長尾和宏著『平穏死10の条件 胃ろう、抗癌剤、延命治療いつやめますか』2012年7月ブックマン社発行、を読んだ。
「まえがき」から引用
80歳代、90歳代の在宅患者さんが毎日のように異口同音に仰るのは「早くお迎えに来てほしい」と「延命治療は絶対にイヤ」という言葉。ところが、そうした残り少ない寿命でも、思わぬ転倒・骨折で入院すると、短期間で認知症が進み、食事もままならなくなって、胃ろうを造って帰ってこられます。あるいは、住み慣れた我が家で死にたいと強く願っていたにもかかわらず、自宅に帰ることは許されずに結局、施設や病院で最期を迎えられる人も多くいます。病院にお見舞いに行くと、元気なときに本人が望んでいた最期の迎え方とは全く違う状態。虚ろな目でボーッと寝ている姿に言葉をなくしたことが何度もありました。
いくら平穏死を強く望んでも、簡単には叶わない時代に我々は生きている・・・
病院で行われる死を先延ばしにするだけの延命治療を批判し、在宅での最期が可能であるなら、それが本人にとって最も幸福であるというのが、500人を在宅で看取った現役の町医者の主張だ。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
著者は、自宅での平穏死が最善という考えで、転倒しないこと、胃ろう開始は十分考えてから、尊厳死協会に入ることを薦めている。しかし、私は、自宅療養は家族の負担が大きく、実施に疑問がある。私自身は、妻や子供に感謝の言葉を残してから、病院で一人で死んでいく方が気楽だと思う。
また、私のように十分、年とった者が回復不可能になれば、延命治療をやめるのは当然だろう。現実にはグレーゾーンでの迷いや、急な病では未練が残ると思うが。
平穏死10の条件
1.平穏死できない現実を知ろう
終末期の患者が入院すると必然的に延命治療を受け回復する。そうなると、本人や家族が希望しても延命治療を途中で中止することは困難となる。医師が殺人罪で逮捕される可能性があるからだ。
2.看取りの実績がある在宅医を探そう
実際に看取りの経験がない医者が多いという。とくに病院の専門医には。
3.勇気を出して葬儀屋さんと話してみよう
4.平穏死させてくれる施設を選ぼう
5.年金が多い人こそ、リビング・ウィル(生前の遺言)を表明しよう
6.転倒→骨折→寝たきりを予防しよう
7.救急車を呼ぶ意味を考えよう
「救急車を呼ぶ」ということは、蘇生、それに続く延命治療への意思表示になる。在宅看取りと決めたら救急車を呼ばずに在宅主治医に電話して待つ。
8.脱水は友。胸水・腹水を安易に抜いてはいけない
9.24時間ルールを誤解するな! 自宅で死んでも警察沙汰にはならない!
10.緩和医療の恩恵にあずかろう
その他、メモ
●今では、自宅で亡くなる人は2割、病院が8割。40年前は逆。
●平穏死、自然死、尊厳死はほぼ同義語、安楽死は「人為的に死期を早める処置」で別物。
●胃ろうそのものがいいとか悪いではなく、いったん開始した胃ろう栄養を簡単には中止できない現実にある。
●死ぬとき人はどうなるか。
(ドラマのように、ガックリいくのを見たことはない)
残された時間が週単位から日数単位になると、
人はウトウト寝ている時間が長くなり、呼びかけると目を開ける(傾眠状態)。
食事や水分を飲み込みにくくなり、むせやすくなる。
辻褄の合わないことを言ったり、興奮して手足を動かしたりする(せん妄)。
臨終のときが近づくと、
呼びかけへの反応が鈍くなる(意識低下)。
大きく息をした後、10~15秒間ほど息が止まり、また息をすることもある。そして、次第に顎を上下させる呼吸に変化する(下顎呼吸=最後の呼吸)。この時は白目をむいて、もう意識はない。
やがて、呼吸が止まり、脈が触れなくなる。
長尾和宏(ながお・かずひろ)
1958年香川県生れ。1984年東京医科大学卒。大阪大学第二内科に入局。
1995年尼崎市で開業。著者を含め計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に従事。
長尾クリニック院長、日本尊厳死協会副理事長