hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

丸山宗利『昆虫はすごい』を読む

2015年06月27日 | 読書2

 

丸山宗利著『昆虫はすごい』(光文社文庫710、2014年8月20日光文社発行)を読んだ。

 

表紙裏にこうある。

地球上で最も多種多様な生き物たちの生態に迫る
私たち人間がやっている行動や、築いてきた社会・文明によって生じた物事は、ほとんど昆虫が先にやっている。狩猟採集、農業、牧畜、建築、そして 戦争から奴隷制、共生まで、彼らはあらゆることを先取りしてきた。特に面白いのは 繁殖行動。相手と出会うため、あの手この手を使い、贈り物、同性愛、貞操帯、子殺し、クローン増殖と何でもアリだ。どうしても下に見がちな私たち の思考を覆す、小さな生物のあっぱれな生き方を気鋭の研究者が大公開!

 

カラー口絵写真(8ページ)、本文中にも100枚を超える写真があり、イメージが湧きやすい。百万種以上ある昆虫は、各々実にユニークな生きるための策略をめぐらしている。

 

第1章 どうしてこんなに多様なのか

第2章 たくみな暮らし

第3章 社会生活

第4章 ヒトとの関わり

 

ゴキブリが大嫌いな人(好きな人もいないだろうが)に著者のブログ「断虫亭日乗」の写真(本書の写真と同じ)を是非ご覧いただきたい。

 

 

丸山宗利(まるやまむねとし)
1974年生まれ。農学博士。九州大学総合研究博物館助教。

北海道大学大学院農学 研究科博士課程を修了。

国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経 て、2008年より現職。

アリやシロアリと共生する昆虫の多様性解明が専門。毎年精力的に国内外での昆虫調査を実施し、数々の新種を 発見、多数の論文として発表している。

著書『ツノゼミ ありえない虫』、 『森と水辺の甲虫誌』(編著)、『アリの巣をめぐる冒険』『アリの巣の生きもの図鑑』(共著)。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

子孫を残すための昆虫のあの手この手の多彩な工夫にびっくり。昆虫のこれでもかというほど奇抜な戦略が、ずらずらと並ぶ。これらがランダムな遺伝子異常と適者生存で生まれてきたとは驚異だ。

私はただただ「すごい」と驚くばかり。次々と出てくる例に最後まで興味を切らさずに読んだが、正直、驚きながらの一本調子に少々中だるみした。

著者は昆虫大好きで、是非その面白さを知って欲しいという思いが溢れる。

 

 

イノシシを祖先とするブタは、安全で餌の心配のない長い家畜生活で脳の体積が極めて小さくなっているという。そして、「利己的な遺伝子」的な見方をすれば、家畜が子孫を残すためにヒトを支配しているともいえる。ということになると、イノシシが一番上で、その下にブタ、そして底辺にヒトがいるとも考えられる。

 

 

以下、メモ

 

はじめに

第1 どうしてこんなに多様なのか

現在知られている昆虫の種数は百万種以上で既知の全生物(菌類、植物、動物など)の半数以上を占める。

「ダンゴムシ、ムカデ、ヤスデ、クモ、サソリ以外のものは、だいたい昆虫で、ナメクジやカタツムリは貝のなかま」

99%の昆虫は飛び、80%以上の昆虫は完全変態する。

第2 たくみな暮らし

ワモンゴキブリはヒキガエルの舌の風を検知して反応するのに、ヒトの約10倍の速度0.022秒しかかからなかった。


ヒトについても、フェロモンに相当する「匂い」がさまざまな場面で恋愛に関係しているがわかりつつある。近親交配を避けるために思春期の娘は(自分に近い)父親の匂いを嫌悪し、自分とは異なる匂いの異性を好む。

「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」

ある種の肉食系ホタルは別属ホタルの雌と同じ点滅信号を出して雄を捕まえて食べる。そして自らの交尾に際しては異なる発光パターンで同種の雌に信号を送る.

カマキリの雄は上半身を食べられながらも、下半身は生きて交尾を全うする。

蝶のアサギマダラは秋に日本から南西諸島や台湾へ移動する。蝶は世代をくり返しながら北上し、最後の世代が南下して越冬する。

第3章 社会生活

サスライアリやグンタイアリのなかまは、効率的な狩猟方法として行列の先端を扇のように広げ、絨毯攻撃を行う。

バクダンオオアリは、敵に出会うと、頭部から腹部にある袋を爆発させて粘液で敵を動けなくする。爆発したアリは仲間の犠牲になって死ぬ。


第4章 ヒトとの関わり

おわりに

 

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田中修『植物はすごい』を読む

2015年06月25日 | 読書2

  

田中修著『植物はすごい 生き残りをかけたしくみと工夫』(中公新書2174、2012年7月中央公論新社発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

身近な植物にも不思議がいっぱい。アジサイやキョウチクトウ、アサガオなど毒をもつ意外な植物たち、長い年月をかけて巨木を枯らすシメコロシノキ、かさぶたをつくって身を守るバナナ、根も葉もないネナシカズラなど、植物のもつさまざまなパワーを紹介。動物たちには真似できない植物のすごさを、「渋みと辛みでからだを守る」「食べられる植物も毒をもつ」「なぜ、花々は美しく装うのか」などのテーマで、やさしく解説。

 

まえがき

サクラは一本の木に10万個以上の花をほぼいっせいに咲かせる。

 

第一章     自分のからだは、自分で守る


植物は根から吸った水と空気中の二酸化酸素を材料に、太陽に光を利用して、葉っぱでブドウ糖やデンプンをつくり、生命を維持して成長している。

「万両」「千両」「十両」「一両」は秋から冬に、小さな球形の赤色に熟した実をつける。実の数が多い順に名前が付けられている。

「蕁麻疹」(じんましん)は、棘のあるイラクサ(蕁麻)からきている。

カキの実は、タネのできる前の若いときには、虫や鳥に食べられないように渋みを含み、タネが出来上がってくると、鳥などに食べてもらえるように甘くなりタネを運んでもらう。黒いゴマのように見えるものが、アセトアルデヒドにより渋みの成分のタンニンが不溶性のタンニンに変えられた姿だ。

 

第二章     味は、防衛手段!


ミラクルフルーツの実を食べてもうっすらとした甘味しか感じないが、その後、レモンのように酸っぱいものを食べると、その酸っぱさを「甘い!」と感じる。

 

第三章   病気になりたくない!

第四章     食べつくされたくない!

コアラは青酸を含みユーカリの葉を食べるが、腸の中に青酸を無毒にする細菌を住まわせている。子供が生まれると「食い初め」に親は、この細菌を含む自分の糞を食べさせる。

マンゴーはウルシ科で、直接かぶりつくと汁にかぶれ「マンゴーかぶれ」になる。


第五章     やさしくない太陽に抗して、生きる

植物はビタミンCやEを多く持つ。これらは抗酸化作用を持ち紫外線でできる活性酸素の害を防ぐ。


第六章     逆境に生きるしくみ

冬の寒さに耐える植物は、葉の中の糖分を増やし凝固点降下させて凍結を防ぐ。冬の寒さを通り越した植物は甘みを増す。

落花生は、花が咲くと支えていた柄が伸びてメシベの基部にある子房の部分が土に潜り、そこに実がなる。


第七章   次世代へ命をつなぐしくみ

おわりに

植物のすばらしさを心で味わって欲しい。そしてさらに、植物たちの生き方に思いをはせて欲しい。

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

ざっと見ると、身近な植物に関する雑多な豆知識が羅列してある印象がある。しかし、読み進めると、あらゆる驚異は、植物が生き抜くために磨いてきた様々な手段であることを知り、驚かされる。

 

常識の裏側を教えてくれる本だ。

 

田中修(たなか・おさむ)

1947年京都府生まれ。京都大学農学部卒業、同大学大学院博士課程修了。現在甲南大学理工学部教授。

アメリカのスミソニアン研究所博士研究員などを経て、専門は植物生理学。

著書『たのしい植物学 植物たちが魅せるふしぎな世界』、『葉っぱのふしぎ 緑色に秘められたしくみと働き』、『雑草のはなし―見つけ方、たのしみ方』、『都会の花と木―四季を彩る植物のはなし』、『花のふしぎ100 花の仲間はどうして一斉に咲きほこるの?タネづくりに秘めた植物たちの工夫とは?』など。

 

「COMZINE」のバックナンバー「田中修さん かしこい生き方のススメ」が面白い。

 

 

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岸本葉子『続・ちょっと早めの老い支度』を読む

2015年06月21日 | 読書2

 

岸本葉子著『続・ちょっと早めの老い支度』(2015年4月24日オレンジページ発行)を読んだ。

 

50歳を過ぎ、老いの気配を感じ、老後に不安を持つシングルの岸本さんがどんな備えをしているか、語ったエッセイ集。2012年刊行の『ちょっと早めの老い支度』第2弾。 

 

老化によって起こる様々な小さい変化と、それに対応する岸本さんの工夫や心構えが語られる。

裏表紙には、こうある。

老後といえば介護や住まい、お金などが問題になるとは思っていたけれど、そうした大きな問題もさることながら、日常生活の中で現れるこまごました小さな変化は、なってみないとわからないものです。

・・・「はじめに」より

 

6つある各章は5~10節に分かれているが、各節の終わりに3行のアドバイス「Kishimoto’s ヒント」が節のまとめとして整理されていて、解りやすい。

 

オレンジページnetの連載「岸本葉子の年をとるって、こんなこと?」を1冊にまとめたもの(既に終了)。

 

一章      見た目の問題


行ってきました!(1) 美容皮膚科


二章 老化の問題

「声を出して歌おう」

・  かすれ声の原因のひとつは老化。

・  腹式呼吸で歌って、アンチエイジング。

・  口ずさむのではなく、筋トレのつもりで。

 

「相手のせいにする前に」

知人からのメールに「年とともにますます他罰的な私」とあった。つい自分以外のせいだと思ってしまうことだ。

・  「私が~するはずがない」を疑ってみる。

・  「誰のせいか」よりだいじなことがある。

・  ちっぽけなプライドは捨てる勇気を。

 

章 暮らしの問題

 

四章 からだの問題

「あやうく寝たきり」

風邪で10日ほど寝ていた年寄りが立てなくなった。年とってなくても、人は横になったままだと2日間で1%(加齢で落ちる1年分)の筋肉が落ちていく。

 

五章 これからの楽しみ

「場所ふさぎの品」

モノ減らしの効果が出てすっきりした部屋。古道具屋で魅惑された箪笥(タンス)を買ってしまった。癒し雑貨以外のモノは入れないと決めた。「入れるのを許すと、モノは増える」

・  減らしていくばかりが能ではない。

・  心を潤すモノを置くことを許す。

・  収納問題の解決を兼ねない。

 

行ってきました!(2) ン十年ぶりの同窓会


六章 今後の人生
「持たない暮らしは理想でも」

よく使うスプーンは3本位だろう。しかし、病気ですぐ洗えないときもある。ティッシュペーパーもストックは必要ないが、風邪をひいたら予備が必要になる。最小限「プラスアルファ」の見極めがだいじ。

 

対談 今からできる老後の備えとは? ファイナンシャル・プランナー山田 静江×岸本 葉子

岸本 老後のために、五十代で何をしておけばいいと思いますか?

山田 今のうちから、共感力のある人とつきあっておきたいですね。

         とくに、同性の友人や女きょうだい。

・・・

五十代以上になると、女性は価値観みたいなものだけでつながれると思いませんか。四十代までは未婚・既婚、子どもがいる・いない、資産がある・ないなどで分かれましたけど。私がかかわっているNPO法人にもいろいろな立場に人がいるのですが、価値観が一緒だから、ひとつのことで笑えて、同じ目標に向かっていけます。


(男性でも退職後は、かっての役職などどうでもよくなって、素のままの付き合いができるようになるが、女性もそうなのだろう。それにしても、女性同士の素直にお互いを思いやる心からの親友は見ていて良いなあと思う)

 

 

山田 お葬式などより手前のこと、病院にかかるならどうしたいか、

        足が弱ったらどうするか、

趣味やおつきあいの会に行けなくなったらだれに連絡すればいいかも書いておきたいですね。

(確かに、死に方、死後のこともあるが、心身が衰えたときのことを決めて、書いておく必要があると思う)

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

70歳を超え、ベテラン高齢者の私には当然のことが並ぶが、解りやすく、理路整然として要領よく説明していて説得力がある。老後にかかろうとしている人、心配な人には是非読んで欲しい。

 

合理的で、まじめで過ぎるほどきちんとした岸本さんが、具体的日常の出来事のなかでの老いの忍び寄りを感じ取り、真剣に考えた結果を整理して記述している。各節の最後に3行のまとめもしっかりと頭に入る。

 

 

 

岸本葉子
1961年鎌倉市生まれ。エッセイスト。
1984年東京大学教養学部卒後、東邦生命保険入社。
1985年『クリスタルはきらいよ』(就職活動の体験)
1986年退社して中国の北京外語学院に約1年留学
2001年虫垂癌の手術
2003年『がんから始まる』

2009年『買おうかどうか』

2010年『エッセイ脳 -800字から始まる文章読本

2011年『「そこそこ」で生きましょう』
2012年『ちょっと早めの老い支度』『おひとりさまのはつらつ人生手帖』『わたしの週末なごみ旅』など。

2013年『もっとスッキリ暮らしたい ためない心の整理術』

2014年『江戸の人になってみる』『生と死をめぐる断想』

2015年『昭和のほどよい暮らし』『二人の親を見送って』20150607

 

 

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香山リカ『女は男をどう見抜くか』を読む

2015年06月12日 | 読書2

 

香山リカ著『女は男をどう見抜くか』(集英社文庫か46-3、2015年㋂25日発行)を読んだ。

 

 はじめに

  1. 男のプライドと嫉妬の本質
    初対面の女性に対し、精神科医であると自己紹介すると、身を乗り出して興味を示し、質問攻めや経験談の語りが始まる。ところが男性は、完全無視を決め込んだり、話題を変えたりする。
    男性たちは、突然目の前に現れた精神科医が、自分の心の中にあるかもしれない異常や弱点を見抜くかもと不安になり、精一杯の虚勢をはるのだ。
     
  2. まじめな人、謙虚な人はソンかトクか?
    人を蹴落としてでも自分が先に行きたい、目立ちたい、という人たちは、「私は正しい」「ほかの人は私に気をつかって当然だ」と確信し、反省しない精神医学で言う「自己愛が異常に強い人たち」だ。今の社会は未成熟な子ども社会だから、自己愛人間が幅をきかせることとなる。
     
  3. 「男は女に立てられるもの」はどこからきているのか
    江戸時代はそれほど絶対的に「女が男を立てる時代」ではなく、明治民法とともに規定された「新しいイエ制度」が「男は女に立てられるもの」という価値観を固定化した。
     
  4. モテる男になるための会話術
    精神科医は「黙ってただ聴く」。ガン告知を受けて、ショックのあまり泣いている患者さんに対してはひとこと、「おつらいですよね」と言って、ティッシュを差し出し、うなずきや沈黙で対応する。それが患者さんをいちばん安心させる「共感」の最適表現なのだ。
    余計なことを言うよりは、何も話さない。でも、相手が話したらちゃんと関心を持って聴く。そして、言葉以外の行動で、その人の手助けになるようなことをする。
     
  5. 品格と野心、この時代に必要なのは?
     
  6. いつまでも「性的機能」にこだわる男たち
     
  7. 不倫しながら家族を愛する男の本音
     
  8. 熟年離婚が増えている理由
    専業主婦の妻は「いつも気楽で何もしていない」わけではなく、働く女性以上に夫からの情緒的サポートをまっている。週末に妻が「たまには外食でもどう?」と持ちかけても、夫は「オレは毎日、外にでているんだから、週末くらい家で食わしてくれよ」と出かけようとしない、という話もよく聞く。
     
  9. 配偶者を亡くすとき
    ガン告知を受けて、動じないには女性、オロオロするのは男性。
     
  10. 拝金主義と理想主義の折り合いのつけ方
    さもしくもなりたくないし、ひとりよがりの善人やおひとよしなだけの化石人にもないたくない。まずは、「どっちもありでいいさ」と揺れ動くことを恐れないこと、矛盾を抱えている自分を許すこと。
     
  11. 老いることがそんなに怖いですか
     
  12. パワーハラスメント・世代間意識の違い
    入社1年未満の新人がプレッシャーを感じる上司からの言葉は、
    1位「言っている意味わかる?」
    2位「そんなこともわからないのか」
    3位「期待しているよ」
    4位「あれ、どうなってる?」      だった。
    繊細な彼らを余裕で指導できないのは、上司もまた大きなストレス、プレッシャーにさらされているからだ。
     
  13. 男性のDVはなぜ多いのか
    自己愛によりモラハラは「もっとオレを見てくれ、大切にしてくれ」と思うあまり、知らないあいだに妻や恋人を支配し、その人間性を傷つける。
     
  14. 痴漢や盗撮に走る心理
    盗撮に走るフェティシズムの人たちは、まさに「ベニスがついていない女性の裸」を直視するだけの心の準備がない人たちなのだという。
     
  15. 時代や社会は人にどう影響を与えるのか

おわりに

文庫版あとがき

  

『女は男のどこを見抜くか』(2013年3月集英社発行)を改題、再編集。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

タイトル「女は男をどう見抜くか」の回答を期待すると裏切られる。しかし、男と女の考え方に違いについては、多分そうなんだろうなと思う点がいくつか指摘されている。例に挙げられている男性の考え方がちょっと古過ぎるいんじゃないと思うことは多いのだが。まあ、私がナウいのかも知れないが。

 

トラブルの相談を受けたとき「余計なことを言うよりは、何も話さない。でも、相手が話したらちゃんと関心を持って聴く。」というサジェスチョンがあるが、その通りだと思う。

一般に男性は、相談を受けると、何とか問題を解決しようとする。多くの場合、相談する人が求めているのは話を真剣に聴いてもらうことであって、問題解決ではない。

 

そもそも、私などは、奥様からのぼやきを聞いても、「その話、3回目!」など聞く耳もたないことが多かった(もはや過去形に過ぎないのだが)。3回も話すほど、それだけ苦しんでいるということを現在はしっかり理解している。そして、その結果???

 

 

香山リカ(かやま・りか)


1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
学生時代から雑誌などに寄稿。その後も、臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。本名中塚尚子で、パートナーはプロレスジャーナリストの斎藤文彦らしい。


おとなの男の心理学』『<雅子さま>はあなたと一緒に泣いている』『雅子さまと新型うつ』『女はみんな『うつ』になる』『精神科医ですがわりと人間が苦手です』『親子という病』『弱い自分を好きになる本』『いまどきの常識』『しがみつかない生き方』『だましだまし生きるのも悪くない』『人生の法則』『できることを少しずつ』『若者のホンネ』『新型出生前診断と「命の選択」

 

 

 

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岸本葉子『二人の親を見送って』を読む

2015年06月07日 | 読書2

 

岸本葉子著『二人の親を見送って』(2015年5月10日中央公論社発行)を読んだ。

 

30代で73歳の母を失い、やがて父が90歳に近づいて老いが進み、ひとり暮らしの岸本さんの日常に「介護」がやってきた。その父もついに見送り、親亡き後の人生がはじまった。

2012年~2014年の各種新聞・雑誌に発表した76編のエッセイ集。

 

 

「家族の時間」

父は家族の知らない借金を作り、鎌倉の家を売り、その後は転居を繰り返した。90歳直前になり、父はすべてを忘れ去り穏やかな顔になった。

そこには穏やかで満ち足りた家族の時間がたしかにあった。親子の関係は時とともに変わるが、大人になって修復するには、子どもの頃恩愛を受けた記憶があれば充分だ。介護の時間が与えられたことも幸いした。それがなければ親との交流も、きょうだい間の結びつきも、これほど深まることはなかった。

 

「大掃除より小掃除」

いつか完全にするつもりで、その「いつか」がなかなか来ないより、不完全でいいからその時その時できることをこまめにする。

 

「ゆとりの必要」

毛玉だらけのジャージばかりはいていると、それが似合う女になっていく・・・。

 

「こんな青春過ごしたかった!」

やりたいことなんて後からわかる、好奇心に乗ってやってみるだけ・・・

 

「最後の対話」

認知症もだいぶ進んだ父が、たまたま調子の良いときに尋ねた。

「どういうときが、幸せ?」・・・

「みんなが仲よく話したり何だり、楽しそうにしているとき」・・・

「死ぬってこと、あるでしょう。どう思う?」・・・

「死んじまっちゃあ、仕方ぁないね」

からからと笑う。昔よく歌舞伎の口まねをして戯れたときの調子だ。・・・

「怖いっていうより、惜しいって感じ」。

「たしかに。惜しいね」。真顔でうなずく。

「お父さんは九十です」

「へぇーっ」。そっくり返るように顎を反らせ、「驚いた。そんなに生きたかね」。・・・

父の表情は幕が下りたように変わった。

 

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

著者の合理的考え方は、私には納得できる部分が多かった。しかし、いまやメディアでは常識的な話が多く、また読んだ本からポイントとなる言葉の引用も多く、インパクトや深い納得は得られなかった。

そもそも、岸本さんは真面目過ぎて、書くものにも面白味とか、潤いがない。

 

以下、細かすぎる指摘。

 

あなたは、「莢豌豆」「車麩」「煌々と」「蝗」を読めますか?

文章の他の部分からの類推とかすかな記憶からぼんやりと意味が浮かんでくるのだが、わざわざ漢字で書く気が知れない。答えは、サヤエンドウ、くるまぶ、こうこうと、いなご

 

料理も、漢字にも弱い私は、エッセイ読むのに辞書を引かないといけなかった。

そもそも、岸本さんの文章は、著者の性格もあって、全体に硬い感じがする。理工系文体のように内容はきっちりしていても、潤いが感じられない。几帳面な性格から推敲を重ね過ぎるのだろう。文中にも、ゲラの訂正が大変だとあった。わずかな経験しかないが、いい加減な私はあんなものざっと見れば済むのだと思うのだが。

おそらく、優しい人柄だと思うので、もっと柔らかな文体、内容で、感情を込めたエッセイを期待したい。

 

 

各エッセイはページの最初から始まるようにレイアウトしてある。このため空白が多い。一つ目のエッセイの最後のページは3行だけで、次は4行、5行、3行と空白が多い。

 

 

初出誌には「原子力文化」が多い。岸本さんは原発推進派?

 

 

岸本葉子
1961年鎌倉市生まれ。エッセイスト。
1984年東京大学教養学部卒後、東邦生命保険入社。
1985年『クリスタルはきらいよ』(就職活動の体験)
1986年退社して中国の北京外語学院に約1年留学
2001年虫垂癌の手術
2003年『がんから始まる』

2009年『買おうかどうか』

2010年『エッセイ脳 -800字から始まる文章読本

2011年『「そこそこ」で生きましょう』
2012年『ちょっと早めの老い支度』『おひとりさまのはつらつ人生手帖』『わたしの週末なごみ旅』など。

2013年『もっとスッキリ暮らしたい ためない心の整理術』

2014年『江戸の人になってみる』『生と死をめぐる断想』

2015年『昭和のほどよい暮らし』『二人の親を見送って』

 

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小野正嗣『九年前の祈り』を読む

2015年06月04日 | 読書2

 

 

小野正嗣著『九年前の祈り』(2014年12月15日講談社発行)を読んだ。

 

大分県の「リアス式海岸の複雑な地形の海辺の土地」を舞台にした芥川賞受賞の表題作を含む4編の連作。

 

「九年前の祈り」

35歳のさなえは、美しい顔立ちをした幼い息子の希敏(けびん)をつれて故郷である大分の海辺の小さな集落に戻ってきた。カナダ人の父親は希敏が一歳になる頃、姿を消してした。コミュニケーションに問題がある息子は何かのきっかけで「引きちぎられたミミズ」のようにのたうちまわる。

初老の渡辺ミツ「みっちゃん姉」の脳腫瘍の息子を見舞いに行くため、さなえは、母の故郷の島に渡り、幸運を呼ぶという貝殻を拾いに行く。いやがって徹底して泣き叫ぶ息子を連れて。

9年前、独身だったさなえは、中年女性数人とカナダへ旅行した。この懐かしい珍道中の中で、みっちゃん姉がたまたま入った教会で長くひざまずいて祈っていたことを思い出す。みっちゃん姉は、勉強も運動もできず、仕事もなかなか見つからなかった息子・タイコーの将来を案じて祈っていたのだ。

さなえは、なかなか心を通わせられない息子を強く抱きしめた。

 

最後はこう終わる。

悲しみはさなえの耳元に口を寄せ、憑かれたように何かささやいていた。聞きたくなかった。聞いてはならない。顔をさらに息子の頭に、柔らかい髪に押しつけた。熱を感じた。かすかに潮の味がした。息子のにおいが鼻いっぱいに広がった。

 

 

「ウミガメの夜」

大学生3人、今野一平太、下川徹、佐藤雄真(ゆうま)がふと思い立ち、今野の父の故郷・大分県佐伯市を訪れ、海岸でウミガメの産卵に立ち会う。

今野一平太は幼いころ祖父に連れられてウミガメの産卵を見た記憶があり、父・日高誠の実家を探す。

ひっくり返したウミガメがもがく様を見ていると、「おのれの苦しみより他人の苦しみのほうが苦しいからのう」という声が聞こえた。

 

最後はこう終わる。

空には、黒い砂からはみ出した卵のような月が浮かんでいた。そこからしたたり落ちてくる白濁した静寂。それを埋めていく波の音だけが聞こえていた。

 

 

「お見舞い」

首藤寿哉(トシ)は息子・大地と海斗と、妻・美鈴の連れ子真緒と唯衣の4人の子供がいた。

トシは子供の頃、3歳年上の日高誠(マコ兄)を慕い、彼もトシを可愛がった。東京の大学に行き、就職した日高は、故郷に戻り、役場に勤めたが、東京には離婚した妻と娘と息子がいた。やがて、自暴自棄な生活をするようになったマコ兄の面倒をトシはよくみるようになる。

 

最後はこう終わる。

トシの口元は歪み続けた、勝手に踊っていた。これは本当に笑みなのだろうか。きょう会えなくてもいい。また出直せばいい。そして今度、伽の見舞いに行くときは、マコ兄、そうじゃ、一緒に行こうや。

 

「悪の花」

かって用務員として働いていた独り身の千代子は75歳を過ぎてから膝が悪くなり歩けなくなった。買物は民生委員の渡辺ミツと夫の浩司が買物してくれるし、墓参りにはミツの一人息子・大公(まさきみ)、通称タイコーが行ってくれた。墓に生える花はなんぼむしっても生えてくるとタイコーは申し訳なさそうに言った。そのタイコーが重たい病で大学付属病院に入院した。

 

最後はこう終わる。

繁茂するのをやめようとしない悪の花を懐に抱えたまま、小さな湾の暗い水面が千代子のささやきを映して震えていた。

 

 

初出:群像、MONKEY、文藝、早稲田文学

 

 

小野 正嗣(おの まさつぐ)

1970年生まれ。日本の小説家、比較文学者、フランス文学者、立教大学准教授。

佐伯市出身。東京大学教養学部比較日本文化論卒業。同大学院博士課程単位取得退学。パリ第8大学Ph.D。

 

2001年、「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞受賞

2002年、『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞受賞

2003年、「水死人の帰還」で芥川龍之介賞候補

2008年、「マイクロバス」で芥川龍之介賞候補

2013年、「獅子渡り鼻」で芥川龍之介賞候補、野間文芸新人賞候補。

2014年、立教大学文学部文学科文芸・思想専修准教授

2015年、「九年前の祈り」で芥川龍之介賞受賞


 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

ストーリーも、あからさまな主張もない、昔のような静かな小説だ。私としては、たまにはこんな小説も読んでみたかった。四つ星を付けたいのだが、現代の多くの人には歓迎されないだろうと、三つ星にした。

 

4編の中では、「九年前の祈り」が好きだ。東京近郊しか知らない私には大分の小さな海辺の集落は、架空の町に思える。哀しみを抱え、しかもなかなか心がつながらない人たちの静かな祈りは、私の胸にもひっそりと沈み込む。息子を置き捨てる夢を見て、しかし、しっかり抱きしめる「さなえ」の心を思う。

 

細かい話を一つだけ。

登場人物が多く、一回しかでてこない人もいる。新たな人が出てくると、付箋をつけておいて、ブログを書くために、最後にパラパラと読み返すときの参考にするのだが、連作なので人間関係を把握するのに苦労した。これは、単に、私がこの感想文を書くための作業がしにくかったというだけの話なのだが。

 

 

 

 

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