陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

リング・ラードナー 「金婚旅行」その10.

2007-10-30 22:38:55 | 翻訳

第十回

「そういう自分はどうなんだ」とわしは言った。「クロケットをやっているときはいい物笑いになったじゃないか。おまけに背中を痛めてもうできないようなふりをしたくせに」

「ほんとうにそうだったんです。だけどね、わたしはあんたが親指を痛めたときでも、笑ったりはしませんでしたよ。なのにあんたはわたしの背中がつったとき、どうしてあんなに笑ったのよ」

「あれが笑わずにすませるもんか!」

「だけど、フランク・ハーツェルは笑わなかった」

「そりゃ結構。じゃどうしてやつと結婚しなかった?」

「そうね、結婚してたら良かったって思うわ」

「わしだってそうしてくれたほうが良かったね」

「覚えておきますからね」かあさんはそう言うと、それからまる二日、わしとはまったく口をきかなかった。

 そのつぎの日、公園でわしらはまたハーツェル夫妻に会った。わしは謝る気持ちでいたんだが、向こうがちょっとうなずいてみせるぐらいしかしなかったよ。それから二、三日後、夫妻はオーランドに向けて出発したという話を人づてに聞いた。

 まったくそっちが最初の予定地だったら良かったのにな。

 かあさんとわしはベンチに座って仲直りした。

「ねえ、チャーリー、これはわたしたちの金婚旅行なんですよ。わたしたち、それをこんなばからしいケンカで台無しにしようとしてるわよね」

「まったくそうさ、だが、おまえはあのハーツェルと結婚した方が良かったとほんとに思っておるのかね?」

「そんなわけがないでしょうに。だけどあんただって、わたしがハーツェルと結婚した方が良かった、なんて思っちゃいないでしょうね」

「わしはただ疲れて、カッカと来とっただけだよ。おまえがハーツェルではなくて、わしを選んでくれたことは神さまに感謝しておる。おまえのような女は世界広しと言えどほかにはおらんから」

「ハーツェルの奥さんだったら、あなたはどう?」

「そりゃ勘弁だ! あんな下手くそなトランプしかできんし、おまけにクロケット場で入れ歯を落っことすような女だぞ!」

「ま、ご婦人に向かって平気で唾を吐いたり、チェッカーのへたっぴな人にはちょうどお似合いの奥さんってわけね」

 そうして、わしはかあさんの肩に腕を回して、かあさんはわしの手を軽く叩いて、わしらはしっぽりした気分を味わったってわけさ。



(長かった話も、いよいよ明日で終わり。忙しかったことも明日で片づく予定です。たらたら訳したのにおつきあいくださって、どうもありがとうございました)