第十回
「そういう自分はどうなんだ」とわしは言った。「クロケットをやっているときはいい物笑いになったじゃないか。おまけに背中を痛めてもうできないようなふりをしたくせに」
「ほんとうにそうだったんです。だけどね、わたしはあんたが親指を痛めたときでも、笑ったりはしませんでしたよ。なのにあんたはわたしの背中がつったとき、どうしてあんなに笑ったのよ」
「あれが笑わずにすませるもんか!」
「だけど、フランク・ハーツェルは笑わなかった」
「そりゃ結構。じゃどうしてやつと結婚しなかった?」
「そうね、結婚してたら良かったって思うわ」
「わしだってそうしてくれたほうが良かったね」
「覚えておきますからね」かあさんはそう言うと、それからまる二日、わしとはまったく口をきかなかった。
そのつぎの日、公園でわしらはまたハーツェル夫妻に会った。わしは謝る気持ちでいたんだが、向こうがちょっとうなずいてみせるぐらいしかしなかったよ。それから二、三日後、夫妻はオーランドに向けて出発したという話を人づてに聞いた。
まったくそっちが最初の予定地だったら良かったのにな。
かあさんとわしはベンチに座って仲直りした。
「ねえ、チャーリー、これはわたしたちの金婚旅行なんですよ。わたしたち、それをこんなばからしいケンカで台無しにしようとしてるわよね」
「まったくそうさ、だが、おまえはあのハーツェルと結婚した方が良かったとほんとに思っておるのかね?」
「そんなわけがないでしょうに。だけどあんただって、わたしがハーツェルと結婚した方が良かった、なんて思っちゃいないでしょうね」
「わしはただ疲れて、カッカと来とっただけだよ。おまえがハーツェルではなくて、わしを選んでくれたことは神さまに感謝しておる。おまえのような女は世界広しと言えどほかにはおらんから」
「ハーツェルの奥さんだったら、あなたはどう?」
「そりゃ勘弁だ! あんな下手くそなトランプしかできんし、おまけにクロケット場で入れ歯を落っことすような女だぞ!」
「ま、ご婦人に向かって平気で唾を吐いたり、チェッカーのへたっぴな人にはちょうどお似合いの奥さんってわけね」
そうして、わしはかあさんの肩に腕を回して、かあさんはわしの手を軽く叩いて、わしらはしっぽりした気分を味わったってわけさ。
(長かった話も、いよいよ明日で終わり。忙しかったことも明日で片づく予定です。たらたら訳したのにおつきあいくださって、どうもありがとうございました)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます