能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

継続いろいろ

2013-08-22 05:49:58 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介

なぜか、一・二週間前から左肩が上がりにくくなり痛い。これはひょっとして、四十、いや五十肩かな? 角帯を結ぶ左手が徐々に痛くなって来て商売にも支障が出て来たので、まずはマッサージしてもらおうと出かけた。
「左肩の筋が固く、これではご不自由じゃありませんか?」と聞かれた。
「そう、不自由」と答えると、
「無理しない程度の軽めのストレッチをして下さい」と勧められた。
それで、数日前からウォーキング、いや間違い、散歩だ、散歩がてら近所の世田谷公園に行き、肩を回しながら歩いて、そして謡を覚えるという一石三鳥をやっている。

朝6時半はちょうど朝のラジオ体操がはじまる時刻。ところどころに置かれるラジオからあのラジオ体操の音が流れてくると、方々に散らばっていた老人男女が、ラジオの方向に集まり向きを揃える。そしてみな、元気に身体を動かし始める。昔はこの光景がちゃんちゃらおかしく、あざ笑うようにその隣のロードを疾走していたものだが・・・、いまはもう完全に中高年の仲間入り、それ自体を拒否していない自分に驚いている。

さて、私も一緒にやりはじめた。ラジオ体操第一はこどもの頃から身体に馴染んだもの。第二は少々忘れたところもあるが、第一ぐらいはいつでも完璧に出来ると思っていたが、ところがどっこい、上手く身体を動かせない。どうやるのか体操を忘れてしまっていた。
仕方無く後方に下がり、上手そうな人を見つけてその後ろで真似ながらの体操ということになった。

ラジオ体操が終わると直ぐに帰宅する人もあれば、個人のトレーニングを始める人もいる。私の隣で腕立て伏せをされている男性がいらして、その方に、
「毎日やられてるんですか?」と質問するお婆さんがいた。
「はい、早起きしたときには」と優しく答える中年男性。
「あんた、偉いね。じゃ~この桃あげる。あとで食べて」とそのお婆さんが男性に手渡した。男性は礼をいい、残りのトレーニングに励んでいた。
私は、私で開脚ストレッチを終えて、公園をあとにしたが、道中、あの男性の答えがいいなあ、と感心した。毎日腕立て伏せしているわけではないらしい。
「早起きしたときに」、
この早起きしたときというのがいい。どうも私は継続と聞くと、毎日欠かさず続けるものと思ってしまう。毎日でも、1週間に1度、1ヶ月に1度でも、とにかく規則的な繰り返しをすることを連続、継続と考えがちだが、
「早起きしたとき」
という不規則な中にも連続、継続は生まれるのだと思った。気が向いた時、そんな程度でもいいのだ、と、なんか朝から安堵感一杯で幸せ気分になった。
この話には続きがある。
さて、公園を出る間際、最後に昔習った太極拳風の整理体操をして仕上げようとしていたら、
「あんた気功の先生かい?」と声を掛ける女がいる。その声どうも先ほどの桃婆さんに似ていた。正直に白状する。私は鬱陶しいから、気功の先生になりきり、いかにも集中しているふりをしてお婆さんの質問を無視した。桃婆さん、私の気を察して遠くへ歩いて行かれたが、気持ちよく汗をかきながらも、ちょっとひっかかる気持ちになった。

なんら能には無関係かと思いきや、これまた能の修業と同じ。毎日稽古している能楽師なんて、ほんの少し。たぶん大方は、公演にあわせて稽古スケジュールを組み立てているだろう。「早起きしたとき」となんら変わらない。公演に向けて、いつから早起きするかを自分でプログラムする、マネージャーもコーチもいない。

朝の運動で汗をかくことは本当に気持ちがいい。明日もまたと思うが、時間的に余裕がないかもしれない。だから次回は「時間がある日に、余裕がある時にやろう!」でいいみたいだ。こういうストレスにならない考えが、人をいきいきさせるのかも、たぶんそうだろう。

文責 粟谷明生



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