hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

東野圭吾『ウインクで乾杯』を読む

2017年10月31日 | 読書2

 

東野圭吾著『ウインクで乾杯』(祥伝社文庫ひ3-1、1992年6月1日祥伝社発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

パーティ・コンパニオン小田香子は恐怖のあまり声も出なかった。仕事先のホテルの客室で、同僚牧村絵里が、毒入りビールを飲んで死んでいた。現場は完全な密室、警察は自殺だというが…。やがて絵里の親友由加利が自室で扼殺され、香子にまで見えざる魔の手が迫ってきた…。誰が、なぜ、何のために…。ミステリー界の若き旗手が放つ長編本格推理の傑作。

 

 小田香子(おだ・きょうこ)は玉の輿に乗るため資産家との出会いが多いパーティコンパニオンの仕事に満足している。ようやく見つけた獲物の高見不動産専務の高見俊介と喫茶店で会うようにこぎつけた。しかしその時、同僚のコンパニオン牧村絵里が遺体で発見された。密室状態のホテルの一室で、青酸化合物を飲んで死亡していた。警察は自殺と判断するが、刑事の芝田は不審を持つ。

 さらに、絵里の親友の由香利が自宅マンションで、扼殺された。

 

 この作品は1988年10月祥伝社ノン・ノベルから「香子の夢」として刊行。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 東野さんのごく前期の作品なので人間ドラマとしての深みはない。ただ、何が何でも玉の輿を目指す軽薄なコンパニオンと、偶然隣人になった、冴えないながら仕事にこだわりを見せる担当刑事との間に弾むコミカルな会話がおもろい。

 この頃から東野さんの文章は読みやすく、とくに深みがないこの作品はどんどん読み進めてしまう。それもまた良しだ。

 

 密室物だが、トリックは平凡で本格的謎解きには程遠い。自殺した伊瀬が伝えようとしたメッセージが、とても見つけることができない方法で、なぜそんな方法を取ったのか納得できない。

 

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

 

登場人物

 

小田香子(おだ・きょうこ):主人公、パーティコンパニオン「バンビ・バンケット」勤務。24歳。

牧村絵里:「バンビ・バンケット」勤務。ホテルで青酸カリの中毒死体で発見。長身で美人、英会話が得意。

丸本久雄:「バンビ・バンケット」の社長。37歳、独身。

江崎洋子:「バンビ・バンケット」の古参のチーフコンパニオン。

米沢:「バンビ・バンケット」の営業社員。

浅岡綾子:「バンビ・バンケット」勤務

真野由香利:フリーのパーティコンパニオン、絵里の親友。エキゾチックな美人で長身。

角野(すみの)文江:フリーのパーティコンパニオン。

 

高見雄太郎:高見不動産の元社長。実家のある名古屋で伊瀬耕一により殺害。

高見礼子:雄太郎の一人娘。

高見康司:雄太郎の実弟。兄の没後、高見不動産の社長に就任。

高見俊介:康司の息子。高見不動産の専務。30代。

 

西原正夫:日本全国に支店を持つ宝石店「華屋」の社長。

西原昭一:正夫の長男。華屋の副社長。40代半ば。

西原健三:正夫の三男。馬鹿息子との評判。

佐竹:健三の黒子。鋭い目つき。

 

芝田:警視庁捜査一課の刑事。30歳前後で、背が高くて色黒。香子の住むマンションの隣人。

直井:警視庁捜査一課の刑事。芝田より年上で、妻子持ち。

坂口:警視庁捜査一課の係長。あだ名は「豆狸」。

松谷:警視庁捜査一課の警部。芝田・直井の上司。

加藤:築地警察署の刑事。

 

牧村規之:牧村家の長男。絵里の兄。

伊瀬耕一:画家。名古屋時代の絵里の恋人。3年前に高見雄太郎を殺害して自殺。

戸倉:クイーンホテルの支配人

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東野圭吾『嘘をもうひとつだけ』を読む

2017年10月29日 | 読書2

 

 東野圭吾著『嘘をもうひとつだけ』(講談社文庫 ひ17-24、2003年2月15日講談社発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに一人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが…。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。

 

 5編からなる短編集

 

嘘をもうひとつだけ

 弓削バレエ団の事務員で1年前まではダンサーだった早川弘子がトウシューズを履いて7階の自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は、状況から自殺として処理される方向に向かっていた。だが、加賀刑事はこの事件を元プリマバレリーナで事務局長、早川と同じマンションの斜め上に住む寺西美千代による他殺だと考えていた。加賀刑事は彼女に罠を掛け、もうひとつだけ嘘をつかせる。

 真田(演出家)、寺西智也(作者・演出家、美千代の夫(故人))

 

冷たい灼熱

 田沼洋次の自宅で彼の妻・美枝子が殺され、一歳になる息子の裕太が行方不明となった。部屋は荒らされ、通帳などがなくなっていることから、犯人は強盗目的で部屋に侵入、美枝子を殺害し、裕太を連れ去ったかに思われた。だが、加賀刑事は、美枝子殺害と裕太の行方不明の予想外の真実を暴いていく。

 

2の希望

 楠木真智子は5年前に離婚し、11歳の理砂を育てている。真智子の自宅マンションで恋人の毛利が殺害された。部屋は荒らされ、強盗目的と思われたが、細かい矛盾を見つけた加賀刑事に追及は執拗で厳しい。耐え切れなくなったときの真智子の「第2の希望」は自供だったのだが、それさえ・・・

 

狂った計算

 坂上奈央子の夫・隆正が交通事故で亡くなった。同じ日、坂上夫妻の自宅を建てた建築士・中瀬も行方不明になる。突然の不幸に見舞われた奈央子に加賀刑事は無遠慮に迫っていく。穏やかでない奈央子に対し加賀は水鉄砲で罠を仕掛ける。

 

友の助言

 加賀刑事の友人・荻原が交通事故にあった。荻原は、相談事のために加賀刑事に会いに行く途中で、居眠り運転をして交通事故に遭ったのだ。加賀は不審に思い、真相を調べるが、荻原は居眠り運転だと主張する。

 

 

2000年4月講談社より単行本として刊行

初出:「嘘をもうひとつだけ」は「イン・ポケット」1999年5月号、他は「小説現代」1996年~1999年

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 加賀恭一郎シリーズは、犯罪の影の人間ドラマに深みがあり、加賀のやさしさがじっくり光る。しかし、本作品は短編小説集で、謎解きに主眼が置かれ、その分、人間の掘り下げが十分でない。

 

 意外性を持たせるため、被害者/遺族が実は何らかの形で犯行に関わっているケースが多い。その場合、加賀の被害者へのしつこい質問がいやらしい。質問された者はそのたびにドキドキして焦り、十分注意しながらも加賀の罠に陥る。「いやな奴」と、おもわず殺人者の身になって思っている自分に気がつく。

 

「冷たい灼熱」は殺人が三重になっており、複雑で思い掛けない結末だった。美枝子は浮気しているのだと思って読み進めたのだが、それではなぜ赤ん坊が死んでいるのかがわからなかった。

 

 

以下、メモ

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

 

 

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東野圭吾『悪意』を読む

2017年10月27日 | 読書2

 

 東野圭吾著『悪意』(講談社文庫ひ17-22、2001年1月講談社発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

人気作家・日高邦彦が仕事場で殺された。第一発見者は、妻の理恵と被害者の幼なじみである野々口修。犯行現場に赴いた刑事・加賀恭一郎の推理、逮捕された犯人が決して語らない動機とは。人はなぜ、人を殺すのか。超一流のフー&ホワイダニットによってミステリの本質を深く掘り下げた東野文学の最高峰。

 

 各章は、野々口修による手記、加賀恭一郎の記録と、交互に手記と記録/独白等が続く。

 

 犯行現場で、加賀刑事は第一発見者の野々口に会って驚く。彼は、かつて加賀が教師をしていた中学校の同僚教師であった。加賀刑事は、野々口が事件に関しまとめた手記を読ましてもらう。

 この章で加賀が教師を辞めるに至ったいじめ事件の経緯も語られる。

 

 加賀は、実は野々口が犯人ではないかと推理し、追及すると野々口は殺人を自供するに至るのだが、なぜかその動機について語ろうとしない。やがて、加賀は次々と犯行動機につながる事実を見つけていく。野々口は日高のゴーストライターにされて、作家への夢と愛する人を失ったのだった。

 

 それでもなにか釈然としない加賀は小学生時代の野々口と日高の実状を調べ、野々口が日高殺害に至った“悪意”が何なのか、真実はどうなのか、解明へこぎつける。

 

 

 本作品は、1996年9月に双葉社より単行本として、2000年1月に講談社ノベルスとして刊行。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 テーマが犯人探しではなく、動機探しという(私にとっては)新しさがある。東野さんは膨大な量のミステリを書いているが、常に新しい試みに挑戦しているのが、あきないところだ。

 小学生のときの友人関係が徐々に明らかになるが、じめっ子、いじめられっ子、助けた子のそれぞれの思うところ、感情は単純なものではない。そして、その後の関係が歪み、恨みを晴らす陰険な計画を長期に少しずつ実行するなど、徹底的にいじけてしまう。

 

 

 

以下、ネタバレなので、白字で表す。

 話が野々口の手記から始まり、その中では日高はワルで、自分は被害者として描かれているので、読者はスタートでそう刷り込まれやすい。手記であるからには、その内容は本人に都合の良いように書かれていて、必ずしも真実とはかぎらない。

野々口さん、あなたは長い時間と手間をかけて、動機を作ったのです。日高邦彦さんを殺害するにふさわしい動機をね。

 

 

登場人物

加賀恭一郎:以前中学の社会科教師だった。

日高邦彦:被害者。売れっ子の小説家。

野々口修:日高の幼馴染み。児童向けの小説家。元国語教師で加賀の教師時代の先輩。

藤尾正哉:故人。日高と野々口の幼馴染でワルの元締め。日高の作品「禁猟地」のモデルとなった人物。

藤尾美弥子:正哉の妹。抗議するために度々日高に会いに来ていた。

日高初美:日高の元妻。交通事故により他界。

篠田弓枝:初美の母親。横浜に夫と住んでいる。

長野静子:同じ職場だった初美の友人。

日高理恵:日高邦彦の再婚相手。先月入籍。

林田順一、新田(増岡)治美、松島行男、高橋順次、三谷宏一、中塚昭夫:野々口と日高の小学校の同級生

円谷雅俊:野々口と日高の小学校の担任

広沢智代:野々口と日高の小学校近くのパン屋のおばさん

辻村平吉:91歳。15年前まで花火師。

 

迫田:警視庁捜査一課の警部。50歳前後。

牧村:警視庁捜査一課の刑事。加賀の後輩。

 

 

 

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト


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東野圭吾『たぶん最後の御挨拶』を読む

2017年10月25日 | 読書2

 

 東野圭吾著『たぶん最後の御挨拶』(2007年1月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 本来自分は小説家で、エッセイは苦手と語る著者の5作目にして最後のエッセイ集。

 いろいろな媒体に書いたエッセイが、「年譜」「自作解説」「映画化」「思い出」など7章に分類されている。

 表紙は猫の毛をアップで撮った写真に著者が描いた猫の絵が押絵されている。イラストの猫も作者の描画。

 

「年譜」

 大阪市生野区の時計メガネ貴金属店で3人姉弟の末っ子として生まれた1958年から2006年まで1年毎のメモ。

 高校生で小峰元の『アルキメデスは手を汚さない』に触発されて約300枚の長編ミステリーを書き上げる。(株)デンソー入社後2年、何も決めずにいきなり書き始め乱歩賞応募する。1983年に結婚、その後離婚。この後の各賞への応募経緯、デビュー後の連続落選記録は赤裸々で面白い。

 

「自作解説」

 デビュー作「放課後」から「使命と魂のリミット」までの60作品に著者自身が数行解説している。

「卒業」:雪月花式のトリックが複雑すぎて、自分でも混乱する。加賀恭一郎が登場するが、シリーズ化するつもりは全くなかった。

「眠りの森」:苦手な分野に挑戦しようとバレイを一年で20回位鑑賞し、趣味の世界が広がった。

 東野さんが常に今までと違う話に挑戦しようと工夫、勉強しているのがよく解る。

 

「映画化など」

「秘密」「変身」「手紙」など映画化された作品の裏話。

 

「思い出」

 子供時代、学生時代、サラリーマン時代の思い出。

御曹司の友人と過ごした超貧乏下宿生活のことなどが書かれている。

 

「好きなもの」、「スポーツ」、「作家の日々」

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

「年譜」など自叙伝風に自分を語る部分も多く、ファン(だけ)は十分楽しめる。

 

「自作解説」は1985年の『放課後』から2006年の『使命と魂のリミット』まで各作品の背景、ねらいなどを数行だが率直に述べていて、これもファンにはありがたい。

 

 上手い人のエッセイは、短い文章の中でもじ~んときたり、なるほどと心から共感、納得したりするものだが、この作品ではほとんどそういうことにはならなかった。多分、東野さんの文章は、事実や光景の説明で、自身の感情表現がほとんどないためだろう。 どんどん面白いミステリーを書いてください!

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

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東野圭吾『秘密』を読む

2017年10月23日 | 読書2

 

 東野圭吾著『秘密』(文春文庫ひ13-1、2001年5月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。解説・広末涼子、皆川博子

 

 自動車部品メーカーの生産工場で働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。 妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。

 その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。 外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

 

単行本:1998年9月文藝春秋刊

 

「『秘密』との日々」

巻末に映画化の様子を当時19歳だった広末涼子が書いている。18歳の藻奈美と40歳の直子の2役だ。直子の部分をまとめて撮影したのだが、直後に逢った友達に

「涼子、どうしたの? おばさんぽいよ」と言われ、大ショック。どうも、しぐさやノリが元に戻っていないらしいのです。皆さん、想像してください。「どっこいしょ」という掛け声なしには動けず、立っているだけで自然と腰に手がいく19歳を・・・。「残り少ない十代なのに!」と本気であせりました。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 無理スジが気になるが、まあ、東野さんの筆力は認めよう。面白くスラスラ読んだ。

 

 妻が娘の体に乗り移るなど、おぞましく感じてしまう。そういう私は変なことを考えているからなのだろうか。

 妻も結局若いツバメを得てルンルンなどと余計なことを考えてしまう私は、ますます変?

 

 最後の妻の決断も、結局今後も両者はまったく没交渉ではないだろうから、変な関係をひきずることになるだろう。

 

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

登場人物

杉田平介:自動車部品メーカー・ビグッドの生産工場の班長、39歳

杉田直子:平介の妻、平介に3年遅れて入社

杉田藻奈美:平介と直子の娘、小学5年生

橋本多恵子:藻奈美の担任教師、ほっそりした美人、20代半ば

容子:直子の姉、婿養子をとり、実家の蕎麦屋を継いでいる。

富雄:容子の夫

三郎:直子の父

山岸:藻奈美の担当医師

遠藤、田島剛、川上クミコ:藻奈美の同級生

相馬春樹:藻奈美の中学の1年上

吉本和子:隣に住む町内の情報屋

梶川幸広:事故を起こしたバスの運転手

梶川征子:幸広の妻

梶川逸美:幸広、征子の娘

根岸典子:梶川幸広の元妻

根岸文也:典子の息子、大学3年生

中尾達夫、拓朗:平介の同僚

小坂:平介の課の課長

藤崎和郎:双子の娘をバス事故で亡す

藤崎:被害者の会の弁護士

 

 

お言葉

 

「班長は長男。係長は父親。課長はじいさん。それより上なんかよくわからんから仏様だな」

 

「本当の父親は俺じゃないほうが幸せなのか、やっぱり父親は俺だってことにしたほうが幸せなのか、どっちだ」

 

昔デートしたとき、直子は昼間待合せてから夜別れるまで一度もトイレに行かなかった。親しくなってから尋ねたら、「我慢してたのよ」

なぜ我慢するのかには、「だって現実的すぎるでしょ」と答えた。

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『シルバー川柳7』を読む

2017年10月21日 | 読書2

 

 公益社団法人全国有料老人ホーム協会、ポプラ社編集部 編集『シルバー川柳7 寝坊して雨戸開ければ人だかり』(2017年9月8日ポプラ社発行)を読んだ。

 

 2001年に社団法人全国有料老人ホーム協会の設立20周年を記念し、高齢社会、高齢者の日々の生活等をテーマとして募集したシルバー川柳も、今年7回目を迎えた。

 

 入選作20句を含む88句が紹介されているが、以下、私の推薦句を5句だけご紹介。

 選定結果は、結果的に入選句だけになってしまった。

 

温かく 迎えてくれるは 便座のみ     圓崎典子・女性・茨城県・53歳・パート

 

紙おむつ 地位も名誉も 吸いとられ    厚木のかずちゃん・男性・神奈川県・73歳・無職

 

付いて来い 言った家内に 付いて行く   山本敦義・男性・愛媛県・83歳・無職

 

ペットロス 主人の時より 号泣し     岩谷紀子・女性・東京都・76歳・主婦

 

できますと 家族を泣かす 認定日     中川潔・男性・福井県・53歳・会社員

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 身につまされ、あるあると笑いながら読める。年取ったらこんな本を眺めながら笑い飛ばすのも良いかも。

 

 句自体はネットの「シルバー川柳」で紹介されている。

この本では、多くが、右側ページに句が、左にユーモラスな絵が描かれており、ゆっくり楽しめる。

 

 

 

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中野信子『サイコパス』を読む

2017年10月19日 | 読書2

 

 

 中野信子著『サイコパス』(文春文庫1094、2016年11月20日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 表紙裏にはこうある。

とんでもない犯罪を平然と遂行する。ウソがバレても、むしろ自分の方が被害者であるかのようにふるまう…。脳科学の急速な進歩により、そんなサイコパスの脳の謎が徐々に明らかになってきた。私たちの脳と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る!

 

サイコパスとは

 平気でウソをつき、不正を働いても平然としていて、罪悪感ゼロ。それどころか、時には自分が被害者であるかのようにふるまう。

 残虐な殺人や詐欺事件を冷静沈着に実行する。他人を巧みに利用し、人の痛みを感じない。
 外見はクールで魅力的。会話も巧みで、評判も良い場合が多い。

 

 アメリカでは全人口の4%。明確に定義できないし、境界の人もいるが、おおよそ100人に一人。カナダの刑務所にいる受刑者の平均20%がサイコパスというデータもある。

 

 サイコパスと一般人のIQの平均は変わらない。

 

 サイコパスは周囲の人間が自分に敵意を持っていると認識していて、だからこそ彼らも敵意を持って対抗している。

 

「道徳ジレンマ」の実験

 村に殺人鬼が来たので、みんなで隠れていた。赤ん坊が泣き始めた。ほとんどの人は「なんとか声が漏れないように工夫する」と答えるが、サイコパスは迷わず「絞め殺す」と答える。

 

 

サイコパスと脳

 サイコパスは偏桃体の活動が低く、恐怖や不安など動物が本来持っている基本的情動の働きが弱い。加えて、前頭前皮質の活動が低く、恐怖や罰から社会的な文脈を学習して痛みや罪、恥の意識を覚えることができない。

 

勝ち組と負け組

 サイコパスには、成功して勝ち組と、捕まりやすい負け組がいる。

 負け組は、ためらいなく犯罪をおかしていまうので悪事が発覚しやすい。

 勝ち組は、他人をうまく利用して生き延び、容易に本性を見せず、私たちの身近にもいる。

(金持ち、高学歴、社会的地位が高い人ほど、ルールを守らず反倫理的振る舞いをするとの実験結果がある)

 

日本とサイコパス

 日本の国土面積は全世界の0.25%しかないが、自然災害の被害総額では全世界の約15~20%を占める。日本では集団での協力体制が強く求められ、サイコパスは育ちにくく、生き残りにくい。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 解説本なら、もっとストレートの自分の見解を述べて欲しい。

 この本では新しい章節は論文の引用で始まる。論文の引用により成り立っている本だ。そうではなく、まず著者自身の考えで筋道、論拠を述べ、必要なところに論文の引用をして欲しい。

 

 サイコパスの歴史や、脳内の各器官の働きなどの説明が多い。そういう人も多いと思うが、私にも興味がなく、飛ばし読みした。

 

 

中野信子(なかの・のぶこ)

脳科学者。2013年から東日本国際大学客員教授。

1998年東京大学工学部応用化学科卒業後、東京大学大学院工学系研究科修士課程

2004年東京大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了

2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士号取得。
2008年から2010年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(NeuroSpin。高磁場MRI研究センター)に博士研究員として勤務。

 

 

以下、メモ

 

 サイコパスは相手の感情は理解できるのだが、相手の気持ちに共感することができない。

 

 サイコパスは恐怖を感じないからこそ、合理的選択ができる。したがって、経営者層や外科医、政治家にサイコパシー傾向の高い人が多い。しかし、恐怖を感じないため、ハイリスク、ハイリターンを好む危険もある。

 

 

 サイコパス疑惑のある歴史上の人物に、著者は織田信長、毛沢東、ピョートル大帝、マザーテレサを挙げている。

 別のインタビューでは、トランプ大統領もサイコパスかもしれないと言っていたようだ。

 

 

 

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新保信長『字が汚い!』を読む

2017年10月17日 | 読書2

 

 

 新保信長著『字が汚い!』(2017年4月15日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 表紙裏にはこうある。

字の汚さには定評のあるコラムニストの石原壮一郎氏、

女子高生みたいな字を書くゲッツ板谷氏、

デッサン力で字を書く画家の山口晃氏、

手書き文字を装丁に使うデザイナーの寄藤文平氏らに話を聞き、

作家や著名人の文字を検証し、ペン字練習帳で練習し、

ペン字教室にも通った。その結果、

著者の字はどう変わったのか…!?

 

 著者は、『30日できれいな字が書けるペン習字練習帳』、『かんたん!100字できれいになるボールペン字練習帳』、『まっすぐな線が引ければ字はうまくなる』、『練習しないで、字がうまくなる!』でみっちり練習した。さらにペン字教室にも通った。

 結果は、丁寧に書かなければ字は汚くなり、文全体のバランスをとらないとおかしくなるということだけ(極論)。ただし、今は筆記用具も格段に進歩していて弘法でない人は筆を選ぶ必要があるというヒントを得た。

 

 さらに、「字は人を表すか?」「字にも流行があるのか?」『「うまい字」より「味のある字」をめざせ』と続く。

 

 

新保信長(しんぼ・のぶなが)
1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。阪神タイガースファン。

『SPA!』などの雑誌に携わりつつ、単行本やムックの編集・執筆を手がける。

著書に『笑う入試問題』(角川書店)、『東大生はなぜ「一応、東大です」と言うのか?』(アスペクト)、『国歌斉唱♪ 「君が代」と世界の国歌はどう違う?』(河出書房新社)、編書に『できるかな』シリーズ(西原理恵子/扶桑社)、文藝別冊『総特集いしいひさいち』(河出書房新社)などがある。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 私はもともときれいに字を書くという気持ちがなく、字は読めればよく、できれば読みやすければよいと思っている。その結果、なんとか読める字を書いている。

 

 手書きで文字を書く機会は現代ではどれほどあるだろうか。各種申込書への住所・氏名の記入は手書きだが、それほど気を使うものでもない。結婚式や法事の受付での記帳、祝儀袋・香典袋への記銘などは、年寄りなのにあまりに子供っぽい字だと困るので、丁寧に楷書的に書けば、なんとかやり過ごせる。

 

 この本では、遺言書をそれなりの字で書きたいとあった。確かに、そう思う。今さら遺言書のために練習する気にもならないので丁寧に、全体のバランスを保ち、曲がらずに書く以外ない。ほとんど遺産もないのに、達筆ではかえって空しいのではと、負け惜しみで思う。

 

 この本は、かなり冗長だが、写真例の悪筆ぶりを見て、笑え、これなら私の方がまだましだと、安心できる。著者の奮闘にも拘わらず、結果として、きれいな字とはほどとおく、丁寧に書いているとはわかるが、バランスが悪いところが散見できる。簡単には上手くならない、センスが問題なのだということが分かった。

 

 

 

 

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雑誌『文学ムック たべるのがおそい vol.3』(今村夏子「白いセーター」)を読む

2017年10月15日 | 読書2

 

 西崎憲編集『文学ムック たべるのがおそい vol.3』(2017年4月15日書肆侃侃房発行)というか、今村夏子の「白いセーター」を読んだ。

 

こちらあみ子』を書いた超寡作作家の今村夏子の作品「白いセーター」が載っているというので読んだ。なにしろ、三島賞受賞のときに、これからの抱負を問われ、
「そういうのはないです。今後なにが書きたいとか、全然思わないです」 と答えた作家だ。

『文学ムック たべるのがおそい vol.1』にも、今村夏子は「あひる」を発表している。

 

 小川洋子の「巻頭エッセイ」、特集「Retold漱石・鏡花・白秋」、短歌、その他の創作などが掲載されているのだが、パラパラ眺めただけなので、略。

 

 ゆみ子は婚約者・伸樹さんから去年のクリスマスにプレゼントされた白いセーターを着て、クリスマスイブにお好み焼き屋へ行くのを楽しみにしていた。ところが伸樹の姉・ともかから頼まれて、クリスマスイブに4人の子供を預かることになってしまう。子供たちとトラブルが起こり、それを聞いた伸樹は機嫌が悪く、心がざわついたゆみ子は家を出る。結局、「ますだ」で伸樹と一緒になり、帰り道、ゆみ子が「離婚しますか」と聞くと、伸樹さんは「結婚しないと離婚できないよ」と言った。

 

 

今村夏子の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

 

 とくに何もないといえば何もない小説だ。大きな出来事もなく、修羅場も登場しないし、哲学的な深い話も出てこない。大半の人はつまらないと思うだろう。

 

 自分の世界をしっかり持っている作家である今村夏子の作品は、静かで普通の大人しい生活のなかで、何とも言えない寂寞感が漂い始め、どことなく心のざわつきが広がっていく。やがて、不器用な主人公は自分を追いつめていき、どこか歪んだ生き方に陥っていく。

 ただ、本作品では、慎ましく、のんびりした夫婦の日常で、夫の伸樹のふところの豊さと、ゆみ子が夫を大好きなことで、歪みが広がらず、暖かさが残っているので救われる。

 

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『図説 東京裁判』を読む

2017年10月13日 | 読書2

 

 

 編者:太平洋戦争研究会、著者:平塚柾緒『図説 東京裁判』(2002年7月30日河出書房新社発行)を読んだ。

 

 満州事変、太平洋戦争の日本の政治・軍事指導者の「戦争責任」を裁いた極東国際軍事裁判。

 何が裁かれ、暴露され、誰が裁いたのか東京裁判の全経過を明らかにする。

 

 東京裁判では、ナチスを対象としたニュルンベルク裁判を下敷きにし、(1)「通例の戦争犯罪」に、(2)「人道に対する罪」と(3)「平和に対する罪」を加え、個人責任を問うて、裁いた。

 

 

 裁く側、裁かれる側、双方が天皇の責任に話が及ぶことを絶対に避けるため、おかしな運営を強引に進めた。

 

 東京裁判は、国際法上の「人道に対する罪」に問われるべき東京大空襲、広島・長崎への原爆投下など「連合軍の犯罪」はいっさい審理の対象にされないという「勝者の裁き」だった。

 

 連合国軍の情報不足で、被告の選定にも問題が多かった。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 東京裁判の一連の流れを客観的にとらえていて、写真も多く、初心者にも分かりやすい。事実を丹念に追っており、裁判に批判的立場の人にも、一定の評価を与える人にも、薦められる。

 

 日本人は戦争をきちんと反省せず、責任者を裁かなかった。東京裁判は、いろいろ意見はあっても、結果的に国家間で責任追及は終わった。そして、サンフランシスコ条約でもう一度、確認した。

 

 圧倒的に負けそうな戦争を始め、多くの人命を失い、甚大な被害を被った。十分な情報を与えられていない国民が後押ししたとはいえ、指導者は責任を取るべきだった。戦勝国によるほぼ一方的な裁判で、問題も多かったが、日本人にはおそらくできなかった裁きを行ったことは評価できる。この裁判で国民が初めて知った事実も多い。

 

 

 あとがきで著者は述べている。確かに東京裁判には問題があったし、外地で行われた戦犯裁判(BC級)のかなには、間違いが少なくないが、だからと言って裁判そのものを全否定できず、戦後の日本人の大きな財産となったのだ。

 私は、・・・国のため、親兄妹や妻子のためと思って戦い、死んでいった人たち――に頭を下げ、(靖国神社に)参拝することには何の違和感もない。しかし、わが国土とアジア諸国を廃墟の巷と化した責任ある軍人や政治家たちに頭を下げることには、大いに違和感を覚える。

 

 

 

太平洋戦争研究会

河出書房新社の図説シリーズ「ふくろうの本」で『太平洋戦争』『満州帝国』などを編集。代表は平塚柾緒。

 

平塚柾緒(ひらつか・まさお)

1937年茨城県生まれ。出版プロダクション「文殊社」代表。太平洋戦争研究会、近現代フォトライブラリー主宰。

 

 

 

 首席検事はアメリカのジョセフ・キーナン、裁判長はオーストラリアのウィリアム・ウェッブ。判事団は米・英・ソ・中・豪・仏・蘭・印・ニュージランド・カナダ・フィリピンから各1名。日本弁護団は団長が鵜沢総明、副団長は清瀬一郎だった。

 A級戦犯になったのは、28名(荒木貞夫、土肥原賢二、橋本欣五郎、畑俊六、平沼騏一郎、広田弘毅、星野直樹、板垣征四郎、賀屋興宣、木戸幸一、木村兵太郎、小磯国昭、松井石根、松岡洋右、南次郎、武藤章、永野修身、岡敬純、大川周明、大島浩、佐藤賢了、重光葵、嶋田繁太郎、白鳥敏夫、鈴木貞一、東郷茂徳、東条英機、梅津美治郎)。裁判中に、松岡、永野が死去し、大川は精神異常で除外され、全員有罪で、7名(土肥原、広田、板垣、木村、松井、武藤、東条)が絞首刑になった。

 逮捕前に自決した人は、杉山元元帥、小泉親彦陸軍軍医中将、橋田邦彦元文相、本庄茂大将、近衛文麿。

 

 

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栗原康『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』を読む

2017年10月11日 | 読書2

 栗原康著『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(2016年3月23日岩波書店発行)を読んだ。

 

 表紙裏にはこうある。

筆一本を武器に、結婚制度や社会道徳と対決した伊藤野枝。

彼女が生涯をかけて燃やそうとしたものは何なのか。

ほとばしる情熱、躍動する文体で迫る、人間・野枝。

その思想を生きることは、私たちにもできるはず。

 

 

 野枝は東京の高等女学校を卒業後、いちど地元で結婚するが、いやになってすぐにとびだしてしまう。・・・その男と田舎で一生をおえるのがいやになったから逃げたのである。

 そのあと東京で、在学中に好きだった女学校の教師・ダダイストの辻潤と結婚し、子どもも二人もうける。しかし、大杉栄が好きになって、自由恋愛を主張する大杉の家に、二人の女性を弾き飛ばして転がり込む。

 

 平塚雷鳥の始めた青鞜社に入り、学び、激烈な論文を書いた。らいてうが5歳下のイケメン奥村博史と裕福な実家を出て同棲し、編集権を野枝に譲った。野枝は、「無規則、無方針、無主張無主義」方針を出し、貞操論争、堕胎論争、廃娼論争を開始した。

 

 野枝は大杉の下宿に飛び込んだが、二人とも仕事を干されて金がない。大杉は内務大臣の後藤新平を訪ね、「あんたら内務省のせいで、オレの本が発禁になっている、カネがない、だからあんたにカネをもらいにきたんだ」と言う。さすが懐が深い後藤新平、3400円(現100万円ほど)をくれた。

 

 大杉は日陰茶屋に野枝を連れて行き、野枝が帰ったあとで、乗り込んだ神近市子が大杉を刺した。この事件はマスコミだけでなく社会主義者たちからもバッシングを受けた。

 

 関東大震災後の混乱の中、大杉38歳、野枝28歳、甥の宗一6歳は甘粕正彦大尉に憲兵隊本部へ連れ込まれて惨殺された。

 

 

 野枝は、学ぶことに、食べることに、恋に、性に、生きることすべてに、わがままであった。欲望全開だ。友人でも親せきでも、たよれるものはなんでもたよって、臆面もなく好きなことをやってしまう。わがまま上等、習俗打破、女を奴隷にする結婚なんかクソくらえ。家庭も国家もいらない。非国民上等。

 そして、混乱の時代を駆け抜けていった。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 著者の個人感情を直接書き散らかす文章により、伊藤野枝のハチャメチャ、猛烈ぶりを実感できる。大杉や辻の生き方も自由奔放だが、いい加減で、猛烈ではない。

 

 本書の文体は特徴的で、事実を述べた最後に著者の感情を口語体で追加してある。例えば、「・・・。ひどいものだ。」、「・・・。チキショウ。」

 事実調べはきちんとなされて真面目な本なのだが、段落の最後につけくわえる言葉がおもろい。「そうだ、かましたれ」とは、まるで自費出版の自己満足本のようだ。


 著者のあとがきは、こう始まる。

この本をかいているあいだに、かの女ができた。三年ぶりだ。まだつきあいたてということもあって、ひたすら愛欲にふけっている。(当時36歳)

  

 

伊藤野枝(いとう・のえ)[1895-1923]

大正時代のアナキスト.ウーマンリブの元祖ともいわれる.

福岡県に生まれ、14歳で一念発起し上京。上野高等女学校に進学。

卒業後、地元で結婚するが、17歳で婚家を出奔し女学校の恩師であったダダイストの辻潤と暮らしはじめる。

雑誌『青鞜』編集部で働き、20歳で平塚らいてうの次の編集長に。

セックス,中絶,売買春といったテーマから,人間の尊厳や生き方を問いなおす記事を書く(「貞操論争」「堕胎論争」「廃娼論争」).辻とのあいだに2人の子どもをもうける.

 

 大杉栄と出会い,21歳で大杉・妻・恋人との四角関係に。大杉が野枝に傾くなか,恋人・神近市子が大杉を刺す(葉山日蔭茶屋事件。事件後、大杉との間に5人の子を産み育てながら、『青鞜』休刊後も評論や翻訳など旺盛に執筆活動。関東大震災の混乱に乗じた甘粕正彦ひきいる憲兵隊に大杉・甥とともに虐殺される(甘粕事件)。享年28歳.

 

瀬戸内静寂の『美は乱調にあり 伊藤野枝と大杉栄』が有名

 

 

栗原康(くりはら・やすし)

1979年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。

著書『G8サミット体制とはなにか』、『学生に賃金を』、『大杉栄伝――永遠のアナキズム』、『はたらかないで,たらふく食べたい――「生の負債」からの解放宣言』、『現代暴力論――「あばれる力」を取り戻す』

ビール,ドラマ,詩吟,長渕剛が好き。

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長嶋有『もう生れたくない』を読む

2017年10月09日 | 読書2

 

 長嶋有著『もう生れたくない』(2017年6月28日講談社発行)を読んだ。

 

 講談社BOOK倶楽部の宣伝文句はこうだ。

「誰にも言わないままの言葉をいつか私はしたためよう。亡くなった人に、友達だと思っている人に。ネットに載せて読めるようなのではなくて、そう、空母の中の郵便局にたまる手紙のように」――。
マンモス大学の診療室に勤める春菜、ゲームオタクのシングルマザー・美里、謎めいた美人清掃員の神子。震災の年の夏、「偶然の訃報」でつながった彼女たちの運命が動き始める――。 スティーブ・ジョブズ、元XJAPANのTAIJIなど有名人から無名の一般人、そして身近な家族まで、数々の「訃報」を登場人物たちはどこで、どんなふうに受けとったのか。誰もが死とともにある日常を通してかけがえのない生の光を伝える、芥川・谷崎賞作家の新境地傑作小説!

 

 章は、2011年7月、2012年10月、2013年6月、2014年4月の4つの時期から成っていて、そこに実際の有名人(実名)の訃報15件と登場人物2人の訃報が盛り込まれ、他の登場人物たちの反応、というよりほぼ無反応な様子が描かれる。

 

 

 首藤春奈は、理髪店や郵便局があるA大学の学内診療室の受付だ。新聞でTAIJI死亡の新聞記事を見て、「誰だっけ、確かX JAPANの人だ」と思う。夫からメールが来て、返事を打つ。

 総務部の小波美里は、元夫のラジオアナウンサー・名村宏と遊んだセガサターンのX JAPANのゲームで最初にあったのがTAIJIだったような気がした。

 清掃員の根津神子(みこ)は学食で、大雪山系のトラウシ山登山者8名が亡くなって三回忌の新聞記事を見る。

 

 A大学で働く春奈、美里と、根津神子が日常の平凡な生活を送る中に有名人の訃報が入る。

 その他、学生同士で同棲している安藤素成夫とレンタルビデオ屋でアルバイトする小野遊里奈、同じ学生でバイトの美少女・蕗山フキ子、女たらしの「現代サブカルチャー論」の非常勤講師の布田利光、美里と宏の息子・紬(つむぎ)などが登場する。

 

初出:「群像」2017年1月号掲載作を加筆改稿。

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

 ゆるい、ゆるい話で、私の感性には響かない。おまけに、私には縁のないゲームや、レンタル映画の話が続き、やっとのことで読み終えた。

 

 実在の人の訃報が実名で挿入されるのも変わっているが、そのときの社会の反応や、登場人物の反応もほとんど描かれず、何のための挿入か分からない。これが新規性??

 

「僕の小説には固有名詞がよく出てくると指摘されますが、実際の日常生活が固有名詞だらけだから自然とそうなっているだけ。それが僕の特徴というならば、実際の有名人の訃報を連発する書き方は僕の独壇場だなと思って(笑)」と著者は「小説丸 第108回」で語っている

 

 

 

長嶋有(ながしま・ゆう)
1972年埼玉県草加市生れ。北海道育ち。東洋大学第2文学部国文学科卒業。
シャチハタ勤務後、
2001年「サイドカーに犬」で文学界新人賞受賞、芥川賞候補
2002年「猛スピードで母は」で芥川賞受賞
2007年『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞受賞
2016年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞受賞
その他、『ジャージの二人』、エッセイ『安全な妄想』など
ネット・コラムニスト「ブルボン小林」としても活動

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セルジュ & ジェーン でランチ

2017年10月07日 | 食べ物

 

SERGE et JANE セルジュ&ジェーンに出かけたが休みだったと9月27日の「ラ・プルミエ・プゥッスでランチ」で報告した。

一昨日10月5日、ついに(?)入ることができた。

店内には、ゲンスブール美術館を自称するようにセルジュ・ゲンスブールやジェーン・バーキン、娘のシャルロット・ゲンズブールの写真や、フランスの小物がいっぱい(参照)。
写真はないが、とくにトイレは必見。


注文は、私がマルシェランチ(¥2200)で、相方がサービスランチ(\1500)

私の前菜・スープの6種盛り合わせ

相方の本日の料理(豚肉のビール煮を選択)・スープ・サラダのワンプレート。
辛口の相方からも美味とのお言葉を頂戴。

私のメインは鶏肉を選択。薄く衣付きで、柔らかく美味。量も私には十分。

私だけデザート付き。フォークとスプーンがおしゃれ。

コーヒーと紅茶のカップには、

"I LOVE Charlotte" とシャルロット・ゲンズブールの名が。


以下、蛇足

「SERGE et JANE」という名前の由来は、当初見たHPには見当たらなかった。

ならばと、この店のFaceBookで見ると、奥さんは外国人風なので、

オーナーシェフの名前が「政治」で奥様が「JANE」かと思った。


ところが、別のHPを見ると、フランスの歌手・音楽プロデューサーのセルジュ・ゲンスブールとパートナーだった女優のジェーン・バーキンにちなむ名前と書いてあった。

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カズオ・イシグロの履歴&既読本リスト

2017年10月06日 | 読書2

 

まずは、大好きなカズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞おめでとうございます。


簡単な履歴と著作

ほぼ全著作を読んでいる(昔なのでブログに書いてない本も多い)。

1954年長崎生まれ。

1960年海洋学者の父親、家族でイギリスへ渡り、英国で育つ。ケント大学で英文学を学んだあと、ミュージシャンをめざすが、イースト・アングリア大学大学院の創作科に入学し、小説を書き始める。やがてソーシャルワーカーとして働きながら短編小説を雑誌に発表する。

1982年「遠い山なみの光(女たちの遠い夏)」で王立文学協会賞

1986年「浮世の画家」でウィットブレッド賞

1989年「日の名残り」でブッカー賞を受賞。

1995年「充たされざる者

2000年「わたしたちが孤児だったころ

2005年「わたしを離さないで」(映画を先に見たため未読)

2009年「夜想曲集-音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

2015年『忘れられた巨人

映画脚本、ジェームス・アイヴォリー監督2005年公開『上海の伯爵夫人』


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FCアージョで再びランチ

2017年10月05日 | 食べ物

9月3日のこのブログ「F.C.アージョでランチ」で初体験の報告をした。

いまいちの点もあり、もう一度挑戦。

店内の段差には、目立つように床に「注意」と書かれ、段には白テープが。


ソフトドリンクを取って、オードブルを選択した。
しかし、食い気に走り、食べてから写真。

私は、アサリのスパゲッティ。

アサリが10個も入っていて、濃厚な味で、結構。


相方は日替わりで、チーズをはさんだハンバーグ

味は、イマイチとか。


帰りにもらった紙をそのまま撮影。

 

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