能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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「初秋ひたち能と狂言」の『綾鼓』の見方

2010-08-11 09:24:13 | マジメ能楽 楽屋表話
本日の投稿ネタに困り~
粟谷能の会通信8月号『綾鼓』上演についてのご紹介を
投稿に代えさせてもらいます。

@@@『綾鼓』の見どころ@@@

「恋の重荷、昔綾の太鼓なり」と世阿弥の記載があるように、
現在、『恋重荷』は観世流と金春流に、
そして『綾鼓』は宝生流・金剛流と喜多流にあります。

但し、喜多流の『綾鼓』は昭和27年、先代15世喜多実宗家と土岐善麿氏が創作した新作能です。

(あらすじ)
筑前の皇居、木之丸御殿で、美しい女御(ツレ)の姿を見て恋に落ちた庭掃の老人(前シテ)のことを臣下(ワキ)が女御に伝えます。

女御は池のほとりの桂の枝に鼓をかけて打って音が出たら姿を見せよう、と答えます。

喜んだ老人は必死に打ちますが、鼓は綾で張られていたので音がしません。
思い諦めるように臣下(ワキ)に諭されますが、老人は、はじめから鳴らない鼓を打てと言われたことに憤怒悲嘆して池に身を投げます。(中入り)

老人の死を聞いて哀れを感じた女御は老人が飛び込んだ池の汀を眺めているうちに、波の音が鼓の音に聞こえ狂気の態となります。

そこへ庭掃き老人の怨霊(後シテ)が現れて、
綾の鼓が鳴るものか!
自分で打ってみよ!

と女御を杖で責めます。
女御は責苦に堪えられず、池の岸辺に倒れ、
怨霊は冷然とその姿を顧みながら、また池に沈んでいくのでした。

成仏しないで無限の恨みを残したまま終曲となる点に、この曲の特異性があります。

この曲の舞台となるのは『八島』でも謡われる「木之丸殿(きのまるどの)」で、朝倉宮の皇居跡です。福岡県朝倉郡朝倉村の朝倉山西南麓のあたりにあったと言われています。

木之丸殿とは、丸木の木材をそのままに用いた粗末な建物の意で、百済の軍を援護するため大和からはるばる還幸された斉明天皇(女帝)の仮宮で、崩御後、御子の天智天皇が喪に服されるために殿舎も造られました。

この物語は女御をどのように解釈するかで変わります。

女御が鼓に綾が張られていたことを事前に知っていた、
と解釈すれば、
卑賤の老爺が高貴な美女に恋するなど身分不相応の異常行為であり、きっぱりと思い諦めさせた、と考えられます。

もう一方で、綾が張られていたのを知ったのは老人が打った後
と考えると、周りの臣下達の取り計らいで、女御自身の意思・仕業ではなくなります。

しかし結果は老人を死に追いやることとなり、怨霊に責められる
女御の姿には同情も湧くかもしれません。

謡本には綾が張られた詳細の記載はないので、どちらを選ぶかはご覧になる方のご自由となります。

当日どちらを想像されますでしょうか?
老人に扮する者として楽しみにしております。

残券僅少ですが、お申し込みは下記までお願いいたします。

akio@awaya-noh.com

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
木之丸御殿 (あっきー2)
2010-08-12 02:38:00
「粗末な建物」という表現が少し気になりました。

「丸木の木材そのまま」ということですが、これは木の皮を剥がずに切ってきたままを使って急いで作ったということだと思います。

通常は木を切ってきたら、皮を剥いで干してから建築資材として使用しておりこれを「白木」、
一方で皮はがずに使用したものを「黒木」とよぶと
聞いたことがあるように思います。
素人・玄人もこの白木・黒木が元だとか・・・。

福岡には「黒木」という地名があり、女優・黒木瞳さんの出身地がありますが、この辺り、つながってるかも~(笑)

他に黒木の建物というと、御気島の後醍醐天皇の行在所といわれる「黒木御所」ですね。

急いで作った=粗末 なのかもしれませんが、
急いで作った=あくまでも仮 という意味合いもあったのかもしれません。

ちなみに「福岡県朝倉郡朝倉村」は平成の大合併により、2006/3/20より「福岡県朝倉市」となってるようです(^^)


以前、「綾鼓」を要約して英訳する事を頼まれたことがあり、チェックをアメリカの方にお願いしたのですが、やはりその方にも
「女御は鼓のからくりについては何も知らないのになぜ責められるのか?」
と質問されました。
私は、女御どれくらい関わっていたかは不明だが、
少なくとも老人自身は女御は鼓のからくりを知っていたと思い込み、恨んだという設定だと思っています。

リクエストです。
「綾鼓」のような曲は筋書きだけで見るとあまり後味がよくない曲のように素人目には思います。
ちなみに選曲はどういう風になさるのでしょうか?
今回の選曲の経緯は?
可能であれば、これをブログねたで一日、解説をお願いしたいです。
よろしくお願いします。
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お返事 (粟谷明生)
2010-08-12 06:23:18
あっきー2様
コメント有難うございました。

なるほど「粗末な~」は不適当ですね。
演能レポートでは「仮の~」に言葉を代えますね。

白木と黒木の説明よくわかりました。
黒木から黒木瞳さん、「へ~~え」
面白かったです。

私は黒木というと~
どうしても『野宮』を思い出しちゃいますね。

女御の解釈は、いろいろですね
全く知らなかった、とも、

また知っていたが、女御という立場の方の断り方として、

「鳴らない鼓を打っていただいて、そこでご理解して戴くしかないわ」とも

今回の選曲は、私の趣味
私が好きでやりたく、お見せしたい
そんな曲をピックアップ

二曲とも「水」がテーマということになりましたが、まったくの偶然
無意識でしたので・・・・

楽屋裏話過ぎかな?


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