hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

窪美澄『トリニティ』を読む

2020年01月30日 | 読書2

窪美澄著『トリニティ』(2019年3月30日新潮社発行)を読んだ。

 

主人公は、1964年の東京五輪の年に創刊された男性向け週刊誌(モデルは「平凡パンチ」)の編集部で出会った3人の女性。

 

フリーライターの佐竹登紀子(モデルは三宅菊子?)はファッション誌の文体を確立したと言われる敏腕ライター。祖母、母も物書きで、裕福な東京子。
イラストレーターの妙子(モデルは大橋歩)は、田舎で貧しい子ども時代を過ごし、22歳の若さで雑誌の表紙に抜擢され、時代の寵児・早川朔になった。
鈴子は、当時の常識、寿退社を目指す、ふつうのOL。編集職に誘われたが、結婚を選び、専業主婦に。

 

物語は、妙子の葬儀で鈴子と登紀子が久々に再会し、鈴子の孫・奈帆が登紀子の昔語りを毎週聞きに行くことから進んでいく。圧倒的な男社会の中で、闘い、懸命に生きた3人の女たちの姿。 

 

題名の「トリニティ」は、キリスト教の三位一体、父と子と聖霊のことだが、本書では、かけがえのない三つのものと言い換えられる。
「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら――。50年前の3人の女たちは、何を手に入れようとしたのか?

  

初出:「小説新潮」2017年4月号~2018年6月号(2017年8月号は休載)

  

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

多少冗長ぎみの所はあるが、面白く読めた。女性の友情ものに目がないこともあり、甘めの評価だ。

何と言っても彼女たちと時代を同じくする私は、前のめりで読み進めた。平凡パンチ、東京オリンピック、東京タワー、新宿騒乱事件などなど青春の思い出が一杯だ。

 

妙子より1歳若い私は、高校一年の時、東京タワーが少しずつ高くなっていくのを毎日のように見ていた。

そして、1968年10月21日、国際反戦デーの夜に学生らのデモ隊が新宿駅構内に乱入した新宿騒乱事件。私は現場にいて、総攻撃の激がとぶ機動隊が横1列で迫ってきたとき、西口地下道への階段を降りた。しかし、シャッターが閉まっていて、もう終わったと思った。そのときふと、中核活動家の彼の一言を思い出し、難を逃れることができた。もし、あの時、彼の言葉が思い浮かばなかったら、おそらく今は……。

 

 

窪美澄の略歴と既読本リスト

 

 

「母の臑を盛大に齧る生活」(p116)は「すねをかじる」と推測で読めるのだが、書けない。ちなみに、同じ頁に、「親の臑をかじった」と書いてある。

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篠田節子『介護のうしろから「がん」が来た!』を読む

2020年01月28日 | 読書2

 

篠田節子『介護のうしろから「がん」が来た!』(2019年10月10日集英社発行)を読んだ。

 

アルツハイマー型認知症の母につき合って二十余年、ようやく施設へ入所して、一息ついた。今度は自分に乳がんが発覚。介護と執筆の合間に、治療法リサーチ、病院選び、検査、手術、還暦過ぎての乳房再建、同時進行で老健の母が問題を起こし、たびたび呼び出される。落ちこんでる暇はない。

直木賞作家・篠田節子の明るく元気一杯で、えげつないほどあけすけな闘病 & 介護エッセイ。


乳房再建手術を担当した聖路加国際病院・ブレストセンター形成外科医との対談「乳房再建のほんとのトコロ」も収録。

 

 

触診とマンモは毎回異常なしだったが、母親が老健に入所して手が空き、甲状腺穿刺検査したら厳重経過観察と言われた。その後、乳頭から出血があり病院へいくが、マンモの結果は白、エコーで五分五分。さらなる検査でクロと判定される。

「年寄りを自宅で看ていれば、要介護度に関わりなく、自分の体調は二の次、三の次になる。」……「病気が見つかって入院とか言われると、おばあちゃんを看る人がいなくなるので、いくら具合が悪くてもお医者さんには行かない」と当たり前のように語った知人もいた。

 

乳房温存手術し放射線治療か、あるいは切除手術するか? さらに、還暦過ぎて再建するか否か? 迷った末の著者の結論は切除し再建。再建後のブラジャーの話など、一つの例ではあるが実用上の役に立つ情報満載。

 

リハビリの経験から、動かさないと体は錆びつき、元に戻すには大変だと実感。行きとどいた看護はかえって本人に苦痛を残す。

 

施設での向精神薬の使用はメディアなどで批判されることが多いが、著者は必要な場合があると言う。(参考:このブログの「母(5)入院」

 

老健は原則3ヶ月なので新たな施設を探さねばならない。この経緯も我が事を思い出して、ただただご苦労様と伝えたい。(参考:このブログの「母(6)老健」

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

さすが小説家、臨場感、ユーモアたっぷりの語りは読ませる。それにしても、かなり手がかかる介護、自身の手術・リハビリ、小説執筆と大活躍の中で冷静さを保っているのには感心する。

 

楽しみにしていたおっぱいの話は、あけすけ過ぎて僕の夢を粉砕してくれた。認知症の母の暴言にも負けてない篠田さんの対応は小気味よい。がんと介護の話を明るく、たくましく戦う篠田さんの健闘も、実際は辛いに決まっているが、思い切りよい行動と、ユーモアある表現に包まれて、読んでいる私もグイグイ進んでいけるような気がする。

 

 

篠田節子(しのだ・せつこ)の略歴と既読本リスト

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ハン・ガン『そっと 静かに』を読む

2020年01月26日 | 読書2

ハン・ガン著、古川綾子訳『そっと 静かに 新しい韓国の文学18』(2018年6月25日株式会社クオン)を読んだ。

 

音楽、特に歌曲への著者のかかわりについて語る短編集。

 

【目次】
日本の読者の皆さんへ
1.くちずさむ
 子どもの頃から現在に至るまで、著者にとって音楽がどんな存在だったか。
2.耳をすます
 記憶の端っこに今もぶらさがる著者の思い出の曲
3.そっと 静かに
 著者が作詞作曲を手掛けて自ら歌った曲の歌詞と、そこに込めた想い
4.追伸
 原書ではまえがきに相当するが、日本の読者へのあいさつを新たに頂いたのでここに移した。
訳者あとがき
ハン・ガン オリジナルアルバム
 邦訳のために著者が再構成した。

 

 

紙のピアノ

5年生のころ、友だちのピアノ教室について行って、ピアノがたまらなく好きになる。母にせがんだが、貧しい家では買えるわけもなかった。文房具屋で買った紙の鍵盤を机に止めて、熱心に練習した。後に母はその姿を見るのがなにより辛かったと語った。

 

Let it be

手助けが頼めるひともいない子育ての時、書くことを封印し辛かった期間の事。この曲をかけ、家中の二重窓をすべて閉め、最大限にボリュームを上げ、部屋中の明かりをつけた。滑る靴下をはいてフィギュアスケートの選手のように床を滑って踊った。オムツも取れない子供が一緒に飛び跳ね、床を滑った。声の限りに歌いながら、たまに泣いた。興奮した子どもはその場でジャンプを続けた。それから子どもはヘイピーしよう、ヘイピーしようとねだるようになった。「レットイットビー」という言葉を覚えたのだ。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

著者ハン・ガンに関する部分は非常に面白い。例えば、上に書いた二つのような、子ども時代を含めた彼女自身の生活に関する部分には大いに興味を持って読んだ。

 

しかし、語られるおそらく韓国では有名な歌曲や、有名歌手に、まったくなじみがないので、歌の話には乗れなかった。

また、ところどころに注付きで登場する生活用品も詳細がわからない。例えば、「アレンモク」(オンドルの焚きだし口に近くて暖かい場所)、「プルパン」(金属の焼き型に小麦粉の生地を流し込んで焼いた食べ物)など、ズラズラと出てくる。残念なことに韓国は日本と遠い国だと思った。おそらく逆も真なのだろう。隣国のことを知らなくては! その歴史も含めて。

 

 

ハン・ガン(韓江)
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊「文学と社会」に詩を発表
1994年、ソウル新聞新春文芸に短篇「赤い碇」が当選し作家デビュー。
2005年『菜食主義者』で李箱文学賞、2016年にマン・ブッカー賞国際賞を受賞
その他、長編『少年が来る』、短編集『回復する人間』、『ギリシャ語の時間』、『すべての、白いものたちの』、エッセイ集『そっと 静かに

 

 

古川綾子(ふるかわ・あやこ)

神田外語大学韓国語学科卒業。延世大学校教育大学院韓国語教育科修了。神田外語大学講師。
第10回韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。
訳書、ウ・ソックン『降りられない船――セウォル号沈没事故からみた韓国』(クオン)、パク・ヒョンスク『アリストテレスのいる薬屋』(彩流社)、ユン・テホ『未生 ミセン』(講談社)、キム・エラン『走れ、オヤジ殿』(晶文社)などがある。

 

 

 

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「Subway」でランチ

2020年01月25日 | 食べ物

地下鉄でランチを食べたわけではありません。「Subway」という店でランチしたのです。

「ペニーレイン」といってもビートルズではありません。吉祥寺の南北コピスの間を東西に走る道沿いにあります。

 

オーストラリアのPerthパースでは毎日のようにお世話になった「Subway」ですが、日本ではご無沙汰していました。

11時半ごろ店に入ると、誰もいないので、ちょっと不安。

 

肉、野菜をコッペパン(古っ!)に挟むサンドイッチの店です。ただし、パン・野菜・ドレッシングの種類などを選ぶ必要があり、英語だとつくづくいやになります。

ここでは、選ぶものの絵が目の前にあって解り易く、なにより日本語です。ただし、若い店員さんの早口が年寄には聞き取りにくく、ときどき聞き返してしまいました。

 

外のメニュー看板

 

 

私はローストビーフとスープ(写真の下の方)

相方はえびアボカドとホットラテS(写真上)

 

 

出ることには、ぞれぞろ人が入って来た。

 

店内でパンを焼いていると書いてあったが、確かにパンが中の方がフワフワでおいしい。合計1551円と、なにより安く、細かな注文の仕方になれれば、いいじゃない。

 

 

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岸本葉子『ひとり老後、賢く楽しむ』を読む

2020年01月22日 | 読書2

岸本葉子著『ひとり老後、賢く楽しむ』(2019年7月23日文響社発行)を読んだ。

 

第一章 家で暮らす?老人ホームに入る?

36歳の時、20年前に想像した「老後」と今想像する「老後」は違う。「終の棲家」のつもりでも、どうなるかはわからない。今気になるポイントと、年とってから気になるポイントは違う。
・今のうちに施設見学に行ってみる

・「自分らしい暮らし」がどんなものか考える

・自分の住むまちの福祉制度を知る

第2章 老後の理想の住まい、どんな家?
6人の人のそれぞれのケース
・介護の経験があると自分の老後の参考になる
・体の衰えによって、理想の住まいは変わりそう

・老後に不安は人それぞれ。自分の不安は取り越し苦労かもしれない

第3章 老後は人生の一割と考えるお金の計画
毎月の収支、年間収支、保有資産、借入をまとめておく。
今高齢者のために何かしていれば、年をとったとき同じようなことを受けられると自然に思える。

第4章 人生後半こそ、自分のイメージと真逆のことを始める

守りに入らず新しい楽しみを見つける

第5章 80代、90代でひとり暮らしの人に聞いてみた暮らし方
サポートで家に入ってもらうからには、こうではない、ああでもない、みたいなおとを言ったら始まらない。

 

第6章 残りの人生がもったいない! 疲れる人間関係はリセットする

・今一緒に楽しめる人との関係を大切にする
・ストレスのある関係性は見直す

・「将来助けてもらいたいからつきあう」のはやめる

 

第7章 老後という「一人プロジェクト」を完成させよう

とりあえずヘッドライトの届くところまでを考える、何も見えないところのことを考えても仕方ない。

人に語れる趣味でなくてお夢中になれることを探す。

やりたいことリストを作る。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

既に十分に高齢者になっている私には、当たり前といえば当たり前のことが書いてある。素直に「そう、そう」と納得して読み進められる。得難い、有難い教えが得られるわけではないが、簡単に読めて、頭の再整理には良い。文章は明快で、わかりやすい。

 

高齢者数人に聞き取りしているが、統計的データはなく、単に人さまざまだなと思えるだけで、人によっては何の意味があるのかと思えるかもしれない。個々人の環境、個性は異なり、進むべきただ一つの道があるはずもない。過去にとらわれず、頭を柔軟にして、それなりにチャレンジして進むという考え方が進められるだけなのだ。

 

「趣味は小さなことでよい(五十代男性)」(119頁)に、街なかのトイレをきれいにするのが趣味との話が書いてあった。私も昔から公衆便所に入ると、トイレットペーパーを丸めて床に落とし、靴底で汚れをこすって和式便器に落とすなどわずかにきれいにして、ごく小さな親切を人知れず実行していた。ほんの僅かでもきれいになり、皆が実行すれば、どんどんピカピカになっていくのにと思いながら。まあ、完全に自己満足、趣味の世界で、人に話すほどのことではないのだが。

  

岸本葉子(きしもと・ようこ)
1961年鎌倉市生まれ。エッセイスト。
1984年東京大学教養学部卒後、東邦生命保険入社。
1985年『クリスタルはきらいよ』(就職活動の体験)
1986年退社して中国の北京外語学院に約1年留学
2001年虫垂癌の手術
2003年『がんから始まる』
2009年『買おうかどうか』
2010年『エッセイ脳 -800字から始まる文章読本
2011年『「そこそこ」で生きましょう』
2012年『ちょっと早めの老い支度』『おひとりさまのはつらつ人生手帖』『わたしの週末なごみ旅』など。
2013年『もっとスッキリ暮らしたい ためない心の整理術』
2014年『江戸の人になってみる』『生と死をめぐる断想』
2015年『昭和のほどよい暮らし』『二人の親を見送って
2019年『ひとり老後、賢く楽しむ

 

 

 

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「丸福珈琲店」でランチ

2020年01月22日 | 食べ物

 

東急吉祥寺店3Fの「武蔵野マルシェ」にある「丸福珈琲店」でランチした。

昭和9年創業の老舗珈琲店。卓上の説明には「多くの文化人・芸人の方々に愛されてまいりました。」とあった。「芸人」とは、さすが大阪の店。

 

 

私はビーフシチューセット。

まず小さなサラダが来る。

 

 

カリカリのフランスパン付きのビーフシチュー。

 フォークではバラバラになりそうに煮込んだビーフ。年寄二人の家庭ではなんでも柔らかくしてしまうので、ニンジンもブロッコリーも固めと感じるが、おそらく普通だろう。シチューも味は良いが、すこし濃い目に感じる。しかし、これも普通なのだろう。

 

奥様はイチゴとアイスクリーム添えのホットケーキセット。

 

 

二人ともセットなので、コーヒーと紅茶付き。二人でちょうど3千円。まあまあじゃん。

 

 

隣りにはおばあさんと男子高校生の二人ずれ。

おばあさんの問いかけに「ウン」だか「スン」だか、ほとんど口を開かない男の子。不機嫌な様子でもないが、孫娘と比較して、「男の子ってつまんないね」と思う。奥様はおばあさんと出かけるなんて、「えらいじゃない」と言うのだが。「どーせゲーム買ってもらうためじゃない」と邪推する。

 

 

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アレックス・マイクリーディーズ『サイコセラピスト』を読む

2020年01月20日 | 読書2

 

アレックス・マイクリーディーズ著、坂本あおい訳『サイコセラピスト』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No.1947、2019年9月10日早川書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

抑圧的な父親のもとで育ち、苦しんだセオ。自分と似た境遇の人々を救いたいと願う彼は、心理療法士になった。順調にキャリアを重ねるうち、彼はずっと気になっていた六年前の殺人事件の犯人――夫を射殺した画家――を収容する施設の求人広告を目にする。事件以降ずっと沈黙している彼女の口を開かせることができるのは、僕しかいない。そう思ったセオは、彼女の担当に志願するが……。《ニューヨーク・タイムズ》ベストセラー・リストに連続23週ランクイン。巧みなプロットと戦慄のラストに圧倒される傑作ミステリ

 

『サイコセラピスト』(The Silent Patient, 2019)はイギリスの作家、アレックス・マイクリーディーズのデビュー作。2019年2月に発表されるや、同月のうちにニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー・リストのトップとなり、その後半年間リストに居座りつづけた。

  

画家のアリシア・ベレンソンは、ファッション写真家の夫・ゲイブリエルの顔面に5発の銃弾を打ち込み、それ以降一言も言葉を発せず、〈アルケスティス〉という自画像だけを残して、精神科施設<ザ・グローヴ>に収容された。

心理療法士、セオ・フェイバーは、沈黙の患者アリシアに自分なら心を開かせられると、<ザ・グローヴ>に就職する。
 何故アリシアは夫を銃殺したのか、その後何故「沈黙の患者」となっているのか? セオは粘り強くアリシアの心を開こうとし、さらにアリシアの「過去」の関係者を訪ね歩く。心理療法士としても行動を逸脱し、まるで私立探偵のように。

 

 

アレックス・マイクリーディーズ Alex Michaelides
1977年キプロス生まれの作家・脚本家。ケンブリッジ大学卒業後、アメリカン・フィルム・インスティテュートで脚本を学ぶ。本書主人公のセオ同様、セラピーを受け大いに助けられ、その後、サイコセラピストになる勉強をし、精神科施設でも働いていた。その後は映画脚本家としてハリウッド映画に携わるものの、行き詰まり、小説を書き始める。

初の小説である本書『サイコセラピスト』が世界的ベストセラーとなる。


坂本あおい
青山学院大学文学部卒、英米文学翻訳家。

訳書に、サイモン・ベケット『出口のない農場』、フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』等多数。

  

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

セオは心理療法士のくせに、アリシアに異様にこだわり、自身も精神不安定で変なヤツと思っていたが、彼も彼女も子供の頃に父親からひどい仕打ちを受けて同じ様な心の傷に未だ悩んでいると分かって、納得した。

しかし、終結部の展開は意外や意外。

アリシアの沈黙の秘密を引っ張りすぎとも思うが、話のつくりは見事、よくできている。

 

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Sugarvine(シュガーバイン)でケーキとお茶

2020年01月18日 | 食べ物

 

井の頭通り沿い、都立西高の西側にある「Sugarvine」でケーキを買った。このブログ、2回目の登場

 

ケーキ屋さんなのだが、歩き疲れて喫茶コーナーでお茶とケーキを頂いた。

私はチョコレート系のケーキにコーヒー

 

 

相方はイチゴのショートケーキにローズティー

 

 

はやる気持ちを抑え、ケーキの箱を斜めにならないように気を付けて、わくわくしながら家に帰ってから食べるのもいいが、快適とは言えない店内の隅の喫茶コーナーで、さっそく食べて、飲んでゆっくりするのは「いいね!」

 

この店、男性もいることはいるが、ガラスの向こうのケーキを作っているところにも女性が多い。店に小学生が見学に来た時の写真が飾ってあったので、店員さんに、「ケーキ屋さんは女の子のあこがれの職業ですものね」と言うと、「う~ん、まだそうなんですかね」との返事だった。そういえば、最近ケーキが売れないとの記事を読んだ記憶がある。

おいしいものを我慢する人生なんて、なんの意味があるんだと言いたい。辛いことの方が多いに違いない人生で、いっときの幸せを我慢してはいけません。

 

そういえば、毎月の「イチゴのショートケーキの日」を知っていますか? 

それは、毎月22日です。カレンダーを見てください!

かならず、22日の上には15日(イチゴ)が乗っています。

おあとがよろしいようで。

 

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酒井順子『金閣寺の燃やし方』を読む

2020年01月16日 | 読書2

酒井順子著『金閣寺の燃やし方』(講談社文庫さ66-11、2018年2月14日講談社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

若い修行僧はなぜ火を放ったのか。「金閣寺焼失事件」に心を奪われ、共に事件を題材に作品を書いた三島由紀夫と水上勉。生い立ちから気質まで、すべてが対照的な二人を比較すると、金閣寺の蠱惑的な佇まいに魅入られずにいられない日本人特有の感覚まで見えてくる。著者ならではの分析眼が生きた文芸エッセイ。

 

金閣寺は、1950年、金閣寺の21歳の修行僧・林義賢によって放火され、全焼した。事件の6年後、三島由紀夫は小説『金閣寺を書き、12年後、水上勉は『五番町夕霧楼』、さらにその17年後に『金閣炎上』を書いた。

この本は、裁判記録などから放火犯・林養賢の推定できる実像を探ると共に、三島由紀夫と水上勉が書いた二つの小説を比較している。

 

あまりにも対照的な育ちの二人の視点はまったく異なる。

「表日本」で生まれ育ち、エリート街道から若くして作家として評価された三島は「絶対的な美」という天の視点に立ち、自らの観念をフィクションとして書き上げた。

「裏日本」に育ち、放火犯と同じ若狭の貧しい家に生まれ、口減らしで寺の小僧に出され、40歳で作家として一本立ちするまで裏街道を進んできた水上は「地を這うような貧しさ」という地の視点から見上げ、犯人の屈折した半生から、ノンフィクションともいうべき小説を書いている。

 

三島は対談の中で、「あれはね、現実には詰ンない動機らしいんですよ。見物人が来る、若いやつがきれいな恰好してね、アベックで見物に来たりする、それがシャクにさわる、…」「ああいうやつ」と語っている。

一方、水上は対談の中で、「宗教家を含めて百パーセントあれ(犯人)を国賊だと指差したけれど、僕は……捨てた人に降りていきたい、そう思った」と執筆動機を語っている。

 

本作品は、書き下ろし作品として2010年10月に講談社より単行本として刊行。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

著者はエッセイとしているようだが、文芸評論と言えるだろう。しかし、難しい話ではなく、面白く読める。相変わらず著者の話は分かりやすい。論理が明快、ストレートで文章はやさしい。著者の頭の中がよく整理されているからだろう。

三島のフィクションの筋立てと、水上の実録風の小説がはっきりとわかりやすく提示される。裁判記録などから推定すると水上の論に分があるが、もともと三島は、事件をヒントとして、自らの理想を小説として描きたかったのだろう。

 

なお著者は、犯人が育った僻地なども訪ね、よく著作、文献なども調べている。

 

著者の書き方は、三島に厳しく、水上よりだと思えるが、このようなことも書いている。

三島は死を描くときにもっともうっとりした筆致になった。水上は不幸を描くとき、筆は陶酔感とともに踊り、走った。膨大な仕事量をこなした水上は、自ら「貧困者の小説ばかり書いて金持ちになった」と書いている。

 

 

酒井順子の経歴と既読本リスト

 

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宮本英司『妻が願った最後の「七日間」』を読む

2020年01月14日 | 読書2

 

宮本英司著『妻が願った最後の「七日間」』(2018年7月30日サンマーク出版発行)を読んだ。

 

朝日新聞の投稿欄の掲載記事を私も覚えている。

 

  

2018年3月9日の朝刊のこの投稿の反響が大きく、本になった。

 

目次

詩「七日間」

「七日間」ができあがるまで

二人の物語:二人の出会いから親子4人での生活まで。妻・容子さんの余命を知ってから死の一年前までの日記。

夫婦について:夫・英司さんの思い出と感謝

最後の変身(あとがきに代えて)

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

容子さんの詩「七日間」と、英司の投稿記事は感動的なものだが、二人の出会いなど夫婦の物語はとくに読みたいと言うほどのものではない。せっかくいい話で完結しているのに、さらに本にする意味があったのかと思ってしまう。

 

 

宮本英司(みやもと・えいじ)
1947年、愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、大手製パン会社に就職。1972年、学生時代から付き合っていた容子さんと結婚。2児の父親となる。2018年1月19日、45年間連れ添ってきた妻が他界。生前に綴った詩「七日間」を新聞の投稿欄に応募したところ、掲載されて大反響となる。現在、愛犬「小春」ちゃんと暮らしている。神奈川県在住。

 

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キャスリーン・ケント『ダラスの赤い髪』を読む

2020年01月12日 | 読書2

 

キャスリーン・ケント著、府川由美恵訳『ダラスの赤い髪』(ハヤカワ・ミステリ文庫HMケ-8-1、2019年7月10日早川書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

テキサス州ダラス市警麻薬捜査課のタフな赤毛の刑事ベティ。彼女が追うメキシコ系麻薬カルテルの重要参考人が殺された。口封じなのか、カルテル同士の抗争なのか。捜査線上に浮かぶのは、元警察官のゴロツキやアジア系ギャング。さらには南軍に心酔する武装集団まで現れた。増える犠牲者、混乱する捜査…やがて彼女が直面する国境地帯の犯罪の真相とは?過去と現在の傷を乗り越えてゆくベティの闘いを描いた犯罪小説。

 

本作品は、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞にノミネートされ、《ニューヨーク・タイムズ》による「優れた新刊 犯罪小説部門(2017年3月)」の1冊に選出された。

原題は"The Dime"

 

 

主人公の女性刑事ベティ・りジックは、ブルックリン生れ、ポーランド系警官一家に育ち、警察学校を抜群の成績で卒業した。身長は180㎝、タフ、赤髪、頑固で口が悪い。保守的なテキサスへ異動し、ダラス市警察麻薬捜査課の刑事となった彼女は、レスビアンで、女性医師ジャッキーというパートナーがいて、署内でもマッチョな同僚刑事たちからの厳しいからかいにさらされる。しかし、彼女は正面から受け止め、反撃し、やがて‥‥。

ブルックリンで刑事部長を務めた叔父のベニーに心の中でアドバイスを聞く。

 

当初、メキシコの麻薬密売組織カルテルのアテキサス側実力者ルイスを追っていたが、より残忍な別組織の影が見えてくる。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

オモロイことはオモロイし、人物配置や舞台設定も良いのだが、話の流れにキレがない。年寄の私にとっては少々長すぎるのかも。

 

レスビアンの巨漢刑事がテキサスのマッチョな男性刑事達にからかわれ、やりかえす様が面白い。何度も危機に直面し、なんとか逃れいるベティのタフさには読んでいても疲れる。ベティが拷問を受けるシーンが長すぎる。

逆に、ジャッキーとのイチャイチャシーンは流れを止めていただけない。

 

 

キャスリーン・ケント Kathleen Kent
テキサス州ダラス在住の作家。これまでにThe Heretic's Daughterなど三作の長篇小説を発表し、優れた歴史小説に与えられる文学賞を受賞。

 

府川由美恵(ふかわ・ゆみえ)
明星大学通信教育部卒、英米文学翻訳家。
訳書『タンジェリン』マンガン、『サンクトペテルブルクから来た指揮者』グレーべ&エングストレーム、『黙示』ロッツ他多数。

 

 

メモ

 

エレベーターで会った見知らぬ年配夫婦の夫が言った。(273頁)

「長いあいだいい関係を続けるコツを知ってるかね?」

私は首を振り、お説教が始まるのかと身がまえたが、彼はただジャッキーを指さして、私にこう言った。「つねに彼女が正しいと認めることさ」

 

レストランの注文カウンターの上にあった看板(277頁)

“人生は短い………デザートにしよう”

「デザートは別腹」より良いかも。

 

 

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変わりタケ

2020年01月10日 | 食べ物

 

キノコが好きで、マルシェなどで変わったキノコを見つけると、そっと相方に気づかれないように籠の下に潜り込ませる。

撮った写真がパソコンに溜まっていたのでご紹介。

 

2019年4月の「あわび茸」

 

 

2020年1月の「あわび茸」

去年買って食べていたのをすっかり忘れて、これは珍しいとご購入

 

 

2019年4月の購入して冷蔵庫に入ったままの「乾燥しめじ」

 

 

2019年5月の「黒舞茸」 こだわりの「真」と名付けられている。

 

 

横から見ると

 

 

炒めたり、煮たりしたが、

いずれも味は、    キノコ味。

 

「じわ~っと、味が染み出て、プリプリ感とシャキシャキ巻のバランスが絶妙」

などタレントなみのコメントは無いのか!

 

 

 

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瀬尾まいこ『傑作はまだ』を読む

2020年01月08日 | 読書2

 

瀬尾まいこ著『傑作はまだ』(2019年3月8日ソニー・ミュージックエンタテインメント発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

元通りになるものなど一つもない。

しかしそれは決して不幸なことではない。

 

宣伝文句は以下。

「実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?」

そこそこ売れている引きこもりの作家・加賀野の元へ、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子・智が突然訪ねてきた。月十万円の養育費を振込むと、息子の写真が一枚届く。それが唯一の関わりだった二人。真意を測りかね戸惑う加賀野だが、「しばらく住ませて」と言う智に押し切られ、初対面の息子と同居生活を送ることに――。孤独に慣れ切った世間知らずな父と、近所付き合いも完璧にこなす健やかすぎる息子、血のつながりしかない二人は家族になれるのか? その「答え」を知るとき、温かく優しい涙が溢れ出す。笑って泣ける父と子の再生の物語。

 

加賀野正吉(まさきち):引きこもりぎみのコミュニケーションに難のある中堅作家。暗い小説が多い。

永原智(とも):血だけがつながった息子。

永原美月:智の母親。26年前飲み会で出会う。美人だが空っぽの21歳。

 

瀬尾まいこの略歴と既読本リスト

 

 

初出:WEBメディア「エンタメステーション」2018年12月2日~2019年1月31日まで連載

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

いつもにも増して、気楽に、簡単に読める。

気楽でさわやか、愛想のよい息子・智と、人付き合いが苦手でオドオドの父・加賀野の掛け合いを楽しんでいるうちに、最終段の感動の場面(??)へ。

WEB向けに気楽に楽しんで書いた作品のためなのか? これはこれでいいんじゃない。

 

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志水辰夫『背いて故郷』を読む

2020年01月06日 | 読書2

 

志水辰夫著『日本推理作家協会賞受賞作全集51 背いて故郷』(双葉文庫し20-01、2000年11月15日双葉社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

スパイ船の仕事に耐えられなくなり、商船学校の仲間だった成瀬に船長を譲って日本を離れる柏木。だが、その成瀬が何者かに殺される。真相を追い求め、あらゆる感傷を捨て去って男は闘う。港に、そして雪の荒野に次つぎと訪れる死。みんなわたしのせいなのだ―。傑作冒険小説。

 

この作品は、第39回日本推理作家協会賞長編賞を受賞し、直木賞候補ともなった。講談社文庫、新潮社文庫でも出版されている。

 

柏木斉(ひとし):ソ連沖での日本漁船の指導・監視業務の第六協栄丸の船長だったが親友の成瀬に譲り、インドネシアで働く。34歳。当時の部下は、牛島政市、勝又富雄、西元昇、菅谷巧の4人。

塩津義勝:協会職員として指導し、第六協栄丸に乗込む。40代後半。

吉岡誠二:塩津の上司にあたる警察官僚。

 

成瀬圭二:当直中、フィルム現像していて第六協栄丸の船内で殺された。柏木と商船学校以来の親友。実家は鶴岡。父は宗継、母は寿美子

成瀬早紀子:柏木を慕う。圭二の妹。大学卒業後、地元の経済連に就職したばかり。

諏訪優子:柏木が思いを寄せていたが、成瀬圭二と暮らすようになる。吉祥寺・近鉄裏のフランス料理店で働く。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

相変わらず風景描写がすばらしい。東北、北海道、北の大地の光景描写を読んでいるだけで寒々としてくる。身近な人を次々となくしていく柏木の心の虚しさがいやます。

寒々として光景の中での冒険、謎解き、悲恋が絡み合う。

 

最後の雪の荒野での死闘は、頑張りすぎだがリアル。

 

志水辰夫の略歴と既読本リスト

 

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芥川龍之介短編集』を読む

2020年01月04日 | 読書2

 

ジェイ・ルービン編、畔柳和代訳、村上春樹序『芥川龍之介短編集』(2007年6月30日新潮社発行)を読んだ。

 

ペンギン・クラシックスのジェイ・ルービン英訳の芥川の短編集 ”Rashomon and Seventeen Other Stories(2006)”を逆輸入した。つまり、芥川作品と村上序文を日本語の原文に復元し、編(訳)者ルービンの解説を日本向けに書き直したものだ。

 

まず、ルービンによる「芥川龍之介と世界文学」(畔柳和代訳)が19ページ

村上春樹による「芥川龍之介――ある知的エリートの滅び」が21ページ

本文は英語圏の読者を魅了した芥川龍之介の短編集で、第一部から第四部の四つのカテゴリーに分類される。

 

第一部「さびれゆく世界」:「羅生門」「藪の中」「鼻」「竜」「蜘蛛の糸」「地獄変」

第二部「刀の下で」:「尾形了斎覚え書」「おぎん」「忠義」

第三部「近代悲喜劇」:「首が落ちた話」「葱」「馬の脚」

第四部「芥川自身の物語」:「大導寺信輔の半生」「文章」「子供の病気」「点鬼簿」「或阿呆の一生」「歯車」

 

村上春樹は語っている。

日本の近代文学作家の中から「国民的作家」十人を選ぶとしたら、夏目漱石、森鴎外、島崎藤村、志賀直哉、芥川龍之介、谷崎潤一郎、川端康成、太宰治、三島由紀夫で、「あとの一人はなかなか思いつけない」と書いている。ただし、個人的に愛好するのは、夏目漱石と谷崎潤一郎で、芥川龍之介がそれに次ぐ。森鴎外も悪くはないが古典的すぎる。川端は苦手で、島崎と志賀には興味がない。芥川については、文体と文学的センスがあまりにも鋭利で、欠点にもなった。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

教科書で読んだ作品も多いが、歳を経て再読すべきだ。自分の考え方の変化が分かる。

執筆年別ではなく、背景の時代別に分けた4部構成は、作品理解の助けになる。

 

大学生で「鼻」を書いた才能、とくに文章力には驚かされる。若くて完成されていた。実体験を積み重ねず、才能だけを頼りに、新たなテーマを求めて何十年も書き続けるのは困難だったんだろう。第四部の作品群は、拒否していた私小説にたどり着き、命を削りながら、自ら命を絶つその日に向かって、ひた走っていくようで、哀切極まる。このあたりの分析は村上春樹の文が適切で、面白い。

 

 

芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)

(1892-1927)東京生れ。東京帝大英文科卒。

在学中、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。今昔物語をもとにした王朝物「羅生門」「芋粥」「藪の中」、中国の説話による童話「杜子春」などを発表。1925(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺。「歯車」「或阿呆の一生」などの遺稿が遺された。

 

ジェイ・ルービン Jay Rubin

1941年ワシントンD.C.生まれ。ハーバード大学名誉教授、翻訳家、作家。シカゴ大学で博士課程修了ののち、ワシントン大学教授、ハーバード大学教授を歴任。芥川龍之介、夏目漱石など日本を代表する作家の翻訳多数。特に村上春樹作品の翻訳家として世界的に知られる。

著書に『風俗壊乱:明治国家と文芸の検閲」『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽」『村上春樹と私』、小説作品『日々の光』、編著『芥川龍之介短篇集』がある。

英訳書に、夏目漱石『三四郎』『坑夫』、村上春樹『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『神の子どもたちはみな踊る』『アフターダーク』『1Q84』など。

 

畔柳和代(くろやなぎ・かずよ)

1967年生れ。東京医科歯科大学教授。

訳書にキャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』、マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』、ジョン・クロウリー『古代の遺物』(共訳)、バーネット『小公女』『秘密の花園』などがある。

 

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