hiyamizu's blog

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江國香織「ウエハースの椅子」を読む

2010年01月12日 | 読書2
江國香織著「ウエハースの椅子」新潮文庫、2009年11月新潮社発行を読んだ。
2001年角川春樹事務所から刊行され、2004年にハルキ文庫に収録された。

裏表紙にはこうある。
あなたに出会ったとき、私はもう恋をしていた。出会ったとき、あなたはすでに幸福な家庭を持っていた―。私は38歳の画家、中庭のある古いマンションに一人で住んでいる。絶望と記憶に親しみながら。恋人といるとき、私はみちたりていた。二人でいるときの私がすべてだと感じるほどに。やがて私は世界からはぐれる。彼の心の中に閉じ込められてしまう。恋することの孤独と絶望を描く傑作。


とくにストーリーがあるわけではないので、あらすじとしては以上で十分。38歳の女性が、お定まりの妻子がいる人を深く愛している。彼はあくまでやさしく、その恋は幸福に満ちているが、それ以上はない行き止まりで、絶望と共にある。しかし、愛の名文家、江國香織にかかると、絶望がテーマの小説もかくも美しく哀しくなる。

出だしはこうだ。
かつて、私は子供で、子供というものがおそらくみんなそうであるように、絶望していた。絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。
 だから、いまでも私たちは親しい。
 やあ。 
 それはときどきそう言って、旧友を訪ねるみたいに私に会いにくる。やあ、ただいま」




私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

皮肉でなく、甘く切なく美しく、そして上品な悲恋を楽しみたい方にはおすすめだ。繊細さを持ち合わせていない私は、巧みな文と淡い雰囲気だけ楽しんだ。

題名「ウエハースの椅子」:主人公は簡単に砕けてしまうウエハースで椅子を作るが、やわらかで、甘い椅子には、けして座ることが出来ない。

新潮文庫の淡い花の咲く寂しげな庭の絵が気に入った。下半分は白紙で、白黒が基調の鉛筆画で、何色か花だけ淡く色つけてある。カバー装画は、須藤由希子とある。1978年神奈川県生まれで、2001年多摩美大デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業の方だ。HPにもいくつも絵があるが、この表紙の絵がいちばん寂しげでこの本にぴったりだ。



江国香織(えくにかおり)は、1964年東京生まれ。父はエッセイストの江國滋。目白学園女子短大卒。アテネ・フランセを経て、デラウェア大学に留学。
1987年「草之丞の話」で小さな童話大賞、89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞受賞。小説は、1992年「こうばしい日々」で産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞、「きらきらひかる」で紫式部文学賞、1999年「ぼくの小鳥ちゃん」で路傍の石文学賞、2002年「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」で山本周五郎賞、2004年「号泣する準備はできていた」で直木賞、2007年「がらくた」で島清(しませ)恋愛文学賞を受賞。


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