hiyamizu's blog

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ポール・オースター「幻影の書」を読む

2010年01月14日 | 読書2

ポール・オースター著、柴田元幸訳「幻影の書」(THE BOOK OF ILLUSIONS)2008年10月、新潮社発行を読んだ。

宣伝文句は以下。
救いとなる幻影を求めて――人生の危機のただ中で、生きる気力を引き起こさせてくれたある映画。主人公は、その監督の消息を追う旅へ出る。失踪して死んだと思われていた彼の意外な生涯。オースターの魅力の全てが詰め込まれた長編。オースター最高傑作!


主人公の作家は、妻と息子を飛行機事故で亡くし立ち直れないとき、今では忘れ去られた1920年代のサイレント映画に見入ってしまう。今ではすっかり失われてしまったヘクター・マン主演、監督の喜劇映画をいくつか探し出して紹介する本を書く。、ヘクターが事故を起こし、突然失踪してその後行方知れずになったことを知り、主人公はヘクターの消息を追う旅に出る。
心の痛手をおったこの二人の男と複数の女性の数奇な人生模様が交錯し、その上さらに、ヘクターのいくつかの無声映画や、隠遁生活の中で制作した未公開の映画がくわしくリアルに描写されるという寄り道を繰り返す複雑な構成で、まさに幻影の書だ。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

ポール・オースターのファンは別として、この種の複雑な構成で、しつこいほど映画の内容を描写する文章を読む続けることのできる人は少ないと思う。

柴田さんの訳者あとがきを読むと、私の読んだ「ガラスの街(シティ・オヴ・グラス)」では、ポール・オースターはポストモダンの旗手だったが、この一作から、超一流のストーリー・テラーへ成長し、この後も次々と傑作を書いたらしい。(私はもう結構ですが)


話が幾重にも重なっていく構成、ユニークな登場人物、西洋文学の造詣を基に、饒舌に語るさまざまなエピソード、そして、映画製作の経験のある作者らしい映像描写の見事さ、あるいはしつこさが特徴だ。こんな小説を書くポール・オースターはたしかに怪物だ。


ポール・オースター Paul Austerは、1947年、ニュージャージー州ニューアーク生まれ。1970年に コロンビア大学大学院修了後、メキシコで石油タンカーの乗組員、フランスで農業等様々な仕事につく。1974年にアメリカに帰国後、詩、戯曲、評論の執筆、フランス文学の翻訳などに携わる。1985年から1986年にかけて、「ガラスの街(シティ・オヴ・グラス)」、「幽霊たち」、「鍵のかかった部屋」の、いわゆる「ニューヨーク三部作」を発表し、一躍現代アメリカ文学の旗手として脚光を浴びた。以来、無類のストーリーテラーとして現代アメリカを代表する作家でありつづけている。他の作品に「ムーン・パレス」、「偶然の音楽」、「リヴァイアサン」、「ティンブクトゥ」、2002年本書「幻影の書」が刊行された。

柴田元幸(しばた もとゆき)は、1954年東京生まれ。東京大学大学院教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースターの主要作品、レベッカ・ブラウン「体の贈り物」など多数。著書に「アメリカン・ナルシス」「それは私です」など。村上春樹さんと翻訳を通してお友達でもある。




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