カルロ・ロヴェッリ著、竹内薫監修、関口英子訳『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(2015年11月20日河出書房新社発行)を読んだ。
原題の日本語訳は『七つの短い物理の授業』。
『すごい物理学講義』を一般向けに書き直し、2014年にイタリアで刊行され30万部のベストセラーになった。
世界一わかりやすいと評判の物理学の7つの講義。「相対性理論」「量子力学」「宇宙」「素粒子」「量子重力理論」「ブラックホールをめぐる確率と熱力学」「私たち人間のとらえ方」
第1回講義 世界でいちばん美しい理論
1905年、アインシュタインは、原子の存在証明、量子力学への扉と、特殊相対性理論の3本の論文を発表した。同時に彼は特殊相対性理論が重力と矛盾することに気がつき、10年かけて一般相対性理論を構築した。
重力場は、空間のなかにひろがっているのではなく、重力場こそが空間そのものなのだとかんがえたのです。
空間のゆがみは物質の存在するところに生じ、物質のエネルギーに比例するリーマン曲率Rを持つ。
高度の高い場所では時間が早く進み、地表近くの低い場所では時間がゆっくり進む。
第2回講義 量子という信じられない世界
アインシュタインは「光量子仮説」で光は粒でできていると考え、量子論をスタートさせた。
ハイゼンベルクは電子は何か別のものと相互に作用し合うときにだけ存在すると考えた。
第3回講義 塗りかえられる宇宙の構造
宇宙観の歴史変遷
宇宙誕生から約150億年。
第4回講義 不安定で落ち着きがない粒子
素粒子は、電子、クォーク、光子、グルーオン(クォーク同士を結び付ける)、ニュートリノ、ヒッグス粒子等。
標準モデルは現時点で最良のモデルで、予言はどれも実証されてきた。
1970年代に「su(5)モデル」という大統一理論が提唱され、実証のため巨大な装置が作られたが、失敗した。美しくシンプルな理論であったが、自然界のありようが反映されたものではなかった。
「超対称性理論」も数十年実証されていない。
結局、優雅ではない「標準モデル」を超える理論は確立されていない。
第5回講義 粒でできている宇宙
一般相対性理論と量子力学をを統合する理論を打ちたてようと理論物理学者は努力している。
その中心的な研究が「ループ量子重力理論」だ。一般相対性理論によって、空間とはなにかしら動的なもので、量子力学によりあらゆる場が細かな粒子状の構造になっている。したがって、物理的空間も量子でできていると考える。
ループ量子重力理論の方程式には「時間」という変数は含まれない。時間が消えるということは、不変とは逆で、変化が偏在しているということ。ごく小さな空間の量子の単位で見ると、個々の反応は独特のリズムで個別に踊っている。つまり、量子的事象の関係性こそが世界であり、それ自体が時間の源といえる。
ループ量子重力理論によれば、ビッグバンは過去の宇宙が自らの重みで収縮、押し潰され、反跳したと考えられる。
第6回講義 時間の流れを生む熱
物理学者も哲学者も、「現在」が宇宙全体に共通するという考え方は幻想であるという点で一致している。
時間と熱は強い関係性があり、熱(確率と結びついている)の移動が介在するときにだけ、過去と未来が異なる。私たち人間は、世界に対してぼんやりとしたイメージしかもっていないために、時間の中に住んでいるような気がする。
最終講義 自由と好奇心をもつ人間
私たち人類は、ヒト属(ホモ属)のなかで唯一生き残った、好奇心旺盛な種だ。ヒト属のほかに12種ほどの、やはり好奇心旺盛な種があったが、すべて絶滅した。ネアンデルタール人は絶滅後、3万年しか経っていない。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
確かに、読みやすく、最先端の物理学の状況を解ったような気にさせてくれる。もちろん、肝心なところは哲学的な表現で雰囲気だけで内容を伝えようとしている。これを物足りないとする人は、より詳しい『すごい物理学講義』を読めばいいのだが、それでもピンとこないところは多い。それ以上は物理学者になるしかない。
「そもそも、私よ! 腐りきった頭で、寝転がってのんびり本を読んで根本まで物事を理解しようというのは無茶苦茶なのだ。わかったか!」「はい、わかりました」と自問自答するしかない。
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学で物理学を専攻、パドヴァ大学の大学院に進む。その後、ローマ大学や米国のイェール大学、イタリアのトレント大学などを経て、米国のピッツバーグ大学で教鞭をとる。現在は、フランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いている。
専門は《ループ量子重力理論》で、この分野の第一人者。理論物理学の最先端を行くと同時に、科学史や哲学にも詳しく、複雑な理論をわかりやすく解説するセンスには定評がある。
本書は、メルク・セローノ文学賞、ガリレオ文学賞を受賞した『すごい物理学講義』を一般向けに刊行したものだ。
竹内薫 (たけうち・かおる)
1960年東京生まれ。東京大学理学部物理学科、マギル大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。長年、サイエンス作家として科学の面白さを伝え続ける。NHK「サイエンスZERO」の司会など。
関口英子(せきぐち・えいこ)
埼玉県生まれ。大阪外国語大学イタリア語学科卒業。翻訳家。児童書、ノンフィクション、映画字幕までイタリア語の翻訳。
主な訳書に『古代ローマ人の24時間』『マルコヴァルドさんの四季』など。『ピランデッロ短篇集』で須賀敦子翻訳賞受賞。