アンソニー・ホロヴィッツ著、山田蘭訳『カササギ殺人事件(上)(下)』(2018年9月28日東京創元社発行)を読んだ。
上巻の裏表紙にはこうある。
1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。余命わずかな名探偵アティカス・ピュントの推理は――。アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ!
下巻の裏表紙にはこうある。
名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読んだ編集者のわたしは、あまりのことに激怒する。ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある? 原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった――。ミステリ界のトップランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント!
本屋大賞「翻訳小説部門」第1位や、「ミステリが読みたい!」「本格ミステリ・ベスト10」など、海外ミステリランキング6冠獲得
上巻
冒頭、編集者・スーザン・ライランドが、アラン・コンウェイ(仮想の作者)が書いた名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第9作『カササギ殺人事件』(本小説)の原稿を編集しようと読み始める。引き続き、仮想の(著者コンウェイの経歴、既刊書名、本シリーズに寄せられた絶賛の声)と、登場人物(ほぼ下記と同じ)が連なる。
上巻の本文
冒頭部に引き続き、小説の本文が始まる。英国の片田舎のパイ屋敷の家政婦・メアリ・ブラキストンの葬儀に集まる様々な人の描写から始まる。彼女は屋敷の階段から落ちて死んでいるところを発見されたのだ。彼女は村中の人の秘密を集めて記録していた。
数日後、屋敷の主の准男爵・サー・マグナス・パイが玄関ホールで剣で首をはねられて死んでいた。彼は多くの村人の恨みをかっていた。
余命いくばくかの名探偵アティカスの捜査が始まる。結局、真相を解明した彼は犯人の名を助手のフレイザーに告げて上巻は終わる。
下巻
編集者・スーザンは『カササギ殺人事件』原稿を読み終えて、すぐ、上司のチャールズに留守電し、結末部がないじゃないと怒る。そして、犯人をあれこれと推理し帰宅途中でアラン・コンウェイの死のニュースを聞いた。社に戻りチャールズからアランの遺書らしき手紙を見せられる。彼女はアランの自殺を疑い始める。一方でアティカスの捜査は着実に進む。
原題:Magpie Murders 2016年刊行
Magpieマグパイ(カササギ)といえば、オーストラリアのパースでよく見かけたAustralian Magpie (カササギフエガラス)に襲われたことを思い出す。(「マグパイに襲われる」「Willy Wagtailにも襲われる」)
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)
入れ子構造の二つの話がへたするとゴチャゴチャになってしまう。物語の中の家政婦と准男爵の死と、その『カササギ殺人事件』を書いたアランの死が結びついてしまい混乱している自分が面白い。
本編、主に下巻は、女性編集者スーザンが探偵役となり架空作家「アラン・コンウェイ」の死の真相と不明となった小説の終結部を探す物語だ。
もう1つは入れ子になった作中作、アラン著の名探偵アティカス・ピュントが活躍する物語だ。
ずるいのは(そんなこと言っても始まらないのだが)、アランも、そしてピュントも二人とも不治の病で話が混線しやすいのだ。この2つの物語が絡み合うところが読者の頭に刺激を与え、スパイスになって面白味を増す。
アンソニー・ホロヴィッツ Anthony Horowitz
1955年英国ロンドン生まれ。ヤングアダルト作品『女王陛下の少年スパイ!アレックス』シリーズがベストセラーになったほか、人気テレビドラマ『刑事フォイル』『バーナビー警部』の脚本を手掛ける。
他、『シャーロック・ホームズ 絹の家』『モリアーティ』『007 逆襲のトリガー』
山田蘭(やまだ・らん)
英米文学翻訳家。訳書にギャリコ『トマシーナ』、ベイヤード『陸軍士官学校の死』、キップリング『ジャングル・ブック』
登場人物
上巻
アティカス・ピュント:名探偵。余命3か月。65歳。
ジェイムズ・フレイザー:アティカスの助手兼秘書を6年務める。20代後半。。
サー・マグナス・パイ:准男爵。妻はレディ・フランシス・パイ。
フレデリック(フレディ)・パイ:マグナスとフランシスの息子。
クラリッサ・パイ:マグナスの双子の妹。教師。
メアリ・エリザベス・ブラキストン:パイ屋敷の家政婦。別れた夫はマシュー・ブラキストン。
ロバート(ロブ)・ブラキストン:メアリの長男。自動車修理工場勤務。28歳。
トム・ブラキストン:メアリの次男。12歳で溺死。
ネヴィル・ジェイ・ブレント:パイ屋敷の庭園管理人。
ロビン・オズボーン:牧師。妻はヘンリエッタ(ヘン)・オズボーン。
エミリア・レッドウィング:女性医師。50代前半。夫は画家のアーサー・レッドウィング。
エドガー・レナード:エミリアの父。元医師。
ジョージー(ジョイ)・サンダーリング:ロバートの婚約者。エミリアの診療所勤務。美人。
ジェフ・ウィーヴァー:墓掘り。息子はアダム。アダムの妻はダイアナ・ウィーヴァー。
ジョニー・ホワイトヘッド:怪しげな骨董屋。妻はジェマ・ホワイトヘッド。
ジャック・ダートフォード:レディ・フランシス・パイの愛人。
レイモンド・チャブ:バース警察刑事課の警部補。
ディングル・デル:屋敷に続く森。マグナス・パイは売り払い、住宅が建設されようとしている。
下巻
スーザン・ライランド:《クローバーリーフ・ブックス》文芸部門の編集者。アラン・コンウェイの担当。
チャールズ・クローバー:同社のCEOでスーザンの上司。65歳。秘書はジェマイマ・ハンフリーズ。
アラン・コンウェイ:本作の著者。アビー荘園に住む。ウエストミンスター校の元教師。
ジェイムズ・テイラー:アラン・コンウェイの恋人(男性)
メリッサ・コンウェイ:アランの元妻。アランとの間の息子はフレデリック・コンウェイ。
クレア・ジェンキンズ:アランの姉。
アンドレアス・パタキス:スーザンの恋人。ギリシャ人。ウエストミンスター校の教師でアランの元同僚。
ケイティ:スーザンの妹。夫と子供2人。
マーク・レドモンド:映像関係のプロデューサー。
ジョン・ホワイト:ヘッジファンド・マネージャー。
トム・ロブスン:牧師。
ドナルド・リー:ウェイター。元作家志望。アランに自作の構想を盗作されたと主張している。
リチャード・ロック:警視。
サジッド・カーン:アランの弁護士。