陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

今日の連想

2005-12-02 22:27:43 | weblog
いま、たまたまレトリックの本を何冊か読んでいるのだけれど、つくづく英語のイディオムというのは一種のレトリックだなと思う。

たとえば、わたしはいまでもよく覚えているのだけれど、昔
"You are barking up the wrong tree."と言われたことがあった。
「ちがう木を見上げて吠えてるんだよ」、つまり、お門違い、ということなのだけれど、わたしはこの言葉を聞いたときに、木を見上げてわんわん吠えている犬が脳裏に浮かんでしまった。
もちろん「お門違い」という言葉を聞いても、わたしたちは門を間違えて入っていってしまう人の姿が浮かんできたりはしない。

あるいは「捕らぬ狸の皮算用」と聞いたって、タヌキの皮もソロバンも頭には浮かんでこないけれど、
"Don't count your chickens before they hatch."(タマゴが孵化する前にヒヨコの数を数えるな)と言われたら、やっぱりタマゴとヒヨコが浮かんできてしまう。

つまり、「呑み込む」にしても、「把握する」にしても、実に多くの言葉が比喩表現がもとになっているのだけれど、わたしたちはそれをモハヤ比喩とも思わないように、「黒山の人だかり」とか「枯れ木も山のにぎわい」とか、言葉そのものの意味とは無関係に、レトリックとしてそれらの言葉を使っているのだ。

ところが英語となると、母国語ではないだけに、まず語の文字通りの意味が頭に浮かんできてしまう。
わたしが好きな表現に
"You let the cat out of the bag."(ネコをカバンから出しちゃったよ)というのがあって、カバンを開けたとたんに勢いよく飛び出してくるネコをイメージしてしまうのだけれど、これは秘密を漏らしてしまう、ということだ。
なんでネコが出てきたら秘密がばれちゃうんだろう? わたしにはわからない。

ネコが出てきたのなら、犬も。
"Your plan will go to the dogs."(その計画はたぶんうまくいかないよ)

ただ、この表現を初めて知ったのは、ポール・セローの"My Secret History"のなかで、型破りな神父が"Let me tell you when you go to the dogs. Think of it --the dogs!"
日本語にすると、「人間が堕落したらどうなるか教えてあげよう、考えてもごらん……」のあとに"the dogs"とことさら犬を強調するものだから、主人公の少年も自分の叔父さんが飼っている二匹のコッカ・スパニエルを想像して笑ってしまう。
わたしもこれ一発でこの表現を覚えて、使えるチャンスがあったときに意気揚々として使ってみたら、「この子はものすごく英語ができる!」ということになってしまって、実は全然そんなことがなかったものだから、大変な目に遭ったのだった。
中勘助の短編に『犬』というのがあるのだけれど、とにかくインドのバラモンのお坊さんが、呪術で思いを募らせる女性と自分をともに犬に変えて、その女の犬に自分が食い殺される、という『銀の匙』の作者とは信じられないような強烈な話で、それとこのgo to the dogsは抜きがたく結びついてしまっている。だから、なんで犬になっちゃうと堕落するんだろう、とは不思議と思わない。

"I'm burning a hole in my pocket."(ポケットを焦がして穴を開けちゃった)
これは割とイメージが湧きやすいと思うのだけれどどうでしょう。
懐が暖かい、ということなんですね。暖かい、というより、アッチッチ、なんだけど。こういうことを言ってくれる人は、"I'll treat you."と言って、おごってくれるはずです。

じゃ、これは?
"I paid through the nose."(鼻を通して払った)
これは日本語だと目玉になる。目玉が飛び出るほどの値段、ということだ。なんとなく、わからなくはない、というか、何か痛そう……。

"It struck close to home for me."(家の近くを打った)
これは「痛いところを突く」感じ。身につまされた、というときも使う。やっぱり胸が痛いっていうのは、比喩なんだろうか。でもやっぱり実際に痛みを感じますよね。

ところでわたしが全然わからないのは"face the music"
感じとしては、"I've got to face the music."(音楽に向き合わなくちゃ)というふうに使うんだけれど、「身から出たさびだから、仕方がない、と甘んじて受け入れる」なのだ。音楽に向き合うと楽しいんじゃないかな。なんで自分の落とし前をつけることになっちゃうんだろう。
なんでなんだろう。どこから来たんだろう、と昔から考えているのだけれど、ちっともわからない。

ところでDream Theaterの追加公演が新聞の広告に出ていた。1.15、これも日曜、おまけにセンター試験の一週間前じゃん。行けるわけがない。これも"face the music"なんだろうか。レトリックじゃなくて、文字通り聞いていたら手に汗をかいちゃうような"panic attack"、うーん、これだけでもナマで聞いてみたいんだけどなー。
"I can't have my cake and eat it too."(ケーキを食べたい、だけど食べたら持っていることはできなくなってしまう→ディレンマです)

明日には、なんとかサイト更新できると思います。
I'm keeping my nose to the grindstone.(ずっと砥石に鼻をくっつけてるところ→いまあくせく書いてるところです)