hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

和田秀樹『困った老人と上手につきあう方法』を読む

2012年06月30日 | 読書2
和田秀樹著『困った老人と上手につきあう方法』宝島新書271、2008年4月宝島社発行、を読んだ。
(最近文庫化されている)

近年、万引き、暴行、傷害など老人の犯罪が増えている。また、円熟の境地からは程遠い、トラブルや争いを引き起こす暴走老人から、意地悪ばあさん、ボケ始めのおじいちゃんなど困った老人たちが多くなっている。

著者は、原因の一つとして加齢による前頭葉の萎縮をあげている。医学的には、体力や知的機能よりも感情機能の方が先に衰える。そして、
1. 意欲低下
2. 感情抑制機能の低下
3. 判断力の低下
4. 性格の先鋭化  
して、その人の元々持っている性格が顕著に表れる「性格の先鋭化」が起こる。頑固な人がますます意固地になる、疑り深い人が被害妄想的になるなどして、人間関係のトラブルが増えるという。
加えて、年寄りを嫌うエイジズムな社会が高齢者を不安・孤立させている。

困りものの高齢者に対しては、私たちが「受容・傾聴・共感」してあげることで高齢者の不安を取り除くことが大切だという。
受容:どんな理不尽な話であれ、ますは無条件に受け入れ、相手にこの人は話を聞いてくれる人だと思わせる。
傾聴:説得や反論せずにとりあえず言い分を聴き、相手を冷静にさせる。
共感:同じ目線になり相手の立場になってその気持ちに寄り添う。上から目線の同情ではない。

また、85歳以上になれば程度はいろいろだが、すべての人に脳にアルツハイマーの変化が出る。認知症は老化現象の一種だ。生活に著しく困るようになるまでは周りの人が理解し、受容していくことが大事だ。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

著者は長年老人医療に携わっただけに老人にやさしい。困り者に成り果てた老人の気持ちをさすがによく把握している。
本当に困りものの高齢者に対し「受容・傾聴・共感」で接することができるだろうか。なんだか老人だけ甘やかしすぎのような気もする。私自身はとてもそんな優しい対処はできないが、私には是非そう対応して欲しいと思う。



和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書:『震災トラウマ』、『「「がまん」するから老化する』、『こころの強い男の子の育て方』。その他、
心と向き合う臨床心理学
富裕層が日本をダメにした!
精神科医は信用できるか-心のかかりつけ医の見つけ方-
中川恵一、養老孟司、和田秀樹著『命と向き合う - 老いと日本人とがんの壁 -







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葉室麟『蜩ノ記』を読む

2012年06月28日 | 読書2

葉室麟著『蜩(ひぐらし)ノ記』2011年11月祥伝社発行、を読んだ。

豊後・羽根藩(架空の藩)の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰となる。切腹を免れるが、家老中根兵右衛門により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷(しゅうこく)を監視する役目を仰せ付けられる。
秋谷は7年前、前藩主の側室と不義密通を犯したとして、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎は向山村で秋谷とともに暮らすことになるが、秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになる。
直木賞受賞作

蜩(ひぐらし)ノ記とは、秋谷の日記の名前で、蜩の鳴き声が、去り行く夏を哀しんでいるように聞こえ、「それがしも、来る日一日を懸命に生きる身の上でござれば、日暮らしの意味合いを籠めて名づけました」と、秋谷は語る。

初出:月刊「小説NON」2010年11月号~2011年8月号までの「秋蜩」を改題、加筆、訂正

葉室麟さん(はむろ・りん)
1951年北九州市生まれ。西南学院大を卒業し地方新聞記者。
2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞しデビュー
2007年「銀漢の賦」で松本清張賞
2009年「いのちなりけり」で直木賞候補、「秋月記」で山本周五郎賞受賞、直木賞候補
2010年「花や散るらん」、2011年「恋しぐれ」で直木賞候補



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

しっかりした構成で、人物もよく描かれている。多彩な人物、謎解き、自然描写の中で、秋谷の凛とした武士としての生き方、清廉さが、この小説に骨太に一本通っている。

一方、悪家老など藩の体制、秋谷と側室の関係、農民思いの武士の存在など藤沢周平の「蝉しぐれ」に似た構成であるのが気になる。しかし、武士の生き様、支配される悲惨な農民の意地など見事に描かれている。

しかし、秋谷はあまりに実直、清冽で、内面の葛藤などまったく無いように見える。

江戸も半ば過ぎたころの、武士と農民の関係がよく書けている。先祖の遺産で生きる武士、一揆寸前まで締め上げられる農民。

農民の少年・源吉の存在だ。

 飲んだくれの父親に代わり、母と幼い妹を支えるために日夜働く源吉。
 生かさず殺さずの状態で生かされる日々を、明るく笑顔で懸命に生きる源吉は、村の人々にたいそう愛された。
 そして身分は違えど、秋谷の息子・郁太郎の親友でもあった。

 しかしある日、源吉は、冷酷な郡役人から苛烈な拷問を受けることとなる。
 家族を守るために命がけで役人に向き合う源吉。
 「兄やん、兄やん」と泣く妹に心配かけまいと、恐怖に耐えながらもおかしな顔をしておどけて見せる源吉。



登場人物

戸田秋谷
元・郡奉行。前藩主の側室(お由の方)と不義密通との罪で幽閉され、家譜編纂中。十年後の切腹を命じられている。いまも村人たちから慕われている。
妻:織江、長女:薫、長男:郁太郎10歳

檀野庄三郎
前奥右筆。城内での刃傷沙汰により隠居し、幽閉中の戸田秋谷の監視を申し渡される。

中根兵右衛門
羽根(うね)藩の家老。策略家。庄三郎に秋谷の監視を申し付ける。

三浦兼通(かねみち)、順慶院:6代藩主、47歳で急死  5代藩主は義兼

三浦義之:7代藩主

お由の方、松吟尼:前藩主(順慶院)の側室。「秋谷との不義密通事件」以降、出家。

お美代の方:前藩主(順慶院)の側室。義之の母。

慶仙和尚:長久寺の住職。天下に知られた名僧。

源吉:農民万治の長男で、郁太郎の友人。

水上信吾:元祐筆役。中根兵右衛門の甥。庄三郎により歩行不自由になる。

原市之助:奥祐筆差配。中根兵右衛門の取り巻き。

赤座弥五郎:三浦兼通の小姓。秋谷により切られる。

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相場英雄『震える牛』を読む

2012年06月24日 | 読書2

相場英雄著『震える牛』2012年2月小学館発行、を読んだ。

宣伝にはこうある。
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。 初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。同時に殺害されたのは、互いに面識のない仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。田川は二人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化が事件に大きく関連していることに気付く。
これは、本当にフィクションなのか?  日本の病巣、日本のタブーに斬り込んだ、
衝撃のエンターテイメント大作!


初出
~第6章「STORY BOX」vol.21~vol24、vol27、第7章~:書下ろし



相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。作家、経済ジャーナリスト、元時事通信社経済部記者
2005年『デフォルト(債務不履行)』でダイヤモンド経済小説大賞受賞
その他、『越境緯度』『双子の悪魔』『ナンバー』(6月22日発売の短篇集)



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

警察小説であるが、大手ショッピングセンタ進出による地方の疲弊、そしてショッピングセンタ自体の成長の限界、大量生産食品の危険性などを訴える社会派小説でもある。

面白く、スイスイと読めるのだが、ミステリーとしては成功していない。最初から最後まで意外な展開がなく、多くの人が想像したとおりの結末を迎える。

文章にうるおいがなく、悪い意味のルポライターの作品だ。ユーモアも無いし、風景描写も少なく、悪への憎しみも類型的で表面的だ。

『食品の裏側』という本が参考文献にあるが、この本はいささか怪しげで誇張が多い。『震える牛』にもえげつないほど添加物の危険性を言い募る記述があり、品がない。

最後のクライマックスで肥後守を掴むが、握り方が危険で不自然、いささか興ざめ。



主な登場人物

警視庁 
田川信一 捜査1課 継続捜査班 47歳、妻:里美、娘:梢
池本功治      第3強行犯係
宮田次郎 捜査1課 課長 ノンキャリアの出世頭
矢島達夫 特命室 理事官 キャリア 2年前の未解決事件の当時の担当官

被害者
西野守  産廃業者 マル暴 東京・大久保在住
赤間拓也 獣医師 仙台在住 妹:元美

オックスマート(全国展開スーパー)
柏木友久 CEO&会長 創業者 58歳、 弟 友次 文科省大臣
  信友 長男、取締役・スーパー事業本部長 38歳
滝沢文平 取締役・経営企画室長 信友の子守役

その他
筒井 日本最大のファストファッションのクロキンの役員
八田富之 ミートステーション代表取締役 政商
安倍早苗(源氏名 村上冴子) クラブのママ
鶴田真純 ビス・トゥデイの記者

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東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を読む

2012年06月22日 | 読書2

東野圭吾著『ナミヤ雑貨店の奇蹟』2012年3月角川書店発行、を読んだ。

ケチな盗みを働いた若者3人が一晩の隠れ家として廃屋になっているナミヤ雑貨店に忍び込む。約40年前、その店は、シャッターの郵便口に相談の手紙を入れると、店主の波矢雄治が丁寧な回答をくれることで有名だった。
そして、家のドアを閉めると、外は1979年にタイムスリップして40年前の相談の手紙が3人に舞い込んできた。3人は、最初は面白半分、そのうちに知恵を振り絞って回答する。3人組と過去の人間との時空を超えた手紙のやり取りが始まるという、連作中篇5本のファンタジー。

第1章 回答は牛乳箱に
オリンピック出場を目指すか、恋人の看病をすべきかを相談する女性。そのオリンピックは1980年の幻のモスクワオリンピックだった。

第2章 夜更けにハーモニカを
魚屋の家業を継ぐか、ミュージシャンにこだわるか、克郎は相談の手紙を出す。結局、彼が作曲した「再生」は・・・

第3章 シビックで朝まで
40年前頃、この雑貨店の店主波矢雄治は、いたずらの手紙にさえ、懸命に考えて回答を書いていた。そして、年取って死期が近づいた時、自分の回答が役に立ったのか確かめたくなる。

第4章 黙祷はビートルズで
夜逃げをする父母についていくべきかを和久浩介は問う。回答は家族こそ大切というものだったが、浩介は、

人と人との繋がりが切れるのは、何か具体的な理由があるからじゃない。いや、見かけ上はあるとしても、それはすでに心が切れてしまったから生じたことで、後からこじつけた言い訳みたいなものではないのか。なぜなら心が離れていなければ、繋がりが切れそうな事態が起きた時、誰かが修復しようとするはずだからだ。


と考えて、一人で進む。長年が経過し、なんとか幸せを掴んだ彼は父母の最後を知る。彼らがなぜそんなことをしたかといえば、・・・。

第5章 空の上から祈りを
OLをやめて水商売に転職するか悩んだ晴美は、成功するが、3人組に襲われる。

初出:「小説 野性時代」2011年4月号、6月号、8月号、10月号、12月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

タイムスリップと人生相談を結びつけた面白い構成になっている。第4章、5章と話が盛り上がり、すべての登場人物が、結局、ナミヤ雑貨店と児童養護施設「丸光園」へつながっていく。



東野圭吾の履歴&既読本リスト

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中野孝次『犬のいる暮らし』を読む

2012年06月20日 | 読書2

中野孝次著『犬のいる暮らし』1999年3月岩波書店発行、を読んだ。(文春文庫化されている)

宣伝にはこうある。
尻尾を振りに振って、犬が全身でぶつかってくる。人もまた誰はばかることなく思う存分愛情をふり注いでやる。これこそ生を実感する時ではないか。人間は何かに愛を注がずには生きていけない生きものなのだ。―ハラスを失って5年、ふたたび犬とともに生きる喜びを得た著者が、人間と犬とのかけがえのない絆を語り尽くす。


著者は新興団地で一軒家を持ち、47歳で初めて犬を飼った。この柴犬ハラスの生涯を書いた本が『ハラスのいた日々』だ(この本は五つ★)。

出版後大勢の読者から愛犬への思いを綴った手紙をもらった。やがて、歪んだ形のペットブームがやって来た。そして、2代目、3代目の犬を飼い、犬飼仲間と話し、犬の本を読み、現代人とくに老人にとっての犬について考える所があり、まとめたのがこの本だ。

大体日本での犬の飼われ方は、ある犬種が流行しだすと猫も杓子もそればかり飼うという傾向が露骨で、・・・
一言でいって「可愛らしい」という犬種が好まれる傾向がある。・・・ひたすら「かわいい」が最高の価値規準をなしている時代は、非常に未成熟な、積極性と主体性を欠いた時代ではないか、と思っている。

犬に対しては人は無限の愛情を注ぐことができる。無条件に、無警戒に、ただ愛することができる。

犬に死なれて一番深刻な体験をするのは、最初に飼った犬に死なれたときなのである。・・・
犬がいない生活が5年続き、海外旅行には行くようになったが、散歩しないので脚の筋肉が衰え、夫婦の会話ななくなった。・・・
前の犬の供養のためにもすぐまた飼うように、とすすめてくれた人がいた。・・・
そしてまた、犬中心の生活に戻った。


中野孝次(なかの・こうじ)
1925年~2004年。千葉県生まれ。作家。
1950年東京大学文学部卒
1964年國學院大學教授
1976年日本エッセイスト・クラブ賞『ブリューゲルへの旅』
1979年平林たい子賞『麦熟るる日々に』
1988年『ハラスのいた日々』新田次郎文学賞
『清貧の思想』など。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

この本を読む前に、『ハラスのいた日々』(文春文庫)は犬好きなら絶対読むべきだし、そうでもない人なら是非読んで欲しい。猫より犬派だが、犬を飼ったことがなく、犬の毛アレルギーがある私だが、犬の単純なひたむきさ、それに応え心から犬を愛する飼い主に感動する。

私は、子供の頃、狂犬病の犬に噛まれワクチンが間に合わないと間違いなく死ぬと散々脅かされたせいで、今でも犬を見ると、痩せこけて、口を開けてハアハアとよだれを流し近づいてくる狂犬がイメージされて、実は少々犬が恐い。今でも犬が来ると、道の反対側を歩く。そんな私でも感動するのが、『ハラスのいた日々』だ。


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有川浩『ヒア・カムズ・ザ・サン』を読む

2012年06月18日 | 読書2

有川浩著『ヒア・カムズ・ザ・サン』2011年11月新潮社発行、を読んだ。

たった7行のあらすじから有川浩が小説「ヒア・カムズ・ザ・サン」を生み出し、同時に演劇集団キャラメルボックスの成井豊が演劇を創作した。さらに、上演された舞台の設定と登場人物を生かしたもう一つの小説「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」を有川浩が書いた。
本書には、有川浩による、ほぼ同様な設定に基づく2つの物語「ヒア・カムズ・ザ・サン」と「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」が収められている。

2つの物語に共通する7行のあらすじは、
真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・。



ヒア・カムズ・ザ・サン
小説雑誌「ポラリス」編集部で働く真也は「ものに宿る人の思いを感じ取れる」能力で作家の気持ちに寄り添う編集者として評価されている。一方、同僚のカオルは体当たりで作家の懐に入って仕事している。
アメリカの映画脚本家「HAL」がカオルの父で、20年ぶりに帰国するという。しかし、「HAL」の正体は不明のところがあって・・・。

ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel
真也とカオルはそろそろ結婚がという関係。死んだと言っていたカオルの父親が生きていて、アメリカから帰国する。急な仕事で、真也ひとりが彼を出迎えることになる。現れた父親は、調子がよく、都合にあわせて嘘ばかりつく人だったが、ある事情があり・・・。


なお、「ヒア・カムズ・ザ・サン」“Here Comes The Sun”は、1969年発表のビートルズのアルバム『アビイ・ロード』に収録されているジョージ・ハリスン作の曲の題名。長かった冬に別れを告げ、春が来たことを歓迎するという内容。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

話としては面白く読めた。しかし、ほぼ同じ設定で似通った話が2つというこの本の構成は、一つのチャレンジなのだろうが、なじめない。小説と演劇の差なら受け止められるが、2つの小説では戸惑うし、もっと明確な差が欲しい。

ちょっと遠慮と距離のある恋人同士の関係の描写、会話には、趣きがあり、心地良い。また、冒頭かなり枚数を費やして、作家と編集者の関係が描かれているが、「編集者は作家の心に寄り添うもの」との主人公の話は、きっと現実への批判もあるのだろう。



有川浩(ありかわ・ひろ)の略歴と既読本リスト






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ハモニカ横丁朝市

2012年06月17日 | 日記
吉祥寺駅北側に戦後の闇市を思わせるハーモニカ横丁(通称ハモニカ横丁)があります。

そこで、毎月第3日曜日の朝7時から10時まで朝市をやっています。



横丁のお店が早くから店を開けている場合もありますが、東北被災地を支援する出店も並んでいます。

めずらしく朝早く外に出た私もいくつか買い物しました。1つだけご紹介。



「被災地に仕事を!! クルミ拾い、殻むき作業を被災された方々の仕事にしていただいています。
 *収益は被災地支援の活動費にあてられます。」

とありました。まあ、600円では本当に気持ちのみですが。

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有川浩『ストーリー・セラー』を読む

2012年06月16日 | 読書2


有川浩著『ストーリー・セラー』2010年8月新潮社発行、を読んだ。

本を書く以外は、全くダメな小説家の女性と、彼女を支え、彼女の最高の読者である夫の物語。究極の2つの場合Side AとSide Bの2つの話よりなる。

Side A:小説家デビューした妻を、昔の文芸部の仲間が陰険な方法でデマを流し、さらに普段は普通な肉親が意地悪いことをして彼女を追い詰める。しかし、彼女は、必ずしも見通しのない中で、最高の読者である夫のために小説を書き続ける。そして、夫が・・・。

Side B:逆のケース。ネタバレになるので、ここまで。

初出:「Side:A」は「小説新潮」2008年5月号別冊、現新潮文庫、「Side:B」は書下ろし



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

前半は彼等が知りあい、結婚するというベタ甘の恋愛話なので、私は「勝手にすれば!」とウンザリ。しかし、小説家デビューしてから、仕事を辞めて書き続けるかどうか迷うところだけは真実味があった。
いずれも有川さんの実生活がベースになっているのではと勝手に想像するが、すべてが美しいだけの恋愛話には私は耐え切れない。美しく清い恋愛と難病のセットは御免だ。



有川浩(ありかわ・ひろ)の略歴と既読本リスト




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井の頭公園からのんびり

2012年06月14日 | 日記
いつものように土日をやり過ごし、月曜日に吉祥寺へ。
井の頭線の駅は建て替え中。



公園内はのんびりムード。
ベンチ前に持参の組み立て式テーブルをセットして、ワインを楽しむご夫婦。カッチョイイ!



井の頭公園駅の方向へ歩いていくと、草地に人が倒れている。



どうやら、おじさんは、お昼寝のようだ。

右手を見ると、神田川の向う側に、落ちないかなと心配なおじさんが。



ちょっと歩くと、こんどは2人並んで。



三角公園でも。



月曜日の12時半、たまたま、おじさんのお昼寝タイムに遭遇したのだろうか。

ゆうやけ橋(?)の手前のハナショウブ?



三鷹台駅へ歩いていくと、神田川沿いの道にトマソン物件が。





この鉄の枠のように無用な物件をトマソンという。赤瀬川原平が名付け親だ。

民家の庭に、ボトルブラッシュ。



長いボトルを洗うブラシに似ていることから名付けられたオーストラリア西部固有のワイルドフラワーで、最近日本でもときどき見かける。

井の頭線沿線にはアジサイがずらりと植えられている。
三鷹台駅の踏切から見ると、



ついでに近所で見かけた赤いアジサイ。



何かわからない花も。





このアジサイは「柏葉アジサイ」だそうです。ぽんたさんありがとうございました。

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ランチ巡り

2012年06月12日 | 食べ物
先日、たまプラーザに出かけ、ランチにしようと東急に入り蕎麦屋を見つけ、入った。



永坂更科布屋太兵衛の支店だった。墓参りのときにおなじみで、麻布十番に本店がある。



デパートのレストラン街で食べると、何でも同じと感じてしまう。
帰りはは遅くなった(?)ので、渋谷東急の地下で弁当を買い、家で美味しくいただいた。





よく見ると、「おこわ米八」とある。どこかで聞いた名前だと思い、しばらくたって思い出した。井の頭公園入口(パープル通り)付近にある店だ。

翌日、月曜日、吉祥寺の本店に行くと、閉まっている。



パンフレットを見てみると、「桜の季節のみの営業」「ご注文は5日前までに」と書いてある。なら、なんでこんな立派な作りなのか。

しかたなく、えらく格落ちだが、すぐ傍の「磯丸水産」でランチにした。



ビールの注文などで忙しく飛び回るオネエチャンが持って来たのは、





全部で1280円なり。こちらの方が、我々にはぴったりだ。


翌週月曜日のランチは、東急インの地下の和亭八陣。

混みあう土日は家でじっとしているので、どうしても月曜日外出が多くなり、夜は出歩かないのでランチになる。

立派な入口だ。



畳の個室があると聞いたのだが、かなり古びていた。出てきたランチは



太刀魚は美味しかったが、デザートは



豆腐の何かで、しかもコーヒーがデミタスの小ささでお満足いただけず。
2人で1900円では文句も言えないが、やはり我々には大衆食堂か。























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和田秀樹『心と向き合う臨床心理学』を読む

2012年06月11日 | 読書2

和田秀樹著『朝日おとなの学びなおし 心理学 心と向き合う臨床心理学』2012年1月朝日新聞出版発行、を読んだ。

最初に臨床心理学の概要が説明される。
心理学とは何かに始まり、フロイトの精神分析、フロイト以後の精神分析、森田療法が要領よく解説される(約100ページ)。もっとも注目されている心理療法として認知療法、認知行動療法(約30ページ)、集団療法、家族療法(約20ページ)の説明がある。

最後の50ページほどは応用編で、臨床心理学をどう学ぶか、どうビジネスに役立てるか、トラウマと臨床心理学。

メインはあくまで学術解説なのだが、和田さんらしく、心の傷や人間関係の悩みなど、実生活の問題に役立つ臨床心理学の知識をわかりやすく解説。目の前の患者さんを治すために実際に行われ、効果をあげている精神分析や森田療法、認知行動療法、家族療法,などを紹介する。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

臨床心理学に興味のある人や、全体をご存じない人にはお勧めだ。要領よく学問の流れが説明されている。
じゃあ、お前は臨床心理学がよく分かったかといえば、発展の流れや、治療しようとする方法は分かったが、関連のない各種治療方法が個別に説明されるので、本当に効果あるのは何か? 幅広い人に適応できるのか?など実効性については充分納得できなかった。基本的理論に基づき各論があるのではなく、演繹的、実験的に各種方法が発展中の学問なのだろう。

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書:『震災トラウマ』、『「「がまん」するから老化する』、『こころの強い男の子の育て方』ほか。





以下、私のメモ

コフートの「自己心理学」
フロイト学派のリーダーだったコフートの理論は「自己心理学」と呼ばれ、人間は誰でも自分がかわいく、他人を愛することを通じて、自己愛を満たせれば良い。「人間は自己愛を満たしたい生き物であり、それが満たされなかったり、あるいは傷ついたりすると心に問題がおきる。

相手に対し極端な理想化と幻滅を繰り返し、対人関係の不安定さと、衝動のコントロールの悪さが問題なボーダーラインの人は、悪気で言ったわけでもないジョークにたいしてひどい侮辱だと感じて激しい怒りを爆発させたりする。
コフートは、ボーダーライン患者は子供の時に自己愛を充分満たせないままに大人になったと考え、「共感」をもって接し、心理的な「育て直し」をして治療に効果を上げた。

ボーダーラインより症状の軽い「自己愛パーソナリティ障害」は誇大妄想が特徴で、自分は頭がよく、えらいと思っていて、そのことを褒めて欲しくてしょうがなく、共感が欠如し、相手の気持を考えない。アメリカではこのようなタイプが出世することがあるが、内面的な虚しさを持っていたり、認められている感じがしないなどといって、精神分析治療にやってくる。コフートの「自己心理学」は米国で成功した。

トラウマ
最近のトラウマ治療では、トラウマの記憶を思い出させるよりは、今抱えている不安や恐怖感に対して共感することや、リラクセーションテクニックを教えてあげて、「今をどう生きるか」を大事にしてあげようといる考え方に変わってきています。




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加藤登紀子『登紀子1968を語る』を読んだ

2012年06月09日 | 読書2

加藤登紀子著『登紀子1968を語る』情況新書001、2009年12月情況出版発行、を読んだ。

登紀子さんがエネルギッシュな若者達の1968年を語る第一幕(75ページ)。
学生運動の崩壊と暴力への変質、そして結婚を語る第二幕(41ページ)。
現役学生相手に1968年が伝えるメッセージを熱く語る第三幕(44ページ)。
上野千鶴子との対話第四幕(35ページ)。

社会に疑問を持ち、異議を唱え、挑戦し、理想を求めた1968年までの世界の若者の戦いが、以降は革命を目指す暴力の中で内ゲバに変質していく。
その後の陰惨な暴力は、そもそもの全共闘運動の中に内在していたと思われるが、登紀子さんは、のびのびとした学生運動を国が暴力的に弾圧したため、学生たちはより政治的、反権力へ流れていったと語る。

ブントに関わっていた登紀子さんは、党の形はとっていてもひとりひとりのいい加減さを許すブントの行き方が好きで、今のインターネットにつながるものがあるという。
(確かに初期の全学連の行き方は魅力的であったが、共同体幻想であったとも思う)

上野千鶴子との対談で、68年の夢のような部分だけではなく、続く後の困難と頽廃の時代を分けて捉えることが出来ないと主張する上野氏に対し、68年の夢の部分を強調し、生き延びる思想を語るお登紀さんは、まさに慈母観音のごとくである
そして、最後に「『かっこよく死ぬより、生き延びてゆく』そんな女性の生命力が明日を変える」と登紀子さんは語る。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

加藤登紀子さんのファンと、この時代に興味のある人にはお勧めできる。ただ、加藤さんは1968年を、その後の陰惨な結末にかかわらず、全共闘運動を理想化したままで、明るく語っている。確かに、何もかも否定的になるより、加藤さんのように肯定できることを力強く語る楽観的な考え方はすばらしい。

本当は、1968年、全共闘を良く知らない人に読んで欲しいのだが、無理だろうな。



加藤 登紀子
1943年中国ハルピン生まれ。
1965年東大在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し、歌手デビュー。
1972年反帝全学連委員長だった藤本敏夫氏と獄中結婚
「ひとり寝の子守唄」、「知床旅情」、「百万本のバラ」などヒット曲多数。
2000年にUNEP(国連環境計画)親善大使に就任。アジア、オセアニア各地を訪問



1968年、この年だけが特別な年だったわけではないのだろうが、確かに大きな出来事が集中しているような気がしてしまう。ただ、新旧の時代の分かれ目だったのではないだろうか。



1月5日 - チェコでドゥプチェクが第一書記に就任、プラハの春始まる
1月9日 - 円谷幸吉が自殺をする
1月17日 - 米原子力空母エンタープライズ寄港阻止闘争始まる
1月29日 - 東大医学部無期限スト突入。東大闘争始まる
1月30日 - ベトナム戦争でテト攻勢開始
2月6日 - グルノーブルオリンピック大会が開幕
2月21日 -金嬉老が寸又峡温泉の旅館に立て籠もる
3月16日- ベトナムのソンミ村虐殺事件
4月4日 - マーティン・ルーサー・キング暗殺
4月18日 -日本初の超高層ビルである霞が関ビル完成
5月21日 - フランスで五月革命が起こり、かつ頂点となる
5月27日-日大20億円使途不明金摘発され、全学共闘会議結成
6月5日 - ロバート・F・ケネディ暗殺
6月15日-安田講堂占拠
6月23日-フランス総選挙でド・ゴール勝利
8月20日-ソ連軍がプラハの春を弾圧
10月17日 - 川端康成がノーベル文学賞受賞
10月21日 - 国際反戦デーで新宿駅を学生が占拠
11月5日-米大統領選挙でニクソン当選
12月10日 - 東京都府中市で三億円強奪事件発生


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小黒一正・小林慶一郎『日本破綻を防ぐ2つのプラン』を読む

2012年06月06日 | 読書2

小黒一正・小林慶一郎著『日本破綻を防ぐ2つのプラン』日経プレミアシリーズ141、2011年11月日本経済新聞出版社発行、を読んだ。

小黒一正氏担当の財政再建を進めるためのプランAと、
小林慶一郎担当の財政再建は失敗するだろうから、そのときにショックを和らげるプランB
の提案だ。

まず、「第1章 破綻が近づく日本財政」で財政の悲惨な現状が分かりやすく説明される。次に、「第2章 財政再建をめぐる神話」で、“国債を買っているのは日本人だから破綻しない”、“増税なしで、成長とインフレで財政再建できる”が神話に過ぎないことが示される。

プランAは、消費税を25%以上に上げて、歳出削減をするというオーソドックスなものだ。
そのため、
(1)政治から独立した専門家集団「世代間公平委員会」で税率・保険料率を決める。
(2)社会保障費を一般会計予算から切り離し、財源を固定化する。
(3)速やかに消費税率を20%にする。
などの提案よりなる。

プランBは、財政破綻は避けられないから、そのショックの吸収策であり、奇策だ。
政府が中心となり、外貨投資のファンドを設立し、為替リスクを政府が保証して、数百兆から一千兆の外貨投資を行う。結果として、為替差益や、円安による輸出拡大で、財政破綻時の急激な円安を緩和できるという提案だ。
さらに、国債の暴落が通貨安を招くが、日本国の為替差益という「保険」により国債が確実に償還されることを市場が予測すれば、投資家は国債に不安を持たず、結果として国債は暴落しない、という主張なのだが。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

第一章は現状分析で分り易い。第二章、三章のプランAは常識的な話なのだが、対策は政治的仕組みの提案になっている。現状、財政再建がちっとも進まないのは政治に問題がある以上、そうならざるを得ないのだが、経済学者による統治機構の提案は、現実性の裏付けがないのではと疑い深くなってしまう。

プランBは、どうみてもインチキ臭い。こんな錬金術がなりたつのだろうか。そもそも、数10兆円、数100兆円の対外投資が現実に実行できるとも思えない。
しかも、この話があらゆる場所に何度も繰り返し、くどいほど登場する。



小黒一正 (おぐろかずまさ)
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構准教授。1997年京都大学理学部卒後、大蔵省(現財務省)入省。一橋大学博士(経済学)。財務総合政策研究所主任研究官などを経て、2010年から現職。内閣府経済社会総合研究所客員研究員。専門は公共経済学。 <主な著書>『2020年、日本が破綻する日』、『震災復興』(共著)、『Matlabによるマクロ経済モデル入門』(共著)などがある。

小林慶一郎 (こばやしけいいちろう)
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構教授。1991年東京大学大学院修了後、通商産業省(現経済産業省)入省。シカゴ大学大学院博士課程修了(Ph.D.in Economics)。経済産業省課長補佐、経済産業研究所上席研究員を経て2010年より現職。専門はマクロ経済学。 <主な著書>『日本経済の罠―なぜ日本は長期低迷を抜け出せないのか』(共著)、『経済ニュースの読み方』などがある。

目次
はじめに
第I部 プランA 日本破綻を回避する正攻法
 第1章 破綻が近づく日本財政
 第2章 財政再建をめぐる神話
 第3章 財政・社会保障を再生する7つのプラン
第II部 プランB 破綻回避と成長への戦略 
 第4章 破綻平準化のためのマクロ政策
 第5章 世界経済と日本経済の今後
 第6章 日本の成長戦略
 第7章 国債暴落に備える政策体系
 第8章 震災後の財政と経済
 第9章 TPP参加問題をめぐる論点
 第10章 経済政策の政治性
主要参考文献
おわりに
補論




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高野和明『ジェノサイド』を読む

2012年06月04日 | 読書2
高野和明著『ジェノサイド』2011年3月角川書店発行、を読んだ。

急死したウイルス学者の父親からの1通のメールが届き、創薬化学専攻の大学院生・古賀研人は隠されていた私設実験室に辿り着く。父は何を研究していたのか。

同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、イエーガーは、難病の息子の治療費を稼ぐため、暗殺任務とおぼしき極秘作戦につく。「人類全体に奉仕する仕事」と言われたのだが。チームは戦争状態のコンゴのジャングル地帯に潜入する。
東京の大学院生と、アフリカで戦い続ける傭兵の人生が交錯する時、米国のネオコン強圧政権は、この事件を人類絶滅の危機と捉え、力で押しつぶそうとする。

2012年本屋大賞第2位、このミステリーがすごい!2012年飯1位など
初出:「野性時代」2010年4月号~2011年4月号

高野和明(たかの・かずあき)
1964年生まれ。
岡本喜八に弟子入りし、大学中退。
1989年渡米、1991年帰国後、TV、映画の脚本家。
2001年『13階段』で江戸川乱歩賞受賞、40万部
2011年本書で直木賞候補、山田風太郎賞受賞、日本推理作家協会賞受賞



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

話は良くできていて、確かに面白く、一気に読める。特殊戦闘員が敵地に潜入するようなハリウッド映画が好きな人にはとくにお勧めだ。

アメリカ大統領バーンズがブッシュそっくりの硬直人間で、また取り巻きすべてが善悪より「何が大統領の気に入るか」だけを考えて行動するところなど現実味があって笑える。

薬作りの過程の詳細がながながと書かれる。謝辞に10名ほどの医学者の名前があり、著者勉強ぶりがしのばれるが、小説としてはバランスを欠いている。

過去の日本の韓国、中国への暴虐行為が本筋にあまり関係なくところどころ出てくる。こだわる人はいるだろうが、量的には多くなく、読み飛ばせば良いだけだ。こんな大作を書いたのだから、これくらいのことは著者に好きにさせてやりたい。と、戦後の平和教育に毒された私は思う。




以下、本筋に無関係な私のメモ

研人が正勲に言う。
「先に謝っておくけど、かなり厄介なことになりそうだ」「最悪の場合、正勲が警察に捕まるか、日本にいられなくなるかも知れない」・・・
「最良の場合は?」
「全世界で、十万人の子供の命を救える」
「分かった」

「第二次大戦中、近距離で敵兵と遭遇したアメリカ軍兵士が、どれくらいの割合で銃の引き金を引いたと思うかね?」・・・「・・・たったの二割だ」・・・「残りの八割は、弾薬補給などの口実を見つけて殺人行為を忌避していたんだ。・・・最前線の兵士たちは、自分が殺される恐怖よりも、敵を殺すストレスのほうを強く感じていたのさ」

そこで軍部は射撃訓練の的を丸型標的から人型標的に変え、・・・射撃の成績に賞罰を加えるようにした。これらの結果、べトナム戦争での発砲率は95%になった。しかし、帰還兵の中にPSTD患者が多くなった。(人を殺してもまったく精神的打撃を受けない理想的兵士は2%いる)。

脳の形が変われば精神や思考も変化するからね。現に我々は、脳梁の太さが違う相手に振り回され、屈服を余儀なくされている。

すべての生物種の中で、人間だけが同種間の大量殺戮を行う唯一の動物だからだ。それがヒトという生き物の定義だよ。人間性とは残虐性なのさ。


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角田光代、穂村弘『異性』を読む

2012年06月02日 | 読書2

角田光代、穂村弘著『異性』2012年4月河出書房新社発行、を読んだ。

河出書房新社のこの本の宣伝にこうある。(お二人の写真と対談が載っている)

角田光代と穂村弘の初の共演&競演でおくるのは、全く新しいタイプの恋愛エッセイ。
まるで往復書簡をやりとりするように、カクちゃんとほむほむが、それぞれ女の立場、男の立場から、恋と愛の24のテーマについて、とことん考えます。
ともに大学デビューで、さえない青春を送ってきたという2人だからこそ、もてる人ともてない人をわける理由を鋭く分析。
そのほか、男と女のすれ違い、勘違いについても、実体験をまじえながら考察していきます。
あなたの恋は錯覚? それとも幻想!?
恋愛中の人も今から恋愛予定の人も、そして過去の恋愛を成仏させたい人も、必読です!



表紙のイラストが「いいなぁ」と思った(宇野亜喜良さんと長崎訓子さんの競演)。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

ともかく打てば響く二人の掛け合いが男と女の違いを際立たせてくれる。恋愛考察エッセイなのだが、当人達が言うほどかどうかは別にして、両人共もてない辛い過去に基づく話になっているので、私にも安心して、笑いながら読めた。



以下、私のメモ

「女性は非日常体験を求めている」という角田さんの話を受けて、穂村さんは「イタリア旅行中に駅員からプロポースされた」という女性の話を思い出す。しかし、彼女にとっては生涯初の経験でも、駅員は下手したら毎日で、日常の振る舞いかもしれない。
女性が本当に求めているのは非日常体験によって証明されるはずの愛の温度なのだろう。もともとハイテンションな男性が日替わりの着ぐるみ姿でお姫様抱っこをしてくれても「愛が冷めていない」ことの証明にはならないから、やはり駄目なのだ。

「好きな人」しか目に入らないことの度合いが、男とは比較にならないほど大きいのは何故だろう。(穂村)
薔薇でもサンタクロースでも、お姫様抱っこでも、・・・たしかに、好きな人からでないと意味がない。どころか、意味が真反対になる。うれしくて死んじゃうかも、が、うげ、キモイ死んでくれ、になる。(角田)

「頑張ってお洒落してお化粧して可愛くしているんだから、デートの費用は当然男性が全部払うべきだと思います」



穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年5月北海道生れ、名古屋育ち。北大入学し、すぐ退学し、上智大学入学。
卒業後、SEとして就職。
1989年第1歌集刊行。
2002年初エッセイ『世界音痴』
2005年『現実入門』
2008年結婚、『短歌の友人』で伊藤整文学賞受賞
2009年「 整形前夜


角田光代の略歴と既読本リスト

 

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