能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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演者から 『清経』ご鑑賞案内 その2 形見

2014-10-07 10:54:11 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
清経は愛する妻を西国まで同行させたく、妻もそれを熱望していた。しかし重盛の子息達・小松家の人々に対して心の底から気を許すことをしなかった宗盛を総大将とする平家一門と時子。そして妻の縁辺の藤原氏もまた同行には猛反対であった。

なぜ? 
それは妻が平清盛殺害を企てた藤原成親卿の娘であったことが大きく、そのような状況下で、愛し合う若夫婦であったが、離ればなれにならなければいけない、宿命となってしまった。そして悲しい事態が起きる。

清経は西国へ落ちる道中より形見の髪を送り「文は怠らず送るから」と約束しているが、その後三年経っても便りがないので、妻はむくれて一首の歌を添えて形見の「鬢の髪」返してしまう。
「見る度に心づくしの髪なれば、うさにぞ返す元の社へ」と。
(見る度に心を痛める髪なので、つらさに宇佐の神の社へお返しします)

平家物語では形見は清経の生前に返されているが、能では彼の死後に返されたと脚色されている。
ただシテ謡の「再び贈る黒髪の厭かずは留むべき形見ぞかし」の詞章が気になっている。

再び、二回目と言うことは、生前と死後の二回形見を送っているともとれなくはない・・・それは清経の妻への想いの深さを表している演出なのかもしれない、私なりの勝手気ままな解釈であるが、そう信じて今稽古している。

そしてツレとの問答が心憎い。この若夫婦の口げんか、今の世にも通じるだろう。


男「いつでも自分のことを思い出してほしいと思うから、形見のプレゼントをしたんだよ。」

女「プレゼントは見れば見るほど、あなたのことを思い出してしまい心が乱れるからいらない、返すわ」

男「私のことをまだ好きならば手元に留めておくのが当然じゃないか!」

女「なに言ってるの! 女の気持ちが全然わかってないわね、思いが乱れちゃうのが嫌なのよ!」

男「わざわざ贈ってあげたのに・・・」

女「なによ、ずっと一緒に~の約束を破って、しかも自殺なんて!!」

男「お互いに恨み恨まれるのもプレゼントのせいだね」

女「そうよ、形見のプレゼントなんて、とてもつらいものなのよ」

こんな会話をしている、と思って粟谷明生の能『清経』をご覧いただきたい。


文責   粟谷明生
写真撮影 粟谷明生

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