先日、日本能楽会・粟谷家合同葬儀の準備のために
日本能楽会理事の観世流野村四郎氏とお話する機会があった。
野村氏から
「お父さんから写真集をお贈り頂いたよ」
「はい、お贈りしたと申しておりました」
生前、電話で写真集の話をしたときの事が思い出される。
父にどうして、四郎さんなの?と尋ねたところ、
「贈りたかったから」
この一言だった。
屹度、これからお世話になることを判っていたのかもしれない~~
野村氏からの言葉が私の心に残る。
「あれね~~今にも菊生さんが飛び出してきそうな、迫力ある写真集だね」
きっと、父が喜ぶお言葉を頂き目頭が熱くなった。
また鮮やかに蘇ってまいります。『大江山』
を観て、こんな風に舞えるなんて・・・いつ
か私も! と感涙しつつ心新たにしたこと、
『景清』の面づかいに長い年月の流れを感じ
たこと、そして『頼政』を舞うことを目標の
一つ、としたのも菊生先生の舞台を観たから
なのです。
でもやはり心温まるのは、一番最後のお写真、
菊生先生、明生先生と尚生さんが並んで写っ
ていらっしゃるものです。
尚生さんが『猩々』をお披きになった時の、
菊生先生の本当に嬉しそうなお顔を忘れるこ
とができません。
・・・色々と思い起こしつつ、一観客として
菊生先生を思う時、そのご生涯はとても充実
していて幸福なものであった、と私は思いま
す。『江口』のお謡いを聴くことができなか
ったのはとても残念ですが・・・菊生先生、
お約束は守られましたね。五十回忌追善能を、
場所は違えどお心に感じられて、安心された
ことと存じます。
『江口』を口ずさんでいると、菊生先生の暖
かい眼差しを頭上に感じるこの頃です。
喜多流を皆で支えていきましょう。微力なが
らその一人でありたいと願って精進します。
心からご冥福をお祈り申し上げます。