日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

古語短歌物語『花の風』第1巻(承前)

2010年09月18日 | 日記
 男が「周りの人たちが愚かに見えませんか?」と尋ねると、女は苛立ちを抑えたような口調で、自分に宣言するように、「そう思わないようにしています」と答えた。
女は、自分の立ち位置がわからないことから、不機嫌になっていた。

もろひとも いもがよごとを まちぬべし ともにいのりて よをなごめばや
諸人も 妹が寿詞を 待ちぬべし ともに祈りて 世を和めばや

(多くの人が、あなたの祝福の言葉を待っているはずです。一緒に祈って、この世界を平安の世にしたいと思います)

 女は、男の献身に値する魂を持っていた。

いまよりわ いもをうつつの かみとみて こころずくしの うたささげなん
今よりは 妹を現つの 神と見て 心尽くしの 歌捧げなむ

(これからは、あなたを神の化身として、心の底からの思いをこめ、あなたを称える歌を詠みましょう)

 女は聖書をよく読んではいた。あるとき、十字架のネックレスを下げていたので、「クリスチャンですか?」と聞くと、急にあどけなく笑いながら、「これはただのアクセサリーですよ!」と答えた。しかし、物思わしげなときの女は、マグダラのマリアのようだった。


いえすすの みわざをつぐる じゅうじかの ゆうぐれにたつ かしこみてみつ
耶蘇の 御業を告ぐる 十字架の 夕暮れに立つ 畏みて見つ

(イエス・キリストの働きを記念する十字架が、夕暮れの中に立っているのを、厳粛な思いでみながら、あなたを思っています)

よにすぐれ みたまとうとき いもなれば みをやすむべき まくらもあらじ
世に優れ み魂貴き 妹なれば 身を休むべき 枕もあらじ

(この世にいるのが場違いなほど、すぐれた魂であるあなたには、この世の中に心身を休ませるところもないのが、いたわしく思われます)




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