hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

椰月美智子『るり姉』を読む

2013年06月30日 | 読書2

椰月(やづき)美智子著『るり姉』(2009年4月双葉社発行)を読んだ。

宣伝はこうだ。
三姉妹が慕う、母親の妹のるり姉は天真爛漫で感激屋。周りの人々を楽しい気分にさせてくれる天才だ。だが、そんなるり姉が入院した。季節を遡り、三姉妹や母親、るり姉の夫の視点から、元気だったるり姉との愛おしい日々が語られる。日常にある幸せが一番大切だと気づかせてくれる連作家族小説。


登場人物は、るり姉(ねえ、本名るり子)を中心に、その姪であるさつき、みやこ、みのりの3姉妹とその母(るり姉の姉)のけい子。ほかにはけい子とるり子の母、るり姉の夫のカイカイ(本名開人)など。

るり姉は、3姉妹にとっては母に比べて物わかりが良く、叔母さんというより頼れる姉さんで、るり姉と呼んで甘えている。5章構成で、章ごとに語り手が変わる連作形式。
 第1章のさつきは、高校1年生。高校生になって早速アルバイトを始めた。長女らしいしっかりもの。 そんな折るり姉が入院した。それもあまりよくないらしい。当初はここまでだったが、好評で第2章以下を書いたという。
 第2章は看護婦をしている母のけい子。夫とは別れ一人で3人の娘を育てている。なりふり構わない猛烈お母さん。
 第3章は14歳の中学生のみやこ。髪を赤く染めてヤンキーの格好をしているが、そうでもないらしい。姉と妹に挟まれた次女として、ぶっきらぼうの仮面のしたにナイーブさが。
 第4章は開人で、運送屋のトラック運転手。るり子の二番目の夫で何といっても彼女に首ったけ。
 第5章はみのりで、末っ子らしい甘えん坊でちゃっかりもの。まだ子供なのか、もうそうでもないのか。

とくになにもない日常が過ぎてゆき、女性たちの会話が弾む。そして、突然、るに姉の病気が・・・。

初出:「小説推理」2008年9月号~2009年1月号



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

レベルの高い小説ではないが、気楽に読め、るり姉が魅力的で、女性にはお勧めの「四つ星」だ。男性が読んで面白いとも思えないので「三つ星」にした。3姉妹も、長女タイプ、へそ曲がりの次女、まだ甘えん坊の三女と、よく描けてはいるが基本的には類型的。3姉妹とるり姉の関係が微笑ましく、この小説を豊かにしている。

まだ新婚のカイカイがるり姉と旅行に行き、つぶやく。
幸せだよなあ、と秋の雨を見ながらしみじみと思い、自分を制した。――幸せじゃなくていいです。どうか、普通でいられますように。


一つ、有益なサジェスチョンをいただいた。イチゴ狩りには、るり姉のように、チューブのコンデンスミルクを持参しよう。



椰月美智子(やづき・みちこ)
1970年神奈川県生まれ。
2002年「十二歳」で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー
2007年の「しずかな日々」で野間児童文学賞、坪田譲二文学賞を受賞
「WEB本の雑誌」「作家の読書道」「第102回:椰月美智子さん」(写真あり)に「私自身に姪が3人いるので」と語っている。藤原ていの『流れる星は生きている』を感動した小説にあげていたが、その理由が、自身は幼い二人の子を連れてスーパーへ買い物に行くだけで、クタクタなのに、満州から3人も子供を連れて帰るなんて考えられないというもの。




さつき:渋沢さつき、長女、高校生~大学生
みやこ:次女、さつきの1歳下、赤く縮れた髪にしている
みのり:3女、小6~
渋沢けい子:三姉妹の母、るり姉の姉、看護師、離婚
るり姉:藤本るり子、3姉妹の叔母
カイカイ:開人、るり姉の夫

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横山秀夫『64』を読む

2013年06月27日 | 読書2

横山秀夫著『64(ロクヨン)』(2012年10月文藝春秋発行)を読んだ。

昭和64年1月5日小学一年生の雨宮翔子が誘拐され、身代金2千万円は奪われ、死体が発見された。このD県警史上最悪の誘拐殺人事件、通称64は、14年経過しても、いまだ犯人を捕まえることができていない。

知能犯を追いかける刑事部捜査2課で生き生きと働いていた三上は、突然警務部広報室へ異動させられる。キャリアの切れ者である警務部長赤間は、本庁意向を受けて、地元出身者のトップともいうべき刑事部長のポストをキャリアにしようと画策する。そこでいまだに有力手がかりもない64が利用される。
刑事部と警務部が全面戦争に突入する中、いずれ刑事部の捜査員に戻り、広報室は当面の腰掛と考えていた三上は狭間に落ち込み、・・・。そして、己の道を覚悟し、定めていく。

初出:「別冊文藝春秋」251号、253~260号、262~263号、全面改稿し、書下ろし1451枚(400字詰)



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

647頁という大部だが、少しも弛緩せず、一気とは言わないが、じっくりと読ませる。
刑事部と警務部、キャリアと地元出身者、広報室と記者クラブ、警察と犯人など多層で入り組んだ策略、だましあいが展開され、癖のある登場人物もそれぞれが存在感を発揮する。密度濃く、破たんなく、大部な小説を読ませる著者の腕は確かだ。

敢えて揚げ足を取れば、登場する女性は、清楚な美人か、美人ではないが明るい女性で、表面的記述にとどまる。また、ミステリーとしては仕掛け不足、魅力不足だ。この本は、圧倒的に濃い警察小説といえる。



横山秀夫
1957年東京生まれ。国際商科大学(現在の東京国際大学)商学部卒業。上毛新聞社に入社。
12年間記者生活を経てフリーライター。
1991年「ルパンの消息」がサントリーミステリー大賞佳作
1997年「影の季節」で松本清張賞受賞
2000年「動機」で日本推理作家協会賞・短編部門受賞
他に、『半落ち』『クライマーズ・ハイ』など。



登場人物が多いので、以下のメモを書きながら読んだ。しかし、「文春特設サイト」の方がわかりやすい。

三上義信:警務部秘書課調査官<広報官>警視、46歳
三上美那子:義信の妻、元ミス婦警の美人、なぜ三上と結婚したのかが明かされるが、どうもね。
三上あゆみ:義信の娘、家出中。行方手配してもらっているので、三上は刑務部長に逆らえない。
諏訪:広報室係長、小利口、有能な広報マン
蔵前:広報室主任、線が細く、事務屋
美雲:広報室婦警、23歳、清楚な美人
辻内欣二:本部長、キャリア44歳、トップに一番近い男、タヌキ
赤間:警務部長、D県警No.2、キャリア41歳、本庁を向き、権謀術数を操る
石井:警務部秘書課長、三上の上司、非現実的なほどの追従者
二渡:警部部警務課調査官、三上の高校の同級生、D県警のエース、赤間の元で実権を握る
荒木田:刑事部長、赤間に徹底抗戦
松岡:刑事部捜査一課長、参事官、三上の尊敬する捜査実績No.1
落合:刑事部捜査二課長、若いキャリアで、地元のベテランにおもちゃにされる。
糸川:刑事部捜査二課刑事、42歳

記者 東洋:秋川、全県:山科、朝日:高木まどか、

歴代刑事部長 尾坂部、大舘
元捜査員  漆原:現Q署長、幸田:元64捜査員、日吉:元科捜研職員
その他   雨宮芳男:翔子の父



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山本周五郎『泣き言はいわない』を読む

2013年06月25日 | 読書2
山本周五郎著『泣き言はいわない』(新潮文庫 や-2-58、1994年11月発行)を読んだ。

山本周五郎の全著作から、心にしみる言葉455を抽出した名言集。

誇り高く生きる/ひとり重荷を負って/男の情、女の情/価値あるもの/人と人の世の中/作家の姿勢
に分けられて、箴言が並ぶ。その他、主人公たちの名セリフ(1)~(3)、ヒロインたちの名セリフ(1)~(2)と、解説、山本周五郎の「年譜」、著作一覧(新潮文庫収録のもののみ)が続く。

パラパラと読み返しながら、最初の方からいくつか抜粋する。
貪欲や不義不正や、貧困やみだらな肉欲の争いが絶えないとしたら、それがそのまま人間生活というものではないだろうか。清潔で汚れのない世界は空想だけのもので、そういう汚濁の中でこそ、人間は生きることができ、なにかを為そうという勇気をもつのではないか。――おごそかな渇き――

積極的な意志を伴わない善は却って人を毒する。――火の杯――

「人間が善良であることは決して美徳じゃないぜ、そいつは毀れ易い装飾品のようなもので、自分の良心を満足させることはできるが、現実にはなんの役にも立たない。そのうえ周囲の者にいつも負担をおわせるんだ」――「栄花物語」――

「自分は冷酷な情を知らない人間だと云われた、専制、暴戻と罵られたが、おかげで却って仕事はしよかった、そういう名が付けば付くだけ無理が押せるし、責任を他の者に分担させる必要がなかったから」――「晩秋」新藤主計――



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

一つ一つの言葉は、なるほどと思うのだが、よほどの箴言好きか、山本周五郎の作品を多く読んでいる人でないかぎり、名言とはいえ455も並んだら、うんざりする。
常識的だとたんなる説教に思え、逆だと、いたずらに逆説を展開しているだけじゃないかとも思えてくる。
やはり、名文句も話の流れ、環境の中でこそ心を打つものだと思った。



山本周五郎
1903年山梨県生まれ。横浜の小学校卒業後、東京木挽町の質屋山本周五郎商店に徒弟として住み込む。店主は文壇で自立するまで物心両面で庇護し、正則英語学校、大原簿記学校などに学ばせた。彼は店主の名をペンネームとした。
1926年「須磨寺附近」が文藝春秋に掲載され出世作となる。
1943年「日本婦道記」が直木賞に推されたが受賞を固辞
『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療記』『青べか物語』など。

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世界遺産の朝の富士山

2013年06月22日 | 日記
今日、2013年6月22日、富士山が世界遺産に選定されるはず。

そして、この季節にめずらしく、富士山が顔を出した。誇らしげな顔を。



富士山が見えると、ちょっと嬉しく、晴れやかな気持ちになる。

今日が、残りの人生のスタートの日。そして、スタートの日の朝にふさわしい。
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藤原るか『介護ヘルパーは見た』を読む

2013年06月20日 | 読書2

藤原るか著『介護ヘルパーは見た 世にも奇妙な爆笑!老後の事例集』(幻冬舎新書282、2012年9月発行)を読んだ。

サブタイトルに「世にも奇妙な爆笑!老後の事例集」とあり、裏表紙にも、
1人になると寂しくてウンチをこねくり回すおじいちゃん、
ありったけの宝石を身につけてお風呂に入るおばあちゃんなど、
想像を絶する世界がそこにはあった!

とあるが、けして面白おかしく書いた興味本位の本ではない。
介護ヘルパーとして20年以上の経験がある著者が、介護現場の現状の問題点を投げかける真面目な本だ。

厚生労働省は、介護保険の経費圧縮のため、介護保険を改定し「介護保険から生活援助を外し、身体介護だけに限定する」方向へ進もうとしている。現場で働いている著者は、ほんの少しの生活援助で、お年寄りが自立できるようになると信じている。著者は自分では、介護ヘルパーでなくホームヘルパーだと思っているのだ。
著者は、この点などについて、厚生労働省に抗議し、動画サイトに投稿した。これが出版社の目にとまり本書の出版に至ったという。

「健康寿命」とは、介護を受けたり、寝たきりになったりせずに健康な日常生活を送ることが可能な期間を示しますが、平成22年の段階で男性が70.42歳、女性が73.62歳だったという。・・・

平均寿命との差から、
「介護を受けたり、寝たきりの状態」の期間は平均で、男性は約9年、女性は約13年となるのです。

認知症の人は環境が変えると、症状が悪化することがあります。・・・
認知症の人は自分を守るために感覚が過敏です。相手の感情をすぐに察知してしまいますから、穏やかな気持ちで接することが大切です。・・・
認知症を抱えた方に大事なのは、自分が受け入れられ、穏やかに過ごせることです。そうすれば認知症があっても、その人らしく、本来の姿で、日々を送ることができると思います。

介護保険がもっと柔軟に運用できるものであれば、利用者の意欲向上に役立つ援助ができるのに、と残念でなりません。見守りもコミュニケーションも認めない介護保険は、まったく血の通わないしくみだといえます。


ヘルパーは平均10軒ほど廻り、2万歩は超える。しかし、移動時間は時給計算されない事業所が多く、時給は1300円と悪くはないが、20日で約4万円の手取りにしかならない。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

介護ヘルパーが現場から見た介護保険の現状を説得力充分に指摘している。確かにこのままではこの先に展望はないなと思った。介護される人、介護する人、そして財政・お金を出す人のすべてがなんとか納得できる状態でなくては、持続するものでないことは明らかだ。介護の現場を知ろうとしないで財政事情だけで政策を決める官僚にうんざりする。

また、「介護を乗り切れる人、つぶれる人」「介護保険制度をうまく利用するコツ」なども、各個人に具体的に役立つことが書いてある。



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マツコ・デラックス『続・世迷いごと』を読む

2013年06月15日 | 読書2

マツコ・デラックス著『続・世迷いごと』(2012年2月双葉社発行)を読んだ。

女性タレントについて語った前作『世迷いごと』の続編。女性タレントの他に男性タレントも追加して、マツコ独特の理屈、感性で切る毒舌の「タレント論」。

初出:月刊誌「EX大衆」連載に加筆・訂正


マツコ・デラックス
1972年10月生まれ。千葉県出身、身長178cm、体重140kg、スリーサイズ140cm



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

賛同できるかどうかはともかく、好悪がはっきりしているので、最後まで読めた。とくに芸能界の裏話があるわけではない(と思われる)が、週刊誌を何冊も読むよりは効率的にTVの世界を味わえる。

私は週刊誌を読まないし、ネットでの芸能ネタにも興味ないので、マツコさんの語る話の前提がわからない場合が多かったし、女子アナも区別がつかないので、話に乗れなかった。

「島崎和歌子は無駄に美人」には賛成する。
自民党議員・丸川珠代が「やっていることって、土建屋の支持を集めているハゲ政治家と変わらないじゃん」と決めつけている。「実は同性を踏みつけにして〈名誉男〉になりたがっている女」と言われると、半分当たっていて、バカな男なんて問題にもしないと思っているだけなのでは。

以下、女子アナと以外は、私もだいたい知っている。新しい人が少ない? かなり前の芸能界の有名人のお話なので、私もある程度楽しめた。
後書きによれば、巨体ゆえ劇場のイスに収まらず、最近の宝塚も映画も演劇も見られなくなっているという。



女子アナ:夏目三久 有働由美子 葉山エレーヌ 加藤綾子 紺野あさ美 田中みな実

ナルシスト:イチロー 斎藤佑樹 木村拓哉

80年代アイドル:中森明菜 松田聖子 小泉今日子 神田沙也加

二世タレント:小泉孝太郎 石原良純 長嶋一茂

男性司会者:みのもんた 中山秀征 関口宏

自然体不要論:元・宝塚女優(真矢みき 檀れい 黒木瞳) 大竹しのぶ 広末涼子 菅野美穂

業と純情の近似性:加護亜依 後藤真希 華原朋美

清純派:酒井法子 小向美奈子

沢尻エリカ 高城剛

陰性エロスと陽性エロス:熊田曜子 杉本彩 小池栄子 仲間由紀恵

政治の世界に進んだ女たち:丸川珠代 蓮舫 小池百合子

アスリート:澤穂希 ダルビッシュ有 紗栄子

リーダー不要論:橋下徹

テレビに棲む女:島崎和歌子 磯野貴理子 前田敦子


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川上未映子『安心毛布』を読む

2013年06月13日 | 読書2

川上未映子著『安心毛布』(2013年3月中央公論新社発行)を読んだ。

川上さんは、こんな社会で子供をつくることに疑問を感じていたが、現在は、夫の阿部和重氏と子供と暮らして、忙しい執筆の傍ら、家事(料理以外は完全分担制だとTVで語っていた)などこなしている

妊娠・出産・子育てと、予想外な新生活の中でこころとからだに起きた大変化を綴る、著者自身もおどろきの最新エッセイ集。書き下ろしエッセイ「お料理地獄」収録。



タイトルの“安心毛布”は、どうしても触ってないと安心して眠れない毛布の端っこなど。ぼろきれ抱えて出張に行くひげ生やした男がときどきいますよね。

この本には、幸せそうな生活が多く書かれていて、順調そのものにみえる未映子さん。24歳で上京して売れない歌手の数年間があった。スタッフには恵まれて、できるだけのことはやってみるが、結果は出ない。お金がからむだけに、支えてくれる人たちに申し訳ないが、世界から用がないといわれているようでもあり怖かった。

何かひとつ、誰にもわかってもらえない自分だけの大事なものを見つけることが、明日また、学校や職場でがんばるためのちからになると思うのだ。

孤独の豊かさを知らなければ、何人と遊んでいたって満たされない。ひとりきりを過ごすことができなければ、誰といたって安心できない。

偏りがあって、誰にもわかってもらえない部分を、持っていて、それを相手に押し付けることもせず、ただ、それが自分にとって宝であることを自覚している人たち。



初出:読売新聞連載「発光地帯」他各種メディア



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

何ということないと言えば言える日常を描いている。ただ、川上さんらしい感性と、やわらかな女性らしい文章は健在だ。
まえがきに代わる冒頭はこうだ。

春のかたち
昨日は郵便受けのなかみをとりに外に出たら、そんない寒くなくてもう春なんだなと体がういた。胸のあたりがまるく疼いて、春が皮膚にくっついた、飲む水に色、みえるものに曲線。この連載では、そういうもののこと、たくさん書いてきたようなそんな気がする。



こんな文章があって、私も、そうそうと思い出した。

村上春樹さんの短編「納屋を焼く」に出てくる、パントマイムがとても上手な女の子をどうにも思い出してしまう。彼女はパントマイムでみかんの皮を次々にむいてみせるという「みかんむき」をバーかどこかで何気なしにさらりと披露して「うまいね」と驚く主人公に対して「簡単よ、蜜柑がそこにないことを忘れるの」というような素敵な台詞を言ったりしていた。



川上未映子の略歴と既読本リスト





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冬川智子『マスタード・チョコレート』を読む

2013年06月10日 | 読書2

冬川智子著『マスタード・チョコレート』(2012年4月、イースト・プレス発行)(漫画)を読んだ。

人とかかわることが苦手で、いつも孤独感を抱える高校生、口をつぐんでしゃべらない津組倫子。通称「つぐみさん」。
そんな彼女の世界が、美術予備校へ入学してから、ほんの少しずつ変わり始める。 不器用な心の動きを繊細に描き、ケータイコミックとして週刊連載され人気を博した漫画。

友達もいない高校3年生のつぐみは、夏に入ってから「今から始めて現役で美大に入れますか」と美術予備校へ通い始める。予備校講師(実際は大学生)の矢口は「大丈夫!」と励まし、周囲になじめないつぐみをなにかと気にかける。つぐみは、その親切をわずらわしいとも思う。
つぐみが大好きなマイナーなミュージシャン、イグルーのファンとわかった馴れ馴れしい男子、浅野と少しずつ距離を縮め、つぐみの無愛想さも気にせずに話しかけてくる女子、マリとも、次第にうちとけていく。

世界とうまくなじめない不器用な女子が、大学受験の前後で少しずつ成長していく日々をていねいに描いた物語だ。

題名は、つぐみの好きな色が、地味な、マスタード色とチョコレート色であることから。

初出:ケータイサイト「ヒトコト」2010年8月27日~2011年10月14日の週刊連載
携帯用なので、クリックして変わる全部同じコマサイズの4コマ1頁で、16コマで1話(track)になり、62話ある。連載時の最終話に加筆し、番外編を収録。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

コマの大きさ、数が一定で、読みやすい。話も、少しずつ進展するので漫画だがすっきりしている。

人気漫画は皆そうだが、主人公が個性的。他の人はきちんと描かれているのに、主人公つぐみだけは、まん丸い顔に、おかっぱ頭で、簡単化して描かれる。つっけんどんな反応で、感情を見せないそっけない素振りが、過剰なそぶりばかり目を引く昨今、逆に興味を引く。

徐々にではあるが、次々と友を得て成長していくというストーリーは、一本調子で簡単すぎるが、一方では、シンプル、ストレートで読みやすい。



冬川智子(ふゆかわ・ともこ)
1979年小田原市生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒。
2008年ブログで1ページ漫画「水曜日」を連載、メディアファクトリー「第13回コミックエッセイプチ大賞」C賞受賞。
2011年、本作品「マスタード・チョコレート」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。


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葉室麟『秋月記』を読む

2013年06月06日 | 読書2
葉室麟著『秋月記』(角川文庫17179、2011年12月角川書店発行)を読んだ。

福岡藩から分かれた小藩、秋月藩は福岡藩との間で支配、独立を巡る陰謀、争いを続けていた。そして、藩の家老・宮崎織部は専横を極め、藩内で不満が満ちていた。間小四郎は、仲間とともに立ち上がり、福岡藩の助けを得て失脚させることができた。福岡藩の策謀、破綻寸前の藩財政の前で、いつしか仲間とも距離ができて、小四郎(後に余楽斎)は身を捨てる覚悟を決める。

以下、気になったところ。

政治の世界での善悪の判断は難しい。
政事はどのように行っても、すべての者によいということはないようです。それゆえ後の世の人に喜ばれるものを、何か作っておきたくなる。

金というものは天から雨のように降ってくるものではない。泥の中に埋まっている。金が必要であれば、誰かが手を汚さねばならぬ。どれだけ手が汚れても胸の内まで汚れるわけではない。心は内側より汚れるものです。


小四郎は、(誰かに)言われる。
山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見ると心が落ち着くのだ。おのれがおのれであることにためらうな。悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それが、お前の役目なのだ。


恋人を殺され、女中奉公に過ぎないのに妾だと噂をたてられながらも、人の役に立ちたいと質の高い葛を作ることに成功し、貧しい領民を助けた「いと」。彼女は、冷たい水に手を浸し続けた結果、労咳で亡くなってしまう。

初出:2009年1月刊行の単行本を文庫化



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

なかなか面白く、「誠の武士(もののふ)」の物語だ。四つ星でも良いのだが、山本周五郎の「樅ノ木は残った」を思わせる、悪人実は矜持の人のパターンで、しかも、連続する二人ともというので減点。

藩の事情、脇役の説明など横道が長すぎて、いささか冗長でもある。

小四郎、後の余楽斎の
それがしは弱い人間でござった。その弱さに打ち克ちたいと思って生きて参った。そのために一生があったようなものでござれば、これでやっと重い荷を下ろせ申す。

を聞くと、私も同じだなと思ってしまう。臆病で卑怯な振る舞いのあった子供時代、無理して突っ張っていた青年時代、自分に正直にと思い定めた壮年時代、そして、自然体に近づこうとする老年時代。



葉室麟さん(はむろ・りん)
1951年北九州市生まれ。西南学院大を卒業し地方新聞記者。
2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞しデビュー
2007年「銀漢の賦」で松本清張賞
2009年「いのちなりけり」と本書「秋月記」、2010年「花や散るらん」、2011年「恋しぐれ」で直木賞候補
なお、本書は山本周五郎賞候補にもなる。
2012年「蜩ノ記」で直木賞受賞 

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谷瑞恵『思い出のとき修理します』を読む

2013年06月02日 | 読書2

谷瑞恵著『思い出のとき修理します』(集英社文庫た81-1、2012年9月集英社発行、346頁)を読んだ。

「おもいでの時 修理します」

小さなショーウィンドウの片隅に、そんなふうに書かれた金属製のプレートを見つけ、明里は足を止めた。
こんな風にこの物語は始まる。(プレートからは「計」の字が落ちていたという落ち?なのだ)

明里(あかり)28歳は、都会での美容師の仕事や恋に疲れ、子供のころ夏休みを過ごした地方の駅から20分も歩く寂れた商店街へやって来る。出会った時計店屋さんの秀司は、思い出も修復してくれる、といううわさを聞く。過去にとらわれた二人が、登場する人の探し物などの依頼を解決する中で立ち直っていく5編の連作短編集。

文庫への書下ろし



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

登場人物が類型的過ぎる。心に謎の傷をおった明里と秀司。常にお賽銭を狙い、現れてはすぐ消える狂言回しの大学生太一。幽霊かと思える不思議な女性・・・。写真、ノートといったよくある小道具。会話、ユーモアは陳腐で、・・・。
ただし、読みやすくはある。

なぜこんなファンタジー系ライトノベルを読んでいるのかわからなくなった。どこかで推薦の書評を読んで図書館へ予約したのだろうが、何か月も経ってからでは、今朝の朝食も何だったか定かではない私は、経緯も題名も忘れていた。

緑内障とともに、視野が年々狭くなるのを防ごうと、私としては変わったものになるべく手を出すようにしているのだが、
「無理! やはり無理」

「昨年9月発売で年末に5刷20万部で、今秋には続編が刊行。読者の7割以上が女性で、20~30代が多い。」
70代男性は??



谷瑞恵(たに・みずえ )
三重県出身の女性ライトノベル作家。コバルト文庫の伯爵と妖精シリーズなどで人気。
1997年、集英社ロマン大賞佳作入選。
本作がはじめての一般書。

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