えこんでも文句も言わず
・いちばん文句を言わない層である中間管理職へ仕事を集中させ
……るような日本で?

徹底した横並び意識で労働者をしばり、利用してきたのが日本の経営者だったはず。それがなぜ今“自律”を持ち出したのでしょう。答は二つあると考えられます。

A)残業代をカットすることで人件費を下げ、国際競争力を上げるため。

 これが本音の中の本音でしょう。賃金の安い外国(特にアジア)の製造業に勝つために、まず自国の労働者の賃金を下げようというわけ。しかしこの発想には、労働者が同時に消費者でもあるという観点が完全に抜け落ちています。つまり、競争力がついても日本の景気は全然よくならない……あ、そうか。“国際企業”だから自社の製品がどこでもいいから売れてしまえば、自国の景気なんかどうでもいいわけか。近年、企業のトップが“株主のことしか考えていない”悪弊がこんなところにも。

B)労働基準法が邪魔になってきた。

 これも(もちろん誰もそんなことは言わないけれど)本音だと思います。WEが持ち出された動機のひとつとして、過労死の問題があります。近ごろ、過労死について、責任を企業に求める判決が続いており、これをクリアするために労働時間規制をとっぱらってしまおうと財界が考えたわけです。

 基本的なことをひとつ。労働基準法の言う「1週40時間、1日8時間」とは、40時間とか8時間を「働かなければならない」と定めているわけではありません。「それ以上働かせてはいけない」と定めているのです。だからそれ以上働かせるにあたっては割増賃金が支払われるわけ(まあ、このあたりにはサブロク協定とかめんどくさい理屈もあるんだけど)。そして、この労働基準法というのはものすごく“強い”法律で、どんな就業規則や労働協約にも優先します。これが、結局は邪魔で仕方がないのでしょう。

こんな数字があります。

週50時間以上働く労働者の割合……日本28% アメリカ20% イギリス15.5% ドイツ5.3% フランス5.7%

年間休日日数……日本127日 アメリカ127日 イギリス137日 ドイツ143日 フランス140日

これは厚生労働省の「就労条件総合調査」、および労働基準局賃金時間課推計より抜粋したもの。日本の労働条件が先進諸国のなかでも劣悪なものであることがわかります。ここにWEが導入されるとどうなるか……『時間を自己管理でき、ワークライフバランス(仕事と家庭生活の両立)に寄与する』(厚生労働省の説明)でしょうか?

まるっきり逆になることが容易に想像できます。残業代を払わなくてもよくなった経営者が、しめたとばかりに果てしない長時間労働を課すことは自明。

「(残業代が出なくなったら)みんな家で過ごす時間が増えて、少子化対策にもなるんじゃないですか」

 安倍首相の能天気さは、こりゃ前首相以上だなあ。
 さて、WEの問題点はもうひとつあります。これは次号で

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White Collar Exemption PART2

2008-10-03 | 事務職員部報

Theinsideoffujitsu White Collar Exemption①はこちら
07年1月24日付事務職員部報より。

事務系労働者にとって大きな問題になることが予想されたにもかかわらず、ホワイトカラー・エグゼンプション(以下、例によってWE)のことは大きな話題にならずにきました。それが年末になっていきなり火がついたのは、当初

・製造業の労働者は対象にしない

・年収要件は1000万円以上の管理職層

という条件がついていたからでしょう。要するに自分には関係のない話だったわけです。ところが、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会の議論が進むにつれ、次第に適用条件があいまいになり、しまいには

・年収要件は400万円以上

と、多くの労働者が対象になる見込みになったからです。この条件だと、総額11兆6千億円、ホワイトカラー労働者ひとり当たり年114万円の残業代が消え失せる計算になります(※)。これは、しゃれにならない。

※WEによって残業代が消えるのは、“残業”という概念自体が消え失せてしまうからです。自律的に勤務時間を決めることができる、という建前ですから。

 いったいこんな制度を雇用側以外に支持する人がいるのかな、と不思議に思っていましたが、街角インタビューなどで「いいんじゃないですか?」と発言する人もいたので驚きました。こんな理屈です。

「勤務時間中はダラダラしていて、そのくせむだな残業をして手当を稼いでいる人が多いんですよ!」
「同じ仕事の量なのに、かける時間が長い方が結局はたくさんお金がもらえるってのは理不尽じゃないですか。」

 つまり、特に若い人を中心に成果主義を支持する層がけっこういると考えられるのです。でも、これは「がんばった分だけ評価されるはず」という一種の楽観論にもとづいています。県事務研で県職労の賃金部長はこんなことを言っていました。

「わたしは病院に勤めていますけど、収益がどれだけ上がるかで評価されるとしますね。そうなるとどうしても規模の大きい病院にいた方が有利なんですよ。わたしは○○病院にいますが、この規模だとどれだけがんばっても評価は低いものになってしまいます。するとどうなると思いますか?○○病院全体の士気は下がってしまうんです。つまり、患者の利益につながらない。それに、成果主義を最初に採り入れたのは富士通ですけれど、あそこはもう(成果主義を)やめています。なぜなら……」

 ベストセラーになった『内側から見た富士通~成果主義の崩壊』(城繁幸著 光文社刊)に詳しいので紹介しましょう。大手のなかでもっとも早く成果主義performance-paid systemを導入した富士通は……

◎品質チェックの部署のように、成果主義の恩恵を受けられない部署のモチベーションが低下した。

◎たいして会社に貢献してもいないのに、構造上、高い評価をもらえる人間がいる一方、花形部署では評価をめぐり熾烈な争いが展開されていた。

◎「成果主義」のはずなのに、チェックするのは、残業時間と年次休暇と勤怠の数字だけ。

◎各部の評価をすりあわせる評価委員会は、「各部がそれぞれ何人悪い評価を引き取るか」のババ抜きと化していた。

◎降格制度がなかったため、「お手軽な目標」をかかげ、全社あげての一大減点レースとなってしまった。

◎部下の多くが目標未達なのに、「A」評価(富士通のなかでは2番目に高い評価)をもらうマネジャーが続出、管理職の9割がAなのに、会社の業績は赤字だった。

※他にも
・評価する部署に権力が集中する
・チームで成果をあげていた開発者たちが、手柄を求めて自分の目標に固執するようになった
……など、ろくなことがなかったのである。

→つまり、利益追求を目的として成果主義を導入したはずなのに、むしろ利益は減少してしまい、業界の評判も転落する結果となってしまったのです。それでは、利益追求が第一義ではない公務員の世界で、成果主義を導入しようとする意図は?これが、WEとまともにリンクしているのです。

【以下次号】

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