hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

益田ミリ『結婚しなくていいですか?』を読む

2014年05月27日 | 読書2


漫画:益田ミリ『結婚しなくていいですか? すーちゃんの明日』(幻冬舎文庫2010年8月)を読んだ。

「このまま結婚もせず子供も持たずおばあさんになったら?」スーパーで新キャベツを選びながら、ふと考えるすーちゃん(森本好子(よしこ))36歳の未婚の一人暮らしで、カフェの店長。貯金はもうすぐびみょうーな200万円。寝たきりになって頼る人もなかったら、歩いてきた人生全部が台なしになってしまうと考えると震えてしまう。
ヨガ友達のさわ子さんは40歳目前。寝たきりの祖母と母との3人暮らし。13年間彼がいない。恋というより男が欲しい。
見合結婚し会社を辞めた臨月のまい子さんは、我が子第一の新しい幸せが始まるだろうと思っている。これもまたよかったと思う半面、結局こうきたかと思う自分がいる。

すーちゃんシリーズ第2弾で、第1弾「すーちゃん」、第3弾「どうしても嫌いな人」、第4弾「すーちゃんの恋」と続く。柴咲コウ、真木よう子、寺島しのぶ主演で「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」として映画化。

話の筋とは無関係にところどころに「ある日のすーちゃん」の1ページが挿入されている。
「どうせ使い切らないだろうな~とおもいつつブルベリージャムを買った。お前はオシャレな生活への入口?」
「いつも行くデパ地下では試食しやすい店が頭の中に入っている」
「撮った写真をアルバムに貼らなくなったなと思った。思い出が雑になってきたな~」

初出:2008年1月(幻冬舎)


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

結婚する、しないで大きく人生が変わるアラフォー女性3人が、結婚、老後について悩み、本音をつぶやく。実感がこもっていて、おじいさんの私も「なるほど、そうだろうな」と思い、いとおしく、応援したくなる。
ちっとも上手くない絵だが、ゆるいタッチがほのぼのする。


益田ミリ
1969年大阪府生まれ。京都芸術短期大学卒業。イラストレーター、漫画家、エッセイスト。
2001年『OLはえらい』で漫画家デビュー
2006年の『すーちゃん』で人気となる
2011年、『はやくはやくっていわないで』で産経児童出版文化賞産経新聞社賞受賞
2013年、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』が映画化
その他、イラストエッセイ『キュンとしちゃだめですか?』、
著書『ふつうな私のゆるゆる作家生活』『ちょっとそこまでひとり旅だれかと旅』『五年前の忘れ物』
絵本『はやくはやくっていわないで』で産経児童出版文化賞受賞

メモ
寝たきりになりたい人なんているわけない。「元気で長生きがいちばん」って、誰かをキズつけてる言葉なのかな

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新丸ビルでランチ

2014年05月25日 | 食べ物
パソコンデータの整理をしていたら、3月の写真が出て来た。
新丸ビル7Fの「ソバキチ」でランチしたときのものだ。

昼時でどこも列を作っていたが、たまたま空いていたのが、ここ。



まず出てきたのがこれ。いや違った、たしか自分でカウンターから取ってきたのだった。



私めの注文は、



相方は、



目の前のベランダ?からは東京駅がド~ン。



キッテKITTEだってドカ~ン。



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中島岳志『血盟団事件』を読む

2014年05月23日 | 読書2

中島岳志著『血盟団事件』(2013年8月文藝春秋発行)を読んだ。

1932年(昭和7年)、宗教家の井上日召の信者が、井上準之助前蔵相、団琢磨三井合名理事長を暗殺する。「一人一殺」を理念とし、「政党」「財閥」「特権階級」を象徴する人物を暗殺し、革命の礎になろうとした血盟団事件だ。

この本は、2010年、著者は血盟団の生き残り99歳の川崎長光や、井上の娘85歳の涼子を訪ね、そして話は井上日召の子供時代から始まる。
日蓮主義者田中智学、北一輝など理論派の革命家、キリスト教などの思想にも心酔できなかった井上日召の流浪旅。茨城県大洗にたどり着いてから、巧みな弁舌で農村の若者たちを魅了し、カリスマ的指導者となる。
その主張は、「自然の大法則」こそが善で、背くことが悪であり、天皇は「太陽」のような存在で、国民は「諸遊星」であり、日本は一体である。そしてこの間にある政党、財閥などが腐敗しているため、これらを除かなくてはならないという考え方だ。
さらに、旧帝大の学生達を巻き込んで、「一人一殺」を掲げるテロリスト集団「血盟団」に変貌させ、血盟団事件を起こすまでを丹念に描くノンフィクションだ。

口絵に井上日召はじめ大洗グループ7名、東京帝大グループ4名、京都グループ3名、その他1名の血盟団メンバーの写真が並び、リアルさを演出する。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

井上日召がカリスマになるまでの魂の変遷が延々と語られる。良く調べているとは思うが、井上その人にはそれほど興味がない私にはじれったく、飛ばし読みしてしまった。

北一輝や大川周明のような理論家ではなく、オームの麻原を思わせるカリスマ性で仲間を一人一殺に追い込んだ経緯、雰囲気は理解できた。井上自身も、悲惨で固定的な世の中を変えるため、当初は農村に人を送り込んで徐々に支持者を増やすこと考えていたが、過激な青年将校ら考えや、世の動向に突き動かされて、テロへと動いていく。

血盟団事件までは詳細に書かれているが、この血盟団事件が、2ヶ月後の5・15事件、その後の2・26事件、さらに軍部暴走となった一つの原因であったことは明確に書かれておらず、分析もされていない。


中島岳志(なかじま・たけし)
1975年生まれ。北海道大学准教授。インドを中心としたアジア政治と思想、近現代日本の思想について著作がある。『中村屋のボース』『パール判事』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』
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篠田節子『長女たち』を読む

2014年05月18日 | 読書2

篠田節子著『長女たち』(2014年2月新潮社発行)を読んだ。

当てにするための長女と、慈しむための他の兄妹。 親が老いたとき頼りにするのは嫁でも長男でも責任のない次女でもない。子供の頃からそう育てて来た長女だ。親の介護に振り回されながら、親の呪縛から逃れられず追いつめられた長女たちの行く末は? 
年老いた親が心に重くのしかかる30後半から40代の独身の「長女」を描く3編の連作小説。

「家守娘
夜になると妄想でいるはずのない娘に話しかける母親。医者に相談しても、頭から否定せず、まずはそのまま受け入れてくださいと、うんざりするほど教科書通りのことを言うだけだ。めったに来ない妹は、デイサービスなんて、そんなところにお母さんを生かせるなんてかわいそうというばかり。母は絶対に薬を飲まないし、長女の直美の負担は増すばかり。40半ばで仕事も辞めた直美は、施設に頼ろうとするが、母は「他人におしめを取り替えてもらうなんて、絶対に嫌。そんな恥ずかしくて惨めなことにならないように、必死で娘を育てたというのに」と言い放つ。痴呆の母とのやりきれない日常、生々しいやりとりが続き、やがて大きな出来事が・・・。

「ミッション」
頼子は、身の回りの世話を期待する父親の反対を押し切り、勤めを辞めて遠方の医学部に入る。当地の病院に勤めた頼子は、父を孤独死させることとない、その悔恨から抜け出せない。母が親切にしてもらった園田医師が7年間過ごしたヒマラヤの麓で事故死し、頼子は代わりになろうとヒマラヤへ向かう。現地では不審な死が続けさまに起こっていた。そして、頼子も・・・。

「ファーストレディ」
医者に嫁ぎ、何十年も窮屈な思いをした母は、糖尿病となったのにこれからは好きな物を食べるのだと、慧子(けいこ)の言う事を聞かず食事療法を無視し好き勝手にする。母に腎臓を提供すべきか悩む慧子に、「子供に(リスクのある)そんなことをさせたい親でどこにいる」と医師の父も、大切にされた弟も反対する。あんたさえ出来なかったらと言われ続けた慧子に母は「あんたのだったら、一番いいね」「あんたのなら自分の体と同じだもん」と言ってのける。

初出:小説新潮2008年8月号(家守娘)、2011年11月号(ミッション)、2012年10月号(ファーストレディ)、大幅改稿あり。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

長女でもない私には、母親の呪縛は頭では理解できても、「そんなもの!」と蹴っ飛ばせるように思えてしまう。しかし、おそらく幼いときから刷り込まれた呪縛は、心に絡みつき、現実に切り離すのは困難な事情や、申し訳ないとの罪悪感もあって、逃れられず、自分の人生をつかみきれないのだろう。
そんな長女が母親として自分の長女にはどう接するのか? 母の長女への呪縛は時代の流れの中のよどみに過ぎないのか? それとも、虐待のように連鎖するものなのか?


「ミッション」
ヒマラヤの村人は確かにひどく短命だった。園田は生活環境や衛生状態の改善でこれを改善しようとした。しかし、これは村人には迷惑だった。村人は高血圧などで年とる前に突然死する。これが生産性の低い土地に適したライフサイクルだったのだ。

「ファーストレディ」
母親は、二人の子供のうち、弟は愛する者、長女は紛れもなく自分の一部と考えていた。こんな母親に育てられた長女は、母の呪縛から逃れられなくなっている。


篠田節子の略歴と既読本リスト



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乙川優三郎『脊梁山脈』を読む

2014年05月15日 | 読書2

乙川優三郎著『脊梁山脈』(2013年4月新潮社発行)を読んだ。

著者初の現代小説で、大佛次郎賞受賞作。
上海から復員して佐世保に上陸した23歳の矢田部信幸は、復員列車で小椋康造(おぐらこうぞう)に介抱される。彼は、山に籠ってもう二度と町へは下りてこないつもりだ、と語る。

信幸は実家に戻り、母を助けて畑つくりに励む。父や伯父のおかげで、生活に困らぬ金を手にした信幸は、助けられた男・康造を探す。彼は伝統的な手法で木工品を造る木地師だった。信幸は、彼を探しながら木地師の源流を訪ねて山村を渡り歩く。いかに生き直すかを探りながら。

御徒町のガード下でスタンドバー「月の夜」を営み画家でもある佳江と、木地師の娘で清楚で心優しいが、芸者になる多岐子が絡む。

表紙にある英語 “Life is much more successfully looked at from a single window, after all.”は、本文にあるように、ニック・キャラウェイの「結局、人生はひとつの窓から眺めた方がほどよく見える」という意味らしい。「信幸は窓が多すぎて却って展望がきかない」と、佳江に指摘されてしまう。

初出:小説新潮2012年1月号~11月号


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

敗戦で荒れた国土から、苦しくもたくましく復興に向かう時代の空気感が良く書けている。1953年生まれの著者に良く書けたと思うほどだ。当時の東京を思い出し、目に浮かべる事ができた。

力作なのだが、木地師の歴史に深く入り込み、おまけにその中で、秦一族、聖徳太子などやたら素人の歴史探訪が続き、うんざり。確かによく資料を調べ、取材しているのだが、もっと捨ててほしかった。


乙川優三郎(おとかわ・ゆうざぶろう)
1953年東京都生まれ、すぐに千葉県へ。ホテル・観光業の専門学校卒業後、国内外のホテルに勤務。会社経営や機械翻訳の下請を経て、
1996年『藪燕』でオール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。
1997年『霧の橋』時代小説大賞
2001年『五年の梅』山本周五郎賞、
2002年『生きる』直木賞、
2004年『武家用心集』中山義秀文学賞
2013年 本書『脊梁山脈』で大佛次郎賞 を受賞。
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ビストロ・サン・ル・スーでディナー

2014年05月13日 | 読書2
「ミシュランガイド2014」に掲載の店、Bistrot Sans Le Sou
ビストロ・サン・ル・スーでディナー。

西荻窪駅から5分程度、店名はフランス語で「一文無し」らしい。
2階への入口は見逃しそう。



まずはテーブルの上のワインリストを無視し、相方はオレンジジュース、私はせめてものキリンフリーを注文。
隣のテーブルでは、「これだと料理には合わないかな? でも、〇〇年もののこのワインよく手に入りましたね」などとのたまわっている。チラッと見ると、向かい側の女性の鼻がとんがっている。ミシュランの調査員ではないだろうか???

ディナーコースは3種あり、「少食の方むけ」を選択

まず出てきたのは、ビシソワーズと、ゴルゴンゾーラチーズ



冷たいビシソワーズが心地よく、パンの上に乗ったゴルゴンゾーラチーズも癖がなく私には食べやすい。

自家製パンはかごに盛られた数種類の中から二つ選ぶ。



右のクルミ入りのパンがとくに美味しく、勧められるままにおかわりした。


私が選んだ前菜はアジの燻製のマリネ 香草と温かいじゃがいも添え



アジの燻製が少々癖があったが、それさえ美味。

相方の前菜は、三崎産鮮魚のマリネ 緑こしょう風味のサラダ仕立て



会話もなく、あっという間に完食したから美味しかったのだろう。


メインは二人とも、プラス200円で、本日のおまかせ魚料理(スズキとコロダイ)



これは絶品。「表面がカリカリで中はやわらかく、ジューシーで、噛むと甘みが口の中に広がる」などとTVのコメントのようなことが言いたくなる。

デザートは、私が、あちみつ風味のヌガーグラッセ



台になっているのが、お菓子のヌガーのような味。もちろん柔らかいのだが。

相方のデザートは、杏仁風味のブラマンジェ



これも「美味しかったわよ」とただ一言。

最後に小さなお菓子付きのコーヒーをいただく。



二人で約12000円とそれなりになったが、至極満足。予約が必要だが、今度はランチかな。

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中脇初枝『きみはいい子』を読む

2014年05月12日 | 読書2

中脇初枝著『きみはいい子』(2012年5月ポプラ社発行)を読んだ。

児童虐待をテーマとしたこの本は5万部を超える話題作となり、坪田譲治文学賞を受賞。胸を打つ5編が並ぶ。

サンタさんの来ない家
大学を出てはじめての着任した小学校で、岡野匡(ただし)は一年生を担任する。授業中に女の子がおもらしをする。次々とおもらしする子が出て、母親から電話を受け、副校長からも指導を受けた岡野は子供たちに優しく接するようにする。すると、トイレに行きたがる子供が続出し、学級崩壊が始まる。

翌年は四年生の担任になり、ひととき安心する。乱暴な男子・大熊さんと、派手な女子・星さんのグループが結託してクラスは収拾のつかない状態になる。
やせっぽちなのに給食をおかわりする神田さんは、給食費を払っていないのにと大熊さんに非難される。神田さんは言う。「ぼくがわるい子だから、おとうさんが怒るんだ。」「ぼくがわるい子だから、うちにはサンタさんが来ないんだ。」「どうしたら、いい子になれるのかなあ。」「ぼく、わからないんだ」

女子グループに属していない清水さんがいじめられて、登校しなくなった。家庭に問題を抱える大熊さんは授業に茶々を入れ、母親がいない星さんたちの女子グループはおしゃべりをやめなかった。
そこで、岡野は宿題を出す。「その宿題は、家族に抱きしめられてくること、です」

けんかもいじめもとめられない、なさけないだめ教師の岡野は、よせあつめのこどもたちを救えないが、・・・。

べっぴんさ
母親から虐待を受け、自分の子に虐待をすることを恐れていたが、夫に望まれ娘・あやねを出産。夫のタイ単身赴任を機会に、あやねへの虐待がやめられなくなる。
あやねを連れて行く公園には、笑顔を貼り付けたママ友がいっぱい。自分と同じく家では虐待をしているに違いないのにと思う。あやねが何かやらかす度に、心の中のよどんだ水がぼちゃぼちゃと音をたてはじめる。

はなちゃんのママも同じだった。しかし、彼女には会うたびにべっぴんさんと言ってくれるおばあさんがいた。

うそつき
自営業の杉山には、妻・ミキと長男・優介、妹の美咲がいた。早生まれの中でも最終の4月1日生まれの幼い優介は、友達がいなかった。なぜか転校生の山崎大貴という親友が出来るが、中学は別々になる。
幼い頃、黒人とのハーフのもっちゃんが親友だった杉山は、「たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの人生を支えてくれる。」と思う。

こんにちは、さようなら
80歳のあきこは、両親の遺した家に一人暮らし。家の前を通学する小学生の櫻井弘也だけが彼女に「こんにちは、さようなら」と言ってくれる。自宅の鍵を落としてしまってウロウロする拡也を家にあげる。迎えに来た母親は、彼に障碍があるという。「障害?」とあきこは聞く。

うばすて山
雑誌編集長・かよは、母親から虐待を受けて育った。妹・みわは虐待を受けなかった。母は父親が亡くなり養女にだされていじめられた。必死に勉強して教師になったが、かよが生まれて辞めざるを得なくなった。
その母の痴呆が進み、子供を抱えながらみわが長く介護していたが、施設入居準備のため3日間だけかよが母を預かることになる。 母はすっかり6歳に戻ってしまっていた。

「うばすて山に捨てるようなものだよね。」というみわに、かよは「あのひとは捨てられて当然じゃない? それだけのことはしたんだから。」と返す。
みわの家に送っていく途中、母を置き去りにしてしまおうとするが・・・。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

虐待される子供の話は多く、なんでそんなことするのだと腹が立つ。いくら自分が子供の頃に虐待されていたからといえ、なんで虐待が連鎖するのかと思う。その答えを教えてくれる記事、小説はしらない。
この本には、虐待する側の心の動きにも触れている。もちろん理解できる訳ではないが。そもそも、子供なんてもともと親の思うとおりになんかならないものだと思うのに、大きな声で感情むき出しで叱っている母親を見ることがある。イライラするのは分かるけど、子供の顔や動作を見れば、可愛さで、まあしかたないかと思うだろうに。

しかし、子供の頃に虐待を受けた人は、自分が悪い子だったからという過去を抱えていて、思うとおりにならない我が子の顔に、幼いころの自分を見て、・・・う~ん、わからない。この本に、「自分で自分がかわいいと思えなくて、こどもがかわいいっておもえるわけないよ。」とあった。


中脇初枝(なかわき・はつえ)
1974年1月1日徳島県に生まれ、高知県中村市(現・四万十市)に育つ。小説家、児童文学作家。
高知県立中村高等学校、筑波大学卒業。
高校在学中の1992年に『魚のように』で坊ちゃん文学賞を受賞し、17歳でデビュー。
1997年、『稲荷の家』
2001年、『あかい花』
2004年、『祈祷師の娘』
2012年、本書『きみはいい子』、2013年 坪田譲治文学賞を受賞
2014年、『わたしをみつけて』で山本周五郎賞候補
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正木香子『本を読む人のための書体入門』を読む

2014年05月10日 | 読書2

正木香子著『本を読む人のための書体入門』(星海社新書2013年12月発行)を読んだ。

宣伝文句は、
文字の味わい方がわかれば、本の読み方も変わる。
この本は「書体」の入門書ですが、デザイナーなどの専門家がノウハウを学ぶためのものではありません。読書好きの「ふつうの人」が、文字の味わいを知り、自らの感受性を育むことで、本を読むことがもっともっと好きになるための一冊です。・・・

夏目漱石の「吾輩は猫である」の冒頭の1ページが、明朝体、ゴシック体、行書体、ファンシー書体で現れる。(確かに、同じ文章なのに書体によりなんだか印象が違う)

「淡古印」(たんこいん、マンガのホラー書体)、「大髭書体」(TVなどに登場)、「ボカッシイ」など見たことない書体、いや見たことあっても気にしていないので意識していなかった書体が並ぶ。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

字体そのものでなく、字体の印象に特化した特徴ある本で、かつ、読みやすく、興味を引くのだが、内容が整理されていなくて、体系的でなく、バラバラな印象だ。
書体に対する著者の思い入れだけが先走っている。もう少し、距離を置いて眺めてから書けばよいのにと思う箇所が多い。

かっては「読書」と言えばイコール「音読」であり、人間は長いあいだ、本にかかれた言葉を声に出して読んできました。・・・日本人の中でようやく「黙読」が主流になったのは明治時代以降のこと。・・・私たちが文字を「なぞって」いるからです。手でなぞる代わりに、目をつかってなぞっている。(そのことで私たちは書体の影響を受けることになる)
そういえば、私は本を早く読むために黙読というか、一字一字でなく、文字のかたまりを見て、次に進んでいる。流し読みの一種なのだろう。それでも字体の違いによる文の印象は大きく異なる。

手紙を崩して続け字で書く場合、一文字の長さは字ごとに違う。例えば「し」は長くなる。これが活字になると、一文字の大きさはどの文字も一定となる。英文のワードだと、次の行へ移るときに単語が途中で途切れないように、単語間・字間の長さを調節したりしているが、日本語はどこで切っても良いので、一枠に一文字だ(と思う)。
文字入力も、かな入力なら音読しながら入力できるが、ローマ字入力では難しい。
著者が指摘するように、これらの文字の表記方法、入力方法によって、たしかに文体が影響受けることはあるのだろう。


正木香子(まさき・きょうこ)
1981年神奈川県生まれ、福岡県育ち。文筆家
早稲田大学第一文学部卒業。幼いころから活字や写植の文字に魅せられる。
2011年にウェブサイト「文字の食卓――世界にひとつだけの書体見本帳」を開設。
「書体の滋味豊かな味わい」をテーマに連載した文字と言葉をめぐる読書エッセイが、今までにない読者目線の書体批評として話題となり、「文字の食卓展」を開催する。著書に『文字の食卓』(本の雑誌社より書籍化)。



こんな団体、つい最近まで財団法人だったという、があったとは!
「カナモジカイ」
http://www9.ocn.ne.jp/~kanamozi/
日本語の 表記に 漢字を もちいる ことの 不合理性を アキラカにし、漢字廃止論・カナ文字専用論を となえ、日常生活では もっぱら カナ文字を もちいる 時代を つくる ことを 目的と して います。
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後藤直義・森川潤『アップル帝国の正体』を読む

2014年05月09日 | 読書2

後藤直義・森川潤著『アップル帝国の正体』(2013年7月文藝春秋発行)を読んだ。

アップルは、今や時価総額50兆円、年間売上12兆円、純利益3兆円をほこる巨大メーカーに変貌した。

個性的な言動のジョブズ、美しいデザイン、斬新なアイディアで、多くのファンを持つアップルの企業としての正体は、利益やコストへの偏執狂的なこだわりから、下請けメーカーを冷酷非道に締め上げるブラック企業だ。かつての日本の栄光企業、ソニー、シャープ、ヤマダ電機などがアップルに追い詰められていく姿を明らかにする。

著者は、アップルと取引のある大手企業のビジネスマン・エンジニア、町工場の社長、デザイナーなどの証言から、アップルの獰猛で過酷な支配の実態を明らかにした。

アップルはiPhoneの筐体やボリュームボタンといった、部品ひとつひとつにまで事細かく購買責任者をつけている。部材不足で生産が滞ったらもちろんすぐにクビ。コスト削減の取り組みの結果が出ないだけでも、1年足らずで解雇される可能性が高い。・・・アップルの購買担当者は命懸けでコスト削減を求めてくるのだ。

シャープ亀山工場も今やアップル専用のラインを設けさせられ、納期もコスト削減もアップルの意のままに操られ、しかも次回の取引は保証されず、突然の打ち切りもある。家電量販店の雄、ヤマダ電機も、通信キャリアのソフトバンクも、音楽業界も、アップルに利益をとことん搾り取られている。最先端の技術を持つ町工場も工程をビデオに撮られ、人件費の安い国の企業にとって代わられる。
一般的な家電の流通マージンは、お客に販売する価格の30%ほどが相場だとされている。しかし、「アップルは10~5%未満」のケースすらあるという。そこで、家電量販店側は、・・・高い利益率を誇る周辺機器やアクセサリー類・・・を必死で売らなくてはいけない。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

さすが週刊誌記者、アップルの下請け企業(シャープ、ソニー、ヤマダ電機など)支配にポイントを絞って明快に書いている。
確かにiPhoneなどあれだけの圧倒的売れ行き、支配力があれば、30%近い売上利益率を確保するために、納入業者に強く当たれるだろう。狭い世界(日本)にとらわれず、共存共栄でなく、搾り取ってからまた次の企業に移るグローバル企業のアップルのやり方は、良し悪しでなく、資本主義の原理なのだ。

現在では、サムスンや中国企業に追い上げられ、これまでの圧勝状況変わりつつある。どの勝利企業も陥るこの危機にアップルがどう対処するか、楽しみだ。


目次
プロローグ アップル帝国と日本の交叉点
第1章 アップルの「ものづくり」支配
第2章 家電量販店がひざまずくアップル
第3章 iPodは日本の音楽を殺したのか?
第4章 iPhone「依存症」携帯キャリアの桎梏
第5章 アップルが生んだ家電の共食い
第6章 アップル神話は永遠なのか
エピローグ アップルは日本を映し出す鏡


後藤直義(ごとう・なおよし)
1981年東京都生まれ。週刊ダイヤモンド記者。
青山学院大学卒、毎日新聞社入社。2010年より週刊ダイヤモンド編集部へ。
家電メーカーなど電機業界を担当。著書に電子書籍『ヤメソニーに訊け!!』

森川潤(もりかわ・じゅん)
1981年ニューヨーク州生まれ。週刊ダイヤモンド記者。
京都大学文学部卒業後、産経新聞入社。2011年より週刊ダイヤモンド編集部へ。
エネルギー業界担当。著書に、電子書籍『誰が音楽を殺したか?』
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川上広美『東京日記4 不良になりました』を読む

2014年05月06日 | 読書2

川上広美著『東京日記4 不良になりました』(2014年2月平凡社発行)を読んだ。

『東京日記 卵一個ぶんのお祝い』、『東京日記 卵一個ぶんのお祝い』『東京日記2 ほかに踊りをしらない。』『東京日記3 ナマズの幸運。』に続く日記シリーズ第4弾。
この東京日記は、「WEB平凡」に現在も連載中。

ちょっと不思議だけど、いかにもありそうで、不思議でもないか、という川上ワールドが一杯。

いろんなところに童話風のイラストが挿入されていて、文とともにとぼけた味を出している。描いている門馬則雄さんのホームページもなかなか。noriomonma.com/index1.html

相変わらずご近所ネタがそこかしこに。
菅直人の家の警護SP(首相のときは異常に太ったSPだった)。吉祥寺駅前の三菱東京UFJ銀行(いつも待たされる)。井の頭公園の白鳥のボートの首の部分を外して洗っていた(見てみたい)。

外国に行って、お酒を飲むと、急に外国の言葉を聞き取ったり喋ったりできるようになることがわかった。翌日、同行の日本人が言った。「カワカミさんって、ジェスチャーが上手なんですね。ことにお酒をたくさん飲んだ後では、動きがますますなめらかに」と。

皮膚科でピアスの穴をあけて、こどもに自慢する。こどもは小さな声で、「かあさん、不良になったんだ」とつぶやいた。これが本のタイトルに。

「いれずみ、ことに青いいれずみをしていると、その部分がMRIで熱く焼けてしまうのですよ」と技師の人が教えてくれた。(調べてみると、鉄分を含むいれずみは火傷、変色の可能性があるようだ)

初出:「WEB平凡」2010年5月~2013年3月


私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

特に何があるわけでもなく、ホント?というという話がつづく。何かズレた話を読んでいるうちに、のんびりした気持ちになる。現実との乖離ぐあいが最近は小さくなって、日常の中で話が終わるようになってきた。良いような悪いような。

あとがきの最後には、「2014年初春 武蔵野にて」とあり、前作にも「2010年師走 武蔵野にて」、前々作にも「2007年晩秋 武蔵野にて」とあり、杉並区の図書館で借りた本にも、武蔵野市の図書館で借りた本にも、川上の印が。多分寄贈本だろう。


おそば屋の店主が言う。
「そばのつゆなんてものは、ほんのぽっちりつけて一気にすすりこむ、それがそばの食いかたってもんだよ・・・」
これで落語のネタを思い出した。つゆをつけずにそばを食べて、通だと自慢していた人が、死ぬ間際に、一度たっぷりつゆをつけてソバが食べたいと言う。


川上広美は、1958年東京生まれ。
雙葉中高から、お茶ノ水大学理学部生物学科へ。田園調布雙葉中学校に勤務。結婚、専業主婦に。身長176cm。
1994年デビュー作「神様」でパスカル短編文学新人賞、
1996年「蛇を踏む」で芥川賞、
1999年「神様」でドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞
2000年「溺レる」で伊藤整文学賞、女流文学賞、
2001年「センセイの鞄」で谷崎潤一郎賞、
2007年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
芥川賞、谷崎潤一郎賞、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞の選考委員。
その他、『夜の公園』『どこから行っても遠い町』『東京日記2 ほかに踊りをしらない。』『これでよろしくて?』『東京日記3 ナマズの幸運。』『神様2011』『此処彼処』『ニシノユキヒコの恋と冒険』『なめらかで熱くて甘苦しくて
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島田裕巳『0葬』を読む

2014年05月05日 | 読書2

島田裕巳著『0葬-あっさり死ぬ 』(2014年1月集英社発行)を読んだ。

宗教学者で、散骨を推進する 「葬送の自由をすすめる会」の会長の島田裕巳氏が、葬儀や、戒名、そして墓まで不要と勧める。究極の形として、病院から火葬場に直行し、火葬場で遺族が遺骨を引き取らない「0(ゼロ)葬」を提唱している。


葬儀・墓の実態
・年間死者数160万人、葬式や墓の問題を抱える人が増えている。
・葬儀費用の平均は、葬儀社へ136万円、飲食接待に40万円、寺へ55万円の合計231万円。
(米国44万円、英国12万円、ドイツ20万円)
・都内に新たに墓を作ると、平米当たり415万円。地方でも墓石だけで165万円。
・戒名の半数以上に院号がついているが、50万円以上で、20%が100万円を支払っている。
・墓を持てないために自宅に置いたままの遺骨入り骨壺がおよそ百万柱と言われている。
・東日本では遺骨をすべて持ち帰る「全骨収骨(拾骨)」だが、西日本では全体の1/3か1/4しか持ち帰らない「部分収骨」で、残りは火葬場で処分される。


最近の動向
・昔は、若くして亡くなった人の無念を晴らすために遺された者が供養をして、死者を極楽浄土に導くというシステムが存在した。しかし、高齢で亡くなった故人は既に成仏しているとの感覚が広がっている。働いていた時代には人間関係が広かった人も、高齢になればそうした人間関係も途絶えてしまう。ならば家族葬だけで十分だというのが、現在の傾向だ。
●関東地方では、病院から火葬場に直行する「直葬」が約4分の1になった。
●業者に頼らずに自身で散骨を行なう「マイ自然葬」も広がっている。


著者提唱の究極の葬り方「0(ゼロ)葬」
遺骨の処理は火葬場に任せ、遺族は遺骨を引き取らない「0(ゼロ)葬」。一部の火葬場では申し出があれば遺骨を引き取らなくても構わない。残された遺骨は契約業者が引き取り、骨粉にされた上で、寺院や墓地に埋められ、供養される。そして、火葬だけで済めば業者に頼んでも10万円でおさまる。
墓参りは都市部への人口流入に伴って郊外に墓が建てられるようになってからの新しい習慣に過ぎない。故人を偲ぶ食事会で遺族たちが故人の「思い出」を語る方が墓参りよりも、実りあるものではないだろうか。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

葬儀の、価格も含めた実状については分かりやすいし、簡易化する動向についても明快に説明している。しかし、0葬については、実行できる葬儀場がどの程度あるのか疑問があるし、「人は死ねばゴミになる」(第8章のタイトル)という著者の割り切った考え方は、遺族に現状では納得されないだろう。


島田裕巳 (しまだ・ひろみ)
1953年東京都生まれ。宗教学者、葬送の自由を進める会会長、文筆家、東京女子大学非常勤講師。
東京大学文学部卒業、同大学大学院人文科学研究会博士課程修了(専攻は宗教学)。日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。
おもな著作に、『葬式は、要らない』、『日本の10大新宗教』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』、『創価学会』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』などがある。



四苦は「生老病死」、八苦は「愛別離苦(あいべつりく)」「怨憎会苦(おんぞうえく)」「求不得苦(ぐふとくく)」「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」
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加藤周一『三大噺』を読む

2014年05月05日 | 読書2

加藤周一著『三大噺』(ちくま文庫2010年1月筑摩書房発行)を読んだ。

詩仙堂を造った石川丈山や、一休宗純、江戸の学者富永仲基に関する少ない史実を創造で補う3つの短編小説からなる。

詩仙堂志
58歳で官を辞して三十余年、江戸時代初期、京都詩仙堂に住んだ日々の暮し。日常生活の些事に徹底し、工夫に徹し、小さな喜びのためにすべてを犠牲にした石川丈山の処世。彼は自らの人生に「こだわり」を持って生きていた。

狂雲森春雨(くるいぐももりのはるさめ)」
室町時代、頓智で名高い一休禅師を盲目の愛人森女の目から描いている。僧侶の身ながら森女との生を積極的にすすんだ一休宗純の森女との官能的人生。

仲基後語(こうご)」
大阪(大坂)の儒者富永仲基と関わりのあった人々の「証言」。富永仲基は、江戸時代の夭折した特異な思想家で、『翁の文』『出定後語』を著し、儒教・仏教・神道を批判した知性あふれる江戸の学者だ。
経典に関する彼の考え方は以下のように合理的だ。
仏教の多くの経典の説は互いに矛盾する。そこで、第一は、どの経典が一番優れているか「最勝」を判断する(天台教学)。第二は、魂の救いにどれが一番役立つかを「選択」する(法然)。第三は、経典の歴史的発展を知って、内面的論理をたどる(富永仲基の加上の考え方)。

文庫化にあたり「二人一休」、湯川秀樹氏との対談「言に人あり」を新たに収録。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

知的な好奇心を呼び起こしてくれる本である。

三作品それぞれ文体を違え、史伝体、一人称の語り、霊媒に呼び寄せられた仲基とその周辺の人物たちの霊と記者との対話という形を取っている。それぞれに日常的・官能的・知的に徹した三人の人生の断面を鋭く切りとり、自らの人生のテーマと共に描いている。

その「こだわり」の中で、石川丈山では、自分の中の他者、一休では、彼が愛した森女、富永仲基では、親族や大坂奉行所の役人、ひいては異端の思想家・安藤昌益に至るまで他者との「かかわり」にまで描写は広がっていく。


加藤周一(かとう・しゅういち)
1919年(大正8年)東京生まれ。 2008年(平成20年)死去。評論家。医学博士。
1943年に東京帝国大学医学部卒業、医院を開業。
1956年にはそれらの成果を『雑種文化』にまとめて刊行した。雑種文化論は、日本文化に対する問題提起として大きな議論を呼び、1958年に医業を廃し、以後評論家として独立した。
妻は評論家・翻訳家の矢島翠。
上智大学教授、イェール大学講師、ブリティッシュ・コロンビア大学教授、立命館大学国際関係学部客員教授、立命館大学国際平和ミュージアム館長などを歴任。哲学者の鶴見俊輔、作家の大江健三郎らと結成した「九条の会」の呼びかけ人。
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ドーデ『風車小屋だより』を読む

2014年05月04日 | 読書2

アルフォンス・ドーデ著、辻昶訳、梶鮎太画『風車小屋だより』(世界名作全集16、1990年9月国土社発行)を読んだ。

先日の南仏旅行(南仏(8))でドーデの風車小屋を訪ねた。


19世紀半ばのフランスの作家ドーデは、パリからプロヴァンス州の片田舎に移り、20年以上も使われていなかった風車小屋を買い取り、ここから田舎暮らしの中で、聞いたり、見たりした話をパリの友人に書き送る。
プロヴァンスの、彼にとって新鮮な驚きに満ちた日常生活や、民話を語る。

ドーデの話は100年前の話だが、最近(?)のピーター・メイルの『南仏プロヴァンスの12ヶ月』もパリ人がプルヴァンスの田舎ぶりを、ちょっとバカにして、楽しむ点では同じ構造だ。


風車小屋購入の契約の話「まえがき」で始まり、賑やかなパリに住む友人に、田舎生活がいかに驚きと自然に満ちていて、けして退屈なものでないことを語り掛ける「家をかまえる」が続く。

「コルニーユ親方の秘密」は、製粉工場が出来て風車小屋に麦を持ってくる人がいなくなってしまった中で、頑張って風車を回している親方の秘密が暴かれる。

狼がいても、どうしても自由な山に帰りたがる「スガンさんの雌山羊」。

若い羊飼いがお嬢さんに夜空に広がる星座を説明する「星」

20歳の美男の農夫ジャンが闘牛場で一度だけあったことのある娘に恋い焦がれる。しかし、男がやってきて、「やつは二年間、おれのおんなだったんだ。」という。それでも、あきらめきれないジャンは・・・。
ビゼーの曲で有名なこの「アルルの女」の原作は、わずか9ページ足らずで、この女性については、「ビロードとレースずくめのアルルの娘」としてしか説明がない。

7年もの間、怒りをためたらばのひとけり「法王のらば」、孤立した燈台で相棒が突然死ぬ「サンギネールの燈台」、600もの死体が浜に打ち上げられたセミヤント号の最期、その他、「キュキュニャンの司祭」など11編。

『月曜物語』
「最後の授業」
ドイツに占領されたアルザスで、フランス語が世界でもっとも美しい言葉で、けして忘れてはならないと最後の授業をするアメル先生は、たとえ奴隷になっても、自分の国の言葉をちゃんと守っていれば、入れられている牢屋のかぎを持っているのと同じだという。最後に黒板に「フランスばんざい!」と書いて、なにも言わずに手でぼくらにこう合図をなさった。「もう終わりだよ・・・お帰りなさい」

「少年スパイ」
上級生に連れられて、義勇軍の情報をドイツ軍に報せて銀貨をもらう。家に帰って銀貨を見つけられた少年はすべて父に話してしまう。父は顔を隠して泣き、金と銃を持って、「よし、わしが、これをやつらにかえしにいってやる。」と出て行き遊動隊に加わった。そして帰ることはなかった。

図書館で借りたこの本は、児童向けの本だったので、ほとんどの漢字にはルビがふられ、難しい言葉には説明が加わる。(公証人(裁判などで公に効力がみとめられる証書などをつくる人)。
元の本『風車小屋だより』は25編の短編からなるが、子供にもわかる18編を選び、『月曜物語』の2編を加えてある。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

100年も前の本とは思えず、新鮮だが、土地の言い伝えなどおとぎ話も多く、もともと子供向け?と思ってしまう。

『月曜物語』でドイツ軍に占領される中で、フランス語を守ろうとするアメル先生の意志には感動だ。
日本語を強要された朝鮮の人々を思い出してしまう。日本人も、太平洋戦争で敗れて、駐留軍に英語使用を強要されていたらとどうだっただろうと思う。英語べらべらで得するとも思うが、やはり季節の表現など微妙な言い回しができなくて、がさつになっていただろう。なにより、源氏物語(読んでないが)、漱石など日本語の古典が死滅して世界でも独特な日本文化は埋もれていただろう。


アルフォンス・ドーデ(1840~97) 南フランスのニーム生まれ。17歳のときパリに出て文学を志す。終始、故郷南仏プロバンスの風物と人を愛しつづけた。ユーモアと詩的情緒あふれる作風の『風車小屋だより』で一躍有名となった。他の代表作に『月曜物語』『タルタラン・ド・タラスコンの大冒険』など。


辻 昶(つじ とおる、1916年3月22日 - 2000年5月15日)は、フランス文学者。
画家・辻永の長男として東京に生まれる。旧制武蔵高等学校卒、東京帝国大学仏文科卒、東京教育大学教授、1980年定年退官、名誉教授、白百合女子大学教授。ヴィクトル・ユゴーを専門とし多くの翻訳を行った。
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篠田節子『ミストレス』を読む

2014年05月03日 | 読書2


篠田節子著『ミストレス』(2013年8月光文社発行)を読んだ。

篠田さんの官能小説への挑戦だ。

ミストレス
麻酔医の貴之は妻と一緒に行った軽井沢の古い奏楽堂のコンサートで、睡魔に勝てず眠りに落ちて、なお管弦楽を聴いていた。指揮者が消えて、コンサートミストレスが弓のアップダウンと微妙な体の動きでオーケストラを率いている。貴之は激しい哀切な思いにとらわれる。夢の中の彼女を求めるうちに、意外な事実を知る
孤独な指揮者を支える啓子とは誰なのか?
「ミストレス」は愛人のこと、「コンサートミストレス」はコンサートマスター(管弦楽団の第一バイオリンの首席奏者で時に指揮者の代理を務める)の女性版

やまね
色素も血の気も失ったような小さな体の女、結衣。仕事も体力なないからとまったくやる気がない。今にも倒れそうな女、女がもっとも嫌う女に、翔は引きつけられてしまう。

ライフガード
異国の地で思いがけない再会は、現実なのか? それとも幻なのか
夏帆と治行の新婚旅行先はプーケット。そこに祐二そっくりな男が現れる。

宮木
紛争地帯で反政府武装勢力と行動を共にするジャーナリスト勝太郎は、12年ぶりに日本へ戻る。音信不通にしていたわが家の妻を訪れると、面やつれした妻はまったく変わらない態度で出迎えてくれたのだが・・・。

紅い蕎麦の実
悠里は身体を動かすことでアルコール依存症を克服しようと農作業の会へ参加する。そこに中年の天使がいた。彼女はおばさんの姿形で、清らかな内面を持ち、気位の高さはなく、母と呼べる生臭さもない。彼女の正体は・・・。

初出
ライフガード:『旅を数えて』(2007年8月光文社)、他は2009年から2013年にかけ、雑誌「小説宝石」の春の官能小説特集への寄稿作品。


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

まともでなく、何かしら不気味な女性たち。いずれにも熱意が感じられない冷えた女性たち。やはり魅力を感じられない女性の話は面白くない。
ライフガードだけは謎の男性の話だが、よくある話だ。


篠田節子の略歴と既読本リスト

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今年の桜

2014年05月03日 | 行楽
パソコンの中に埋もれてしまっていたが、4月1日(火)の桜のご紹介。

場所は例年の吉祥寺の井の頭公園。





「平日なのになんでこんなに混んでるんだ!」と怒っている奴がいた。原因は「お前のような暇な奴がいるからだ」と教えてやろうと思ったが、天に唾することになると気が付いてやめた。

桜は満開。




七井橋の上で変な人を見かけた。



なぜ? ここで何しているの? 周りの人が、不思議がる。子どもだけが平気で近づいて握手、タッチ。

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