日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

古語短歌物語 花の風 第一巻「出会い」から

2010年09月13日 | 日記
一の巻、始まり

 ある春の日、男はその女に出会った。
 最初の打ち合わせ場所の前に、数人の若い女が立っていた。声が聞こえるくらいの距離になってから、男が「お待たせしました」と声をかけると、中の一人が、意外なほど親しげに「お待ちしてました」と答えた。
 この短いやり取りが物語の始まりだった。

 美しい立ち居振る舞いを持って生まれた女は、この世にいるのが場違いなほど気高く、年よりも大人びて、周囲の物ごとには半ば無関心だった。

 あるとき女が、「星空を見つめることがあります」と言った。「この人がそんな陳腐な言葉を?」と意外に思って、男は女の表情を見た。女は男を見返して、「宇宙に、導きを祈ります」と言った。
 天に祈りを捧げる魂が、一輪の細身の花のように、男の前に立っていた。
男は久しぶりに歌を詠んだ。すると、気恥ずかしいほど通俗的な恋歌が、はじめは滴るように、やがて迸るように綴られてきた。

ちにありて ほしにいのりを かたりつぐ あまつおとめの こえぞかなしき
地にありて 星に祈りを 語り継ぐ 天津乙女の 声ぞ愛しき

(この地上にいて、空に祈りを捧げきた多くの人たちの祈りを、今ここに語り継ぐ、この世のものとも思われないあなたの声が、愛おしく思われます)

 女は古今の智恵の言葉を、正確な知識としては知らなかったが、生まれついての信心のようなもので、理解していた。

かたりつぐ ひじりのことば たえずして かなしきいもの ふみにあらわる
語り継ぐ 聖の言葉 絶えずして 愛しき妹の 文に顕はる

(語り継がれてきた聖人の教えが、愛しいあなたの書く文章、語る言葉の端々に、輝き出ています)

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