トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

河信基の重村智計批判を批判する

2007-06-18 23:58:42 | 韓国・北朝鮮
 在日コリアンの評論家である河信基が、総聯中央本部の売却問題に関連して、自身のブログで、重村智計を次のように批判している


《冷静に事態を把握することが求められる中、悪戯に混乱と対立を煽る発言が繰り返されるのは問題である。
 例えば、今日の日本テレビのザ・ワイドで、“北朝鮮問題に詳しい”重村智計氏が、「北朝鮮は朝鮮総連を大使館とは思っていない。在日朝鮮人も朝鮮総連を見限っている。緒方氏は何も知らないのじゃないか」と、人を小バカにしたようなコメントをしている。
 これは嘘である。個人の意見ならともかく、「北朝鮮は・・・」「在日は・・・」とあたかも北朝鮮や在日を代弁する口調は、意図的に誤解と偏見を広めるもので、悪質と言える。

 「朝鮮総連は在日朝鮮人の権利を擁護する海外公民団体」というのが北朝鮮の定義であり、日本との国交がない中、事実上の大使館、領事館として北朝鮮への入国ビザを発給していることは、知る人ぞ知ることである。
 また、朝鮮総連を支持する在日朝鮮人が減っているとはいえ、それを拠り所にしている人々が数万はいる。決して少ない数字ではない。

 朝鮮総連中央本部の売却問題は杜撰な経理を重ねてきた自業自得であり、責任の所在は明確にする必要がある。また、北朝鮮本国の特定勢力に追随し、拉致問題などとの不透明な関連も明確にするべきである。
 そうした問題を抱えているとはいえ、朝鮮総連が、強制連行という歴史を背負った在日朝鮮人の権利擁護団体としての存在意義を失ったわけではない。
 朝鮮労働党統一戦線部や対外連絡部など特定の政治勢力との関係を清算し、日本の内政不干渉、法律遵守に基づき在日の民主主義的民族権利を擁護する、本来の設立精神に立ち戻る必要があろう。》


 私は、河信基の単行本できちんと読んだものは『代議士の自決―新井将敬の真実』(三一書房、1999)しかないが、その他の北朝鮮に関する著書も立ち読みしたことはあるし、雑誌の記事もしばしば目にしたことがある。
 それらを読んでの印象は、事実に立脚したジャーナリストというよりは、自分の主張を押しつけたがるタイプの著述家だというものだった。

 重村には時々不適切な言動が見られるとは私も思うが、上記のテレビでのコメントは、妥当なものではないだろうか。

《日本との国交がない中、事実上の大使館、領事館として北朝鮮への入国ビザを発給していることは、知る人ぞ知ることである。》
と言うが(「知る人ぞ知る」というのは、あまり知られていないことを指すものだが、総聯がビザを発給していることは、ちょっと北朝鮮や在日に関心のある人なら誰でも知っているのではないか?)、ビザを発給しているからといって、北朝鮮が総聯を大使館とみなしていると言えるだろうか。
 例えば、ウィキペディアで「大使館」を引いてみると、
《通常、派遣された国の首都に置かれ、派遣元の国を代表して、派遣先国での外交活動の拠点となるほか、ビザの発給や、滞在先での自国民の保護といった援助などの領事サービス、広報・文化交流活動、情報収集活動などの業務を行う。》
とある。
 総聯は、北朝鮮にとって、このような機関として扱われているだろうか。
 そもそも、総聯と北朝鮮外務省は何の関係もあるまい。

《在日朝鮮人も朝鮮総連を見限っている。》
という点についても、そうした傾向があることは、事実ではないだろうか。
 『朝鮮を知る事典』(平凡社)の古い版(1986年版)によると、1985年現在、総聯の構成員は約20万人とある。それが、河信基の記事によると、「拠り所にしている人々が数万はいる。」という。自然死による減少を考慮に入れても、20万から数万への減少は多すぎる。これが「見限っている」のでなくて何だというのか。

 河信基の記事の
強制連行という歴史を背負った在日朝鮮人の権利擁護団体としての存在意義を失ったわけではない。》
という文言が気になる。
 総聯に、「在日朝鮮人の権利擁護団体としての存在意義」があることを、私も否定するものではない。
 しかし、未だに、「強制連行という歴史」という「神話」にすがらないと、総聯の正統性を主張することすらできないのか。
 河信基は、本人が自覚しているかどうかは別として、結局は北朝鮮の別働隊としての役割を果たしているにすぎないのではないだろうか。

 ついでに言うと、河信基は総聯が
《日本の内政不干渉、法律遵守に基づき在日の民主主義的民族権利を擁護する、本来の設立精神に立ち戻る必要があろう。》
と述べるが、総聯が設立時に「日本の内政不干渉、法律遵守」をどこまで重視していたかは疑わしい。
 手元の高峻石『在日朝鮮人革命運動史』(柘植書房、1985)に収録されている「朝鮮総連結成大会宣言」(要旨)及び「朝鮮総連綱領」(全文)を読む限り、「日本の内政不干渉、法律遵守」といった趣旨の言葉は見当たらない。
 「朝鮮総連結成大会一般〔活動〕方針」(要旨)の「六 在日同胞の総団結」の中には、
《朝鮮総連と傘下各団体は、外国のいかなる政党・社会団体にも加入してはいけないし、外国の政治的紛争に介入してはならない。》
との文言がある。しかし、「法律遵守」についてはやはり見当たらない。
 「政治的紛争に介入してはならない」は「内政不干渉」とはやや違うだろう。