伊坂幸太郎著『アイネクライネナハトムジーク』(2014年9月25日幻冬舎発行)を読んだ。
6つの連作短編集。題名の『アイネクライネナハトムジーク』はモーツァルトの楽曲で「小夜曲」。
「アイネクライネ」
マーケットリサーチ会社の藤間が妻に逃げられ、ショック状態の藤間は、佐藤と作業中に事故を起こし、データが消失する。藤間は会社を休み、佐藤は罰として街頭アンケートでデータを集める。次の日曜日に佐藤は大学の友人織田夫婦(一真と由美)を訪ねる。
佐藤に、妻との出会いを聞かれた藤間が答える。
「で、かみさんが財布を落としてさ、俺が拾ってあげたのが、最初だ」・・・
「その時、そこで財布を落としたのが、奥さんで良かったなあ、って思います?」・・・
「他の人じゃなくて彼女で良かったよ。ついてたな、俺は」
・・・
「彼女が言ったんだ。あの時、財布、わざと落としたんだってさ」・・・
「今度もし、偶然、奥さんとすれ違ったら、財布落とします?藤間さん」
「落とすよ」藤間さんは即答だった、
「奥さん拾ってくれますかね」
「たぶん、持っていかれるよ」
「ライトヘビー」
美容師の美奈子が、客の板橋香澄から事務職だという弟を紹介され、電話で話すようになる。
路上のテーブルの上の箱に100円を入れて「今、こんな気分です」などと言うと、パソコンから曲の一部がながれ、客は愉快になる。曲は斉藤なにがしというミュージシャンの作品であることから、このサービスをする人を斉藤さんと呼ぶようになった。
時あたかも、ヘビー級ボクサーのウィンストン小野が世界戦に挑戦する。
斉藤和義の過去の曲からいくつか歌詞が引用される。
「ドクメンタ」
10年前、自動車運転免許の更新のギリギリの日に藤間はある女性に視力検査のところで眼鏡を貸した。5年後、またその無精な女性に会い、ちっとも記帳しない妻と大喧嘩した夫が家を出たことを聞かされる。さらに5年後に会った女性は、記帳したら、百円だけ入金がいくつかあって、その振込元は・・・。
「ルックスライク」
ファミレスでアルバイトの笹塚朱美がしつこく苦情を言い続ける高齢の客に謝っていると、傍らにいた男が「あの、こちらの方がどなたの娘さんかご存知の上で、そういう風に言ってらっしゃるんですか?」「いえ、あの人の娘さんにそんな風に強く言うなんて、命しらずだな、と思いまして」と言った。
20年近く経って、明美はあのセリフを使うチャンスを得た。
「メイクアップ」
結衣を高校時代にいじめていた小久保亜季に、イニシアチブを握る立場で再会する。昔の彼女だと気づかない彼女に結衣は・・・。
「ナハトムジーク」
いじめられたいた中学生を佐藤が助ける。中学生はボクシングヘビー級の元チャンピオンのウィンストン小野のラウンドボーイをして、やがて世界で活躍するモデルになる。
初出
アイネクライネ:「パピルス」2007年4月号、シンガーソングライター斉藤和義から『出会い』にあたる曲の作詞を頼まれた。恋愛物には興味がなかったがファンの斎藤からの依頼なので、「詞は書けないけど、小説なら」とこの短編を書いた。斉藤はその短編を原案にして「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」を作曲した。
ライトヘビー:前掲の曲の斉藤和義シングル「君は僕のなにを好きになったんだろう」初回限定版の付録用の書き下ろし。
ドクメンタ:「GENERAL.」2011年春号
ルックスライク:「パピルス」2013年2月号
メイクアップ:「パピルス」2014年2月号
ナハトムジーク:書下ろし
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
殺し屋、犯罪者、とんでもない人物が登場しない伊坂作品も珍しい。伊坂さんの、残念ながら恋愛物ではないが、“出会い物“とは珍しい。伊坂ファンには見逃せない作品だ。
ミュージシャン・斉藤和義との、コラボ?に近い形も面白い。
内容は、時代が前に行ったり、後になったりし、人物も絡み合うので、ややこしい。まあ、過去との関係が分からなくても、おもろいのだが。
登場人物(相関図は「伊坂幸太郎さんの本を読む」が詳しい)
佐藤:27歳。マーケットリサーチの会社で働く。一真、由美とは大学の同級生。
織田一真(かずま):佐藤の大学の同級生で、由美の夫。すべてに適当で、変な人。
織田由美:一真の妻。美人。美奈子と高校の同級生。
織田美緒:一真と由美の娘。美人。和人と亜美子は高校の同級生。
美奈子:美容師。香澄は常連客。香澄の弟の学と付き合い・・・。
小野学:美奈子の夫。リングネームは「ウィンストン小野」。
板橋香澄:美奈子の勤める美容院の常連。学の姉。