陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

サイト更新しました

2005-12-22 22:19:21 | weblog
サイト更新しました。

先日までここで連載していた「ペンティメント ~亀」をアップしました。
http://f59.aaa.livedoor.jp/~walkinon/
連載時よりこなれた日本語になっていると良いのですが。

***

実は今日は引き続きリリアン・ヘルマンについて書くつもりだったのである。だが晩ご飯を食べたらもう眠くなってしまって、しんどい文章を書きたくなくなってしまったのである。
ということで、例によって、ラク~にだらだらと書いていくのである。

わたしが一日に最低一回は必ず考えているのは、本と、アイスクリームのことである。もちろんほかにもあるような気がするが、ここまで確実ではない。

さらに正確に言えば、アイスクリームのことというのは、冷蔵庫(の冷凍室)に入っているハーゲンダッツを食べるべきか、どうすべきか、ということである。

わたしは甘いもの全般があまり得意ではなく、ケーキは一年に二回、多くても四回も食べればいい方だ。いわゆるお菓子というのもあまり食べないし、「羊羹」という字面を見ると、胃のあたりが重くなってしまう。デザートというのは、なくてもいい類の人間である。

ただしアイスクリームだけは別格だ。アイスクリームというのは、わたしの人生のなかで極めて重大な意義を持ったものなのである。

アイスクリームを初めて作ったのは、中学の物理の実験だった。わたしは力学というものが基本的に理解できないのだが、この熱力学だけは別で、非常によくわかった。

まずアイスクリームの原料(生クリーム、牛乳、卵、砂糖、ここでわたしはぜひバニラビーンズを入れたいところだが、中学の時はそんなものは入れなかった)をよく溶かす。
これを金属容器に入れ、まわりに塩をまぶした氷を入れておく。そうしてボールの中身をひたすらかきまぜていると……。アイスクリームのできあがりなのである。

わたしはこの原理も知っている(いまだに覚えている、というべきか)。氷は溶けて水になっても、塩があるためにその温度は下がらない。けれども水になるためのエネルギー(熱)はかならず消費される。そこでそのエネルギーは、金属容器のなかの混合物から引き出される。熱が出ていくために、この混合物は凍ってしまうのである。

学校でこの実験をやったときの感動は、いまだに忘れられない。いまなお、アイスクリームを食べるときの喜びの何パーセントかは、このときの記憶から引き出されているのにちがいない。

学校でこの実験をやったあと、家でもさっそくやってみた。非常にうまくでき、母親以外の家族からは好評だったのだけれど、洗ったはずの泡立て器に、乾いた卵や牛乳の滓がこびりついていたり、流し台に塩が落ちていたりするのに我慢がならなかったらしく、そののちアイスクリーマーを買ってくれた。これは非常に便利で簡単だったのだが、名前が気に入らなかった。

その名は「どんびえ」。
なんでこんな名前にしたのだろう。命名の秘密を聞いてみたいような気がする。

それはともかく、この「どんびえ」は材料を放り込んで、ぐるぐる回せば、それだけでおいしいアイスクリームができるのである。わたしはこれでどのくらいアイスクリームを作っただろうか。人生でこれまで消費した牛乳の80パーセントは、まちがいなく「どんびえ」でかきまぜたものにちがいない。

一方、外で食べるアイスクリームは、ハーゲンダッツにめぐり逢うまでは、サーティワン・アイスクリーム(アメリカ名バスキン・ロビンス)のチョコレート・ミントを愛していた。家で食べるのはもっぱらバニラであったため、外で食べるのは、ちがうものが食べたかったのだと思う。人によっては歯磨きペーストの味がする、とも言うのだけれど、苦みのあるチョコレートとペパーミントのマッチングがすばらしく、また、アメリカを思わせるような毒々しい色合いも好きだった。

ここでアメリカを思わせる、と書いたのは、アメリカのケーキだのお菓子だのが、80年代の話だけれど、信じられないような色が平気でついていたのである。ホームステイ先でわたしが帰る、ということで、ケーキを焼いてくれたのだが、それは四角いケーキに塗ったクリームは青空を示すために真っ青に着色されていた……。

ハーゲンダッツとめぐり逢ったのは、さらに時代は下る。行列に並んで食べた子の話は、ずいぶん早くから聞いたことはあったけれど、流行とは無縁のわたしが食べたのは、もっとずっとあとだった。
そこでバニラのほんとうのおいしさに目覚めるのである。

いま、わたしが食べるのはほとんどバニラであるけれど、たまに特売日など、抹茶を買おうか、ロイヤルミルクティーを買おうかと迷うこともある。これほど幸せな迷いも、人生にはそれほどあるまいと思われる。

先日、勤労奉仕をしたあと、お礼に懐石料理を食べにつれていってもらった。
料理が終わり、デザートに陶器に盛ったアイスクリームが出てきたのだ。ひとくち食べて、わたしはすぐにわかった。
「あ、これはハーゲンダッツのバニラだ」

思わずそう言ったわたしを、仲居さんは恐ろしい目つきで睨んだ。

だけど、わたしは褒め言葉のつもりで言ったのだ。
フレンチやイタリアンのレストランに行って、ハーゲンダッツが出てきたら、それはちょっと悲しいけれど、懐石料理のデザートである。果物とハーゲンダッツで良いではないか、と思うのだけれど、やはりバラしたのはまずかったのだろうか……。