高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国ソマリア』(2013年2月20日本の雑誌社発行)を読んだ。
多くの武装勢力による激しい内戦が続き無政府状態にあり、世界を悩ます海賊が野放しになっている崩壊国家アフリカ東部のソマリア。冒険家・高野秀行が世界一危険なエリアに飛び込み、人々の中に潜入し、実状を報告する。
崩壊国家ソマリアには、
・10数年も平和で安全な独立国家の体裁を誇るソマリランド
・海賊の拠点となっている氏族連邦プントランド
・凶悪なイスラム原理主義集団アル・シャバーブや各種武将たちの戦場になっている南部ソマリア
の3地域(実質3か国)がある。
著者は3地域を巡り、指導者に会い、国の歴史を知り、人々と語って実状を把握する。ソマリアに入れ込んでしまった著者は、今や世界的にもまれなソマリア専門家になっていた。
国連や米国に和平仲介は逆効果
ソマリランドは国際社会の無視にもかかわらず自力で和平と民主主義を打ちたてた。というか、無視されていたから和平と民主主義が実現できた。国連が政府を作った南ソマリアは戦国時代のままだ。
氏族間の戦闘回避策
へサーブ:人が殺されたら、殺した側は一人当たりラクダ100頭を遺族に渡す。どちらか悪いかとか、原因は問わない。
「殺人の血潮は分娩の羊水で洗い流す」:加害者の一族から美しい娘を選び、被害者の家に嫁がせる。娘は最初辛い思いをするが、両方にとって孫となる子供が生まれると変わる。北部ではそれぞれが娘20人を差し出し紛争は収まった。南部ソマリアでは米軍が上陸し、捕まり殺された米兵が裸で引き回され、米軍は撤退した。
政府は小さい方が良い
プントランドと南部ソマリアは、中央政府が20年もないのに、電話会社もテレビ局も航空会社もあり、普通の国にあるものはたいていある。ないのは中央政府くらいだ。
中央銀行がなくなってから物価は安定した。旧紙幣のみで中央銀行が新しいお札を刷らなくなったからだ。
ソマリア(南部ソマリア)の首都モガディッショ
「建物はそこら中、銃弾の跡だらけで、砲弾で崩壊している建物も珍しくなかったが、道端にはオレンジや・・・の露店が出ているし、通行人の数も多く、・・・活気に満ちている。・・・インターネットカフェ、旅行代理店、・・・レンタル・ビデオ店・・・・・・。」
「肩から自動小銃を下げた人がそこら中にいる。あまりに普通に見かけるので、だんだん「現地で流行っているユニークな肩掛け鞄」みたいに見えてきたくらいだ」
「自動小銃を掲げた民兵が二人、立ち乗りしているバスが向こうから走ってきたのだが、バスの正面には大きくひらがなで「ようちえん」と書かれていて、そのシュールさに・・・」
戦争の実態
携帯会社と送金会社だけは襲われなかった。戦闘集団もこれらが必要だったから。政府の規制がないので、携帯通話料金は異常に安い。また、外国へ出国した人からの送金はソマリア経済を支えている。
元遊牧民であるソマリア人の特色
超速、せっかち、質問に即答、直ちに処理。時間はきちんと守る。「ソマリ人を20分おとなしく座らせておくのは、犬を20分おとなしく座らせておくのと同じくらい難しい。」「会話に切れ目というものが全然ない」
別れる時は挨拶しない。電話は唐突に切れる。人の話は聞かない。
物は何でも投げる。大切な携帯以外は。
初出:WEB本の雑誌(第1章、第2章)、その他書下ろし
高野秀行 略歴と既読本リスト
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
502頁の大部だが、読みやすく、「それで、それで、どうしたの?」とすらすら読み進められる。
高野さんの行動力、取材力にあらためてびっくり。親戚から借金しながらのわずかな資金、友人たちのつてを頼って、マスメディアも入り込めないソマリア潜入。そして、〇〇ハーブを噛み乍ら、現地の人に溶け込む。
記述はいつもの高野節で、ちょっととぼけて、ユルく、「いいね!」