hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

雨宮塔子『雨上がりのパリ』を読む

2012年02月28日 | 読書2
雨宮塔子著『雨上がりのパリ』2011年11月小学館発行、を読んだ。

各章が、34歳、35歳・・・40歳となっていて、各年齢で書いたエッセイが約10編ずつ収録されている。各章のはじめには、「いま想う『◯◯歳』の私」が置かれていて、34歳から40歳までの雨宮さんのパリでの暮らしが語られる。
初出は、「Domani」2005年1月号~2011年12月号に6年間に渡って連載したものだ。

内容は、ブランド物ショッピング、しゃれたレストラン、仕事と子育ての両立、仏の幼稚園、第二子妊娠・出産などステキな天宮さんの憧れのパリ生活の様子だ。

ベビーシッターさんに子供を預けて友人と小洒落た店でランチをするのも楽しい。たまにはパートナーと、ゴージャスなレストランにディナーの席を取るのも、それは嬉しい。だけど、本当に気心の知れた友人たちとこうしたビストロに陣取っていると、ここ、パリに、パリジャンに、溶け込んでいるような気がして、それは私に特別な思いを抱かせる。

(こんなにもはっきりと書かれると・・・)

文中にも何度も登場する篠あゆみさんの撮影した雨宮さんの写真があらゆるところに挿入されている。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

軽く読めるのだが、雨宮さんのファンか、パリに憧れる人以外にはお勧めしない。パリでの生活も、誰も彼もがこんなに楽しんでいるとも思えないので、特殊なものに過ぎないのだろう。親しくしている人が皆、日本人なのも気になる。
私は、子供をベビーシッターに預けて夫婦で楽しむことにはけして否定的ではなく、できればそうしたいと思う。日本では、フランスでも(?)、そんなことができる人は少ないのに、それをそのまま本に書く神経はどうかなと思う。

そうかと思った点を2つだけ。

私がパリに行った時、すきまなくびっしり縦列駐車した車にびっくりした。車をぶつけて隙間を広げ駐車する場合が多いと聞いた。雨宮さんも、前後にバンパーをぶつけて隙間を作って出ていくという。

フランス人は小さな子供にスニーカーやズックをあまり履かせない。将来の“脚の形”のために、赤ちゃんの頃から革靴を履かせるのが普通なのだ。


パリの嫌な点はまったく書かれていない。ひとつだけ挙げると、道に犬のフンが多い点がある。まるで、数十年前の日本のように。


雨宮塔子
1970年東京生まれ。成城大学文芸学部英文学科卒。
1993年(株)東京放送(TBS)入社。「どうぶつ奇想天外!」「チューボーですよ!」など数多くの人気番組を担当する。
1999年3月TBSを退社し、単身パリに遊学。西洋美術史を学ぶ。
2002年パティスリー・サダハルアオキのオーネーシェフ・青木定冶氏と結婚。
2003年7月長女、2005年に長男を出産。
現在はフリーキャスター、エッセイスト。
著書に『金曜日のパリ』『小さなパリジャン』『それからのパリ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大野更紗『困ってるひと』を読む

2012年02月26日 | 読書2
大野更紗著『困ってるひと』2011年6月ポプラ社発行、を読んだ。

ビルマ難民問題を研究していた24歳の大学院生女子が、タイ・チュラロンコン大学での研究留学中に自己免疫疾患系の難病を発症し、緊急帰国。1年間の医療機関の放浪の末、ようやく「筋膜炎脂肪織炎症候群」という自己免疫の難病だとの診断が下り、自らが「医療難民」となった。
麻酔なしの手術に、途切れなしの熱と倦怠感。読むだけで恐ろしい悲惨な闘病生活をユーモアをもって語る。
彼女には、支援してくれる友人、遠方の親がいたが、長期に渡ったので支える側は疲弊した。そこで彼女は、自立への道を模索し始める。しかし、日本の社会福祉制度の構造や仕組みは複雑でまったく理解できない「モンスター」だった。同じような膨大な書類を書き提出する必要があるなど硬直的な社会福祉制度に果敢にチャレンジする。

現在は通院しながら治療を続けている。痛み止めの薬が効かず、自宅では「昏睡の合間に執筆し、常に痛みを感じている」状態だという。

初出:ウェブマガジン「ポプラビーチ」2010年8月~2011年4月に連載されたものに加筆訂正
装・挿画(能町みね子)が可愛い。

大野更紗(おおの・さらさ)
1984年、福島県生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。博士前期課程休学中。学部在学中にビルマ(ミャンマー)難民に出会い、民主化活動や人権問題に関心を抱き研究、NGOでの活動に没頭。大学院に進学した2008年、自己免疫疾患系(筋膜炎脂肪織炎症候群、皮膚筋炎)の難病を発病する。1年間の検査期間、9か月間の入院治療を経て、現在も都内某所で絶賛生存中。
大野更紗のブログ

入院中にラジオで高野秀行氏(『異国トーキョー漂流記』の著者)の話を聞いて自分も何か書きたいとメールしたのがきっかけでこの本が誕生した。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

超ど田舎の優等生から花の上智フランス語科に、そしてビルマ難民に入れ込み、一転して難病でイモムシ化。考えただけで気味悪くなるような悲惨な状況を軽く調子の良い話し言葉で語る。著者の負けてない気持ちもあって、なんだか楽しく読めてしまうから不思議だ。
後半の社会福祉制度へ挑戦する話は、ちょっとスピード感が無くなる。さらに、好きな人ができる話は人様に聞かせる話になっていない。

BLOGOS」の対談で著者が語っていた。
今の日本社会は、セーフティーネットがスカスカなんです。いわゆる「普通」の状態から一歩踏み外すと、一気にスコーンと貧困に落ちてしまう。
普通の人もいつ貧困に落ち込んでも不思議でない状況なのだ。





はじめに 絶望は、しない、 わたし、難病女子
第一章  わたし、何の難病? 難民研究女子、医療難民となる
第二章  わたし、ビルマ女子 ムーミン少女、激戦地のムーミン谷へ
第三章  わたし、入院する  医療難民、オアシスへ辿り着く
第四章  わたし、壊れる  難病女子、生き検査地獄へ落ちる
第五章  わたし、絶叫する 難病女子、この世の、最果てへ
第六章  わたし、瀕死です うら若き女子、ご危篤となる
第七章  わたし、シバかれる 難病ビギナー、大難病リーグ養成ギプス学校入学
第八章  わたし、死にたい 「難」の「当事者」となる
第九章  わたし、流出する おしり大虐事件
第十章  わたし、溺れる  「制度」のマリアナ海溝へ
第十一章 わたし、マジ難民 難民研究女子、援助の「ワナ」にはまる
第十二章 わたし、生きたい(かも) 難病のソナタ
第十三章 わたし、引っ越す 
第十四章 わたし、書類です 難病難民女子、ペーパー移住する
第十五章 わたし、家出する 難民、シャバに出る
最終章  わたし、はじまる 難病女子の、バースデイ
あとがき 難病史上最大の作戦




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東野圭吾『分身』を読む

2012年02月24日 | 読書2

東野圭吾著『分身』集英社文庫ひ15-1、1996年9月集英社発行、を読んだ。

札幌に住む女子大生・氏家鞠子は、数年前一家心中をはかって火事で死んだ母からあまり愛されていないと感じていた。鞠子は母の遺品を見つけ、母が、生前、東京で自分の出生に関わる何らかの秘密を調べていたことを知る。その後、父が突然海外留学を勧めにやってくる。不審に思った鞠子は出生の秘密を探りに東京へ行く。
その東京には、双子以上に鞠子に酷似した小林双葉がいた。母親と二人暮しの彼女は母の反対を押し切りテレビ出演したことから周辺で不審なことが起き始める。そして、双葉もまた自分の出生の秘密に疑問を持ち北海道に向かう。

WOWOWOで2月12日夜10時から長澤まさみ主演でこの「分身のドラマ」がスタートした(全5話)。


初出:「小説すばる」1992年9月~93年2月まで連載された『ドッペルゲンガー症候群』に加筆して1993年9月集英社より『分身』として刊行。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

二人の主人公の話が交互に小気味良く進む。しかし、全編を貫く二人の出生に秘密が、なんとなく推察できてしまうので、今ひとつ物足りない。20年ほど前に遺伝子工学に関する小説を書いた著者は勉強家だと思うが、iPS細胞などの話題が多い昨今では、物語の最初のほうからなんとなく秘密が覗けてしまう。

二人のヒロインの言葉遣い、行動などをもっと極端に変えてほしかった。ときどき混乱してしまう。二人以外の登場人物が全員腹に一物あるのもどうかと思うし、背景の巨悪の存在もお定まりの話で感心しない。

解説の細谷正充氏は、「本書は、ふたりのヒロインの真実を求める旅を描きながら、神の領域を侵犯してしまった現代科学、ひいては現代文明に対する警鐘を打ち鳴らしているのである。・・・」と書いているが、著者は現代科学批判をしたいのではないと思う。この小説のトーンからは、現在の医学会でも倫理上認められていない行為そのものではなく、それに伴う殺人を始めとする明らかな犯罪行為を問題としていると思う。

それにしても、望みの器官がつくりだせるというiPS細胞の技術が進展すれば・・・。



東野圭吾の履歴&既読本リスト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉田修一『空の冒険』を読む

2012年02月22日 | 読書2

吉田修一著『空の冒険』2010年9月木楽舎発行、を読んだ。

ANAの飛行機の座席に置いてある雑誌に連載されている短いエッセイ集、短編小説集だ。

プロローグで、吉田さんは若い頃から日記をつけていて、時々振り返るが、月一度のこの『空の冒険』はひと月遅れの日記のようなものだと書いている。

本文は10ページ足らずの掌小説が12ほど並ぶ。最初の数編は一応の結末があるが、これから発展するのに途中で終わってしまった感じのものもある。余韻があるというより、いきなり終わった感じだ。機内で読むと、これからの旅、あるいは終わろうとしている旅に思いをはせることになるのだろうか。

後半にはエッセイが11並ぶ。仏、ニューヨーク、ブータン、韓国、台湾、中国と取材などの旅行記と、ぎっくり腰体験談、家電音痴ぶり、美術館訪問だ。

「『悪人』を巡る旅」は、幾度と無く取材旅行にでかけた同じ場所に、本が出版されたあとで訪れる旅だ。面白半分で始めた旅に、著者は「小説を書くとはどういうことなのか、改めて深く考えさせられる旅になっていた。」と書いている。

最後の「悪人に出会う旅」は、映画『悪人』の灯台で行われたロケ地訪問記だ。
『悪人』は、日の当たらない人生を歩んできた男と女の物語だ。どんなに足掻いても現実の世界では勝ち目のない二人の物語。しかし、現実の世界では勝ち目のない二人が、唯一この映画の中でだけは誰よりも輝いて見える。それがこの灯台なのだと思う。・・・
『悪人』という小説は、ひっそりと生きてきた者たちが、大切な人のために必死に立ち上がろうとする物語でもある。そんな物語を必死に映画にしようとした人たちが、毎朝毎晩通ってつけた足跡が大瀬崎の灯台には今でも残っている。





初出:全日本空輸機内誌『翼の王国』2008年10月~2010年9月連載



吉田修一の略歴と既読本リスト





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

篠田節子『銀婚式』を読む

2012年02月20日 | 読書2

篠田節子著『銀婚式』2011年12月毎日新聞発行、を読んだ。

証券会社に入社した高澤修平は、社内留学でMBAを取得し、初恋の人、妻の由貴子と6歳の息子、翔を連れて36歳でニューヨークに渡る。しかし、彼は家庭を顧みず、由貴子は現地の生活になじめないで体調を崩し、ある日息子を連れて日本に帰り離婚することとなる。
さらに、突然、会社が破綻する。ただちに再就職する同僚達の中で、彼は残務整理を完遂したが、そのときは倒産後2年経っていた。
40過ぎて再就職した昔風の穏やかな中堅損保会社で周囲から浮きながら活躍するが、・・・。
仙台の新設大学の講師の職を得るが、やる気のない学生と、醜い教授間の派閥争いに・・・。そして、年の離れた女性との恋、息子の受験、元妻は彼女の両親の介護をして・・・

高澤高度成長期に育ち、頑張り屋の男の会社流転の物語でもあるが、人情の機微に疎く、女性の心が分からない男の家族の物語でもある。



篠田節子の略歴と既読本リスト
1
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

300ページを超える本だが、一気に読んでしまった。久しぶりにストーリーのはっきりした、昔ながらの小説を読んだ。真面目で不器用で人の心が分からない男の苦労話に、私とは優秀で頑張り屋の点が異なるのだが、我が事のように引きつけられてしまった。
女性が読んでも、そのずれぶりにいらいらしたり、わが夫と全く同じねとあきれたり、面白く読めるのではないだろうか。


「Chunichi BookWeb」の自著を語るに篠田さんが書いている。

・・・高度成長の尻尾を持つ、誠実一路、努力、根性、文武両道の中年男など、もはやもてはやされることはない。優しさと共感力が至上の価値とされる時代に、割を食い、ないがしろにされる人物に光を当てたい。・・・
そう、責任と義務に生きる我が主人公は、人情の機微に疎い朴念仁である。女たちがその微笑や思いやりある行動の裏側で抱いている不信感や迷いに気づかず、その決断に慌て、混乱する。噛(か)み合わない会話や小さなエピソードに封じ込めた女心の謎を、経験豊かな読者に読み解いていただけたらうれしい。・・・




母親の介護を引き受けた弟が葬式の時にけろりとして言った言葉を、兄(主人公)が非難すると、
「兄貴さ、看取るまでの苦労で流した汗と、葬式で流す涙の量っては、反比例するものなんだよ」
確かに、母が死んだ後も、ただただ慌ただしく、じっくり悲しむ時間もなかった(母(7)死)。




コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヴァレリー・プレイム・ウィルソン『フェアー・ゲーム』を読む。

2012年02月18日 | 読書2
ヴァレリー・プレイム・ウィルソン著、高山祥子訳『フェアー・ゲーム アメリカ国家に裏切られた元CIA女性スパイの告白』2011年11月ブックマン社発行、を読んだ。

まず、黒く塗られたこの本をご覧あれ。これは中国の本、あるいは戦前の日本の本ではない。現在の自由の国アメリカで出版された本なのだ。全編にある墨字はCIAによるものだ。



ご存じない人のため、まず、ブックマン社のHPにある、国際ジャーナリストのローラ・ローズン氏による後書き(原著巻末付録にのみある)から「プレイム事件」の概要を説明する。
http://www.bookman.co.jp/esp.php?_page=detail&_page2=myg71

私の要約:ブッシュ政権はイラク侵攻の理由とされた大量破壊兵器がイラクになかった責任をCIAに押し付けようとし、CIA幹部もこれを支持した。
しかし、元大使のジョセフ・ウィルソンは「フセインが500トンのウランをニジェールに求めてはいなかった」ことをホワイトハウスは既に知っていたのだと明らかにした。
大統領選挙を1年後に控えたチェイニー副大統領と補佐官スクーター・リビーは、ジョセフ・ウィルソンの妻がCIAの核兵器拡散防止課で働いているからあんな事をいうのだと、記者に耳打ちし、彼の信頼性を傷つけようとした。
これにより、妻のヴァレリー・プレイムはCIAの秘密諜報員の身分を暴露され危険に陥った。これが「プレイム事件」だ。

ブッシュ再選後に、補佐官リビーは有罪となるが、ブッシュは減刑し収監されることはなかった。
なお、この後書きには、ヴァレリーのCIAでの仕事など本書の黒字部分を含む内容がかなり詳しく明らかにされている。

この本でヴァレリー・プレイム・ウィルソンは、CIAに入るまで、CIAでの訓練、夫ジョセフのニジェール行きの経緯、身分を暴露されてからの苦しみ、退職後執筆したこの本のCIA検閲への抵抗などについて書いている。

題名のフェア・ゲーム〔fair game〕とは、<公平なゲーム>の意味を持つ一方で、攻撃や批判、嘲笑などの<恰好の的>、<都合のよい標的>、<いいカモ>というような表現で用いられる



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

ちょっと記述が詳しすぎるが、権力というものがいかに強引であくどいが実感できる。なんといっても実際に起ったことなのだ。
少なくともイラク戦争に関しては、政権側がいい加減な、あるいはウソの情報を新聞記者に流し、新聞が事実として書いて世論を導くことが行われた。後程、事実でないと判明しても記者は情報源を明らかにせず、退職することになっても、政府関連機関に雇われる。

森林地帯や沼地での戦闘訓練などCIAでの訓練の様子に興味をひかれた。
CIAの面接の際、「ホテルであなたが情報提供者会っているとき、突然ドアを叩く音がして『警察だ、中に入れろ!』と声がしたらどうしますか?」と質問された。彼女の答えは「ブラウスを脱いで相手にもそうさせ、即座にベッドに飛び込みます」だった。



ウィルソン,ヴァレリー・プレイム Valerie Plame Wilson
元CIA秘密諜報員。1963年、アラスカ州アンカレッジのエルメンドルフ空軍基地にて生まれる。ペンシルバニア州立大学の学士号及びロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)とベルギーの欧州大学院大学の修士号を持つ。CIA任務中は、敵国の大量破壊兵器調査や反核拡散の作戦行動など幅広く仕事をこなしていた。元大使である夫のジョー・ウィルソンとの間には双子の子どもがいる。そして現在は、家族ともどもニューメキシコで暮らしている

高山 祥子
翻訳家。1960年東京都生まれ。成城大学文芸学部ヨーロッパ文化学科卒業

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

角田光代『かなたの子』を読む

2012年02月16日 | 読書2
角田光代著『かなたの子』2011年12月文藝春秋発行、を読んだ。

水子、間引かれた子、即身仏、子供の頃殺めてしまった友達など日常の中の恐ろしい出来事を描いた8編の短編集。

過去の闇が現在を縛り未来を萎縮させる。
スーツケースに入って遊んでいるうちに鍵が開かなくなり仲間が・・・、妻が分けのわからない言葉を発するようになり、やがて夫・・・、心ない別れを告げた女性に8年ぶりに合うが、相手は・・・。
そして、間引きのために殺された子、それは私なのか? 流れてしまった子は居なかったことにする慣習に逆らおうとするが・・・。気が付かないうちに虐待してしまった罪を負って・・・。

表紙の装画は、気味悪いほど写真みたいな具象画を書く諏訪敦氏による女性の横顔。描かれた髪の毛を見ていると恐いくらいで、なんとなく不気味な雰囲気がある。

初出:「文学界」や「オール読物」の2008年から2011年



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

気味悪い話が多いが、おどろおどろしくはなく、全体としてはやわらかなトーンだ。
そうせざるを得なかった過去の罪に捉えられていても、なお生きようともがき、生き続けても過去に苦しめられてしまう。しかし、この小説では、相手の方は苦しむ自分をすでに赦していると暗示させ、幾分すくわれる。
ちょっと大げさに言えば、筆さばきの達人の角田さんが、人間の深層心理に迫った作品達と言えるだろう。



角田光代
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞を受賞。
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞を受賞。
2005年『対岸の彼女』で第132回直木賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞をいずれも受賞
2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。

その他、
水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 」「私たちには物語がある 」「 愛がなんだ 」「 ひそやかな花園 」「 よなかの散歩園 」「 さがしもの
彼女のこんだて帖




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米原万里『米原万里の「愛の法則」』を読む

2012年02月14日 | 読書2
米原万里著『米原万里の「愛の法則」』集英社新書0406F、2007年8月集英社発行、を読んだ。
1998年から2005年に行った4つの講演禄で、米原さんの死後発刊されている。

第一章 愛の法則
多くの相手から、なぜ「この人」を選ぶのか。生物学、遺伝学(?)、古今の文学を引用し、得意の下ねたを交え、女性は多くの男を競わせて優秀な一人を選ぶことになっている、あるいは「女が本流、男はサンプル」という説を語る。

女は男を次の3つに分類する。
A ぜひ寝てみたい男
B まあ、寝てもいいかなってタイプ
C 絶対寝たくないタイプ
多くの女性はCがほとんど、米原さんはCが90%強。

第二章 国際化とグローバリゼーション
グローバリゼーションとは、イギリスやアメリカが、自分たちの基準で、自分たちの標準で世界を覆いつくそうとすること。国際化とは、世界の基準に自分をあわせようとすること。
日本人の伝統的な習性で、その時々の世界の最強の軍事力と経済力を持つ国が文化も最高だと錯覚してしまう。

日本語では、外来語を"音"だけのカタカナ語として取り入れることができる。意味がわからなくても使える構造だ。中国語では、"意味"を考えないと通訳できない。例えば、日本の「ラブホテル」は中国語では「情人旅館」となる。

第三章 理解と誤解のあいだ
第四章 通訳と翻訳の違い

外国語と日本語と、この両方で小説が楽しめるようになれたら、通訳になることはかなり簡単だと思います。・・・


読書こそが言葉を身につける最もよい方法だ。単語は言葉の部品に過ぎない。まず言いたいこと(概念)があって、それを適する日本語のコードにして、声にして音を出すか、文字にして表現する。単語だけ暗記したり、文法という骸骨の部分だけを、生きた言葉と無関係にいくら勉強しても意味が無い。

初出
「1.愛の法則」と「2.国際化とグローバリゼーションの間」は高校生向けの講演(2005, 2004)、
「3.理解と誤解の間~通訳の限界と可能性」は県の文化講演会(1998)、
「4.通訳と翻訳の違い」は新聞社主催の受賞記念講演(2002)で



米原万里(よねはら・まり)
1950年東京生まれ。父親は共産党幹部の米原昶。少女時代プラハのソビエト学校で学ぶ。
ロシア語の会議同時通訳を20年、約4千の会議に立会う。
著書に、『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』(読売文学賞)、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(大宅壮一ノンフィクション賞)、『オリガ・モリソヴナの反語法』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞)など。
2006年5月ガンで歿。
実妹のユリは井上ひさしの後妻。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

高校生向けなどの講演録なので分かりやすく、軽く楽しむには良いが、深みは今ひとつ。例えば、「愛の法則」も多少あやしい生物学を強引に引用するなど、娯楽として楽しむのは良いが、真剣に考える内容ではない。
ユーモアたっぷりで、楽しめるし、同時通訳の現場からの発言も、なるほどと思う点も多いのだが、既にエッセイなどに書かれていることも多い。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉田太一『遺品整理屋は見た!!』を読む

2012年02月12日 | 読書2
吉田太一著『遺品整理屋は見た!! 天国へのお引越しのお手伝い』2008年6月扶桑社発行、を読んだ。

さだまさしの「アントキノイノチ」に登場する遺品整理業「キーパーズ」の社長が書いた本。「遺品整理屋は見た!」2006年9月発行の続編。

孤独死した人の遺品の整理の中で出会った様々な人間模様を綴ったエッセイ集。
腐敗した遺体やゴミに埋もれた部屋など陰惨な場面も多いが、扇情的な描写は押さえ気味で、副題が「天国へのお引越しのお手伝い」とあるように人間ドラマが主役だ。
34本のエピソード、コラム6本と、それに元監察医の上野正彦氏*との対談が収められている。
*:上野正彦『監察医の涙

やはり悲惨なシーンは出てくる。ひどい死臭で発見されることが多い。床に広がる体液を拭き取り、凝固した血液を擦り取り、消毒液を散布する。2日ほどオゾンを発生させて死臭を取る。天井まで50センチ積み上がったゴミに埋もれて突然死というケースもあった。

孤独死は、家族との縁が薄い人、友人や近隣の人との付き合いがない人が多い。しかし、一人住まいだったが、友達も多く親戚付き合いも良かった人が突然死し、発見まで死後1週間経ってしまった例がある。何人かの人が、連絡がとれなくなっても、元気な人だったので、「旅行にでも行っているのだろう」と見過ごされていたのだ。

最近は、遺品整理に関する事前見積依頼が、とくにおひとり様女性に多い。「誰にも迷惑をかけたくない」「自分のできることは、できるだけ自分の責任で」「死んだ後で恥ずかしい思いは絶対したくない」との思いからだろう。しかし、吉田さんは思う。「人間はいつか死を迎えそのときには誰もが必ず誰かのおせわになるのです。それは順番です。そんなに頑張んないでください」

ひとりが自死した場合、遺族や友人など最低5名の方がなんらかの精神的障害を引き起こすといわれ、一年で15万人以上の人が苦しんでいる。そんな人達のための団体「グリーフケアサポートプラザ」がある。



上野氏との対談
すごいのはアル中の最後。売れるものは布団までお金に換えて飲んでしまうので部屋はがらんどう。(上野)

人間が死ぬと、消化器系は酵素をださなくなるので自分自身を消化してしまう。だから腐敗が一番早い。釣った魚のはらわたをまず抜くのもその理屈だ。(上野)

これだけ日常的に死に接するようになると、人間にとって死ぬということは本当に当たり前のことなんだなあとおもえるようになりました。・・・長く生きることよりどう生きるかのほうが大事なことにおもえるようになってきました。(吉田)



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

興味半分で読んでも良いのだが、吉田さんの企業人という立場を超えたサービス精神、問題の本質に迫ろうという姿勢が気持ち良い。もちろん大上段に振りかぶった社会批判でなく、現場からの声なので、分かりやすく、共感しやすい。


吉田太一
1964年大阪市生れ。日本料理の板前を経て佐川急便に5年間勤務後、28歳で引越運送業を始める。2002年、遺品整理専門会社「キーパーズ」を設立。
2006年9月。「遺品整理屋は見た! 「現実ブログ!!「現実にある出来事の紹介」





以下、メモ

部屋の隅から隅へ対角線に張ったロープに吊るされたしわくちゃな下着類。流しに溢れる汚れた食器、コタツに林立するビール瓶、醤油色のシーツ。そして、蛆虫の大群。死後1ヶ月経ち血管や内蔵が腐敗してガスを発生し、体はパンパンに膨れ上がる。親族が、警察から本人確認を求められても困難な場合がある。

54歳の一人息子が認知症の母の世話に限界となり、最後の親孝行と京都市内の思い出の地を観光し、息子は「もう生きられへんのやで。ここで終わりやで」と告げる。「そうか、あかんか。康晴、一緒やで。おまえと一緒や」「すまんな、すまんな」「康晴はわしの子や、わしがやったる」母のその言葉で心を決めた息子は母の首を締め、自分も首を切り倒れたが、近くにいた人に発見される。公判で被告は「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」「母の介護はつらくはなかった。老いてゆく母がかわいかった」と語った。
ここまで行くと、マザコンも感動的で、美しくもある。

ひとり暮らしの老人の家がすっかりリフォームされ、電化製品なども新品になっていた。訪問セールスマンが最初のうちは「おじいちゃん」「おとうさん」などといって親身になって話を聞く。商売の話はしない。人間関係ができたところで、「実はこうゆうものがあるんだけど」と製品、サービスを売りつける。契約すると、その情報が回って、別の業者がやってくる。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青山七恵『あかりの湖畔』を読む

2012年02月10日 | 読書2
青山七恵著『あかりの湖畔』2011年11月中央公論新社発行、を読んだ。

祖父の代からの古びた食堂「お休み処・風弓亭(ふうきゅうてい)」は山の上の湖のほとりにあるあまり人が入らない店だ。父はすでにふもとの温泉街の観光案内所勤めに変わり、家族は店を冬の間だけでも閉めることをすすめるが、久米家三姉妹の今年26歳になる長女の灯子は風弓亭を続けることにこだわっている。次女は東京で女優になろうとしており、高校生の三女は美容師になることを夢としている。
灯子は15年前に家を出て行った三姉妹の母親の事情に関わったため、自分が家族を壊したと思い込んでいる。

初出:読売新聞2010年7月12日~2011年4月8日



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

話の流れは良くあるといえば良くあるものだ。母親をめぐる秘密がベースになっているのだが、その事よりも、三姉妹それぞれの立場、性格と気持ちがよく描かれていてそれがこの小説のメインだと思った。女性には好まれるかもしれない。

三姉妹の関係は、これも細雪を思わせるが、一人っ子の私には面白かった。慎ましく、臆病ともいえる長女、積極的で強気の次女、まだ子供でおとなしいと思われているが芯が強そうな三女、存在感のない父親。このありがちな家族が、様々な会話や、ちょっとした事件を通してありありと描かれる。



青山七恵は、1983年、埼玉県生まれ。
筑波大学図書館情報専門学群卒業。
2005年、在学中に書いた「窓の灯」で文藝賞、
2007年「ひとり日和」で芥川賞受賞。
2009年、「かけら」で川端康成文学賞を最年少で受賞。
その他、「やさしいため息」、「「魔法使いクラブ」」、「「私の彼女」」。




登場人物

久米灯子 (長女26歳) 「お休み処 風弓亭」を切り盛りしている。控えめ。
悠   (次女) 女優志望で、隆史と東京へ行く。
花映  (三女) 高校生 美容師志望。
源三  (父)  温泉街の観光案内所勤務。
芳子  (源三の妹 叔母) 風弓亭を手伝っている。 息子は高校生の俊介。
淳次  灯子と遠い親戚で幼馴染、ロープウエイで働く。
清   灯子の親友、温泉街の仲居。
橋本辰生 観光地調査で来て、ホテルで働くようになる。
タキ  隣の松野屋のおばあさん。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

藻谷浩介『デフレの正体』を読む

2012年02月08日 | 読書2
藻谷浩介著『デフレの正体 ?経済は「人口の波」で動く』角川oneテーマ21、2010年6月角川書店発行、を読んだ。

経済成長の低迷は、景気変動とは関係なく、現役世代が減少し、その需要が縮小しているので内需が縮小することが原因だ。

経済弱体化の理由は、国際競争力の減退ではない。実際、日本の輸出額はバブル期に比べて倍増している。経済弱体化の理由は、内需の縮小である。

たとえば、バブル崩壊後の就職氷河期とされる1990~95年に、実際は日本の就業者数は増えていた。その逆に、「戦後最長の好景気」と重なる2000~05年には就業者数が減っている。

内需と景気が連動しなくなっている。
いま起きているのは、クルマや家電、住宅など、主として現役世代にしか消費されない商品の、生産年齢人口=消費者の頭数の減少に伴う値崩れだ。

若い女性がフルタイムで働いている率が高い都道府県ほど、出生率も高いという相関がある。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

著者の主張するように、経済の低迷の一因は、現役世代の減少・需要の縮小による需要の縮小だろうと思う。しかし、それが主因なのかは疑問が残る。ゆっくりとした全体の流れは、当然若い世代の人口減少による経済の低下だろう。しかし、世界経済のうねりの中で日本としてやれる中短期の対策はいろいろあり、そのための経済分析も大切だと思う。

著者は地域経済の現場から日本経済全体を見て、考察を加えている。各種政府統計を上げていわゆる経済学者の論を否定しているが、考え方自体が限られたデータから推測する帰納法であり、全体を見ていない。そして、マクロ経済を否定する事が多い。

指摘しているいくつかの事実にはなるほどと思うが、論の進め方が強引で、飛躍が多い。
例えば、どうすれば良いかについて、著者の案の一つは、「高齢者が貯蓄ばかりして、若い世代が消費しないから、景気は悪化した。だから高齢者から若い世代へ所得を移せば良い」
というものがあるが、ネットで見ると、「高齢者は年金の全額を使い、さらに、貯蓄を取り崩し、消費性向は 1 を上回る。現役世代は必死に貯金し消費性向が低い。」というものがあった。高齢者の私は、個人的には著者に賛成であるが、統計的、経済学的結論は不明だ。

また、今後の対策として、観光収入の増大策、ブランド向上による輸出増大を挙げているが、直感的には量的効果は大きくないという気がする。

著者の極端な意見に対して、ネットなどで激しい論争があるようだが、論争でなく冷静な議論が必要なのだが。



藻谷浩介(もたに・こうすけ)
1964年山口県生れ。1988年東京大学法学部卒。現、日本政策投資銀行参事役
地域振興のコンサルティングが専門で、過去10年間に全国で4,000回近く講演を行う。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東野圭吾『プラチナデータ』を読む

2012年02月06日 | 読書2

東野圭吾著『プラチナデータ』2010年6月幻冬舎発行、を読んだ。

髪の毛1本のDNA分析から、性別、年齢、血液型、身長、そしてかなり精緻な犯人の容貌までを特定することができる画期的なプロファイリングシステムが完成した。同時に、了解を得た人のDNAを登録し、犯罪時に登録者の近親者を特定できるというDNA法案が国会で可決し、検挙率が飛躍的に上がる。しかし、連続殺人事件で得られたDNAは、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操作するDNA捜査システムによっても「NOT FOUND」。犯人はこの世に存在しないのか? さらにこのプログラムを開発した天才数学者までが殺害される。現場に残された毛髪から解析された結果はなんと・・・。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

軽く読めるSFだが、犯人探しの過程、結果には感心しない。DNAで人間の肉体がほとんど決まってしまうかのような記述も納得できない。二重人格をからませたのも、話を胡散臭くするだけのように思える。
DNAによりプロファイリングシステムというアイデアを、著者の筆力で強引に仕上げた作品だ。東野さんの熱烈なファン以外にはお勧めできない。


初出:「パピルス」2006年12月号~2010年4月号



登場人物

浅間玲司:警視庁捜査一課の刑事、警部補、(昔気質の足でかせぐタイプ)
神楽龍平(かぐら):警察庁特殊解析研究所・主任解析員(システムの開発運用者)
木場:警視庁捜査一課、浅間の上司、(単なる課長の伝令役)
那須:警視庁捜査一課長、(キャリア)
戸倉:警視庁捜査一課の刑事(浅間の後輩で真面目一途)
志賀孝志:警察庁特殊解析研究所・所長
白鳥里沙:アメリカからDNA捜査を研究に来日
蓼科早樹:天才数学者でDNA捜査プログラムの開発者
蓼科耕作:蓼科早樹の兄
水上洋次郎:新世紀大学・脳神経科教授
リュウ:神楽龍平の別人格
スズラン:謎の少女
神楽昭吾:神楽龍平の父親で、陶芸家



東野圭吾の履歴&既読本リスト


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

佐野洋子『死ぬ気まんまん』を読む

2012年02月04日 | 読書2

佐野洋子著『死ぬ気まんまん』2011年6月光文社発行、を読んだ。

佐野さんの遺作となったエッセイ「死ぬ気まんまん」、医師との対談、10年以上前のエッセイ「知らなかった」と関川夏央の寄稿よりなる。

死ぬ気まんまん
このエッセイを書いたとき、佐野さんは68歳。乳がんが骨転移し、余命2年の告知を受けたその足で、車屋に行き、「それ下さい」とジャガーを買った。そして、「あたしもうすぐ死ぬわよ」とふれ回ったら、みんな急に裏返したように、親切になった。ところが、なかなか死なないのである。

抗がん剤の注射によって一日でツルッパゲになった。私の頭の形がいいことが解った。

そして気がついた。私は顔だけブスなのだ。・・・今度生まれたら「バカな美人」になりたい。

骨が痛くて、寝っ転がっているのに、私の口は実に達者である、元気の上に達者である。それに声がでかい。
「洋子さんしなないよ」初めは劇的に優しかった友達が言いだし、そのうち「あんたが一番長生きするよ」と同情のかけらさえも示さなくなった。



最初のほうに登場する変人の古道具屋「ニコニコ堂」は、作家長嶋有の父親だそうだ。
タイトルは息子の画家の広瀬弦の「おフクロ、なんかこの頃、死ぬ気まんまんなんですよね」から。

築地神経科クリニックの平井辰夫理事長との対談」2008年12月収録
日本で一番すごい検診は、国立がんセンター中央病院、検診センターでやっている。20万円だが、それぞれの分野の癌の専門医が全身を検診する。

55歳までは種族保存のために遺伝子が守ってくれる。しかし、それ以上では生活習慣などにより個人差が大きくなる。

肉体的制御は脳幹や間脳など周辺の脳がやる。中心の大脳皮質の複雑な神経回路は自我そのものであるが体の調節はできない。自分と身体は別物だ。

知らなかった 黄金の谷のホスピスで考えたこと」1998年
当時、佐野さんは欝(多分)を病んでいて全身に症状が出て苦しんでいた。友達があこがれているとても素敵な先生のいる病院(ホスピス)に入院する。そこでであった人たちを語る入院日記だ。

旅先の人 佐野洋子の思い出」関川夏央

豪放でいて繊細であった佐野洋子から立ちのぼる「よるべなさ」の空気は、「引揚で者」のそれだった。・・・彼女は、正統な、そして最後の「大陸出身者文学」の作家であった。そんな彼女は、日本での暮らしが「旅先」にすぎないという感覚から、ついに自由ではなかったのではないか。



初出:「知らなかった」婦人公論1998年10月22日号、11月7日号
「死ぬ気まんまん」小説宝石2008年5~7月号、2009年4,5月号(途中中断のままで遺作となった)

  

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

最初のエッセイ「死ぬ気まんまん」は、話の流れがバラバラで読みにくい。しかし、佐野さんの人柄そのものと、豪快な語り口が面白い。「知らなかった」は、辛い症状に悩まされながら、さすが作家、入院しているユニークな人々をしっかり観察している。

佐野さんは言う。

私は一生のほとんどを地球と平行に生きてきた。寝っころがって本を読むか、テレビを見るか、借りて来たビデオを見ている。


私もまったく同様に常にゴロゴロしている。寝転がって使うため、ノートパソコンを横にして寝たまま眺めたり、入力したこともある。意外と見難くてやめたが。



佐野洋子
1938年北京生れ。武蔵野美術大学デザイン科卒。ベルリン造形大学に留学。
1977年絵本に『100万回生きたねこ』、1980年離婚
エッセイ集『神も仏もありませぬ』で小林秀雄賞受賞。
『シズコさん』(自伝的作品、母親をずっと愛せずにきた娘の告白)
2010年11月ガンで死去。
2011年2月『佐野洋子対談集 人生の基本
谷川俊太郎は二度目の元夫。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎『モダンタイムス』を読む

2012年02月02日 | 読書2

伊坂幸太郎著『モダンタイムス 特別版』2008年10月講談社発行、を読んだ。

主人公の渡辺拓海は、疑り深く暴力的で仕事、過去など得体が知れない恐ろしい妻を持つ。システム開発の職場では、論理が通らない無茶苦茶な上司、強引で自分勝手な先輩、真面目すぎ小心な部下に悩まされる。前任者が逃亡し、開発依頼者も不明な不可思議なプロジェクトが彼に回ってくる。どうもある単語を検索した人を探しだすシステムらしい。検索する人を監視し恐怖の脅迫に持ち込む謎の正体は?

初出:漫画雑誌「モーニング」2007年18号~26号
本書は2005年発表の『魔王』の続編にあたる。特別版には、「モーニング」連載時の花沢健吾氏による全イラストを収録してある。
あとがきで著者は、『ゴールデンスランバー』と平行に執筆したので互いに影響しあう双子のような関係にあると書いている。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

私は、コミカルで、軽さのある伊坂さんの文体は好きで、多少の荒唐無稽ぶりは面白いと思う。617ページの大部だが、一気に読めた。
しかし、ハリウッド映画並の少々荒っぽい話の運び、登場人物の漫画的で極端なキャラクターは嫌いな人も多いだろう。

井坂好太郎なる気障な小説家が登場し、解ったようなことを言い、謎を解く鍵があるという作中小説が数ページに渡って引用されているが、ちょっと遊びすぎだ。

無茶な顧客、訳のわからない仕様、なんとかなるだろうとしか言わない上司といったシステム、ソフト開発の苦しみが良く書けていて苦笑し、共感を呼ぶ。さすが元システムエンジニアの伊坂さん。



伊坂幸太郎&既読本リスト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする