伊坂幸太郎著『ペッパーズ・ゴースト』(2021年10月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
朝日新聞出版の宣伝文句。
中学の国語教師・檀は、猫を愛する奇妙な二人組「ネコジゴハンター」が暴れる小説原稿を、生徒から渡される。さらに檀先生は他人の未来が少し観える不思議な力を持つことから、サークルと呼ばれるグループに関わり始め……。
最新刊『逆ソクラテス』より1年半ぶり、最新長編『クジラアタマの王様』より2年3ヶ月ぶりとなる、著者最新刊。作家生活20周年超の集大成となるような、一大エンターテインメント長編です。この伊坂作品を待っていた!
猫の虐待者(ネコジゴ)を捕まえて制裁を加えるネコジゴハンターの2人「ロシアンブル」と「アメショー」が富豪の罪村に制裁を加えるところから始まる。ただし、この2人が登場する場面は鞠子が創作している小説の中の話であり、ページ上部に横棒が引かれていて、本文とは区別される、途中までは。
檀が受持生徒の里見大地が乗る新幹線が事故にあう<先行上映>を見る。居もしない占い師を持ち出して大地に伝え、予定を変えて、事なきを得た。檀は大地の父・里見八賢と話し合い、やがて行方不明となった八賢の件でサークルのメンバーに巻き込まれていく。
以下、檀先生、猫虐待者を制裁する二人組、そして被害者の会の成美彪子の3者からの視点で交代して話が進む。
ペッパーズ・ゴーストとは、
…劇場や映像の技術のひとつで、ペッパーさんなる人が関係していたはずだが、照明とガラスを使い、別の場所に存在する物を観客の前に映し出す手法だ。…
小説の中の二人組が、スポットライトを当てられ、私の前に出現したと言われれば、そうかもしれないと思いたくなった。(p216)
この作品は書下ろし。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
伊坂ファンの私にとっては、特別ではないが、いつもの面白さだ。
制裁者の悲観的なロシアンブルと楽観的なアメショーの凸凹コンビのやりとりが、伊坂節で、ユーモラスで面白い。
小説の中の二人の出来事が実世界と並行して語られ、突然二つの世界が融合する構成も、混乱するが面白い。
被害者の会のメンバーが善なのか悪なのか、よく解らない不可思議なまま話が進んでいく。私はそんな読み方もできるので、許せるのだが、人によっては、はっきりしないまま不安定な状態で読む続けるのは不快かもしれない。
底に流れるテーマ(テロの良し悪し、ニーチェの解釈など)は不消化で、傑作とは言えないと思う。しかし、表層の面白さを味わうのが伊坂作品と思っている人は合格点だろう。
伊坂幸太郎の履歴&既読本リスト
檀千郷(だん・ちさと):中学校の国語教師。35歳。飛沫を掛けられた相手の明日の一シーンを見ることができる<先行上映>能力が備わっている。サークルには段田を名のる。
吉村先生:檀先生の同僚。数学教師。女性。
布藤鞠子(ふとう・まりこ):檀先生の受持ち生徒。小説を執筆中。
里見大地:檀先生の受持ち生徒。父、祖母と三人暮らし。
友沢笑里(えみり):中学生。布藤鞠子の友人。
里見八賢(はっけん):大地の父親。公務員。行方不明となる。
ロシアンブル:ネコジゴハンターの一人。通称シアン。悲観的な性格。
アメショー:ネコジゴハンターの一人。楽観的な性格。
罰森罰太郎:ネコジゴの一人。動画配信や仮想通貨で富を築いた富豪。
サークル(カフェ・ダイヤモンド事件の被害者の会)のメンバー
庭野:30代男性。庭師。サークルのまとめ役。
野口勇人:20代男性。姉が庭野と婚約していた。
羽田野:60代男性。元小学校校長。
成海彪子(なるみ・ひょうこ):20代女性。カンフー映画を好む。
庸雄・康江:60代。医師と看護師の夫婦。
哲夫:50代男性。元工場勤務。
沙央莉:20代女性。
将五:20代男性。
マイク育馬:TV番組の司会者
天童:東京ジャイアンツの4番打者。
メモ
後ろの私が閊(つか)えていることに気づき(p331)