電子書籍大国アメリカ
大原ケイ
アスキー・メディアワークス 2010-09-10初版発行 定価743円+税
「リテラシー・エージェント」という職業をもつ筆者は、米国と日本で子供時代をすごしたバイリンガル。そもそも、「リテラシー・エージェント」とはなんでしょうか。本の帯には出版エージェントという表現も書かれています。日本語で検索してもこの本以外にほとんど用例が出てきませんが、要は、執筆者と出版社の間を仲介し著作者側の権利を代理して交渉する職業のようです。
Amazon社のKindle(キンドル)、Apple社のiPad、iPhoneという高性能な情報デバイスが、案外安価な価格で発売されたことから、急に「電子書籍」という用語が新聞雑誌の記事に飛びかうようになりました。
この分野では、アメリカが日本の数歩先を行っているようです。日本では日本語という障壁があるので、音楽や写真、映画などとは異なり、文章コンテンツは当分鎖国状態を維持できるようです。
その一方で、グローバルな「デジタル・コンテント・プラットフォーム」の実績とシステムは米国を中心してドンドン進化しています。Amazonに加えて、例えば、AppleのiTunes Store、GoogleのeBookstoreなど続々と新興ICT大手企業が大砲を撃ち放し始めています。
この本の著者によれば、しかし、米国でも書籍全体に占める電子書籍の比率は2009年で8%、2010年でも10%弱でそれほど大きくはないと報告しています。
米国で真っ先に紙から電子に置き換わっているのは「マスマーケット・ペーパーバック」とよばれるフォーマット(出版物の形状)です。この種の本は、書店で買うよりは駅売店やスーパーマーケット、コンビニ店で多く購入されています。
女性むけには「ロマンス」(ハーレークイン、ケンジントン、バークレー、エイヴォン、パラダインが大手で。それらから版権を譲り受けて電子版で再販売するレブレデジタル、オープンロード)購入理由の一つは、価格以外にも、これらロマンス本は表紙の絵があまりにもあからさまなので人前で開けにくい。しかし電子本ならばそれが人には見えないことにもあるようです。(実は、日本のケータイ小説に女性読者(OL等)が多いのは書店購入をためらう書籍が売れているためだと聞きました)
男性向けには「SF」のペーパーバックだそうです。理系男性は電子情報デバイスへのハードルが低いこともあるようです。
米国の出版業界は分業が進んでいるため大手出版社の電子書籍への対応は柔軟であるようです。一方で、日本の出版社や新聞社は再販制度に守られているため、既得権益の維持に関して保守的であるようです。デジタル化による複製の氾濫を恐れるあまり、対応の柔軟性を失っているようで、あたかも数年前の音楽業界のようです。音楽CDの売り上げに固守した日本の音楽業界は、結局、AppleのiPodとiTunes(ネットによる音楽コンテンツ通信販売)に打ち負かされされました。
小説家など著作者は、本来は、媒体(本、新聞紙、映画、テレビ、ネットなど)に拠らずに勝負できるはずだと思います。しかし、日本の小説家は出版社主催・支援の「なんとか賞」でデビューするため、その後も義理人情によるしがらみがあって、電子化に関しても出版社側の意見を支持するひとが多いと思います。
iTunesやGoogle Bookstore、Amazonに対抗する日本向け「電子出版プラットフォーム」には、しがらみのない携帯電話会社が中心になり、いずれ紙媒体が縮小することを観念して新分野への移転を余儀なくされている印刷業界がリーダーになっていくようです。
この本の紹介もまだ終わっていないし、興味深いテーマなので「明日につづく」としたいのですが、このところやや多忙なので続編の執筆には少し時間を置くことにします。
蛇足: この本で「ロマンス本」の説明を読むと、さらにサブジャンルがあって、
○リージェンシー(ヴィクトリア王朝時代を背景とするラブロマンス)、○パラノーマル(超能力者やバンパイアが出てくる)、○サスペンス(CIA、エスピオナージのスリラー系とのハイブリッド)、○マルチカルチャル(異人種同士の恋、マッチョな黒人男性がヒーロー)、○バイキング(誘拐、レイプ、好色)、○シーク(無理やりアラブの大富豪の第三夫人に)など。ただし性描写はそれぼどえげつないものはない。
「SF」のサブジャンルは、
○サイバーパンク(ウィリアムス・ギブソン、ハッカーが暗躍するちょっと暗い未来の世界)、○ファーストコンタクト(宇宙人との接触)、○ハード系(サイボーグ、人工知能、宇宙コロニー、科学根拠の正確性)、○ポスト・ホロコースト(原爆や世界戦争の後の世界)、
さらに「際物」サブジャンルとして、
○スペースオペラ(未来を舞台にした西部劇、宇宙人とロボットのガチンコ勝負)、○サイズシフトあるいはシュリンク、エンラージ(人間が怪獣サイズになったり、ミクロサイズに縮小)、など。
Kindleがヒットした理由も述べていました。
実際日本のマーケットにはまだまだのようで
日本最大手の大日印刷は当初10万コンテンツを配信すると豪語しておきながら、実際は3万コンテンツにとどまっており、
副社長の話によれば、やはり著作権の問題は大きいようで、米国は著者と出版社は電子化するなど大きなシェアで契約しているようですが
日本の場合は著者と出版社はあくまでも紙媒体、というものだけらしく、口約束になっているようです。
そのため電子化するにあたってのネックになるんですね。
副社長も今に大変なのかと苦笑いしておりました。
電子書籍元年と呼ばれましたが
各メーカー(SNONY,SHARP,TOSHIBA...)が多くのデバイスを発売していますので
今後のコンテンツの数に期待したいところです。
個人的に2004年にSONYが出したが結果空振りに終わったデバイスのリベンジとなるのか
という所にも着目しております。