hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

大栗博司『大栗先生の超弦理論入門』を読む

2013年10月31日 | 読書2

大栗博司著『大栗先生の超弦理論入門 九次元世界にあった究極の理論』(ブルーバックスB-1827、2013年8月講談社発行)を読んだ。

現代物理学の最先端理論、超弦理論(俗には超ひも理論)の第一人者のひとりである大栗さんが、分かりやすく、しかしけしてごまかすことなく現在進歩中のこの理論を説明している。

第1章と第2章では、量子力学や素粒子論についての基礎的な知識を解説。
第3章では、物質の基礎となる素粒子やその間に働く力を、超弦理論ではどのように考えるかを説明。元の「弦理論」がなぜ「超弦理論」になったか、その違いを説明。
第4章では、超弦理論では、空間の次元が九次元に決まる理由を示す。
第5章では、重力や電磁気力など自然界のすべての力に共通する原理「ゲージ原理」、「力の統一原理」を説明。
第6章は、見捨てられていた超弦理論が革命を起こす「第1次超弦理論革命」。
第7章は、著者が超弦理論研究にのめり込んだ経緯。
第8章は、完成度が飛躍的に高まった「第2次超弦理論革命」
第9章は、空間は幻想(3次元空間の場の量子論と9次元空間の超弦理論は等しい)
第10章は、時間は幻想か?

概要、といってもかなり詳しい内容が,">「現代ビジネス」に第1講から第4講まで公開されている。




私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

現代物理学の最先端がわかりやすく説明されている。あまりにもたくみで、本当に理解できてしまったような錯覚に陥るほどだ。
「光は粒子であり、同時に波動」「不確定性原理」など量子論だけでも十分常識を打ち破られるのだが、9次元(時間を入れると10次元)空間、ブラックホールの温度など途方もない世界が、筋道だって説明され、分かったような気にさせられる。しかし、実際には滅茶苦茶高度で複雑そうな数式を、何年も執念深く追及しているのだ。天才たちに、ただただ感嘆するばかりだ。そのお仲間で、いまだ現役の大栗さんが、こんなわかりやすい本を書いてくれたことに感謝。



大栗博司(おおぐり・ひろし)
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て現職。アスペン物理学センター理事。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞などを受賞。アメリカ数学会フェロー。『重力とは何か』、『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、朝日新聞WEBRONZAの執筆や市民講座などで科学アウトリーチにも努めている。



第1章 なぜ「点」ではいけないのか
第2章 もはや問題の先送りはできない
第3章 「弦理論」から「超弦理論」へ
第4章 なぜ九次元なのか
第5章 力の統一原理
第6章 第一次超弦理論革命
第7章 トポロジカルな弦理論
第8章 第二次超弦理論革命
第9章 空間は幻想である
第10章 時間は幻想か
あとがき
さくいん
付録 オイラーの公式



以下、私のメモ

アインシュタインが重力の理論(一般相対性理論)を発表してから約10年後に、ミクロな世界の法則である量子力学が確立される。すると、重力の理論と量子力学の間には深刻な矛盾があることがわかった。それを克服して、両者を統一する理論を建設するために、超弦理論は提案された。

私たちの身の回りにあるすべての物質は、素粒子の標準模型に含まれる17種類の点粒子(=素粒子)の組み合わせでできていると考えられている。17種類の中で最後に存在が確認されたのが、2012年に欧州原子核研究機構(CERN)で発見されたヒッグス粒子。

宇宙には、正体がわからない「暗黒物質」と呼ばれる物質が、標準模型に含まれる物質の5倍以上もある。
アインシュタインの重力理論(一般相対性理論)によると、通常の物質や暗黒物質は宇宙の膨張を減速するように働くはずだ。ところが、2011年のノーベル物理学賞の対象となった遠方の超新星の観測により、膨張は加速していることが発見された。
これは通常の物質や暗黒物質のほかに、宇宙の加速膨張を引き起こす何かがあることを示している。その何かは「暗黒エネルギー」と呼ばれ、やはり標準模型の枠内では説明することができない。

自然界には、重力・電磁気力・強い力・弱い力という四種類の力があることがわかっています。「重力」や「電磁気力」については古くから知られていましたが、20世紀になると、自然界にはあと二つ、「強い力」と「弱い力」という力があることが発見されました。
強い力は、クォークを互いに引きつけあって、陽子や中性子をつくる力です。また、弱い力は、原子核からの放射線の原因となる力です。
標準模型では、電磁気力・強い力・弱い力という三つの力によって起きる現象は説明することができます。ところが、私たちがいちばん身近に感じている力であるはずの重力は、標準模型には含まれていません。電子やクォークなど、質量を持った素粒子の間には重力が働くはずですが、標準模型ではその効果を無視しているのです。
?強い力 > 電磁気力 > 弱い力 > 重力

くりこみ
電磁場において働く力の強さは、距離の二乗に反比例することがわかっています。これをクーロンの法則といいます。電子と電子の間の距離が近ければ近いほど、大きくなるわけです。すると、電磁場の変化を発信した電子自身が、その電磁場から受ける影響はどうなるでしょう。
電子が点だとすると、点には長さも幅もないので、電子から自分自身までの距離はゼロ。クーロンの法則によれば、発信した電子自身が感じる電磁場の強さは、無限大になってしまうのです。電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、何が問題なのでしょうか。ここで重要になるのが、アインシュタインの有名な式、
?E=mc2
です。この式は、エネルギー(E)と質量(m)とは、実は同じものであることを意味しています。たとえば1円玉の質量は1グラムですが、この質量はE=mc2によって、標準家庭約8万世帯の1ヵ月分の消費電力量にも等しいエネルギーに換算することができます。
電磁場を強くすると、そのエネルギーも大きくなります。そして、電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、そこでの電磁場のエネルギーも無限大になります。E=mc2でこのエネルギーを質量に換算すると、これも無限大。これを電子の質量に加えると、電子の質量も無限大になってしまいます。
電磁場のエネルギーを起源とする質量のほかに、電子がもともと持っている固有の質量があると考えます。すると観測される電子の質量は、電磁場のエネルギーを換算した質量と、電子固有の質量の和ということになります。
(観測される電子の質量)=(電磁場のエネルギー)+(電子固有の質量)
電子がどんどん小さくなって点に近づくほど、電磁場のエネルギーは無限大に近づくわけですが、ここで、電子固有の質量をどんどん小さくしてそれと相殺すれば、電子が点であってもかまわないではないか、というのがこのアイデアの骨子でした。
電磁場のエネルギーが無限大に近づくと、あるところで電子固有の質量は「負の値」をとらなければならなくなります。無限大の問題を解消するために質量を負の値にするなどという方便を使うのは、なにやらこじつけのように思われるかもしれません(前頁の図=くりこみ)。実際、暫定的な解決策というべきものでしたが、「くりこみ」と呼ばれるこのアイデアは、20世紀の素粒子物理学の発展に大いに貢献するのです。


要素還元主義
自然界にはマクロからミクロへの階層構造があり、よりミクロな世界の法則ほど基本的なものであると考えられています。マクロな世界の法則は、ミクロな世界の法則から導かれる。この考え方を「要素還元主義」といいます。マクロの世界の法則は、ミクロな世界の近似であるといってもいいでしょう。
くりこみとは、ある階層で生じた無限大の問題を、よりミクロな階層へと「先送り」するものだったのです。


GPSと一般相対性理論
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力の効果で、空間や時間は伸び縮みします。実際、地球の周りを回る人工衛星では地球からの重力が弱いので、時間が速く進みます。スマートフォンやカーナビで使われているGPSは位置の測定に人工衛星からの時報を使っているので、重力による時間の進み・遅れを計算に入れないと、位置を正確に決めることはできません。


事象の地平線
たとえば私たちの地球を、質量をそのままにして圧縮していくと、重力がどんどん強くなります。半径が9ミリメートルになるまで圧縮すると、重力に逆らって地球表面から脱出するために必要な脱出速度は光の速度と等しくなり、さらに圧縮すると光さえ脱出できなくなります。すると地球もブラックホールになるのです。脱出速度が光速になってしまう表面のことを「事象の地平線」といいます。


グラスマン数
同じ数どうしをかけると、答えがゼロになってしまうという不思議な数があるのです。ここで、そのような数をθと書くことにすると、
?θ×θ=0
となってしまうのです。こうした奇妙な性質を持つ数のことを「グラスマン数」と呼びます。
超弦理論では、このグラスマン数も座標に使う超空間という空間を考えます。しかし、なぜ、このような数を持ち出す必要があるのでしょうか。それは、フェルミオンとボゾンの性質の違いのためです。
これに対してグラスマン数は、θ×θ=0のように、一回かけると、もうそれでおしまいです。一つの状態には一つの粒子しか入れないというフェルミオンの性質は、実は、一回かけるとそれで終わりになるというグラスマン数の性質に由来しているのです。
そして、普通の数のほかにグラスマン数も座標として使う超空間では、グラスマン数で示される方向に振動する弦を考えると、そこからフェルミオンが現れるのです。


「超空間」
私たちは、三次元の空間に住んでいると考えてきました。しかし超弦理論は、私たちの空間が普通の空間ではなく、超空間であると予言します。普通の数字で決まる座標のほかに、グラスマン数という不思議な数を座標に使う「余剰次元」が存在すると予言するのです。



超対称性で予言される粒子が発見されると、超弦理論を検証する道も開け、私たちの空間に対する通念も根底から揺さぶられることになるでしょう。


「人間原理」
知的生命体が生まれないような宇宙には、それを観測する者もいない。宇宙は一つではなく物理定数の異なる宇宙がたくさんあって、観測者が存在できる物理定数の宇宙しか観測されないのだ


数理解析研究所の所長だった佐藤幹夫の言
「朝起きたときに、きょう一日数学をやるぞ、と思っているようでは、とてもものにならない。数学を考えながらいつの間にか眠り、朝、目が覚めたときにはすでに数学の世界に入っていなければいけない」


マルダセナの対応を含む重力のホログラフィー原理
重力を含む九次元空間の超弦理論が、重力を含まない三次元空間の場の量子論と同等である。


宇宙の年齢は138億年





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奥田英朗『沈黙の町で』を読む

2013年10月29日 | 読書2

奥田英朗著『沈黙の町で』(2013年2月朝日新聞出版発行)を読んだ。

東京から電車で2時間ほど、人口8万人の地方都市、桑畑市。資産家で大きな呉服店の一人息子である名倉祐一(中2、B組、テニス部)が、校内の木の根元の側溝で、頭部から血を流して死んでいるのが発見された。そして、遺体の背中には一面に無数の内出血の跡があり、名倉がいじめられていたと推定され、事故か、自殺かが問題となった。
部室の屋根には5人の運動靴の足跡が残されていて、屋根から木へ飛び移ることを強要されたと思われた。
警察は傷害容疑で、名倉と同じテニス部の14歳の藤田一輝と坂井瑛介を逮捕し、同じクラスの市川健太と金子修斗を13歳であることから児童相談所へ補導した。

子ども達は友達をかばい、なかなか本当のことを言わない。母親たちは動揺するが、ただただうちの子だけはそんなことしないと信じ込む。学校側は生徒をどうにか守ろうとだけを考え、結局ウロウロと対応が後手に回る。そして、遺族は打ちひしがれる一方で強引な策にでる。
母親たちの「自分の子供しか見えない」ぶりが強く印象に残る。

初出:朝日新聞2011年5月7日~2012年7月12日



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

苛められた少年の死を、多面的に、分厚く語り、読ませる。
加害者の少年たち、親、警察、検事、新聞記者、被害者の親・親族と、語り手が次々と変わるが、読みづらくなく、逆に、それぞれの立場からの語りが、事件を多面的にとらえやすくしている。

死亡した名倉についても、単にかわいそうな被害者として描くのではなく、弱者にはいばり、強者にはへつらい、裏切者としての面を強く描く。確かにこういう男はいるのだが、あまりに悪く書いているので、苛められる方も悪いとのメッセージにとられてしまわないか心配だ。苛められる者をかばったら、かばった者が苛められるようになるという例も多いようなのだから。

それにしても、母親は強引で強く、父親は?
健一の母、恵子が、同じく加害者とされた瑛介の母、百合と電話で話し合い、腹をくくった百合に力をもらう。電話を終えると、浴室から「おーい、タオル」と夫の呑気な声が聞こえる。子供がいなければ、離婚も考えるところだと、恵子は聞こえないふりをする。


市川健太(テニス部)、母恵子、夫茂之/坂井瑛介(テニス部)、母坂井百合
金子修斗(2年B組)/藤田一輝(2年B組)
飯島浩志 国語教師/桑畑警察署刑事 豊川康平、古田刑事課長、橋本英樹検事/高村真央 中央新聞記者



奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。
2002年「邪魔」で大藪春彦賞
2004年「空中ブランコ」で直木賞
2007年「家日和で柴田錬三郎賞
2009年「「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞
その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」など。



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ランチでタルトフランベ

2013年10月28日 | 食べ物
吉祥寺で用を済ませたら15時前。
サンロードから東急への道、元町通りというらしい、へ入ってすぐ右に曲がった細道に見かけない店を見つけた。1年以上前からあるらしいのだが。

「ブラッスリー・エディブル」とある。



「フレンチ&ワイン」とあるので迷ったが、看板にある写真のピザのような「タルトフランベ」を食べてみたくて、店に入った。
昼時を過ぎて、店内はガラガラ。1階より広い2階もある。

ランチを頼んで、まずサラダ。



タルトフランベは、フランス・アルザス地方の郷土料理だそうで、小麦粉の生地にフレッシュチーズなどをのせたもの。

シャンパーニュ 980円。大きさはA5版くらい。



アルザス 890円



350円なりを追加したので、デザートとコーヒーor紅茶付き。



タルトフランベは、ピザほど脂ぎっていないので、さっぱりしているが、その分インパクトに欠ける。
あっさりしたアルザスよりシャンパーニュの方がおいしかった。こんどは、もっと高いものに挑戦してみよう。










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サロン・ド・テ・クローバーでランチ

2013年10月27日 | 食べ物
吉祥寺東急百貨店で買物して、ちょっと早いランチに。
4階のクローバーは、44席、ランチ1000円、夜も1100円という喫茶店と言ってもいい店だ。



2006年亡くなった作家の吉村昭さんが、三鷹の自宅から散歩にでて、ここで休憩してから帰るのがお決まりのコースだったと妻で作家の津村節子さんが何かに書いていた。

注文したのは、スープと、



これ。



味はまあまあで、1000円なら安い。12時前で空いていたし。

でも、吉村さん、なんで4階の婦人服売り場なのだろう。確か、落ち着けるからと、この店が気に入っていたという記憶が。

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寺山修司『さかさま文学史 黒髪編』を読む

2013年10月26日 | 読書2
寺山修司著『さかさま文学史 黒髪編』(角川文庫4159、1979年12月角川書店発行)を読んだ。

日本文学史に残る芸術家の恋愛エピソード19短編。ドラマ仕立てで人間模様が浮かび上がり、寺山さんが心理、拝啓を冷たく分析する。

女優・泰子(中原中也)
女優長谷川泰子と知り合った中也は、大正13年4月同棲し、ともに上京したが、翌年11月には泰子は中也の友人の小林秀雄の許に去った。
中也と小林にとって事件だったものが、泰子にとっては、ただの転居にすぎなかった、・・・。


(といっても、この日本文学史に残るロマンスが中也16歳~18歳、泰子19歳~21歳と知ると、昔の人は早熟とはいえ、高校生の付いたり離れたりに過ぎなかったんじゃないかと思ってしまう)

芸妓・小奴(石川啄木)
妻子を小樽へ残して単身釧路へ赴任していた啄木23歳は、小奴19歳と知り合う。
いつも妻を無視し、一段低い存在として扱い、そのくせ妻に家出されると泣かんばかりに探しまわる、見栄っぱりで幼児性の強い男。それが天才歌人石川啄木の実像であった。・・・
小奴は、啄木をゆるすことのできた、たった一人の女であった。


姪・こま子(島崎藤村)
藤村は「恋の火にもゆるたましひ」と歌ったが、
ただ若い姪の肉体をもてあそび、手に負えなくなって、それを放り出してフランスへ逃げたというだけのことではないか。それにくらべて、こま子の藤村への愛情は、単純で、一途であった。
・・・
藤村の場合、問われるべき科は、「なぜ姪を愛したか」ということではなく、むしろ、「なぜ、姪を本心から愛さなかったのか」ということであろう。


少女・お島(竹久夢二)
夢二は26歳でたまきと結婚。長谷川かた(お島さん)、笠井彦乃を知り、お葉と同棲、山田順子と恋愛。42歳で16歳の宇佐美雪江を知った。
夢二は、女を人形のように扱った。人形は着せ替えられ、化粧され、そして飽きがくると捨てられるのである。


同級生・おみか(小山内薫):情熱作家小山内薫の遍歴、芸妓から実の母まで

婚約者・矢野綾子(堀辰雄
堀辰雄の小説の中の少女たちは、
「おわかりになりませんでしたこと?」とか「まあ、お美しい」とか言うのである。こうした育ちの良さは、そのまま羨望へとかわり、一度でいいからこうした「令嬢」と知り合いになりたいものだと思うようになっていった。・・・堀辰雄の「燃ゆる頬」や「麦藁帽子」を真似た短編を書いてみたりもしたが、円形脱毛症に悩む青森弁の中学生には似たものができる訳はなかった。そして、そのうちに、かわいさ余ってにくさが百倍。次第に堀辰雄の小説がきらいになっていったのである。・・・
綾子が死んでわずか二年後に、堀辰雄は九歳下の加藤多恵子と結婚した。・・・それから五十歳で死ぬまでの十五年間、堀辰雄は「風立ぬ」を上まわる小説を書くことがなかった。・・・「風立ぬ」を書かせた綾子は「真の婚約」をうらぎって他の女と結ばれた辰雄に罰として二度と「美しい」小説を書かせないようにしたのだ。


愛人・山崎富栄(太宰治):天才作家太宰治に溺れた女たち、絶筆『グッド・バイ』まで

など、隣人の妻・俊子(北原白秋)、母・お春(室生犀星)、妻・すず(泉鏡花)、女給・一枝(織田作之助)、下宿のおばさん(村山槐多)、踊り子・フェルナンド(藤田嗣治)、妻・三千代(坂口安吾)、妻・三千代(金子光晴)、女優・須磨子(島村抱月)、愛人・野枝(大杉栄)、妻・のぶ子(黒岩涙香)



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

どこまで本当なのかわからないが、ドラマチックでスキャンダラスな男女の話をたっぷり楽しめる上に、劣等感、嫉妬心が強く、野心と才能に溢れた寺山修司の歪んだ見方を楽しめる。

女性は純情あるいは、現実的なのに対し、男性はただ身勝手なだけの場合が多い。まあこれは現代の一般人でも同じか。



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川副浩平『聖路加国際病院の健康講座 ゼロからわかる狭心症 心筋梗塞』を読む

2013年10月24日 | 健康

聖路加国際病院監修、川副浩平著、『聖路加国際病院の健康講座 ゼロからわかる狭心症 心筋梗塞』(2013年9月世界文化社発行)を読んだ。

100年以上の歴史を持つ、日本屈指のリーディングホスピタルの聖路加国際病院が監修する「聖路加国際病院の健康講座シリーズ」狭心症・心筋梗塞対策の決定版。
最新の治療法や治療薬の解説はもちろん、聖路加国際病院ならではの長年の知見に基づいた予防法や病気とうまく付き合うポイントなど詳細に解説。難しい医学用語は欄外の脚注でていねいに補足説明。イラスト図解で視覚的にもわかりやすく解説した初心者でも安心の一冊です。


心臓を動かしている筋肉(心筋)に酸素と栄養を送っている冠動脈という血管が狭くなり、血液が流れにくくなっている状態が「狭心症」、血管が完全に詰まって心筋が動きを停止する状態が「心筋梗塞」。

狭心症は、一時的に胸がギュッと締め付けられるように痛みます。圧迫感や動悸、息苦しさなどの症状が現れます。痛みが徐々に強くなるのが特徴です。胸だけでなく、放散痛といって、みぞおちや背中、左肩、左腕、左手、顎、歯などに強い痛みを感じることがあります。痛みは点ではなく面で感じます。痛みは数分~15分程度しか続きません。
発作が起こったときにはなるべき楽な姿勢にして、痛みが引くのをまちましょう。それでも痛みが引かない場合は救急車を呼んでください。

心筋梗塞は、突然胸が締め付けられるような激痛で、胸の真ん中、あるいは左胸をナイフで刺されたような焼けつくような痛みが長く続きます。痛みが20分以上続くと死に至る危険も高まります。治療が遅れると死を引き起こすこともあります。
就寝中に水分不足になると血液の流れが悪くなり血栓ができやすくなるので、起床後などに発作が起こりやすくなります。

狭心症・心筋梗塞の予防とは、動脈硬化の予防とイコールです。高血圧、脂質異常(高脂血症)、糖尿病(高血糖)、肥満、喫煙が複数重なって動脈硬化となります。

検査、治療法、リハビリ、再発防止については略。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

狭心症、脳梗塞に興味のある(?)人にはお勧めだ。127頁と薄く、絵も多く極めてわかりやすい。両者の症状の違いなど基本的知識は必要だと思った。



川副浩平(かわぞえ・こうへい)
東京女子医科大学心研外科、国立循環器病センター医長、岩手医科大学教授・病院長を経て、
2008年より聖路加国際病院心血管センター長、現在、関西医科大学特命教授。第36代日本心臓
血管外科学会会長、日本外科学会・日本胸部外科学会特別会員、日本心臓血管外科学会名誉会員。




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酒井順子『ほのエロ記』を読む

2013年10月22日 | 読書2

酒井順子著『ほのエロ記』(2008年5月角川書店発行)を読んだ。

エッセイストの酒井順子さんが、春のエロ(鶴光、春画、チアガール、遊郭、アンミラ、グラビア)、夏のエロ(女性アスリート、性の祭典、タイのオカマショーなど)、秋(ポルノ映画館、ストリップ、エロ小説)、冬(混浴、エアセックス、スポーツ新聞、SM)など、ほのかにエロを感じさせる25の現場に潜入し、日本人男性が感じるエロの本質を考える。

鶴光の「オールナイトニッポン」
布団を被ってこっそり聴いた胸のときめき、甘酸っぱい記憶。(世代が違うので私には記憶なし)

春画
北斎の絵の、蛸との絡み、ぬるぬるとした感触や吸盤の吸い付きっぷりに感じ入ってしまい、現実にはあり得ないエロティックさを提示する春画の役割に思いを致す。春画の女性達は無表情なのに、詞書には「あれまたよくなりいす エゝいつそどふも あれまたいきいすフウフウ」だのとあり、足の指はしっかり折り曲げられている。

グラビア
アメリカの雑誌の「カモ~ン」と腰を突き出すような写真は、日本男子を萎えさせ、「やられちゃう寸前」もしくは「やられちゃった後」みたいな顔でないと日本男子は受けつけない。

ポルノ映画館
女二人でポルノ映画館に行くのに適した服装を真剣に考えてみた酒井さん(そんなものあるわきゃない!)。「絶倫69歳 和服新妻の初夜」といったタイトルがあって、今では、ネットは苦手でビデオを借りにくい老人が最大の顧客らしい。(それにしても、ポルノ映画のタイトルには笑わされる)

エロ小説
様々なエロメディアがある現在でも、勝手に妄想を膨らませることができるエロ小説はむっつりスケベメンタリティーを持つ人に相変わらず人気がある。

初出:「本の旅人」2005年11月号~2007年10月号
2011年5月に角川文庫化



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

簡単に面白く読み流せたが、まさか四つ星にはできないでしょう。当方にもまだ見栄は残っています。

結構エロ度が高い記述もあるが、元お嬢様(?)の位置からはみ出さず、しかも冷静な大人の視点で分析している。女性からみた色気づいた男子の馬鹿さ加減などもあって、いかにも酒井さんらしいエッセイだ。
ビキニ水着を着た女性の写真を指で隠して、「こうすると何にも着ていないようにみえね?」などと言っている男子の馬鹿さ加減に呆れたという。確かに、言われてみればその通りです、ハイ。



酒井順子の略歴と既読本リスト


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有川浩『キケン』を読む

2013年10月17日 | 読書2


有川浩著『キケン』(新潮文庫2013年7月新潮社発行)を読んだ。

男子校率99%の 成南電気工科大学に、サークル「機械制御研究部」略して「機研(キケン)」があった。その機研の伝説の黄金期を作った、バカで、元気で、危険な連中の話。
危険人物に率いられた盛り上がった集団の活動はさまざまな伝説を生み、犯罪スレスレの破壊的行為から、「キケン」と畏れられていた。

10年後、その一人が妻にあの黄金期を語る。再会のときは?

上野直也:二回生。部長。危険人物で「成南のユナ・ボナー」と呼ばれる。
大神宏明:二回生。副部長。迫力で右に出る者のない「大魔神」。
元山高彦:一回生。常識人。自宅が喫茶店で、偶然できる「奇跡のラーメン」のレシピを完成。
池谷悟 :一回生。おおらかな大器。

第一話:上野の火薬遊び
第二話:柄にもなく大神に春?
第三話:学祭のラーメン屋で30万円を3倍にする命令
第四話:例年、偶然の「奇跡のラーメン」を初日から最終日まで実現
第五話:第一回ロボット相撲大会
第六話:落ち着け。そして、今。

初出:2010年1月新潮社より刊行。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

男の子の滅茶ぶり競争の話だが、大学というより高校レベルのような気が・・・。

上野の両親は母屋を壊されるまでの危惧を持っていた、ということである。小学校三年生の我が子のいたずらで!
「まさか、母屋まで壊せるわけないだろう。せいぜい子供部屋の天井をぶち抜くくらいだよ」
いや、やる。小学生とはいえあんたならやる、絶対やる。
こんな、著者ノリノリの会話についていける人でないと、楽しく読めない。

「もうなくなってしまったのではないかと恐れていたこの場所へ、もう一度来る勇気が持てた。」のは、「お前が喜んで聞いてくれたからだ」と彼は妻に感謝する。
これって、有川さんが旦那さんの話を楽しげに聞いていたというノロケ?
いずれにしても、一番楽しんでいるのは著者って、それで良いの? エンタテイメントってそうなの? よく笑う漫才師みたい。

有川浩(ありかわ・ひろ)の略歴と既読本リスト






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吉成真由美『知の逆転』を読む

2013年10月14日 | 読書2
吉成真由美インタビュー編『知の逆転』(NHK出版新書395、2012年12月NHK出版発行)を読んだ。

第1章 文明の崩壊(ジャレド・ダイアモンド):『銃・病原菌・鉄』の著者
現在のように消費量の格差がある限り、世界は不安定なままです。ですから安定した世界が生まれるためには、生活水準がほぼ均一に向かう必要がある。たとえば日本がモザンビークよりも100倍も豊かな国であるということがなくなり、全体の消費量が現在より下がる必要があります.

「人生の意味」というものを問うことに、私自身は全く何の意味も見出だせません。人生というのは、星や岩や炭素原子と同じように、ただそこに存在するというだけのことであって、意味というものは持ち合わせていない。




第2章 帝国主義の終わり(ノーム・チョムスキー):言語学に革命を起こした生成文法理論提唱者

第3章 柔らかな脳(オリバー・サックス)映画化された『レナードの朝』の著者で神経学者
個別の記憶や、エピソード記憶は失われてしまっても、音楽は残っているのですね。一般的に、音楽の力というのは、多かれ少なかれ病気によって浸食されずに長いこと残っています。


第4章 なぜ福島にロボットを送れなかったか(マービン・ミンスキー):人工知能の父
実際歴史を振り返ってみれば、多くの人々が大賛成した場合のほとんどは、大惨事になるか、文化が崩壊するか、大衆をうまく説得するヒットラーのような人物が現れる、といった悲劇に結びついています。


第5章 サイバー戦線異状あり(トム・レイトン):アカマイ創業者・MIT応用数学教授
アカマイ社は、ほぼ全ての最も人気の高いサイトの内容を配信したりスピードアップしている誰も知らないインターネット最大の会社。トム・レイトンは、待合せ理論(?)の研究者でアカマイの創業者。
彼は年収1,000万円に届かない薄給だが大学教授の仕事が気に入っていた。大学院生ダニー・ウィルソンが生活苦のため賞金目当てでMITのビジネスコンクールにレイトン等と参加し優勝した。ぴったりの数学理論はあったが、ビジネス経験は0で、ベンチャービジネスに突き進んで行くことになった。彼は教授に戻るつもりでいたが、ダニーが9・11のAA11便で死亡し、彼はアカマイに残った。それでも彼は好きな教授職を今も続けている。。

n2+n+41は、nが1から39までは素数になる。

第6章 人間はロジックより感情に支配される(ジェームズ・ワトソン):DNA構造発見でノーベル賞受賞
ワトソンとクリックは、ロザリンド・フランクリンが撮影した写真を見てDNAの構造を知ることができた。
吉成:ロザリンドは一体何をしていれば彼女自身がDNA構造を解明できる可能性が高くなったのでしょう。
ワトソン:残念ながら違うDNAを持って生まれてくる必要があったでしょう。・・・ロザリンドの場合、「成功すること」そのものが目的だった。われわれは「答えを知ること」が目的だった。・・・ハッキリ言って、彼女はノーベル賞に値しない。ノーベル賞は敗者には与えられない。誰も彼女から賞を奪ってなどいない。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

著者はよく内容を理解して質問し、気後れせずにしにくい質問もしているので、対談としては話が深くなっている。これだけ著名な人を集めた対談集も珍しいのではないだろうか。

しかし、理系の人ばかりからだろう、宗教や教育に関する質問への答えは無味乾燥だ。神を信じず、小説はSFしか読まない人が多い。
真に優れた人だけが文明を発展させるなどとの発言もあり、いったい私をどうしてくれるんだと思う。



吉成真由美(よしなり・まゆみ)
1953年生まれ。津田塾大学英文科卒業、NHK入社
ディレクターとして、子供番組、教育番組、NHK特集などを担当。CGの研究開発にも携わる。
マサチューセッツ工科大学(MIT)(脳および認知科学学部)卒業。
ハーバード大学大学院(心理学部脳科学専攻)修士課程修了。
1985年(32歳)NHKを退職
1987(34歳)利根川進と結婚、第1子出産
1992年(39歳)第3子 智を出産
著書に『カラフル・ライフ―遅咲きのすすめ』『サイエンスとアートの間に』『やわらかな脳のつくり方』などがある。

利根川進(72)と吉成真由美(58)の第3子、MITの一年生利根川智(18)は死亡(2013年7月)




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大栗博司『大栗先生の超弦理論入門』を読む

2013年10月12日 | 読書2

大栗博司著『大栗先生の超弦理論入門 九次元世界にあった究極の理論』(ブルーバックスB-1827、2013年8月講談社発行)を読んだ。

現代物理学の最先端理論、超弦理論(俗には超ひも理論)の第一人者のひとりである大栗さんが、分かりやすく、しかしけしてごまかすことなく現在進歩中のこの理論を説明している。

第1章と第2章では、量子力学や素粒子論についての基礎的な知識を解説。
第3章では、物質の基礎となる素粒子やその間に働く力を、超弦理論ではどのように考えるかを説明。元の「弦理論」がなぜ「超弦理論」になったか、その違いを説明。
第4章では、超弦理論では、空間の次元が九次元に決まる理由を示す。
第5章では、重力や電磁気力など自然界のすべての力に共通する原理「ゲージ原理」、「力の統一原理」を説明。
第6章は、見捨てられていた超弦理論が革命を起こす「第1次超弦理論革命」。
第7章は、著者が超弦理論研究にのめり込んだ経緯。
第8章は、完成度が飛躍的に高まった「第2次超弦理論革命」
第9章は、空間は幻想(3次元空間の場の量子論と9次元空間の超弦理論は等しい)
第10章は、時間は幻想か?

概要、といってもかなり詳しい内容が">「現代ビジネス」の第1講から第4講まで公開されている。




私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

現代物理学の最先端がわかりやすく説明されている。あまりにもたくみで、本当に理解できてしまったような錯覚に陥るほどだ。
「光は粒子であり、同時に波動」「不確定性原理」など量子論だけでも十分常識を打ち破られるのだが、9次元(時間を入れると10次元)空間、ブラックホールの温度など途方もない世界が、筋道だって説明され、分かったような気にさせられる。しかし、実際には滅茶苦茶高度で複雑そうな数式を、何年も執念深く追及しているのだ。天才たちに、ただただ感嘆するばかりだ。そのお仲間で、いまだ現役の大栗さんが、こんなわかりやすい本を書いてくれたことに感謝。



大栗博司(おおぐり・ひろし)
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て現職。アスペン物理学センター理事。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞などを受賞。アメリカ数学会フェロー。『重力とは何か』、『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、朝日新聞WEBRONZAの執筆や市民講座などで科学アウトリーチにも努めている。



第1章 なぜ「点」ではいけないのか
第2章 もはや問題の先送りはできない
第3章 「弦理論」から「超弦理論」へ
第4章 なぜ九次元なのか
第5章 力の統一原理
第6章 第一次超弦理論革命
第7章 トポロジカルな弦理論
第8章 第二次超弦理論革命
第9章 空間は幻想である
第10章 時間は幻想か
あとがき
さくいん
付録 オイラーの公式



以下、私のメモ

アインシュタインが重力の理論(一般相対性理論)を発表してから約10年後に、ミクロな世界の法則である量子力学が確立される。すると、重力の理論と量子力学の間には深刻な矛盾があることがわかった。それを克服して、両者を統一する理論を建設するために、超弦理論は提案された。

私たちの身の回りにあるすべての物質は、素粒子の標準模型に含まれる17種類の点粒子(=素粒子)の組み合わせでできていると考えられている。17種類の中で最後に存在が確認されたのが、2012年に欧州原子核研究機構(CERN)で発見されたヒッグス粒子。

宇宙には、正体がわからない「暗黒物質」と呼ばれる物質が、標準模型に含まれる物質の5倍以上もある。
アインシュタインの重力理論(一般相対性理論)によると、通常の物質や暗黒物質は宇宙の膨張を減速するように働くはずだ。ところが、2011年のノーベル物理学賞の対象となった遠方の超新星の観測により、膨張は加速していることが発見された。
これは通常の物質や暗黒物質のほかに、宇宙の加速膨張を引き起こす何かがあることを示している。その何かは「暗黒エネルギー」と呼ばれ、やはり標準模型の枠内では説明することができない。

自然界には、重力・電磁気力・強い力・弱い力という四種類の力があることがわかっています。「重力」や「電磁気力」については古くから知られていましたが、20世紀になると、自然界にはあと二つ、「強い力」と「弱い力」という力があることが発見されました。
強い力は、クォークを互いに引きつけあって、陽子や中性子をつくる力です。また、弱い力は、原子核からの放射線の原因となる力です。
標準模型では、電磁気力・強い力・弱い力という三つの力によって起きる現象は説明することができます。ところが、私たちがいちばん身近に感じている力であるはずの重力は、標準模型には含まれていません。電子やクォークなど、質量を持った素粒子の間には重力が働くはずですが、標準模型ではその効果を無視しているのです。
?強い力 > 電磁気力 > 弱い力 > 重力

くりこみ
電磁場において働く力の強さは、距離の二乗に反比例することがわかっています。これをクーロンの法則といいます。電子と電子の間の距離が近ければ近いほど、大きくなるわけです。すると、電磁場の変化を発信した電子自身が、その電磁場から受ける影響はどうなるでしょう。
電子が点だとすると、点には長さも幅もないので、電子から自分自身までの距離はゼロ。クーロンの法則によれば、発信した電子自身が感じる電磁場の強さは、無限大になってしまうのです。電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、何が問題なのでしょうか。ここで重要になるのが、アインシュタインの有名な式、
?E=mc2
です。この式は、エネルギー(E)と質量(m)とは、実は同じものであることを意味しています。たとえば1円玉の質量は1グラムですが、この質量はE=mc2によって、標準家庭約8万世帯の1ヵ月分の消費電力量にも等しいエネルギーに換算することができます。

電磁場を強くすると、そのエネルギーも大きくなります。そして、電子が感じる電磁場の強さが無限大になると、そこでの電磁場のエネルギーも無限大になります。E=mc2でこのエネルギーを質量に換算すると、これも無限大。これを電子の質量に加えると、電子の質量も無限大になってしまいます。
電磁場のエネルギーを起源とする質量のほかに、電子がもともと持っている固有の質量があると考えます。すると観測される電子の質量は、電磁場のエネルギーを換算した質量と、電子固有の質量の和ということになります。
(観測される電子の質量)=(電磁場のエネルギー)+(電子固有の質量)
電子がどんどん小さくなって点に近づくほど、電磁場のエネルギーは無限大に近づくわけですが、ここで、電子固有の質量をどんどん小さくしてそれと相殺すれば、電子が点であってもかまわないではないか、というのがこのアイデアの骨子でした。
電磁場のエネルギーが無限大に近づくと、あるところで電子固有の質量は「負の値」をとらなければならなくなります。無限大の問題を解消するために質量を負の値にするなどという方便を使うのは、なにやらこじつけのように思われるかもしれません(前頁の図=くりこみ)。実際、暫定的な解決策というべきものでしたが、「くりこみ」と呼ばれるこのアイデアは、20世紀の素粒子物理学の発展に大いに貢献するのです。


要素還元主義
自然界にはマクロからミクロへの階層構造があり、よりミクロな世界の法則ほど基本的なものであると考えられています。マクロな世界の法則は、ミクロな世界の法則から導かれる。この考え方を「要素還元主義」といいます。マクロの世界の法則は、ミクロな世界の近似であるといってもいいでしょう。
くりこみとは、ある階層で生じた無限大の問題を、よりミクロな階層へと「先送り」するものだったのです。


GPSと一般相対性理論
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力の効果で、空間や時間は伸び縮みします。実際、地球の周りを回る人工衛星では地球からの重力が弱いので、時間が速く進みます。スマートフォンやカーナビで使われているGPSは位置の測定に人工衛星からの時報を使っているので、重力による時間の進み・遅れを計算に入れないと、位置を正確に決めることはできません。


事象の地平線
たとえば私たちの地球を、質量をそのままにして圧縮していくと、重力がどんどん強くなります。半径が9ミリメートルになるまで圧縮すると、重力に逆らって地球表面から脱出するために必要な脱出速度は光の速度と等しくなり、さらに圧縮すると光さえ脱出できなくなります。すると地球もブラックホールになるのです。脱出速度が光速になってしまう表面のことを「事象の地平線」といいます。


グラスマン数
同じ数どうしをかけると、答えがゼロになってしまうという不思議な数があるのです。ここで、そのような数をθと書くことにすると、
?θ×θ=0
となってしまうのです。こうした奇妙な性質を持つ数のことを「グラスマン数」と呼びます。
超弦理論では、このグラスマン数も座標に使う超空間という空間を考えます。しかし、なぜ、このような数を持ち出す必要があるのでしょうか。それは、フェルミオンとボゾンの性質の違いのためです。
これに対してグラスマン数は、θ×θ=0のように、一回かけると、もうそれでおしまいです。一つの状態には一つの粒子しか入れないというフェルミオンの性質は、実は、一回かけるとそれで終わりになるというグラスマン数の性質に由来しているのです。
そして、普通の数のほかにグラスマン数も座標として使う超空間では、グラスマン数で示される方向に振動する弦を考えると、そこからフェルミオンが現れるのです。


「超空間」
私たちは、三次元の空間に住んでいると考えてきました。しかし超弦理論は、私たちの空間が普通の空間ではなく、超空間であると予言します。普通の数字で決まる座標のほかに、グラスマン数という不思議な数を座標に使う「余剰次元」が存在すると予言するのです。


超対称性で予言される粒子が発見されると、超弦理論を検証する道も開け、私たちの空間に対する通念も根底から揺さぶられることになるでしょう。


「人間原理」
知的生命体が生まれないような宇宙には、それを観測する者もいない。宇宙は一つではなく物理定数の異なる宇宙がたくさんあって、観測者が存在できる物理定数の宇宙しか観測されないのだ


数理解析研究所の所長だった佐藤幹夫の言
「朝起きたときに、きょう一日数学をやるぞ、と思っているようでは、とてもものにならない。数学を考えながらいつの間にか眠り、朝、目が覚めたときにはすでに数学の世界に入っていなければいけない」


マルダセナの対応を含む重力のホログラフィー原理
重力を含む九次元空間の超弦理論が、重力を含まない三次元空間の場の量子論と同等である。

宇宙の年齢は138億年





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綿矢りさ『憤死』を読む

2013年10月09日 | 読書2
綿矢りさ著『憤死』(2013年3月河出書房新社発行)を読んだ。

狭い小さな世界から飛び立つ道を模索する綿矢さんの、短編への、怖い話への、挑戦。

おとな
もっとも昔の記憶と、5歳だった”りさ”の最古のエロティックな夢、いや現実の話。エッセイ風で、不穏で、ちょっと不気味な雰囲気に包まれた3ページ余りの短編

トイレの懺悔室
小学校高学年の男の子の話。
近所の親父、といっても何かというと子供たちを仕切ろうとする他人、が、少年たちに自己流の洗礼を施す。物まねの洗礼儀式の後、自分は自宅のトイレに入り、子供たちに罪を告白、懺悔させる。その行為は、奇妙な快感をもたらす。やがて、神父役と懺悔する者との倒錯した関係を作り出し、凄惨な事態へ至る。60頁ほど。

憤死
金持ちの子で、自慢しい、選民意識が強く、女版の太ったスネ夫の佳穂。うさぎ当番を強要されたわがままな佳穂はエキセントリックに発作じみた行動で拒否する。ひねくれ者で冴えない私と彼女の余りもの二人は小学校で友達だった。やがて20歳になり、再会した佳穂は“出来上がっていた”。外国での暮らしのせいか、高慢さを私だけでなく、誰にでも常に解き放っていた。
失恋した佳穂は、怒りにまかせて自分の命に八つ当たりしてバルコニーから飛び降りる。それは、歴史上の人物が起こす、ただひたすら純度の高いわがままと、神々しいほどの激しい怒りが巻き起こす死、「憤死」という名にふさわしかった。

人生ゲーム
小6の少年3人が「人生ゲーム」で遊んでいるところへ、2階から下りて来た高校生がボードに3つの丸をマジックで書き込んでいう。「いいか、おれが丸をつけた場所で、おまえたちは必ず不幸になる。そのときはおれんとこ来い」。やがて、2人を不幸が襲うが、ボード上に丸を付けた箇所のとおりの事故だった。

初出:毎日新聞、文藝、群像など。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

あり得ない恐い話が続く。この作品は今一歩だが、ひょとしたら、綿矢りさは、こういう話がお似合いなのかもしれない。

一人の作家を読み続けると、勢いがありつつ不安定な処女作から、安定感のある作品へと成長していく様を見るものなのではないか? しかし、彼女の場合はどうもそのように一筋縄ではいきそうにない。作を重ねる毎に、見ず知らずの他人とメシを食べているような、そんな居心地悪さが強くなっていくような感触がある。
綿矢りさという作家は、その端麗な容姿から得られるステレオタイプなイメージより、ずっと複雑な作家なのかもしれない。彼女の作品を読み続けていると、そう思えてくる。


相変わらず文字の大きさと紙の厚さで稼ぐのはいかがなものか。



綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える
2010年、『 勝手にふるえてろ
2011年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞
2012年、『しょうがの味は熱い』、『ひらいて』
2013年、『大地のゲーム』、、『憤死




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柴田元幸『代表質問』を読む

2013年10月07日 | 読書2

柴田元幸著『代表質問 16のインタビュー』(朝日文庫2013年7月朝日新聞出版発行)を読んだ。

ギャラガー、カッチャー、パワーズ、リンク、ダイベック、村上春樹、ユアグロー、パルパース、吉田日出男、沼野充義、内田樹、岸本佐知子へのインタビューと、アーヴィングへの創作架空インタビューを収めている。

村上春樹『キャッチャー・イン・ザライ』を語る
極端なことを言ってしまえば、小説にとって意味性というのは、そんなに重要なものじゃないんですよ。大事なのは、意味性と意味性がどのように呼応し合うかということなんです。音楽でいう「倍音」みないなもので、その倍音は人間の耳には聞き取れないんだけれど、何倍音までそこに込められているかということは、音楽の深さにとってものすごく大事なことなんです。


1989年の村上春樹
僕らはね、実際的にはもう長いあいだ異議申し立てなんかしていないんですよ。・・・僕らが最後にノオと言ったのは一九七〇年です。・・・そのあいだ状況は僕らに対して何度もノオと言っている。石油ショックだとか、・・・。
 それに僕らが一九七〇年に叫んだノオだって、結果的には何の意味も持たなかった。・・・そこから始まっているんですよね、すべては。
・・・
僕らはもう共闘することはできないんですね。それはもう個人個人の自分の内部での戦いになってくる。というか、もう一度そこの部分から始める必要がある。


内田樹(たつる)『村上春樹にご用心』をめぐって
内田氏は、この本は村上春樹氏へのファンレターだという。内田さんが離婚してボロボロになって、批評性が高くなっていたとき、読んでしみじみ来た著者はレイモンド・チャンドラー、フィッツジェラルドと村上春樹だった。
三人の作家に共通するのは、フェアネスの大切さ。世の中にはいろいろ厳しいことがあるし、タフなことがあるけれども、やっぱり世の中を見る時には公正に見ないといけないんじゃないか、と。・・・邪悪な考えが渦巻いていたときに、やっぱり人間はフェアじゃなければいけない、と。・・・自分の前に嫌な人が出てきて、不愉快なことをした場合には、「どうしてこの人はこんなことをするんだろうか」ということをできるだけフェアな視点でみて、・・・。


なぜ村上作品が世界中で読まれるのか
柴田さんは、何らかのかたちで hit the nerve (神経を打つ、琴線に触れる)からという。
内田さんは、
この世界の秩序を担保するものは実はどこにも存在しない。にもかかわらず無意味な世界で生きてゆかなくちゃならない。正しい生き方のマニュアルが存在しえない世界で、人はなお正しく生きることができるか
を物語を通して問うている(一種の「逆聖書」)からだという。


福岡伸一氏の解説が変わっている。絵本「おさるとぼうしうり」の話が延々を続き、最後にちょこっと柴田さんへの賛辞がある。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

外国の作家や、村上春樹が考える小説のあり方、自分の生み出し方に関する生の声(?)が聞ける。編集者などによる普通の作家インタビューと異なり、柴田さんはかなり深いところを突いている。質問は翻訳に関してではなく、作品そのもの、あるいは作家の考え方に迫っている。



柴田元幸 : 1954年東京都生まれ。東京大学文学部教授、翻訳家。
1992年『生半可な學者』で講談社エッセイ賞
2005年『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞
2010年トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞を受賞
訳書は、ポール・オースター(『ガラスの街』『幻影の書』『オラクル・ナイト』)、
ミルハウザー(『ナイフ投げ師』『マーティン・ドレスラーの夢』『エドウィン・マルハウス あるアメリカ作家の生と死』)、
ダイベック(『シカゴ育ち』)の主要作品、
レベッカ・ブラウン(『体の贈り物』『家庭の医学』)など多数。
著書に『ケンブリッジ・サーカス』『バレンタイン』『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『翻訳教室
高橋源一郎と対談集『小説の読み方、書き方、訳し方






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眉村卓『たそがれ・あやしげ』を読む

2013年10月05日 | 読書2

眉村卓『たそがれ・あやしげ』(2013年6月出版芸術社発行)を読んだ。

ショートショートに近い10頁ほどの21編の短編集。短編毎に一枚のまえがき、というかエッセイがついている。

退職し、妻に先立たれた80歳近いくたびれた男性が、ふとした瞬間に異界へ迷い込んでしまう話が多い。

各編毎にある“まえがき”が面白い。

付き合っていた女性と姫路城でデートしたが、改修工事中で見られなかった。しかしその女性と結婚した。妻亡き今、成人した一人娘からは人の言うことをちゃんと聞いていないとたびたび注意される。このことからできたのが「多佳子」だという。
旧制高等学校跡地に建てられた阪南団地に著者は一時住んでいた。この団地のことを書きたかったのが「昔の団地で」だ。
ごく平凡な男性が、平凡な日常の中で突然、過去など異界へ迷い込む話が多い。おそらく、著者自身の話であり、リアルで、それだけに奇妙な体験がいつ自分に起こるかわからないという気にさせる。

本来の自分の時代ではなく、もっと未来に行って、そこで住んでいる人間のことを「未来滞在者」と言っている。まえがきで、著者は、未来滞在者の気分で現代に生きている。そのほうが楽で腹も立たないという。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

おそらく著者自身の、枯れて人生に達観している主人公の話なので、私には、共感し、気楽に読めるのだが、同じような話が多い。もっとギラギラした若い時の著者の作品を読んでみたくなった。



眉村卓(まゆむら・たく)
1934年、大阪生れ。大阪大学経済学部卒。
耐火煉瓦会社勤務の傍ら、SF同人誌「宇宙塵」に参加。
1961年、「SFマガジン」第一回SFコンテストに投じた「下級アイデアマン」が佳作入選し、デビュー。
1963年、日本SF作家第一世代の中で最も早く処女長編「燃える傾斜」を刊行。
コピーライターを経て、1965年より専業作家。企業社会と個人関係をテーマにしたインサイダー文学論を唱え、サラリーマンを描いた作品を書き続ける一方、ショートショートやジュニアSFでも健筆をふるう。



1.絵のお礼 
2.腹立ち
3.和佐明の場合
4.五十崎
5.多佳子
6.新旧通訳
7.中華料理店で
8.息子からの手紙?
9.有元氏の話
10.あんたの一生って……
11.未練の幻 
12.昔の団地で
13.十五年後
14.「それ」
15.「F駅で」
16.帰還
17.電車乗り
18.同期生
19.未来アイランド
20.F教授の話
21.やり直しの機会



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スティーヴン・キング『ゴールデンボーイ 恐怖の四季 春夏編』を読む

2013年10月03日 | 読書2

スティーヴン・キング著、浅倉久志訳『ゴールデンボーイ 恐怖の四季 春夏編』(新潮文庫 キ-3-5、1987年3月発行)を読んだ。

「恐怖の四季」(原書「DIFFERENT SEASONS」)の中編4作のうち「刑務所のリタ・ヘイワース -春は希望の泉」と「ゴールデンボーイ -転落の夏」の2作がこの春夏編。
秋冬編は、「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタン奇譚クラブ」。


「刑務所のリタ・ヘイワース」
日本でもっとも愛される映画の一つ「シーシャンクの空に」の原作。
囚人の調達屋レッド(映画ではモーガン・フリーマン)が、囚人仲間で親しかった無実の元銀行家アンディー・デュフレーンの不屈の心、冴えた生き様を語る。アンディーは、腐敗した刑務所で無残、理不尽にも叩かれ続けるなかで、小さな石像を掘ったり、壁にリタ・ヘイワースの写真を飾ったり、小さな幸せを見つけている。しかし、その小さな幸せが30年後に、実は・・・。
最後に大きな希望が宿るスティーヴン・キング会心の作。

「ゴールデンボーイ」
良き両親、環境に恵まれたトッドは明るく、成績も良い高校生。「全身これアメリカンな少年」は、たまたま友だちの家の車庫にあった古雑誌でナチの犯罪物語を読み、性を知る直前の少年は嫌悪と興奮を覚える。まもなく、街でアメリカに潜伏中のデンカーこと、ドゥー・サンダー、元アウシュヴィッツ副所長を見つける。心の闇を刺激され、怖い物見たさで少年は彼を訪ねていく。
口の堅い彼を脅しながら虐殺の話を聞き出し、13歳と76歳の駆け引きと交流が始まる。それ以外の道はなかったんだと、少年は徐々に道を踏み外していく。

デンカーはドイツ脱出後、ひと財産作り逃走資金としたが、(刑務所のリタ・ヘイワースの)銀行の投資コンサルタントのデュフレーンの勧める株を買ったためだとの記述がある。
あとがきによれば、スティーヴン・キングは400字で500枚のこの作品を「シャイニング」脱稿後、2週間で書き上げたという。



私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

希望と背筋の凍る話の組合せ。

「刑務所のリタ・ヘイワース」
映画「シーシャンクの空に」は、「スタンド・バイ・ミー」と並んで私のもっとも好きな映画の一つだ。映画を何回も見た後で、この小説を読んだのだが、違和感なく映画のシーンを思い出しながら引き込まれて読むことができた。
悲惨な環境にあってまさに不屈、工夫と機知、英知を発揮して徐々に自分のやりたいことを実現していく。そしてその中で驚異的に地道な希望の道を作っていく。
やはり、感動ものだ。

「ゴールデンボーイ」
幸せそのものの少年の心の闇が徐々に広がっていく。ナチ高官の老人を思うがままに操っていたのが、少しずつ逆転していき、よんどころないところに落ち込んでいく恐怖。
悪霊など非合理なものが登場しないので好感が持てる一流のスリラーだ。



スティーヴン・キング(Stephen King)
1947年メイン州生れ。貧しい少年時代から恐怖小説を好む。高校教師、ボイラーマンといった職業のかたわら執筆を続け、1974年に『キャリー』でデビュー。好評を博し、以後『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを生み、“モダンホラーの帝王”と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』『ダーク・タワー』シリーズなどがある。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

浅倉久志
1930年大阪市生まれ。1950年大阪外事専門学校(現大阪大学外国語学部)英米科卒業。
2010年死去。
SF作品の翻訳が多い。



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スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー 恐怖の四季 秋冬編』を読む

2013年10月01日 | 読書2
スティーヴン・キング著、山田順子訳『スタンド・バイ・ミー 恐怖の四季 秋冬編』(新潮文庫 キ-3-5、1987年3月発行)を読んだ。

「恐怖の四季」(原書「DIFFERENT SEASONS」)の中編4作のうち「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタン奇譚クラブ」の2作を秋冬編とした。春夏編は、「刑務所のリタヘイワース」と「ゴールデンボーイ」。

「スタンド・バイ・ミー」
森の奥に子供の死体があるとの噂を聞いた12歳の4人は死体探しの旅に出た。途中、猛犬に追いかけられたり、鉄橋で汽車に跳ね飛ばされそうになったり、沼でヒルに吸い付かれたり、2日間の旅を続ける。
それぞれが悲惨な家庭を抱える4人の少年の友情と冒険を、作家になった主人公が描く。ホラー小説で知られるスティーヴン・キングの半自伝的作品。
映画とその主題歌(リバイバル)がヒットした。

「マンハッタンの奇譚クラブ」
上司の誘いで怪しさと古めかしい雰囲気の会員制社交クラブに連れていかれたデイビッドは疑いを持ちつつ居心地の良さにのめり込んでいく。クラブは、ニューヨーク東35ストリート、成り立ちは不明、会費も無料。
貴重な本が並ぶ書庫、巨大な暖炉、樫の寄せ木張りの床、象牙と黒檀を刻んだチェス。そして会員たちが語る風変わりな体験談。
半分以上を占めるのは、老医師が語る、若く凛とした妊婦の奇怪だが心を打つ物語だ。しかし、延々と出産の細かい話が続く。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

映画「スタンド・バイ・ミー」は私のもっとも好きな映画の一つだが、小説は余談(?)も多く、饒舌すぎて映画ほど少年のロマンや、大人になってから子供時代を思い出すという哀愁がストレートに響いてこない。

ひと夏の冒険の中で、4人が将来に向けた差異を意識し始め、こののち、それぞれの道を歩み始める。
4人とも複雑な家庭事情をもち、階級差から異なる将来を予見しながら、この時期だけは、屈託なく、区別なく遊んでいる。この冒険が終わると、必然的に子供時代とは異なる仲間と過ごすことになり、かっての仲間は想い出となる。



スティーヴン・キング(Stephen King)
1947年メイン州生れ。貧しい少年時代から恐怖小説を好む。高校教師、ボイラーマンといった職業のかたわら執筆を続け、1974年に『キャリー』でデビュー。好評を博し、以後『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを生み、“モダンホラーの帝王”と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』『ダーク・タワー』シリーズなどがある。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

山田順子
1948年福岡市生まれ。立教大学社会学部卒。
訳書『デスぺレーション』『レギュレイターズ』など多数。



テディは聴力、視力が弱いのに、滅茶をして、軍隊に入ることを熱望している。父親はノルマンディー上陸作戦に参加し、神経を病んで酒浸りで、テディを虐待し、耳を聞こえなくしてしまった。それでもテディ父親を尊敬し、父親を悪くいうやつには誰かれなく向かっていく。

バーンはのろまで、怖がり屋。兄のビリーはエースを頭とする不良仲間に入っていてバーンをいじめている。

クリスは、頭は良いのだが、飲んだくれの父親に怪我させられてたびたび学校を休んだ。兄たちは落ちこぼれで刑務所に入ったり、不良仲間に入ったりしている。

主人公のゴーディは、勉強はできるのだが、父母からまったくかまってもらえない。期待されていた兄デニスが21歳のとき事故で死んでしまい、両親は今でもこれを受け入れられないからだ。

クリスはゴーディにいう。「おまえはカレッジ・コース。おれたち3人は職業訓練コースで、他の低能たちと・・・。おまえは新しい仲間たちにたくさん出会えるよ。頭のいいやつらに。そんなふうになってんのさ。ゴーディ。そんな仕組みになってんのさ。」「たくさんの腰抜けたちと出会う、って言いたかったんだろ」わたしは言った。


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