hiyamizu's blog

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奥田英朗「空中ブランコ」を読む

2010年01月03日 | 読書2
奥田英朗著「空中ブランコ」2004年4月、文藝春秋発行を読んだ。

いずれも精神科医伊良部医師が子供のようなはしゃぎぶりで混乱させ、結局問題を解決してしまうというハチャメチャは話が6つならんだ短編集。初出は、「オール読物」の2003年1月から2004年1月に掲載。

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が……。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!? 


直木賞受賞作がこんなに笑える作品で良いのだろうか。ともかく、結果からみると巧みな治療行為になっているのだが、無邪気にとんでもないことに挑戦し、見事にやりとげ、あるいはぶざまに失敗する。こんな伊良部医師像を作り上げたことが作者成功の一大要因だろう。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

ともかく面白い。伊良部医師の弾けぶりが、そんな馬鹿なと思いながら、ばかばかしく面白い。



奥田英朗(おくだひでお)は、1959年生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライター、構成作家を経て、1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。2002年「邪魔」で大藪春彦賞、2004年「空中ブランコ」で直木賞、2007年本書「家日和」で柴田錬三郎賞、2009年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞。その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」など。



空中ブランコ
サーカスの空中ブランコの山下は最近落ちてばかりで、受け手が何か企んでいると疑う。しかし、勧められて軽い気持ちから伊良部総合病院に行くが、伊良部医師は、診療そっちのけで、サーカスに興味深々。翌日サーカスにやって来た伊良部は、100キロを超える体で空中ブランコのハシゴを登りはじめる。

ハリネズミ
ヤクザの親分猪野は、尖ってものが目に刺さるように感じる尖端恐怖症になる。刃物も持てなくなった猪野は伊良部医師にかかり、・・・。

義父のヅラ
大学医学部に席置く池山は、義父の教授のかつら(ヅラ)が気になって、剥がしたくなってこらえきれなくなる。「思い切ってやりたいことをさせる」という伊良部の治療法により、池山と伊良部はとんでもないいたずらを始める。

ホットコーナー
ホットコーナーとは、野球のサードの守備のこと。ゴールデングローブ賞を何度もとったプロ野球の名三塁手坂東は、突然、一塁へまともに送球ができなくなる。せがまれて伊良部とキャッチボールすると、「コントロールって何?」と混乱させられる質問を投げかけられてますます深みにはまる。しかし、・・・。

女流作家
次々と書きまくる女流作家の星山愛子は、なにかというとこの設定は前に書いたように思うという強迫観念に悩まされる。精神安定剤をもらうために、運の悪いことに伊良部医師を訪れてしまった愛子に、伊良部は「自分も本を出版したい」と言い出し、結局原稿を預かることになる。出版社の担当の婉曲な拒絶も伊良部のやる気を鼓舞するだけ。
この本の直木賞受賞のコメントで、林真理子さんが、「女性作家の自意識過剰さは、私自身の姿を見ているようだ。むっとする場面もあったが、やはりおかしくてたまらない。」と言っていた。


コメント
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