能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

コース料理

2013-05-07 08:39:45 | 言いたいこと・伝えたいこと 

「洋食と和食どちらにしますか?」と聞かれたら「和食で」と即答する。
特に無類の鮨好きだが、それは何故か? 食べる順番を自分で自由に決められるからだ。

「まずはつまみからお出しします、最後ににぎりとなります」と決めつけのお店も中にはあるが、そのようなところには極力行かないようにしている。自由が利く店が気持ちよく食べられる。

さて、和食には「会席」と「懐石」がある。酒を楽しむ料理が「会席料理」で茶を楽しむ料理が「懐石料理」だ。私は会席派となる。先付からはじまる会席料理で気になることがある。それは出される料理の順番だ、もっとも文句をいいながらも口には入れているのだが・・・。

会席料理は「先付」と呼ばれる前菜からはじまる。まずは冷たいビールで「先付」を頂戴する。 二番目にあたたかな「椀物」の吸い物が出される。そして大好物の「向付」、お造り刺身のことだ。このあたりで辛めの冷たい日本酒を飲むともう最高。 次に「鉢魚」の焼き物、「強肴」の煮物と続く。そして「止め肴」は原則として酢肴(酢の物)かまたは和え物だ。 最後はお食事、ご飯と止め椀(味噌汁)、香の物(漬物)で、最後の最後に水菓子か果物が出て、これで終了となる。ただし油物(揚げ物)や蒸し物、鍋物が出ることもある。油物が供される場合は一般に強肴のあとである。と以上ネットからの情報を元に記載した。

さて、気に入らないのは二番目の「椀物」だ。冷たいビールを楽しんでいるのに温かなお椀が出て来るのがどうもいただけない。他人様は知らないが、私には無くていいものだ。すぐにお造りを運んで来てほしい。そしてここに冷たい日本酒の登場で楽しみたい。椀物が出ない特別コースがないものかといつも思うが、そんな邪道はいけませんとだれかさんに言われそうだ。それなら敢えて「邪道コース」と名付けてもてなしてほしい。とまあ、勝手なことを言っている。

お能をお料理にたとえると、フルコースと言えば、さしずめ翁付きの五番立の番組だ。今日では珍しくなってしまったが、能にして能にあらずと言われる翁の神事からはじまり、神、男、女、狂、鬼の分類の翁付き五番の番組編成となる。昔はそれが当たり前だったかもしれないが、現在は国立能楽堂で催される年一回の式能など、特別な場合でなければ、このフルコースにはめぐり合えない。現代人は五番をゆっくり楽しむほど余裕がないからか、また、体力、気力も昔の人と比べるといささか衰えているのか、理由はいろいろだろうが、時代が違ってきているということだろう。それで興行側も、五番立てはなかなか組みにくい、平日の場合は三番立ても躊躇するというのが現実だ。

最近の粟谷能の会は二番であったが、3月の粟谷能の会は事情もあり三番立てとなった。観客の皆様に気持ちよく楽しんでいただきたいと、『隅田川』を中心に、前後の『俊成忠度』と『船弁慶』を短い曲を選んだり、長時間かかる『船弁慶』は少し短縮形にし、休憩も長くとるなどの配慮をした。幸いこの試みはおおむね好評であったが、それに対して、「『船弁慶』の前場は退屈なので刈り込んで、後を思いっきりショーアップすればよいと考えているのか、これが本当に観客のためといえるのか、そもそも能とはそういうものなのか、疑問だ」「前の刈り込み方に不自然さを感じる、小書付きでもないのに小書の動きをするのは・・・」と、いくつか苦言を頂戴した。観てくださる方の感想、アドバイスは貴重で、耳を傾けたい。

しかし、「退屈なので刈り込んだ」という単純、乱暴なものではないことをご理解いただきたいと思う。短い時間で、いかに能のエッセンスを残し、本来形のものと遜色ないものにするか、能楽鑑賞に初心者も多い公演でリピーターを増やすにはどうしたらよいか、三番をあきずにすべてを観ていただくにはどうしたらよいか、選曲、組み合わせ、さまざまなことを考えて工夫したつもりだ。

私の能を料理に例えるなら、私なりの調理の仕方と盛りつけ、そして配膳がある。お店の店構えも主催する会の雰囲気も私なり風にと努力している。料理店のお客は店の出す物、個性、店主の魅力で集まると思う。

能の会もそうでありたい。だからこそ、今、自分の個性を大事に演能活動をと心掛けている。現代に、その日の観客を考えて少々演出をアレンジもする。三十代、四十代では無理だったかもしれないが、今、それが可能な年齢になったと思って挑戦している。当然、それに対しての反論、異論を唱える方がいらっしゃるのは承知の上のこと。私もついコース料理にあれこれ注文をつけたくなるが、それは料理を愛すればこそ。だから、私のお出しするもの(舞と謡)がマズいなら、ご批判を甘んじて受け止め、反省もするが、出し方や配膳の順を変える程度のことは、暖かく見守ってほしい。

そして、「粟谷明生の味付け、なかなかいいじゃないか」と言われるように精進していきたい。「粟谷明生が気になる」と言って来てくださるファンを募っていきたいと、今、心底思っている。

写真 寿司芳より 撮影 粟谷明生

文責 粟谷明生


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今回も・・・ (どうきゅうせい)
2013-05-07 09:46:58
お話、よくわかりました。

世阿弥も書いていた、観客あっての能だと。能の原点は極めれば entertainment なのだと。

"そもそも能とはそういうもの" らしい。

だから、明生先生、大いに創意工夫をお願いします!

これからもお元気で。
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お返事 (粟谷明生)
2013-05-07 10:25:50
どうきゅうせい君
コメント有難うございます。

ご賛同、心強いですよ

頑張ります!!
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