hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』を読む

2015年03月31日 | 読書2

  

阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』(2014年11月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

なにしろ、あの阿部和重と伊坂幸太郎が合作で書いた小説なのだ。

 

 

主な舞台は2013年夏の東北地方、山形市と仙台市、そして蔵王。
「アタッシェケースを持った男が現れたらこれを渡してくれ」

部屋番号のメモが取り違えられたところから事件が始まる。


小学生のとき、同じ野球チームで、戦隊ヒーローもののドラマ『鳴神戦隊サンダーボルト』のファンだった2人の男(著者二人もそうなのだろう)が20代後半で再会。借金取りに追われ、破滅寸前の男2人が、事件に巻き込まれ、そして一攫千金のチャンスにめぐり合う。彼ら2人と色っぽい美女は、危険な謎に迫っていく。

  • 謎1:第二次世界大戦末期、10万人が殺された東京大空襲のその日、なぜか蔵王にB29が墜落した。
  • 謎2:蔵王の御釜(五色沼)では死亡率70%を超える「村上病」の病原菌発生。国民にはワクチンが接種される。
  • 謎3:すでに完成していた映画版『鳴神戦隊サンダーボルト』が突然公開中止となった。

 

主な登場人物

相場時之:小学生の野球チームのピッチャー。気分屋、ひねくれもの、無鉄砲。今はバッティングセンターで働く。知り合いの女性がたちの悪いAV事務所をやめさせ、かなりな借金を負い、母が働く実家の解体工事が始まりそうになっている。

井ノ原悠:一人息子の健剛がアレルギーの治療でとても返せない借金を負う。仕事はコピー機の販売だが、細工して情報を盗み取っている。桃沢からの公開中止となった映画に関する情報収集を請け負う。ばったり相場に出会い、絶対これだけと頼まれて、事件に巻き込まれる。

桃沢瞳:いざというときに、女性特有のガイノイド脂肪で男の脳の偏桃体を刺激する美女。亡くなった父は医系の役人。

巨大な銀髪の怪人:日本語を話せないのでスマートフォンの音声通訳アプリで会話する。何をやっても死にそうにない。

 

 

本のWEB特設サイト」に、著者二人とのこの作品の制作などに関する対談(1~5回)などがある。

 

 

この作品の書き方は、二人でアイデアを出し合って、タイトルも決めて、

最初に、「とりあえず骨組みを作りますね」と言って、僕がプロットの表を作ったんですよね。かなり、ざっくりですけど。(伊坂)

文体は、

章ごとに順番で書いていったんですが、・・・最終的には、まず伊坂さんが全体を直して、次に僕が全体を直すという。掛け値なしに合作と言っていい小説になっていると思いますね。

「神戸牛か、我々の合作か?」というぐらいの霜降り状態で(阿部)

 

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

何より著者たちが楽しんで書いているのが良い。阿部さんは純文学と思って敬遠してきたが、ノリノリで書いている。完全にエンタメに徹していて、読みやすい。

 

村上病の謎は、ハリウッド映画で何回か見たし、最初から予想がつくのでどうかなと思う。

 

相葉と井ノ原の凸凹コンビが面白く、いつもの伊坂さんのユーモアある会話が結構。場面の映像が目に浮かぶのもいつもの伊坂節で、素晴らしい。

 

 

伊坂幸太郎&既読本リスト

 

阿部和重(あべ・かずしげ)

1968年生まれ。山形県出身。
1994年、「アメリカの夜」で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。

『無情の世界』で野間文芸新人賞、『シンセミア』で伊藤整文学賞・毎日出版文化賞をダブル受賞

『グランド・フィナーレ』で芥川賞

『ピストルズ』で谷崎潤一郎賞を受賞。

他の著書に『ミステリアスセッティング』『クエーサーと13番目の柱』『□(しかく)』『Deluxe Edition』など

妻は川上未映子。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米澤穂信『満願』を読む

2015年03月28日 | 読書2

 

米澤穂信著『満願』(2014年3月20日新潮社発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!

 

 

山本周五郎賞を受賞し、「このミステリーがすごい! 」・「週刊文春ミステリーベスト10」・「ミステリーが読みたい! 」ともに第1位を獲得した作品。

 

「夜警」
部下・川藤浩志巡査は殉職し二階級特進し警部補になった。川藤の最初の配属先が勤続20年のベテラン・柳岡巡査部長の勤務する緑1交番だった。柳岡は、川藤が警察官としての資質を欠いていることを一目で見抜く

警官に向かない資質には何タイプかがある。警官として守るべき最後の一線が理解できない者、自分の見たものがこの世のすべてだと思い込む者、すべての人間は一皮剥けば真っ黒だと思い込む者などは早めに辞めた方がよい。川藤は小心者だった。そして、予感は的中する。しかも、事件の背後には川藤のごまかしがあったのだ。

 

「死人宿」

職場の上司から嫌がらせや恫喝を繰り返されていると佐和子が訴えても、どこにでもそういう奴がいるものだと常識的に答えるばかりで、結局恋人には何もしてやらなかった。失踪した佐和子は山奥の温泉宿の仲居に納まっていた。宿から河原に下りると火山ガスが溜まりやすい窪地があって、楽に綺麗に死ねる死人宿として評判だった。風呂場に置き忘れた手紙から自殺者が誰かを推理し、見事止めることに成功するのだが、・・・。

 

「柘榴」

とりわけ美人の私は、どことなく人気がある佐原成海と結婚することに成功する。彼女は生まれた二人の娘、夕子、月子を心から愛した。しかし、夫・成海は決まった職にも就かず、女たちに貢がせるしまつで、離婚の話が進む。そのとき、親権者として姉妹が選んだのは? 40歳が近づいても衰えない容色をもつ彼女か、うわべは優しいが生活力がない夫か? そして、姉妹の希望を叶えるための手段は?

 

「万灯」

バングラデシュでガス田開発を目指す商社マンが奮闘する。そして、開発に反対する現地リーダーのアラムだけでなく、ライバルで共犯者である森下も殺してしまう。(そこまでやる?)

 

「関守」

事故の相次ぐ峠近くのドライブインで、雑誌記者の取材に応じていた老女。次々と、ああ、あの人は・・・と語りだす。そして、自分の娘の身の上話になったとき、お定まりのように、力が出なくなってきて・・・。

 

「満願」

弁護士の藤井が独り立ちして初めて取り扱った殺人事件。弁護人は、貧乏で勉強を続けるのが困難なころに世話になった下宿先のつつましく優しい女性・鵜川妙子。彼女は夫が借金を拵えた相手を刺殺して罪に問われたのである。藤井は事件には計画性がなく突発的なものだったとなんとか証明し、一審判決で懲役8年に持ち込んだ。被告は「もういいんです。先生、もういいんです」と裁判を続けることを許さず、控訴を取り下げた。

事件現場の証拠品だけは検察に預けられ、差し押さえを免れていたということが、真相へのヒントになる。

 

 

 

米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年岐阜県生まれ。金沢大学文学部卒業。
大学卒業後、2年間だけという約束で書店員をしながら執筆を続ける。
2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞受賞しデビュー。
その他、『遠まわりする雛』『さよなら妖精』『春期限定いちごタルト事件』『愚者のエンドロール』『儚い羊たちの祝宴』『犬はどこだ』『ボトルネック』『インシミテル 』『遠まわりする雛』『ふたりの距離の概算』など

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グッチ・カフェへ

2015年03月26日 | 食べ物

銀座のグッチへ行って、のぞいただけで帰るのもなにかと思い、4Fへ上がった。

さすがGucci。高級感あふれる空間。無礼でなく慇懃な応対。

小さなチョコレート4個の箱でもと良く見ると、小さな文字の値段が2200円。びっくりするような値段ではないが、驚いてしまう。

店内に恐る恐る入ると、広くゆったりした配置の中に、3組ほどの小金持ちが。

メニューを見ると、平日ランチセット3,300円、15時からのデザートセットで2,100円、コーヒー900円で、たまには良いかなという値段。

まず、出てきた水は、大きく楕円形のカップに入っていた。

奥様はカフェラテ950円。最初オーストラリアで見たときは驚いたが、今やお定まりとなった絵柄付き。

私はなんとか普通ではないものをと、マキアート900円。

これお勧めです。なにしろ、2200円/4個=550円のチョコレートが付いてくる。おまけに、炭酸水付きだ。

店員さんは、フィレンツェのグッチ本店にもカフェが有るらしいと言っていたが、ガイド本では店とは別のところにカフェがあるようだ。





コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

和田秀樹『医者よ老人を殺すな!』を読む

2015年03月16日 | 読書2

 

和田秀樹著『医者よ老人を殺すな!』(2014年10月1日KKロングセラーズ発行)を読んだ。

 

表紙の裏にはこうある。

歳をとればとるほど、病院のお世話になる頻度は高くなる。ところが、皮肉なことに、歳をとればとるほど病院や医者を信用できなくなる。残念だが、これが日本の老年医療の現実なのである。これはもう二〇年も変わっていない。まず、このことを広く国民に知ってほしい。その上で、どうすれば自分の親の世代、そして自分を含めた家族を守っていけるのかを一緒に考えていきたい。(本文より)

 

 

老人の場合は血圧、特に最高血圧は多少高い方が良い。やたら下げると危険だ。80代になると女性の84%は骨粗しょう症になるのに、糖尿病やガンと同じレベルで病気だと騒ぐ必要はない。骨折につながる率もそう多くはない。

 

(私には、著者の専門の精神科の話の方が興味を引いた)

精神科には、「もう死にたいです」と訴える老人の患者がくることがあり、自殺するのではないかと心配する。しかし、こういうときは、本当に死にたいという気持ちのほかに、「死にたいくらいつらい気持ちを、誰かに聴いて欲しい」と強く訴えている・・・

 

せん妄が認知症と違うのは、症状が出っぱなしということはなく、時間がたってある程度落ち着いたり、原因となるものを取り除いてやると、元のレベルに戻ることである。

 

75歳くらいまではうつ病のほうが、認知症より多く、本人には認知症よりうつ病の方が苦しくつらい。老人うつ病の特徴的症状は、(1)腰痛など身体の不調をしきりに訴えてくる、(2)朝でなく夕方に調子が悪くなる、(3)睡眠のパターンが変わって不眠を訴える、(4)イライラとして落ち着かない、(5)食べることなど物事に対する興味を失う、(6)非現実的になり妄想にとらわれる、(7)記憶障害が出て認知症と誤診されやすい。

 

 

 本書は、1996年4月に出版された「老人を殺すな ! 」の全面改訂版。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

全体として、老人の気持ち、傾向をよくとらえ、表現されている。最近ではいろいろなところで指摘されていることが多いが、一人の対象者として納得である。

 

前半に、大学の老人学の教授への批判が並ぶ。私にはその是非は分からないが、読者の知りたいところではないだろう。言うべき場所を間違えている。著者はさんざん言ったが聞き入れないのでと書いているが、だからと言って一般向けの本に書いても不安をあおるだけだ。

 

本書の内容は、

  • 大学病院の老人の専門家と称する教授は少しもわかっていない
  • 間違いだらけの老年医学として、血圧や血糖値の下げ過ぎなど具体例の指摘
  • 老人の心の病

などであるが、浴風会病院などで実際に高齢の老人を診た経験からの意見が多い。データに幅広さなどに疑問もあり、通説への逆説として強引さもみられるので、どの程度信頼できるのかは私には判断できない。

 

 

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科などを経て、現在は精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。緑鐵受験指導ゼミナール代表。2007年には劇映画の初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞

著書:『震災トラウマ』、『「「がまん」するから老化する』、『こころの強い男の子の育て方』。

その他、『心と向き合う臨床心理学富裕層が日本をだめにした!精神科医は信用できるか-心のかかりつけ医の見つけ方- 困った老人と上手につきあう方法

中川恵一、養老孟司、和田秀樹著『命と向き合う - 老いと日本人とがんの壁 - 』

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌は時とともに 

2015年03月05日 | 昔の話2

 

幼いころの好きな曲は、母がよく歌ってくれた「お山の杉の子」でした。おぶわれた背中から私が母の声に合わせて、最後のところで、「声かけた 声かけた」と必ず歌ったと言って、母がよく笑っていました。

 

高校の頃は石原裕次郎でしょう。「錆びたナイフ」「夜霧よ今夜も有難う」は、今でも数少ない私の持ち歌です。といってもカラオケにはもう20年ほど行っていませんが。

学生だった頃、彼女と歩いていたとき、突然きかれました。

「冷水さんって、歌手だと誰が好き?」

想定外の質問にとまどって、とっさに

「石原裕次郎・・・かな」

と答えました。

一瞬、彼女の顔に戸惑ったような表情が浮かびました。

「君は?」と聞くと、

にこやかに、「アダモ」と言うのです。

「アダモか! やられた! 石原裕次郎はまずかったな」と思いました。なにしろ私は見栄っ張りです。

 

会社に勤め始めた頃、その頃の彼女にも

「どんな歌手が好き?」

と聞かれました。まだ大人になり切れず、新左翼に共感し、たびたびデモなどに参加していた私は、

「う~ん、加藤登紀子あたりかな」と答えました。「君は?」と聞くと、

ちょっと得意そうに「浅川マキ」と言うのです。

「浅川・・・?」

「知らない?」と言われてしまいました。

帰ってから調べると、浅川マキはアングラのジャズ歌手で、加藤登紀子が友人の浅川マキを「歌がうますぎて嫉妬する」と言っていたと知りました。

今回も、完敗でした。

 

その後、谷村新司、井上陽水、山崎ハコなどといった歌手が好きになりました。フランス帰りの友人の真似をして、まだ日本では知られていなかったジョルジュ・ムスタキに凝ったこともありました。数年して、日本でもブームになり、それじゃ意味ないと遠ざかってしまいました。


しかし、なんと言っても一番は、今でもビートルズです。激しい曲も、甘い曲もすべてがお気に入りです。CDを聞きながら、歌詞を見ながら、何回歌ったことでしょう。

ビートルズの曲の中で、特に好きな曲というと、ポールがジョン(Jo Jo)に対し「戻って来い」と呼びかけていると言われる「ゲット・バック」("Get Back")」でしょう。しかし、この曲は英語が早すぎて、私には歌えません。「ミッシェル」("Michelle")や「イエスタデイ 」 ("Yesterday")などいくつかは簡単な英語で私でも歌えますが、ちょっと甘すぎます。

 

自分でも歌って楽しめる曲というと、「レット・イット・ビー Let It Be」でしょう。ポール・マッカートニーの訴えるような歌声、宗教的とも言える歌詞がしみじみと身にしみます。ピアノの前奏を聴いただけで、もう別世界へ引き込まれてしまいます。

あらゆるものに怒っていた若いころも、「レット・イット・ビー」にせつない思いを募らせました。忙しく働いていた中年のころも、「あるがままに受け入れよう」という歌声に慰められました。そして、もうこれ以上なにも欲しいものはないという歳になった今も、なつかしい甘酸っぱさに満たされるのです。これこそ私のお気に入りの一曲です。

 

ちなみに、アナと雪の女王 の「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」“Let It Go”は、ありのままの自分を積極的に自分で勝ち取っていくということなのでしょう。どうも私にはなじめません。

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮下奈都『たった、それだけ』を読む

2015年03月02日 | 読書2

 

宮下奈都著『たった、それだけ』(2014年11月16日双葉社発行)を読んだ。

 

第一話から第六話まで、話ごとに語り手が変わる連作短編集。

 

贈賄に係わって海外営業部長・望月正幸は行方をくらます。残された妻、娘、姉、そして浮気相手。

正幸はなぜ逃げたのか、残された者たちの胸の内からこぼれでた “たった、それだけ”のこと。

 

第一話の語り手は夏目。会社の会議室で女性達がお昼を食べていた時、蒼井さんが突然言い出す。

「人を傷つけたことのない人なんていないと思うけど」

望月部長の浮気相手だった蒼井さんが同じく浮気相手の夏目を、密告者として糾弾する。

 

第二話の語り手は望月の妻・可南子。32歳で、赤ん坊のルイ(涙)がいる。ある時突然、裸の大きな赤ん坊が現れる。それは可南子自身だった。

 

第三話の語り手は望月正幸の姉・有希子。姉から見た望月は、心の優しい、優しすぎる子供だった。

 

第四話の語り手は小学3年になった望月ルイの担任の須藤先生。前任校から逃げてきたのだ。ルイを巡りクラスは混乱し、須藤は抑えることができない。

 

第五話の語り手は高校生になった望月ルイ。ルイの母親は夫の正幸の姿をTVなどで見つければ、すぐにその地に引越し、それを繰り返す。父への復讐のため、しあわせにならないことを心に誓っているようだ。

 

第六話の語り手は働く大橋。大橋はルイの同級生で、半年前に高校を辞めて特養施設で働き始めていた。

よく面倒を見てくれる益田さんは、「大橋くんはだいじょうぶです。君は、正直だから」と言ってくれた。

 

 

双葉社のHPにある大矢博子さんの書評(ブックレビュー:小説推理2015年1月号掲載)がなかなか良い。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

いつもの宮下さんの小説のように、登場人物に深く切り込まず、さらりと流す。平易で読みやすいのだが、物足りない。傷を抱えた人を見守る静かで優しさいっぱいのまなざしは良いのだが。

 

「たった、それだけ」のことで、人生は狂うが、また「たった、それだけ」のことで元に戻る。つらい時は、逃げてもいいんだよ。いつかまた君の人生に、きっと戻れるんだから。宮下さんは、そうささやく。

 

 

宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生れ。 上智大学文学部哲学科卒。
2004年、「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選、デビュー。
2007年『スコーレNo.4
2009年『遠くの声に耳を澄ませて』、『よろこびの歌』
2010年太陽のパスタ、豆のスープ、『田舎の紳士服店のモデルの妻』
2011年『 メロディ・フェア』、『 誰かが足りない
2012年『窓の向こうのガーシュウィン』

2013年エッセイ『はじめからその話をすればよかった

2014年本書『たった、それだけ』

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする