最果タヒ著『「好き」の因数分解』(2020年2月1日リトルモア発行)
ひとつの「好き」について、本文と、キャプションのようなテキスト、詩のようなテキストという3層構造で、見開きに三つの文章が並ぶ変わったレイアウトになっている。これが、48続く。
幾何学模様のブックデザイン(by 佐々木俊)がカワユイ。
テーマは、「ミッフィー」「風立ちぬ」「マックグリドル」「カルテット」「ゆらゆら帝国」「よつばと!」「古畑任三郎」「宇多田ヒカル」「タモリさん」「BLANKEY JET CITY」「ポイント10倍キャンペーン」「インスタグラム」など。
「FINDERS(ファインダーズ)」のインタビューで最果さんはこう語っている。
好きなものが好きな理由を書こうとすると、それについての話にはならない感じがあります。好きは好きだし、好きなものを「なぜ好きなのか?」、わざわざ分かる必要を自分は感じていないし、好きなものについて語るとき、それはなぜ好きなのか、よりも「自分はここにいます」って話にしかならないように思うんです。
好きっていうのは、自分から見た世界がこういう風に見えるってこと。好きっていうのは、世界から何かを選び取ってるんですよね。そこに自分が映し出されている。だから「好き」を語るのは、自分自身の話をすることにも近いと思うんです。
「マックグリドル」
マックグリドルとは、マクドナルドの朝のメニューで、シロップをふんだんに含んだパンケーキでソーセージや目玉焼きやチーズを挟んでいる。甘いとしょっぱいが50:50のハーモニー、ではなく、100:100で陣地の取り合い・殴り合いをしているような食べ物なのです。
「カルテット」
2017年に放送されたTBSのドラマ。高橋一生と吉岡里帆がブレークした。
私たちは嘘をつくし、言わないことも多くなるし、そうした「不在」をかかえて他人と向き合っている、という、そのことを、ドラマで生々しくさらしている。
「クロード・モネ」
景色は、いつも光が物質と混ざり合って、できている。光なしで私たちがなにかを見ることなんてけしてできなくて、美しさとは光によって作られているのだ。
最果タヒ(さいはて・たひ)
1986年生まれ。
2004年よりインターネット上で詩作をはじめ、翌年より「現代詩手帖」の新人作品欄に投稿をはじめる。
2006年、現代詩手帖賞を受賞。
2007年、詩集『グッドモーニング』を刊行、中原中也賞受賞、
2012年、詩集『空が分裂する』。
2014年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』刊行、現代詩花椿賞受賞。以降、詩の新しいムーブメントを席巻
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
まず、『「好き」の因数分解』というタイトルに、そして著者が若き詩人であることに興味を持った。
どうして好きなのかを語ることは、どうしてもややこしい話になってしまう。ましてや、本人は感性は鋭くないと言ってわいるが、感性を誇る詩人であればなおされだ。それでも、大部分は理屈でもなく、尖った感性でもなく、わかりやすい語り口だ。
とは言っても、いつくかは、ややこしい。たとえば、「写真を撮る」の「へたくそ」についてこんな文章がある。
しかしぼくは、「へただけど、切実さがあり、その切実さとへたが噛み合って、ぐっとくる」みたいな、「へた」の救われ方はあまり好きではなくて(うるせえ切実フェチが。と思います)、「へた」を必死さの演出としてみるのではなく、手癖とか本人がまだ言語化できていない価値観によって生まれているからこそ「よい」とされるときに、好きだと思います。
著者とは親子以上年が離れているので、好きな歌手の名前、服装など知らないことがところどころ(?)あった。