「みをつくし料理帳」シリーズの『八朔の雪』(2009年5月)、『花散らしの雨』(2009年9月)、『想い雲』(2010年3月)、『今朝の春』(2010年9月)、『小夜しぐれ』(2011年3月)につづく第6弾で、ハルキ文庫の書下ろし。
お世話になった大阪の名料理屋「天満一兆庵」の若旦那を見つけ再建するという義、幼馴染の吉原の太夫を助け出すという友情、そして身分の異なる侍への秘めた恋、そしてこれらにからむ江戸の人をあっと驚かす創作料理。主人公のさがり眉の、地味だがひたむきな女性料理人澪(みお)を囲むこころ優しい人たちの出来事がしっとりとみずみずしく語られる。
宣伝に「シリーズ史上もっとも大きな転機となる、待望の第六弾!!」とある。義、友情と恋に決着がつこうとする。
迷いに迷った澪が聞く。
源斉は澪の横顔に視線を移し、少し考えて、答えた。
「私なら、心星(しんぼし)を探します
すべての星は心星(北極星)を中心に回る。迷った時でも、自分の中には揺るぎ無い、これだけは譲れないもの、それこそが、そのひとの生きる標(しるべ)となる心星だというのだ。
第6弾ともなると謎もはっきりと姿を現す。恋する侍との話も具体的となり、謎の大夫も澪と言葉を交わす。相変わらず、かっての若旦那佐兵衛は登場しないが、江戸での様子を語る人が現れる。しかし、話の本筋は、庶民の手の届く値段で、驚きと食べる喜びにあふれた料理を生み出す天才料理人澪のひたむきな努力の過程だ。
巻末付録に話の中に登場する4品の詳しいレシピが付いている。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
シリーズ累計150万部突破というのだから、面白くないわけがない。
今回は、特別付録「みをつくし瓦版」がついている。何故に年2冊との質問には、内容、構成、料理を考えるのに1、2ヶ月、執筆に2ヶ月、推敲、取材に2ヶ月必要との答え。レシピの付かない料理も含めて作中の料理は全て作っているとの答えも。また、作者は、書き始める前に設計図を作ってしまうタイプで、「何巻でどんな出来事が起こるか、大枠は最初に決めています、最終話のタイトルと場面も決まっています。」とのことだ。
ウーン、次回が最終巻なのか?? あと半年、まちきれないが、終わってほしくもない。
小松原、源斉、佐兵衛、誰が澪と結ばれるのか? 天満一兆庵の再興の道筋は依然見えなくなったがどうなるのか?
男同士の友情物語は昔からあるが、澪と野江、女同士の絆、友情もいいものだなあとしみじみ思うのだ。
高田郁(たかだ・かおる)は兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。
2006年、短編「志乃の桜」で北区 内田康夫ミステリー文学賞区長賞受賞。
2007年、短編「出世花」で小説NON短編時代小説賞奨励賞受賞。
2009年、『みをつくし料理帖』
シリーズ第1弾の「八朔の雪」は、「歴史・時代小説ベスト10」、「最高に面白い本大賞!文庫・時代部門」、「R-40本屋さん大賞第一位」を獲得。
その他、2010年『銀二貫』
『みをつくし料理帖シリーズ第4弾の「今朝の春」』
『みをつくし料理帖シリーズ第5弾の「小夜しぐれ」』
『銀二貫』
の解説に毎日放送アナウンサーの水野晶子が書いている。
まず、彼女は作品に登場する料理を全部、自分で作ってみる。それも一度や二度ではなく何週間も作り続け、納得のいく一品ができたからでないと執筆しない。
(中略)
「銀二貫」のときは、いつ電話しても「今、寒天をふやかしてるねん」とか「小豆を炊いてるねん」とか嬉しそうに話していた。