hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

O・ヘンリー『1ドルの価値/賢者の贈り物』を読む

2019年09月30日 | 読書2

 

O・ヘンリー『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』(光文社古典新訳文庫KAへ2-1、2007年10月20日光文社発行)を読む

 

裏表紙にはこうある。

アメリカの原風景とも呼べるかつての南部から、開拓期の荒々しさが残る西部、そして大都会ニューヨークへ――さまざまに物語の舞台を移しながら描かれた、O・ヘンリーの多彩な作品群。20世紀初頭、アメリカ大衆社会が勃興し、急激な変化を遂げていく姿を活写した、短編傑作選。

 

最後のびっくり落ちと市井の人情話で知られる短編名手・O.ヘンリーの23篇の短編集。

「解説」と、「年譜」が追加されていて、続く「訳者あとがき」にこうあるが、言い得て妙だ。

何やら、普段は何をしているのやらよくわからないけれど、話だけはめっぽう面白い遠い親戚の叔父さんに久しぶりに会い、その叔父さんの語る奇想天外な物語に時を忘れて耳を傾けている気分を味わった。

 

物語が本という活字を介して伝播するようになる以前の、文字どおりの“語り”だったころの名残を感じた…。

 

なお、青空文庫でも4作品(賢者の贈り物、最後の一枚の葉、罪と覚悟、魔女のパン)を読むことが出来る。

  

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

O・ヘンリーといえばニューヨークの貧しい地域に住む人々の話と思っていたが、この本では米国の地方に住む人の話も出てきて、もっともっと幅広い作品があるのだと知った。最後のどんでん返しにすべてをかけるという点はすべて共通しているのだが。

添付されている著者の詳細な年譜を見ると、米国を幅広く移っているし、中米ホンジュラスまで行っている。逃亡だが。

 

あらためて、この本でO・ヘンリーを23編も続けざまに読むと、驚かせるストーリーテイラーだけでなく、文も巧みだし、観察は細かく、描写も簡潔で上手だと思った。

 

ところで、どうして「オー・ヘンリー」でなくて「O・ヘンリー」なのだろうか?

 

 

O・ヘンリー O.Henry
1862‐1910。アメリカの小説家。ノースカロライナに生まれ、テキサスで創作を始める。銀行勤務のかたわら週刊新聞を発行するが横領容疑で起訴され、中米ホンジュラスに逃亡する。帰国後、オハイオ州立刑務所に服役。出所した後はニューヨークに活動の拠点を移し、新聞・雑誌に多数の短編を発表して一躍人気作家に。没後、優れた英語の短編作品に与えられるO.ヘンリー賞が創設された 

芹澤恵(せりざわ・めぐみ)
成蹊大学文学部卒業。英米文学翻訳家。

訳書に、『夏草の記憶』(クック)、『愛しのクレメンタイン』(クラヴァン)、『夜のフロスト』(ウィングフィールド)、『裁きの街』(ピータースン)、『真夜中の青い彼方』(キング)など

 

 

気になった言葉

若者の悲しいは、分かち合う者がいればその者が分かち合った分だけ軽くなる。年寄の場合は、その悲しみを他者に分け与え、さらに分け与えても、最初に抱えていた悲しみは決して軽くならない。(伯爵と婚礼の客 p95)

 

 

 

以下、ネタバレぎみの自分へのメモ

 

「多忙な株式仲買人のロマンス」                                                                         
多忙な株式仲買人が、1年前から勤めている若い美貌の速記者に代わりの速記者を募集するように秘書に言っていたことをすっかり忘れていた。そして、株価大暴落の兆しの中、思い切って彼女にプロポーズする。しかし、既に‥‥。

「献立表の春」

レストランの毎日かわる献立表をタイプ打ちする仕事を請け負ったセアラは、夏に滞在した農場の息子・ウォルターと恋をし、春になったら結婚する約束をした。しかし、ニューヨークに戻った彼女に2週間も彼からの連絡がなかった。連絡がついたのは、献立表のWの文字が特徴あるタイプライターの癖があったから。しかし、タンポポ(dandelion)にはWの文字は入っていないのに??


「犠牲打」
「ハースストーン・マガジン」は専属の閲読者は置かず、様々な階層の読者から意見を得ていた。スレイトンは「恋こそすべて」の原稿を編集部へ持ち込んだ。この時、守衛が夫婦喧嘩していて、守衛の男は彼に「まあ、これが夫婦ってやつなんだろうね」、「あれがその昔、おれが夜も眠れないほど想い詰めた娘なんだからね。」といった。スレイトンは編集長がミス・パフキンに原稿閲読を依頼すると確信し、彼女に愛を告白し、結婚までしてしまった。雑用係の若者がミスをして‥‥。

「赤い族長の身代金」

誘拐した金持ちの悪童にてこずり‥‥。


「千ドル」

放蕩し放題のジリアンは、叔父の遺言状に従い中途半端な1000ドルを受取った。何に使ったか報告するという条件で。いろいろ使い道を探ったのち、彼は叔父が後見人をしていた大人しく善良な女性ミス・ヘイドンに叔父からだと言って千ドルを渡し、その旨封筒にしたためた。弁護士事務所で彼が無駄使いしなければ5万ドルを彼に、そうでなければ、ミス・ヘイドンにとの追加遺言状を聞かされた彼は……。


「伯爵と婚礼の客」「しみったれな恋人」 略

「1ドルの価値」

地方判事に、がらがら蛇を名乗る男から恨み節を記した脅迫状が届いた。有名な悪漢メキシコ・サムからで、判事は恋人といるときに彼に襲われたが、反撃に必要な強力な弾丸がなかった。鉛で作った出来の悪い偽造の1ドルコインを薬が必要な女のために使用し、有罪確実な男がいた。その証拠品の鉛のコインは判事のポケットにあって、‥‥。


「臆病な幽霊」


「甦った改心」

ジミー・ヴァレンタインは名人芸の金庫破りだった。エルモア銀行主の娘・アナベル・アダムズに一目ぼれして、改心し、街に住み着き、1年後、まもなくアナベルと結婚することになった。新型金庫の中に女の子が閉じ込められ、開けることができなくなったとき、彼は……。そして、彼を追い詰めた捜査官・ベン・プライスは……。


「十月と六月」

歳の離れすぎた大尉が女性にプロポーズして、断られる。チョーサー作「カンタベリー物語」の中の「商人の話」の場合が記憶にあるといっそう‥‥。


「幻の混合酒」


「楽園の短期滞在客」

避暑地のホテルに滞在する美しいイブニング・ドレスを着た優雅なマダム・ボーモン。チェックインの時にヨーロッパ航路の汽船の出港日をたずねたハロルド・ファリントン。


「サボテン」

トライスデールは、慕い慕われていた彼女との間がなぜ急激に潮目が変わったのかわからず嘆くばかりあった。彼のプロポーズに彼女は「お返事は明日、差し上げます」と言った。スペイン語が流暢という話を否定しなかった彼の所に、翌日何の手紙もなく送られてきたのはサボテンだった。待てども待てども返事は来づ、2日後パーティで逢った彼女は冷たかった。サボテンの名前はペントマルメ。スペイン語で“わたしを迎えにきて”だった。

 

「意中の人」

ハートリーは「決して後悔はさせない。きみに安らげる家庭を提供する。それができるのはぼくだけだ」と熱心にヴィヴィアンを口説いていた。ついに彼女は言った。「わたしのような立場の者が、お宅に乗り込んでいけるとお思いですか――エロイーズという人がいらっしゃるところに?」

ハートリーは「彼女には出て行ってもらう」「今夜だ」。ヴィヴィアンはエロイーズに代わる‥‥。


「靴」

ジョニーが赴任した国の町・コラリオで靴屋が成り立つかどうか問い合わせがあった。しかし、靴を履いている人は人口3千人のうち20人ほどで、「…靴の販売事業の可能性は不当に過小評価されているどころか無視されているのが現状で、相当数の住民が靴なしで生活しているのです。」との返事を出した。その結果、大量に靴を積み込んだ船が着いてしまった。考えあぐねたジョニーはアラバマ州の出身地に「棘のある木の実」を大量に注文した。


「心と手」

列車に乗ってきた手錠でつながれた二人の男が若い娘の前の席に座る。話しかけられた目鼻立ちの整った若い方の男は「左手で失礼しますよ。あいにく右手は、目下ふさがってるもんですから」と言った。右手を使えなくするのは……。


「水車のある教会」

幼いころに誘拐された娘が粉ひき歌で思い出す。

 

「ミス・マーサのパン」

古く硬くなったパンしか買わない男に、ミス・マーサはバターを挟んであげたが、‥。


「二十年後」

20年後にレストランで会おうと約束した二人の男。西部からやってきたボブとニューヨークにとどまったジミー。警察官と指名手配人だった。


「最後の一葉」

最も有名な作品。スウとジョンズイ(ジョアンナの愛称)とあるが、何回も読んだ作品だが、病気になった方がジョンズイなどという名前だっただろうか? 下の階に住む絵描きも「ベアマン老人」だったの? 最後ももっと印象が強い文章だったと思う。この本は原著に忠実な訳文になっているような気がする。


「警官と賛美歌」

これも最後がもっと衝撃的な文章だった気がするのだが?


「賢者の贈り物」

たしかに、贈り物の尊さは、贈る人が犠牲にしたその量の大きさがメジャーの一つになるのだろう。その意味で確かに大きな贈り物だったのだが、「賢者」という言葉はぴったりこない。


「解説 齊藤 昇」、「年譜」、「訳者あとがき」 略

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

傳田光洋『皮膚はすごい』を読む

2019年09月28日 | 読書2

 

傳田光洋著『皮膚はすごい――生き物たちの驚くべき進化』(岩波 科学ライブラリー 285、2019年6月5日岩波書店発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

ポロポロとはがれ落ちるような柔な皮膚もあれば、かたや脱皮でもしない限り脱げない頑丈な皮膚もある。生き物たちの皮膚は一見不合理のようだが、それぞれが進化の産物であり理由がある。からだを防御するだけでなく、色や形を変化させて気分も表現できる。生き物たちの「包装紙」のトンデモな仕組みと人間の進化がついに明らかになる。

 

皮膚の構造

人間の皮膚は、筋肉や内臓を包む筋膜の上、多くの場合皮下組織の上にある。皮膚の深い場所を真皮といい、コラーゲンなど弾力性ある繊維でできていて、クッションの役割を担う。真皮の上が表皮で、表皮の表面を覆っているのが角層。細い血管は真皮までで表皮には入っていない。神経の細い繊維は表皮にも入り込んでいる。

 

表皮は主にケラチノサイトという細胞からできていて、厚さわずか0.03〜0.05mmで、複数の層構造になっている。ケラチノサイトが分裂し、最内部の基底層から、一番外側の角質層に移動し、表面に向かって徐々に死に、外部へ垢となって放出される。 この代謝プロセス・ターンオーバーは約2ヶ月かかり、皮膚は再生を繰り返す。

つまり、角層は、死んだ細胞のレンガを脂質で積み上げて、水をはじく皮脂を分泌して防御している。

 

ケラチノサイトには五感あり、興奮と抑制の機能がある。つまり高度な情報処理装置であり、人間の表皮は、脳と同じレベルの個数、少なくとも1000億個以上ある

黒い色素・メラニンを作れるようになって紫外線を防御できるようになり、人間は体毛を失った。体毛で守られたゴリラやチンパンジーの地肌は白い。

人類は、体毛をなくしたことによって、表皮からもたらされる膨大な情報を処理するために大きな脳を持った。

 

人間の皮膚は角層が厚すぎるので、酸素を取込み二酸化炭素を放出する呼吸はしていない。汗をかくなど体温調節するだけだ。両生類は角層が薄いので皮膚で呼吸できる。

  

子供の頃、不潔な指しゃぶり・爪噛みで細菌を飲み込んだ方が、将来の免疫システムの過剰反応、アトピー性皮膚炎を抑える。

 

住居の床の細菌叢(さいきんそう)と家族の足の細菌叢は良く似ている。手やドアノブの細菌叢は似ていない。家族が転居すると細菌叢もついていく。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

人間とは何かを知ろうとしてこの本を読んだ。皮膚の表面は垢や常在菌などでおおわれている。その下は? どこまでがその人なのか? 口の中の、腸内の空気はその人なのか? 私は常にこんな哲学的な疑問に悩まされている。この答えを求めてこの本を読んだ。

 

私の高度な疑問に対する答えは主に最初の方の数ページだけだった。それも、皮膚の物理的構造を解説する第一歩のみ。あとは、様々な動物の皮膚の面白い話題が続く。異例なベストセラー『ざんねんないきもの事典』の悪い影響がここにある。物理学を専攻し、化粧品会社の研究所に勤める著者らしい研究成果を披露して欲しかった。他の生物学者の論文解説ではなく。

 

確かにわかりやすく、124ページとなにより薄いのがよい。

 

傳田光洋(でんだ・みつひろ)
1960年神戸生まれ。1985年京都大学大学院工学研究科分子工学専攻修士課程修了。京都大学工学博士。

1993‐96年カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員。

2009年から資生堂グローバルイノベーションセンター主幹研究員。

2010年から科学技術振興機構CREST研究員を兼任。

著書に『皮膚は考える』、『皮膚感覚と人間のこころ』

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

酒井順子『駄目な世代』を読む

2019年09月26日 | 読書2

酒井順子著『駄目な世代』(2018年12月15日KADOKAWA発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

受験戦争はらくらく通過、就職活動は売り手市場。苦労知らずで、おめでたくて、50代になっても後輩気分。愛すべきバブル世代に斬りこむ、自虐的(?)新・世代論。メディア、ファッション、名付け、ITなど、世代代表・酒井順子が見る、バブル世代の功罪とは。

 

著者得意の世代論エッセイ。著者の生まれた昭和41年丙午生まれを中心とした世代を『駄目な世代』と決めつけ、20項目に渡りなぜダメかを説く。著者によれば、『他の世代が50代だった頃よりも、今ひとつ活躍することが出来ずふわっと存在している』からだと。

 

「女子大生ととんねるず」

「オールナイトフジ」が始まった昭和58年(1983)、女子の4年制大学進学率は12%(短大は20%)、現在は50%近い女子が4年制大学へ。当時、「女子大生」の肩書は、今より少し珍重された。

著者が女子大生になった途端、「オールナイトフジ」は「夕やけニャンニャン」となり、「おニャン子クラブ」の女子高生がブームになった。

 

「『いつまでも若く』の呪縛」

自分は若い(高校生)から偉い、と思っていた私達は、ディスコに女子大生がいても「おばさんじゃん」という感覚。三十代以上の人については視界にすら入らず、「そういう人も人間なんだ」くらいに思っていました。

バブルの時代に社会人となり、キャーキャーする日々を過ごす。

 

「『聖子死ね』からの脱却」

意識高い系中年は努力を怠らない。しかし、いかんせん、うっすらと全身を覆う錆び感のようなものは、消すことができません。我々(本人)は美魔女気分を楽しんでいるだけですが、見ている側がつらく、周囲に、「イタい……」と思わせている。

 

「ナチュラルの波乗りこなせ」

…我々世代は、バブル崩壊後に反動としてやってきた「ナチュラルのビッグウェイブ」にぶち当たった世代なのであって、決して若い頃からナチュラルに生きてきたわけではありません。

 

初出:「小説 野性時代」2017年1月号~2018年8月号

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

いつもの世代論だが、著者が若い頃から現在まで長い時間の時代の流れを語っているのが新しい。内容は下世話な芸能ネタで時代の空気を語っているので、解り易い。

そうそうそんな人いたと、懐かし芸能人がいろいろ登場。もちろん時代がずれているのでほんの少ししか知らない最近の(?)人も多いのだが。

 

 酒井順子(さかい・じゅんこ)の経歴と既読本リスト

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

酒井順子の経歴と既読本リスト

2019年09月24日 | 読書2

酒井順子(さかい・じゅんこ)
1966年東京生まれ。立教女学院在学中から雑誌にコラムを執筆。
立教大学社会学部観光学科卒。博報堂入社。3年で退社。
2003年『 負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞・講談社エッセイ賞受賞。

現在、同居人(男性)と二人暮らし。


その他、『女も、不況?』、『儒教と負け犬』、『もう、忘れたの? 』、『 先達の御意見』、『世渡り作法術』、『ズルい言葉』、『泡沫日記 』、『ほのエロ日記 』、『そんなに、変わった?』(一回目)、『そんなに、変わった?』(二回目)、『中年だって生きている』、『子のない人生』、『楽しむマナー』、『下に見る人』、『駄目な世代』、『センス・オブ・シェイム』、『金閣寺の燃やし方』、『家族終了』、『うまれることば、しぬことば』など。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「秀山祭九月大歌舞伎」を観る

2019年09月23日 | 行楽

 

「秀山祭九月大歌舞伎」を観た。何十年ぶりかの歌舞伎だ。

「都民劇場」の「都民半額観劇会」へ申し込み、抽選落選後、追加申込で見事当選したのだ。

 

 

明治末期から昭和にかけて活躍した現在の播磨屋の祖・初代中村吉右衛門の功績を顕彰して2006年に始ったのが秀山祭だ。(秀山は初代吉右衛門の俳号)

12回目にあたる今回は、初代吉右衛門の父・三世中村歌六の百回忌追善狂言も上演されている。

参考:歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」初日開幕 

 

 昼の部は、極付幡随長兵衛、お祭りと、伊賀越道中双六沼津。

ド素人には必須のイヤホーンガイド700円を借りて、2階席へ。4列と前の方だが、なんと一番右端の席。花道の端しか見えない。これでも一等席で18千円なのだ。といっても、追加当選で、半額の9,500円だからと諦めるしかない。

  

河竹黙阿弥作「極付幡随長兵衛」三幕 (「公平法問諍」大薩摩連中)

 

始まりは「公平法問諍」(きんぴらほうもんあらそい)という劇中劇。生臭坊主を坂田公平(きんぴら)がやりこめるという内容だが、観客から邪魔が入り、それを追い払ったのが幡随院長兵衛。高い所からこの劇を見ていたのが水野十郎左衛門ということで、長兵衛の家に舞台は移る。

松本幸四郎が江戸の俠客・町奴の頭・幡随院長兵衛を演じる。

長兵衛と敵対しているのが、尾上松緑演じる、旗本で白柄組を率いる水野十郎左衛門。水野の屋敷への招かれた長兵衛は命を狙われているのを承知のうえで、屋敷を訪問する。さらに、だまし打ちされるのを承知で風呂に入り、壮絶な最期を遂げる。

 

「お祭り」清元連中

赤坂日枝神社の山王祭。鳶頭(梅玉)が踊り、やぐらに登って太鼓を叩いたりする。酔った鳶頭と芸者二人(魁春と梅枝)も絡んで踊る。大勢の若者が打ちかかってくるのを、鳶頭が軽くあしらい、踊り続ける。

宙がえりが繰り返され、床を叩く音も高らかに響く。

 

ここでネット予約した折詰弁当をいただく。1800円でお茶付き。味は合格。

三世中村歌六 百回忌追善狂言 伊賀越道中双六「沼津」一幕

旅人の呉服屋十兵衛が年老いた雲助の平作と出会い、そのあばら家へ行くことになる。そこで娘の美女・お米に一目ぼれして強引に泊まることにする。ここらあたりまでは、明るく面白い話で進む。

以下、話の筋道はややこしく、知りたい人は「歌舞伎演目案内」をご覧あれ。

 

その後、十兵衛が親子の情と大恩ある人への義理とに引き裂かれる悲劇に変わっていく。

 

以下のポスターは、吉右衛門の呉服屋十兵衛と、歌六の雲助平作の悲劇の場面。

「歌舞伎美人」の「秀山祭九月大歌舞伎」特別ポスター公開より)

吉右衛門は体調不良で16日から休演していたが、前日の19日から復帰し、めでたく拝むことができた。

 

「沼津」の第一場では、中村歌昇と中村種之助演じる旅人夫婦の倅として、歌昇の長男、小川綜真が初お目見得した。異様に小さく見え、可愛い!

 

義理と人情の板挟みなどさすがに古すぎるテーマだが、舞台や衣装は華やかで、床を鳴らす派手な音、役者のキレのある動き、幕間の弁当などハレの日の雰囲気も艶やか。やはり歌舞伎は舞台で見ないと!

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柚木麻子『ナイルパーチの女子会』を読む

2019年09月20日 | 読書2

 

柚木麻子著『ナイルパーチの女子会』(文春文庫ゆ9-3、2018年2月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

商社で働く志村栄利子は愛読していた主婦ブログーの丸尾翔子と出会い意気投合。だが他人との距離感をうまくつかめない彼女をやがて翔子は拒否。執着する栄利子は悩みを相談した同僚の男と寝たことが婚約者の派遣女子・高杉真織にばれ、とんでもない約束をさせられてしまう。一方、翔子も実家に問題を抱え――。 解説・重松清

 

本作は山本周五郎賞、高校生直木賞を受賞。

 

国内最大手商社に勤める30歳の志村栄利子は年収1000万円をとうに超すやり手のキャリアウーマン。彼女はアフリカのビクトリア湖に繁殖する生命力の強いナイルパーチの輸入・流通が担務だ。一方で、彼女は力が抜けていて不思議と節度がある同い年の「おひょう」の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』に癒されていた。栄利子にさりげなく興味を示す同僚の杉下は派遣社員の高杉真織(まおり)と密かに交際している。

 

「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と気ままに暮らしている。本を出す話があって編集者の花井里子とカフェで話しているのを、近所に住んでいた栄利子が偶然聞いていて、翔子に話しかける。女友達が居ない共通の悩みを持つ二人は急速に親しくなってゆく。

 

翔子も、家族を捨て出て行った母親と、いまだ実家で放埓な生活を続ける父親、彼女の家に入り浸っていて頼りにならない弟の洋平がいて、悩みを抱えていた。

翔子が数日間ブログの更新をしなかっただけで二人の関係はあやしくなって、常識あると思っていた栄利子がストーカーになって、ますます過激化し、ストーカーとは違うことを翔子に証明しようとする。

 

 

ちなみに、タイトルにある「ナイルパーチ」Nileperchとは、かってズキという名で売られていた癖のない白身魚だ。私はオーストラリアのパースでよく買って食べていた。「ナイルパーチを買う

 

初出:「別冊文藝春秋」2012年11月号~2013年9月号、単行本2015年3月(文藝春秋刊)

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

自分はストーカーではないことを証明しようと何十通もメールを出す栄利子がリアルだが、くどくて読んでいて嫌になる。ストーリー展開が強引で話に入り込めない。

話の筋道はよく、駄作ではないが、傑作とも言えず、すくなくとも冗長だ。

 

群れたがる女子を、友達なんかいなくても良いのにと冷ややかに見ていた私はしらけて途中読み飛ばした。

 

 

柚木麻子の略歴と既読本リスト

 

 

ちょっとした言葉

誰もが身をよじり涙を流すおど、共感を求めている。共感するためなら、いくら金を払ってもいいと思っている。共感を求めているからこそ、誰もがネットを手放すことができない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉田修一『続 横道世之介』を読む

2019年09月18日 | 読書2

 

吉田修一著『続 横道世之介』(2019年2月25日中央公論新社発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。横道世之介、24歳。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美しきヤンママとその息子。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。

 

主人公は当然前作『横道世之介』と同じ横道世之介。前作から6年後の1993年。就職活動で52社全敗し、留年したもののなんとか大学は卒業。現在バイトとパチンコで食いつなぐ24歳。

のんきな極楽とんぼで、善良だけれど自分勝手、くさったりすることなく常にマイペースで、人を受け入れる度量もある。

著者は語る。(「小説丸」)

リアルなものを全部詰めていって、真ん中にぽーんと空いているところにいるのがフィクションの人物(世之介)ということですね。

人生でうまくいかなかった時期を書こうと思いました。僕にとってそれは二十四、五歳の頃で、金もないしやることがなかった。

 

ちなみに前作の登場人物は世之介以外、登場しない。

 

描かれるのは1993年4月からの一年間。4月、パチンコ店で見かけた若い女性・浜本が何故か五分刈りにしようかどうか理容室の前で迷っている。6月、コモロンの部屋から近所のマンションを双眼鏡で覗き見したシングルマザーの桜子と出会う。

時々、30年後の話が混じる。

 

コモロン・小諸大輔:世之介同様留年組だが、有名証券会社に就職。相変わらずの飲み友達。世之介と米国旅行し、帰国後米国へ24歳で留学。5年後香港の投資会社に就職。40歳前にベトナム旅行。ホーチミン市で10年暮らす。

浜本:昼間はパチンコ、週何度か居酒屋店員のバイト。鮨職人希望で女性なのに五分刈りにする。後に「鮨はまもと」を出店。

日吉桜子:亮太の母親。実家は小岩の自動車修理工場。兄は元ヤンキーの隼人

 

初出:「小説BOC」1(2016年春号)~10(2018年夏号)

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

なにより409ページと大部なのに楽しく読める。世之介のダメ人間にもかかわらずお気楽ぶりが、俺の方がまだ良いかと安心感を与えてくれる。

 

辛い話が多いせいか、前作のような透き通る爽やか感がない。
来年2020年のオリンピックマラソンが無理やり追加されている感がして、何でも感動させようとするオリンピックに反感がある私はちょっと引く。

 

時々時代が変わった話が混じるので混乱する。

 

 

吉田修一の略歴と既読本リスト

 

 

世之介が幼い亮太に言い聞かせる

「……いいか、亮太。弱い人間っていうのは、弱い人からおもちゃを取ろうとする人のことだぞ。逆に、強い人間っていうのは、弱い人に自分のおもちゃを貸してあげられる人のこと。分かるか?」

そして、初めて亮太にあったとき、「ああ、こいつは強い人間になれるかもしれない子供だぞ」と思ったという。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フィル・ナイト『SHOE DOG 靴にすべてを』を読む

2019年09月16日 | 読書2

 

フィル・ナイト著、太田黒泰之訳『SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを』(2017年11月9日東洋経済新報社発行)を読んだ。

 

誰もが知る世界的スポーツブランド「ナイキ」の創業者の自伝。

 

フィル・ナイトは、スタンフォード大でMBAを取得した。1962年、陸上選手だったのナイトはスタンフォードの起業セミナーでランニングシューズについて研究発表した。

 

スポーツシューズ輸入会社ブルーリボンを24歳で起業。戦後復興期日本のオニツカ(現アシックス)のタイガーという製品に惚れ、単身神戸に乗りこんで商談をまとめ、米国でかつての敵国の靴タイガーを売りまくる。

事業は拡大し、売上は倍々で増加するが、オニツカとの関係が悪化し、地元銀行から見捨てられ、資金繰りがつかなくなる。そこを救ったのが商社の日商岩井。この間フィルは公認会計士の資格をとり生活を支えるため会計士として会社に勤め、二刀流をこなす。

 

会社名をナイキとして、自前で靴を開発し、有名選手とタイアップし、アディダスに迫っていく。以後も、さまざまな危機がベンチャーに襲い掛かる。常にキャッシュフロー枯渇、タイアップ選手の死、オニツカとの訴訟、突然の巨額な関税要求などなど。

風変わりな二人から突飛なアイディアであるエアーシューズのアイデアが持ち込まれ、さらに飛躍した。

 

タイトルの「SHOE DOG」とは靴の製造や販売に命を懸ける人々を指す。フィルの陸上コーチでもあったビル・バウワーマンは多くのオリンピック選手をを育てたが、ランニングシューズの改良にも熱心で、共同経営者となった。以下、ユニークなメンバーが次々と加わり、その多くが陸上経験者で、SHOE DOGだった。

 

各見開きページの下部には1962年(創業)から1980年(株式公開)までの目盛りがあり、目下の話がどこで、何年かが明示されている。

 

原著:”SHOE DOG : A Memoir by the Creator of Nike ”

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

短期間で考えた通りに一本道を驀進した会社成長記録ではない。あちこちぶつかりながら、靴オタクで不屈の仲間たちが成長していく話だ。大部でちょっと冗長気味だが、スラスラ面白く読める。

 

完璧を誇りがちな偉人伝ではない。きわめて人間臭く、過ちも多く書いているし、感情を爆発させてしまったことも、仲間との喧嘩もあけすけに書いている。性格も、必ずしも明るくはなく、しかし当然仕事は猛烈で不屈、他人にも厳しく、鼻持ちならなところもある。もちろん、仲間が慕ってくるように、いいやつで、正直でもある。

 

株式公開で資産100億ドル(1兆円)になったフィルは、文中、多くの所で「金ではない」と言っている。大金持ちの常套文句だ。私もつぶやく「金ではない」。いや、違った。「金はない」だった。

 

 

フィル・ナイト Phil Knight

スポーツ用品メーカー、ナイキの創業者。1938年生まれ。オレゴン州ポートランド出身。オレゴン大学卒業。大学時代は中距離ランナーとして、伝説のコーチ・ビル・バウワーマンの指導を受ける(後にナイキの共同創業者)。1年間のアメリカ陸軍勤務を経て、スタンフォード大学大学院でMBA取得。
1962年、「ブルーリボン・スポーツ」社の代表としてオニツカの靴をアメリカで売り始める。その後ブランド「ナイキ」を立ち上げ、創業メンバーたちと「ナイキ」を世界的企業に育て上げた。1964年から2004年まで同社のCEO、その後2016年まで会長を務める。

 

大田黒奉之(おおたぐろ・やすゆき)
京都大学法学部卒。洋楽好きが高じ、主にミュージシャンの伝記の翻訳を手掛けるようになる

 

 

フィルが日商岩井の元CEO速水優(はやみ・まさる、その後日銀総裁)の別荘を訪ねた。フィルが「挑戦的なマネージャーが居ないので外に求めているが、私たちの考え方が独特なせいか、うまくいきません」と嘆いた。速水は「あの竹がみえますか」「来年来られた時は1フィート伸びていますよ」と言った。フィルは長期的に考え、今のチームを辛抱強く育成しようと努力することとした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平間俊行『カナダの謎』を読む

2019年09月14日 | 読書2

 

平間俊行著『カナダの謎 なぜ『赤毛のアン』はロブスターを食べないのか?』を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

知らなかったカナダの魅力を、深く、わかりやすく楽しむ。この本を読むと、絶対にカナダに行きたくなる! 

カナダというと大自然のイメージが強いが、実は先住民の時代からヨーロッパ人との出会いを経て、今日に至るまで重厚な歴史をもつ。一方で、大国でありながら世界に名の知れた英雄をほとんど輩出することもなく、それでいて国際的には非常に評判が良い。なぜそんな不思議で魅力的な国が生まれたのか、どのように育ってきたのかを、カナダに魅了されたカナダマニアの著者が、豊富なビジュアルとわかりやすいテキストで紹介する。

 

表題「なぜ『赤毛のアン』はロブスターを食べないのか?」の答え

昔ロブスターは腐るほどとれて、畑の肥料にした時もあった。イギリス系の人からはロブスターは貧しいフランス系漁師が食べるものとされていた。『赤毛のアン』の著者・モンゴメリーはスコットランド系なのでロブスターは登場しない。

 

スコットランドからの移民のマッキントッシュさんが森に自生する新種のリンゴを見つけ、そのリンゴの名前が「マッキントッシュ」になった。

 

カナダは3段階の主要産業により発展していった。

第一は、帆船時代の航海を支えた軽くて保存が効く干し塩タラ(コッド)。

第二は、西からやってきたロシアによるラッコの毛皮取りと、東から西に向かったヨーロッパ人のビーバー狩り。当時、ヨーロッパでは高級帽子の材料としてビーバーの毛皮が求められていた。

第三は、ウクライナ人をはじめとする移民が労苦の末に開拓したプレーリー(Prairie大平原)の小麦。

 

 

目次
誰も知らない「宝物」

1章 赤毛のアンの謎 
2章 先住民の謎
3章 カヌーの謎
4章 タラの謎
5章 ロッキーの謎
6章 トーテムポールの謎
7章 カウボーイの謎
8章 小麦畑の謎
9章 アイスロードの謎
10章 ワインの謎
■データ集
カナダがよくわかるマップ(先住民/開拓/野生/動物/絶景/世界遺産/グルメ/博物館)
カナダ1000年年表
まだまだあるカナダの謎(クイズ)
参考文献
あとがき
各章の最後には「マニアックなカナダ旅」

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

解り易い内容で、写真も多く楽しめる。

東と西、そして北に広がるカナダ全体をこの小冊子で理解するのはもともと無理だ。そこで10個の謎だけに答える形をとっている。しかし、この謎の設定がカナダには何回も訪れている私から見ると、多少ずれていると思える。(私のこのブログでカナダ訪問記は、カナダ東部(19)、バンクーバー(72))

 

私に言わせれば、米国のすばらしいところはそのままに、嫌味なところを取り去ったのがカナダだ。暴力的でない、傲慢でない、不健康でない、他文化に無理解でない、‥‥。豊かな自然、おおらかな人柄、自由な雰囲気、‥‥。

 

 

平間俊行(ひらま・としゆき)
ジャーナリスト。1964年、宮城県仙台市生まれ。報道機関での勤務のかたわら、2013年から本格的なカナダ取材を開始。歴史を踏まえたカナダの新しい魅力を伝えるべく、Webサイトや雑誌などにカナダの原稿の寄稿を続ける。

2014年7月『赤毛のアンと世界一美しい島』(マガジンハウス)、2017年6月『おいしいカナダ 幸せキュイジーヌの旅』(天夢人)を出版。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮下奈都『静かな雨』を読む

2019年09月12日 | 読書2

 

宮下奈都著『静かな雨』(文春文庫み43-3、2019年6月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

行助は美味しいたいやき屋を一人で経営するこよみと出会い、親しくなる。ある朝こよみは交通事故の巻き添えになり、三ヵ月後意識を取り戻すと新しい記憶を留めておけなくなっていた。忘れても忘れても、二人の中には何かが育ち、二つの世界は少しずつ重なりゆく。文學界新人賞佳作に選ばれた瑞々しいデビュー作。  解説・辻原登

 

100ページ足らずの中編小説「静かな雨」と約50ページの「日をつなぐ」の2編の短編集。

「静かな雨」

生まれつき足に麻痺があり松葉杖を使う行助(ゆきすけ)は、勤めていた会社が潰れた日、駐車場で美味しいたいやき屋を営む「こよみさん」を知る。行助は大学の研究室の助手となり、繁盛するたいやき屋に通い、こよみさんと親しく付き合うようになる。

こよみは行助の目が「秋の、夜、みたいな色。静けさが目に映ってた。引き込まれそうだった。それと、」「もう半分はあきらめの色」と言った。

彼女は昔、リスボンという名のリスのを飼っていた。好物の胡桃をあげると、少しかじってから人目につかない所に隠す。死んだ後、部屋のあちこちから胡桃が出て来て、また泣けたという。


母や姉にこよみさんを紹介した後、こよみさんは交通事故に巻き込まれ意識不明になる。行助は病院に三月と三日通いつめた。こよみさんは意識を取り戻したが、寝て起きると前日の記憶がない記憶障害になっていた。

二人は一緒に住むようになる。最初心配していた姉もこよみさんとよく話しこむようになり、「こよみさんは、ただものじゃないよ。ユキ、あんたにはもったいないわ」と言うようになった。

こよみさんはいろいろなことをメモに書いて、いろいろなところに隠すようになった。行助は、なんでもない日々の暮らしの記憶が積み重なって、毎日の生活の中での思いで人はできているんじゃないかと思い、たまらなくなった。

 

「日をつなぐ」

真名は、福井の海の見える小さな町で同じ中学に通っていた修ちゃんを好きになった。修ちゃんは秋田で就職し、真名は結婚して見知らぬ町に移った。出産し、修ちゃんは帰りが遅く、真名は一人で絶望的な子育てをする。食べられず身体に力が入らなって、ふと母が豆を煮てくれたことを思い出す。バイオリンを弾いたことないのに弾きたいと思うようになった。もう我慢しない。修ちゃんと一緒にごはんを食べたいと言おう決める。修ちゃんも話したいことがあるという。

 

 

初出:「静かな雨」文学界2004年6月号、単行本2016年12月文藝春秋刊。文庫化にあたり、角川文庫のアンソロジー『コイノカオリ』に2004年2月収録の「日をつなぐ」を併録。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

今を時めく『羊と鋼の森』の宮下奈都のデビュー作だ。淡々と進む日常の話の中に、すでに独自の世界を確立していたのに驚かされる。既に7冊宮下さんの本を読んでいて、初めてデビュー作を読んだのだが、「なんだ、最初から宮下奈都じゃないか」と思った。

 

悲しみが身体の底の方に漂う話だが、悲壮感はなく、行助の最後の言葉でほっと息をつく。

僕の世界にこよみさんがいて、こよみさんの世界には僕が住んでいる、ふたつの世界は少し重なっている。それで、じゅうぶんだ。

 

「日をつなぐ」には子育てにボロボロになる母親が描かれるが、宮下さんは3人目の子どもを妊娠中に、このままでは自分の時間がなくなると思い、デビュー作を書いたという。

 

 

宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生れ。 上智大学文学部哲学科卒。
2004年、本書「静かな雨」が文學界新人賞佳作入選、デビュー。
2007年、『スコーレNo.4』がロングセラー
2009年、『遠くの声に耳を澄ませて』、『よろこびの歌』
2010年、『太陽のパスタ、豆のスープ』、『田舎の紳士服店のモデルの妻』
2011年、『 メロディ・フェア』、『 誰かが足りない
2012年、『窓の向こうのガーシュウィン』

2013年、エッセイ『はじめからその話をすればよかった

2014年、『たった、それだけ

2016年、『羊と鋼の森』で2016年本屋大賞受賞

その他、『終わらない歌』、『神さまたちの遊ぶ庭』、『つぼみ』、『緑の庭で寝ころんで』、『とりあえずウミガメのスープを仕込もう』など。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柴田翔『されどわれらが日々――』を読む

2019年09月12日 | 読書2

 

柴田翔著『されどわれらが日々――』(文春文庫し4-3、2007年11月10日文藝春秋発行)を読んだ。

知人が思い出の本の一つに挙げたのを聞いて、やたら懐かしくなり、再読した。 


裏表紙にはこうある。

1955年、共産党第6回全国協議会の決定で山村工作隊は解体されることとなった。私たちはいったい何を信じたらいいのだろうかーー
「六全協」のあとの虚無感の漂う時代の中で、出会い、別れ、闘争、裏切り、死を経験しながらも懸命に生きる男女を描き、60~70年代の若者のバイブルとなった青春文学の傑作。    解説・大石静

 

第51回芥川賞受賞作品の「されどわれらが日々――」と、「ロクタル管の話」の2作品から成る。

 

序章にある以下のような諦観したようなトーンが、この本全体を貫いている。

古本屋の店先のワゴンに並ぶ一冊二十円程度の本の中にときおり英文学関係の聞いたこともないような翻訳書がある。訳者あとがきを読むと、興奮して熱っぽい調子で書かれている。その結果は古本屋の均一本になっているのに。

俺だって、あと半年もすれば、地方の大学の語学教師になり、やがて一冊位訳書も出すだろう。そしてその時は、俺だってやはりちょっと興奮し、熱っぽい後書きを書き、そして、少しの間、幸福になるだろう。

 

 

私、大橋文夫:東大大学院修士課程。来年修了後、節子と結婚し、F県のF大に就職予定。付き合っていた女の子たちは、私が彼女たちのことを、けして本当には愛していないこと、愛することができないことを敏感に感じ取り、私から離れていった。

佐伯節子:英語と、フランス語を少々。東京女子大卒業後、翻訳係件タイピストとしてI商事会社勤務。

佐野:東大駒場の歴研部員。古本屋にあったH全集の元持主。共産党の地下軍事組織に潜入と決まった日に節子と出会った。六全協決定で痛手を受け、S電鉄に勤務。自殺する。

野瀬:東大駒場歴研キャップだった私とも、節子とも知り合い。富士重東京本社勤務。

曽根:駒場での私の同級生で、英文科助手。冷静で無党派の活動家。佐野の最後の手紙の受取人。

梶井優子:私の芝居仲間。自殺

 

 

単行本は1964年8月文藝春秋新社より刊行。本書は1974年6月刊行の文春文庫の新装版。

 

柴田翔(しばた・しょう)

1935年東京生まれ。1935年東京大学大学院独文科修士課程修了後、ドイツ留学。1944年東大助教授就任し、教授、文学部長を歴任し、1995年退官し名誉教授。

1964年、本作品で第51回芥川賞受賞

主な作品、『贈る言葉』、『立ち盡す明日』、『鳥の影』、『わらら戦友たち』、『ノンちゃんの冒険』

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

遥か昔に読んだ本だ。私の“センチメンタルジャーニー”であるゆえに、五つ星を付けた。あの時代を通り抜けなかった20代~50代の人には共感しずらい小説なのだろうと思う。

解説の脚本家・大石静が言うように、「私はこれでいいのか?」と問い続ける姿と、60年安保の挫折感、諦観、そしていい意味のセンチメンタルな文章が心にしみる。「無様でも真剣な奴は美しい」ということが今の若者には通じにくい。大石さんは言う。「生きていることは、悲しいことなのだと知ってからが、人生なんだよと知ってもらいたい。」

 

 

ひっかかる言葉

「‥‥不幸が幾種類かあるんだね、きっと。そして、人間はそこから自分の身に合った不幸を選ばなければいけないのだよ。本当に身に合った不幸を選べば、それはあまりによく身によりそい、なれ親しんでくるので、しまいには、幸福と見分けがつかなくなるんだよ」(私・文夫の言葉、P26)

 

「あの党は、政治の党派のくせに、人間全部を要求するんだ。だから、あの中では、人は、互いにひどく結び合っているようで、ひどく孤独なんだよ。佐野はそれにだまされていた‥‥っていうより、だまされたがっていたんだ」(曽根の言葉、p55)

 

恋愛というイメージは、私にははじめから、不在だった。……そこには、多少の羨望はあるとしても、失望はない。私たちの世代は期待とは無縁の世代だ。あるいは、私は、と言おうか。私は、明日起きるだろうことを予め人に教えるところの意味体系を持つ世界には育たなかった。私の前にあったのは、継起する事実だけだった。私は、事実から、世界とは何かを学んだ。私には失望は無縁だった。(文夫、p128)

 

あなたは誠実でした。あなたの前にいた私のほしかったのは、そんな誠実さより、たとえまやかしでもいいから、一歩私の方へ歩みよってみようとするあなたの微笑だったのに。(節子の言葉、p200)

 

私が、いつも、相手の人と何かを共有したり、二人の生活の中に何か共通の意味を持ちたいと願ったのも、茫漠とした世界に中に確かな杭を打ち込みたい、それを一本一本と打ち込むことによって、そこに単なる時間の流れではない歴史と呼ぶにたるものを生み出したいと願ったからであり、更に、それによって私たちははじめて、私たちのまわりに拡がるこの無限の空間、私たちをやがて死の中に消してゆくだろうこの無限の時間に堪えることができるかも知れないと感じたからに他なりませんでいた。それは、求めるに難きものであったかも知れないにせよ、求めずに過ごせるものではありませんでした。(節子、p211)

 

私たちの世代は、きっと老いやすい世代なのだーー、その老い方は様々であるとしても。(文夫、p220)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小栗左多里『ダーリンは外国人』を読む

2019年09月10日 | 読書2

 

小栗左多里著『ダーリンは外国人』(2002年12月28日メディアファクトリー発行)を読んだ。

 

漫画家の小栗左多里が、後に夫となるトニーとの日常生活を描いたいわゆるエッセイ漫画。

日本人から外国人を見て、とくに結婚して日常生活の中で、文化、考え方のギャップをネタにして、面白味を抉り出す。現在では似た趣旨の作品も多いが、おそらくこの種のものの初めて(?)の作品かも。

8作のシリーズの最初。

 

ところどころに「トニーのひとりごと」として1ページだけトニーの意見が挿入されている。

 

日本語ペラペラなトニーが道を聞くと、「ガイジンだ、ガイジンだ、英語喋れない、どうしよう」と、日本語で聞いているのに大慌てする。ならばと、微妙な関西弁で聞くと、一瞬不審な人だと疑ってから、場がくだけるという。

 

 

小栗左多里(おぐり・さおり)

1966年生。漫画家。

岐阜県関市出身。岐阜県立加納高等学校美術科、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。

2012年、ドイツのベルリンに移住し、息子が一人

ダーリンシリーズの最新刊は「ダーリンは外国人 まるっとベルリン3年目」

 

トニー・ラズロ

年齢不詳。1985年頃来日。イタリアとハンガリーのハーフでアメリカ育ち。

特技は、一輪車に乗ること。語学オタクで、日本語はペラペラ。

職業・ジャーナリスト、大学講師
彫りの深い顔と顔半分を覆った髭がトレードマーク。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

マンガだから、パラパラ見て、クスっとしたり、なるほどと思ったりしたので、これはこれでいいのでは。

 

外国人と日本人の文化ギャップより、トニーの極端な真面目さが目立ち、あきれ気味の面白味を誘う。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉田修一『パーク・ライフ』を読む

2019年09月08日 | 読書2

 

吉田修一著『パーク・ライフ』(文春文庫よ19-3、2004年10月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?
スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。

 

ほかに東京で新生活をはじめた夫婦が、職場の先輩に振り回されてしまう「flowers」を収録。

 

「パーク・ライフ」

電車の中で「ちょっとあれ見て下さいよ。…」と会社の先輩・近藤さんに振り向いて話しかけたつもりが、近藤さんは既に降りていて、そこには見知らぬ女性がいた。その女性が平然と応じてくれたので周囲の失笑を免れた。

僕はそのころ、自宅近くの宇田川夫妻のマンションで暮らしていた。夫妻はうまくいかなくなって二人とも家を出ていて、飼っていたリスザルのラガーフェルドの世話を頼まれていた。


日比谷公園のベンチに先程の女性がスターバックスのコーヒーを片手に座っていた。思わず駆け寄って、話しかけると、気楽に応じて、こう言った。

「私ね、この公園で妙に気になっている人が二人いるのよ。その一人があなだだったの。こんなこというと失礼だけど、いくら見てもなぜか見飽きないのよね」

 

彼女に写真展に連れていかれ、帰りの階段で

彼女はぼくを見つめると、「よし。……私ね、決めた」と呟いた。

通りへ出ると、「それじゃ」と軽く片手を上げて、そのまま歩き出した。

 

 

「flowers」

僕(石田)は地元九州の墓石会社で働いていた。妻の鞠子が突然、喜劇女優になると言い出し、上京した。二人とも22歳だった。僕は飲料水の配送会社で働くことになる。そこには、一緒に働いていた従兄の幸之介に似た望月元旦の助手を務めることになった。主任の永井さんは社長の息子の慎二さんと中学の同級生だが、あることないこといつも怒鳴られていた。

 

初出誌:パーク・ライフ「文學界」2002年6月号、flowers「文學界」1999年8月号

単行本:2003年8月文藝春秋刊

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

何も出来事らしい出来事は起こらない「パーク・ライフ」は面白い。男と女の互いに名前も知らないという距離感が、何か不安で、好ましく、友達でもなく、ましてや恋人でもない新しい関係を思わせる。

公園近辺でしか逢わないが、気楽に話す、そんなどこか空虚な関係が虚しさを紡ぎだす。一方で、べたなことなしのあっさりした関係が心地よさも感じさせる。

 

「flowers」は話の内容は変わっている点もあるのだが、全体として平凡。何事にも動じない望月元旦が面白いが、性格がよくわからない。

 

 

吉田修一の略歴と既読本リスト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柚月裕子『凶犬の眼』を読む

2019年09月06日 | 読書2

 

柚月裕子著『凶犬の眼』(2018年3月30日KADOKAWA発行)を読む

 

ヤクザ同士の熾烈な殺し合いと、はみだし警察官が絡み合い、映画化もされた『孤狼の血』シリーズの第2弾。

 

前作で広島県警呉原(くれはら)東署暴力団係として大上の下で鍛えられた日岡秀一巡査は、懲罰人事で広島県北の駐在所勤務に飛ばされていた。

 

平成元年、四代目の座を巡り明石組が、明石組7千名、心和会1万名に分裂した。平成2年にはそれぞれ1万2千、3千と勢力が逆転した。追い詰められた心和会のヒットマンが明石組組長の武田と、若頭豊永、ボディーガードの畑山を襲い、殺害した。襲ったのは心和会の北柴組傘下の義成連合会長の国光といわれ、指名手配された。

 

退屈な毎日を過ごす日岡が広島に出て、晶子の店に寄ったところで、偶然、指名手配中のヤクザ・国光と出会う。国光は、まだ残っているやることが済んだら日岡に手錠を嵌(は)めてもらうから、と告げる。

 

その後、日岡の受持ち区域のゴルフ場開発予定地の工事責任者・吉岡として再び国光は姿を現す。日岡は、県警刑事に戻れるような効果的なタイミングで逮捕しようと国光を泳がせることにした。

 

国光はなにを狙っているのか、日岡は国光に取り込まれてしまわないのか。明石組と心和会との壮絶な殺し合い、より大組織の仁正会などの動きの中で、義に生きるヤクザと道を外しそうな警察官が互いを信じながら、駆け引きする。

 

初出:「小説野性時代」2016年6月号~2017年2月号、8月号~10月号

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

シリーズの前作『孤狼の血』に比べて、インパクト不足。日岡のキャラもガミさんこと大上ほど立っておらず、魅力不足。警察官が犯人を見つけてそのまま付き合っていくのも理由がはっきりしない。ヤクザの国光は魅力的だが、任侠に殉じ過ぎで、現実味に欠ける。

  

 

柚月裕子 経歴&既読本リスト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有元葉子『ぬか漬け帖』を読む

2019年09月04日 | 読書2

 

有元葉子著『ぬか漬け帖』(2019年5月30日筑摩書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

おいしいお漬けものは暮らしを変えてくれるから――。「ぬか漬け作り」は私の料理教室でも、最も人気のレッスン。母親ゆずりのぬか床をかき混ぜて約半世紀、今日もぬか漬けを刻めば、ごはんの時間が始まります。

 

私・冷水は、10年以上ぬか漬けをなんとか続けている。大根、蕪、キュウリ、人参などごく平凡な野菜を漬けるだけだが、ほぼ毎日の食卓には漬物が並ぶ。相方から引き継いだだけで、特にノウハウがあるわけでもない。そこで、あらためて自分の方法が一般的なのかどうか、この本を読んでみたのだ。

 

この本の内容は、ごく初歩的な漬物入門で、ぬか床の作り方、基本的な漬物野菜、容器の選び方、かき混ぜ方、多少のノウハウ、発酵学者・小泉武夫との話などである。

 

おいしくするために入れるもの

辛塩じゃけの頭をこんがり焼いたもの:3日程度ですっかり消えてしまい、びっくりするほどおいしくなる。(ちょっと入れる気にならないのだが)

青梅の実:大きくてかたい実に限る。半年以上かたい実のままで食べられる。(これも季節も限られていて無理)

乾燥大豆:水が多くなってきたら一つまみ入れる。(レモン果汁もどきが入っていたプラスチックのビンに穴をあけてぬかの中に潜らせているので不要)

赤唐辛子、にんにく、しょうが:ぬか床の風味のために入れる。(私もときどき七味唐辛子をふりかける)

昆布:適当な大きさに切って入れる。柔らかくなったら食べる。(私もときどき入れる)

 

漬ける野菜

茄子:縦に半分程度切込みを入れ、薄くぬかを挟んで漬ける。出すときは、ぬかを洗い落とし、へたから下に向けてぎゅーっと絞る。

小松菜:水気を切って軽く塩をして漬ける。軽く干してからも早く漬かりOK。

セロリ:葉も茎も、使い残りもOK。

キャベツ:適当な大きさのものを芯がついたまま漬ける。(葉物は付いたぬかが失われるのでほとんど漬けないが、くるくる葉を巻いて漬けてみよう)

 

古漬け

刻んでから水につけて搾り、塩ぬきし、薄く切っておろししょうがなどと醤油で和えていただく。(我が家では、噛むとどっと染み出てくる乳酸に顔を破壊されながら食べている)

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

難しい小理屈でなく、実践家の解り易い話で、役に立つ。ただし、内容は初心者向け。

人から人へ伝えていくことが多いので、一度、他のやり方を本で学び、自己流を振り返るのもよい。

気楽にはじめ、いやだったら中断するなど片意地張ることない漬物術入門書だ。

 

 

有元葉子(ありもと・ようこ)
イタリア料理や和食はもちろん、おいしくて美しく、野菜をたっぷりとれるレシピで定評のある料理研究家。インテリアや暮らしのスタイルにもファンが多く、雑誌やテレビ、お料理教室などその活躍の場は多岐に及ぶ。使い勝手をとことん追求したキッチン・ツール「ラ・バーゼ」を提案、またセレクトショップ「shop281」も好評。『料理は食材探しから』(東京書籍)でグルマン世界料理本大賞・食の紀行部門でグランプリ受賞。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする