能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

観月能のパンフレットから面白い話をご紹介

2010-10-07 07:35:19 | 粟谷明生の日常
先般、「厳島・観月能」や「塩津哲生の会」など
当日配布される無料パンフレットの内容の高さには感服。
充実した内容は勉強になる。


そんな貴重で面白い資料が記載されているのに、
その日だけで埋もれていくのが、
なんとも惜しい気がする・・・
これって私だけ~ かな?

観月能『八島』の解説に義経の使用した弓の話があったが
これを、皆様にも、ご覧いただきたく、ご紹介します。

宮司様から、

「こんなところに記載されては困る!」
とクレームが来ましたら、
即刻削除いたします、予めご了承下さい。


では、義経さんの落とした弓の話、はじまり、はじま~~り


ワタクシ、九郎判官の「弓」です。
八島合戦の際、主人義経が、命からがら「拾った」あの、
弓です。

『平家物語』に ・・・判官、
「弓の惜しさに取らばこそ。義経が弓といはば、
二人しても張り、もしは三人しても張り、叔父為朝などが弓のやうならば、わざとも落として取らすべし。弱たる弓を、敵の取りもつて、『これこそ源氏の大将軍九郎義経が弓よ』など、
嘲弄ぜられん事が口惜しければ、命にかへて取るぞかし」

とある、「弱い」弓です。

能の『八島』では・・・

「義経源平に。弓矢を取つて私なし。
然れども。佳名は未だ半ならず。
されば此弓を。
敵に取られ義経は。小兵なりといはれんは。
無念の次第なるべし。」

とある「無念の次第」になりかけた張本人
(弓ですから・張ってある本人)です。

今日は友枝昭世氏が、『八島』を演能されると聞いて、
「出て」来ました。

今年は黒澤明氏の『生誕100年』ということで、
出雲康雅氏の『八島』でも、
この宮島でご厄介になったのですが、その折り、
誰にも注目されなかったので図々しくも
しゃしゃり出てきました。

そもそも、皆さんは誤解なさっています。

弓は、平安期においては、
京弓・東(江戸)弓・尾州弓・薩摩弓の4種類があり
武器として最も重要視されるようになりましたが、
同時にこの頃でも、戦闘の道具としてのみでなく、
神具という側面も内包し続けたのです。

弦打、弓を鳴らすことは、
悪霊、けがれを祓い、
物の怪を退散させるまじない(呪術)でもありました。

賀茂御祖神社(下鴨神社)

歩射神事(ぶしゃしんじ)
【射手が弓を鳴らす「蟇目式(ひきめしき)」
で四方の邪気を祓い、

鏑矢を楼門の屋根を越えて飛ばす
「屋越式(やごししき)」、

大きな的を射る
「大的式(おおまとしき)」、 

連続で矢を射る
「百々手式(ももてしき)」

がそれぞれ行われる。

また、この四式をもって
「鳴玄蟇目神事(めいげんひきめしんじ)」とし
賀茂祭(葵祭)の安全祈願とされている。】

鳴弦の儀(めいげんのぎ)
【もともと誕生儀礼として始まり、皇子(おうじ)誕生後の
7日間、産湯をつかう御湯 殿(おゆどの)の儀式の際、
湯殿の外で史記・礼記・孝経・などの前途奉祝の文を読み、
弓弦(ゆづる)を弾き鳴らす「読書鳴弦の儀」が、
現在でも宮中で行われている。】

他にも、
天皇様の日常の入浴時、病気祓い、
不吉な出来事が起こった際など幅広く行われ、
この宮島の「百手祭(ももてさい)」でも、
新年の邪気を祓う神事として、
今でも連綿と受け継がれているのです。

ハイ、そうです。九郎判官の「弓」は、梓弓・でした。

だから「弱かった」のです。

梓巫女(あずさみこ)が使う神具だったのですから。

あれ?・・・・信じていませんね。

【シテ「知者は惑はず。」地謡「勇者は恐れずの。やたけ心の梓弓。敵には取り伝へじと。惜むは名のため惜まぬは。一命なれば。身を捨てゝこそ後記にも。佳名を留むべき弓筆の跡なるべけれ。」
シテ「又修羅道の鬨の声。」地謡「矢叫びの音。震動せり」。】

『八島』の謡いです。

ちゃんと【梓弓】と、出てきます。

「こころの」が付いている所が、さすが、世阿弥です。

ワタシ自身は、【地謡「武士の。八島にいるや槻弓の。八島にいるや槻弓の。もとの身ながら又こゝに。】

とあるように、槻(つき・ケヤキの古名)でしたが、
主人にとっては、『心の梓弓』だったのです。 

今日は「言い訳」がましく出て来ましたが、
実は、今日の主役(シテ)九郎判官義経の『ツレ』は、
身代わりになって死んだ佐藤継信でも、
義経本人の瞋恚の煩悩でも、ありません。

ワタシ・です。
「拾われた」あの時の・弓・の【御霊】なのです。


挨拶に代えて、・・・・少し悪ふざけが過ぎた。
友枝昭世氏、関係各位に深謝すると共に、
何卒ご寛恕頂いて、わたくしの挨拶に代えさせて頂く。                            

厳島神社宮司  野坂元良

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3 コメント

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Unknown (蝸牛)
2010-10-07 18:27:25
初めて、コメントさせて頂きます。
10/07(木)に能楽堂で11時半頃に入口付近で簡単な御挨拶をさせて頂いた者(♀)です。本当は、粟谷先生のブログ拝見させて頂いていますとお伝えしたかったのですが、先生の雰囲気とオーラに気後れしました。そこで初めてコメントさせて頂きます。

>先般…かな?

同感です。私はまだ、習い始めの上に理系出身なので(言い訳です)古典と歴史に浅く、観に行く演目の下調べをしないと知識不足で存分に楽しめません。
それでも下調べ以上に頼りになるのが、パンフレットの説明です。
海外の舞台や劇団四季などもごくたまに観に行くのですが、有料パンフレットには詳しく書かれていても、無料パンフレット自体ないか、簡単な説明書きだけの事が多いです。
それに比べて、能の舞台の説明書き程、サービス精神旺盛で分かりやすいものはないと思います。無料という気前良さですし、勉強になります。必ず持ち帰ってスクラップしています。
 
季節の変わり目で風邪が流行っております。
粟谷先生もお気を付け下さい。
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お返事 (粟谷明生)
2010-10-08 01:04:01
蝸牛様
コメント有難うございました。

え~~
あの黒い服装の方かな?
違うかも・・・・・

粟谷能の会ももっと親切で充実した
パンフレットに替える必要がある
かも・・・ですね?

ご意見参考にさせていただきます。
有難うございました。
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曲とロケーション (ノビル君)
2010-10-10 09:03:38
厳島の「観月能」。多分お月様は、上限の三日月に近い二日月?でしたか。平家物語に起因する曲ですと、瀬戸内海の原風景が大切な心のスクリーンになってきますね! 義経の弓が「梓弓」とは、間狂言「那須語り」との増幅感が生きてきますね^^。因みに那須与一は幼少時からの英雄です。
 昨日からの大雨も、今しがた止みました^^。能楽堂には傘なしで行けそうです^^。
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