日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

冬の新作

2013年01月27日 | 日記
 この冬、年末から年始にかけて、数首形を取り、推敲が終わりました。辰年の終わりに、まとめて載せておきます。
 文字の色やサイズが選べるのに、やっと気付き、ホームページ版と同じようにしました。少しは見やすくなったでしょうか。

夕方、雑木林が開ける辺りで、風が吹いているのか、高枝の梢が軽い葉音をたてていました。落ち葉の降り積もった細道に足を踏み入れると、大きな足音が耳元に響き、梢の音はまったく聞こえなくなりました。

ゆうかぜに さやぐこずえや ふみしむる おちばのみちの おとにけたる
夕風に さやぐ梢や 踏みしむる 落ち葉の道の 音に消たるゝ
(風が吹いているのか、高枝の梢の軽い葉音を聞きながら、落ち葉の降り積もった細道に踏み入ると、大きな足音が耳元に響き、梢の音が聞こえなくなりました)

 冬、並木の葉が落ちきって、濃い赤や薄い色に散り敷いた花道を、人影が一つ、遠くに歩いています。

あかきうすき おちばのしきて いろわくる せきはなみちを ゆくひとりかげ
赤き薄き 落ち葉の敷きて 色分くる 狭き花道を 行く一人影
(並木の葉が落ちきって、ところどころ、濃い赤や薄い色に散り敷いた、花に飾られたような細道を、人影が一つ歩いています)

 雨も風もない、静かに曇った昼下がり、透き通った池に、落ち葉が底から水面まで積み重なっているのを見ていると、雨の小さな一雫が、瞼に当たったように感じました。水面を見ても、雨の落ちた跡はどこにもありませんでした。

すきとおる いけにおちばの つみしずみ あめのしずくや まぶたにおつる
透き通る 池に落ち葉の 積み沈み 雨の雫や まぶたに落つる
(透き通った池に、落ち葉が底から水面まで積み重なっているのを見ていると、雨の小さな一雫が、瞼に当たったような気がしました)

 冬至近く、早い日暮れに家路を急ぐと、視力の弱った目に、遠くの灯りがにじんで見え、いろいろな人々の生活が思われましたが、すべては遠い世界のことのようでした。

めもうすく おいたるわれや にじむひに かのもこのもの うたたなつかしき
目も薄く 老いたる我や にじむ灯に かのもこのもの うたゝ懐かしき
(日暮れ時、視力の弱った目に、遠くの灯りがにじみ、何もかもが遠い世界のことのようでいて、不思議に懐かしく思われました)

 寒さを感じない冬の日、みぞれになる気配もなく、雨が降りました。通りがかりに見かけた潅木の葉々は、盛んに滴る雫に打たれ、しきりに頷いているようでした。

ふゆのあめ なおみぞれとわ なりがてに おもるしずくの はばうちたたく
冬の雨 なほみぞれとは なりがてに 重る雫の 葉々うちたゝく
(冬の雨が、みぞれになる気配もなく降り続き、木の葉々は盛んに滴る雫に打たれ、しきりに頷いているようです)

 せせらぎの音に引かれて、小さな流れの岸辺に降りていくと、窪みの底は風もなく、周囲の生活音もなく、ただ水の音が、耳のすぐ近くに聞こえてきます。耳を澄まして聴き入りながら歩くと、透明な水の塊が目に浮かび、透き通った水面の波紋のように、無重力に浮かぶ水のように、あるいは音響にゆらぐ画面のように、めまぐるしく形を変えていました。

せせらぎを めぐりつつ きくみずおとの すみきるおもに かげめくるめく
せゝらぎを 廻りつゝ聴く 水音の 澄みきる面に 影めくるめく
(せせらぎの音に引かれて、小さな流れの岸辺に降りていくと、窪みの底は風もなく、歩きながら耳を澄まして水音に聴き入ると、透明な水の塊が、めまぐるしく形を変えて目に浮かびました)


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