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日々の思いをたまに綴るブログ。

法務総裁(大臣)をも取り調べた検察

2020-05-22 07:16:25 | 現代日本政治
 18日付け毎日新聞のコラム「余録」は、先の検察庁法改正騒動に関連して、検察人事に政治が介入した事例を挙げている。

 東京地検特捜部が法務総裁(現法相)・大橋武夫を詐欺の共謀容疑などで取り調べたのは、占領末期の1951年。気にいらない最高検次長を強引に交代させた法務行政トップに、検察は捜査権を使って対抗した▲特捜部は48年に昭和電工の贈収賄疑獄で、芦田均前首相や福田赳夫大蔵省主計局長(後の首相)ら政官界の大物など計64人を逮捕。吉田茂首相や大橋は「国家あっての検察だ。特捜の横暴は許せん」と憤っていた▲「検事の人事権は総裁にある。嫌なら辞めろ」と迫る大橋に、検事総長ら首脳陣は「検察官は意思に反して異動させられない」と検察庁法の規定を盾に抵抗し、対立は政治問題化した▲いよいよ人事が閣議決定される日の朝、異動を拒んだ最高検次長の木内曽益(つねのり)は検事総長公邸で記者会見した。「(朝鮮戦争の)時局重大の折、辞表を出した。私の闘いは国民の支持を受け、検察官の身分保障も認識されたと思う」▲次は東京地検検事正の更迭を狙う大橋に、検察は詐欺事件の質問書を突きつけ、国会で容疑を説明。特捜部長自ら本人を聴取した。不起訴処分になったが、暮れの内閣改造で無任所大臣に降格され、半年後、閣外に去って以来10年余、入閣できなかった▲大橋が起用した最高検次長は、法務事務次官、東京高検検事長と栄進したが、あと一歩で検事総長になれず政界へ転身。当選後、大阪地検特捜部に公選法違反(買収)で起訴され、有罪となった。69年前の話だが、検察人事に政治が介入した重い教訓である。


 簡にして要を得た名文だと思う。新聞コラムかくあるべし。

 ところで、このコラムの末尾は、「検察人事に政治が介入した重い教訓である」としめくくっているが、これはどういう趣旨だろうか。
 検察人事に政治が介入すると政治家がこういう報復を受けるから、うかつに触れない方がいいということだろうか。

 私がこの、いわゆる「木内騒動」にからんで起こったことを知って思ったのは、検察とは何という恐ろしい組織だろうか、ということだ。

 このコラムで名を挙げられていない「大橋が起用した最高検次長」とは、岸本義広のことである。
 今岸本の名で検索してみると、Yahoo!ニュースに転載された、竹田昌弘・共同通信編集委員のこんな記事が目にとまった。騒動の詳細がよくわかる。
 
検察人事に介入、かつては倍返し 70年近く前の「木内騒動」、さて今回は?

 この騒動の背景には、木内ら経済検事と、岸本ら思想検事の対立がある。

 木内は、戦前に「日糖疑獄」や「シーメンス事件」という汚職を手掛け、検察に「不羈(ふき)独立の精神」を確立したと言われる元司法相、小原直の門下生。〔中略〕「検察は政治と結託してはならない。軍部と結んで国民を弾圧した暗い思想検察のイメージを払拭し、新しい検察を再建できるのは、汚れた手の思想検察ではない」として、思想検事には差別的な人事異動を続けた。 〔中略〕
 木内が東京地検検事正のとき、腹心の馬場義続(よしつぐ)を東京地検次席検事に引き上げ、馬場が47年、後に「特別捜査部(特捜部)」と改称する隠退蔵事件捜査部を創設した。〔中略〕その後、次長検事の木内が馬場を東京地検検事正に引き上げ、2人が経済検察を率いた。 〔中略〕
 大橋は内務官僚出身で、弁護士でもあった。元首相浜口雄幸の娘婿。衆院議員に初当選したばかりだったが、吉田茂が法務総裁に抜擢した。大橋や吉田には、政治家を敵視し、多くが無罪となった昭電疑獄や炭鉱国管汚職を立件した経済検察に対し「国家あっての検察であることを忘れたのか、絶対に許さない」という思いがあったとみられる。公職追放とならず、地方にいながら思想検察の中心人物となった岸本は、政治家との付き合いが広く、木内による差別的な人事への不満を彼らに伝えるなどして、復権を狙っていた。


 コラムが挙げている昭和疑獄では、芦田均も福田赳夫も逮捕されたが無罪になった。炭鉱国管汚職では田中角栄も逮捕され、無罪になった。
 政治家が経済検察に批判的になるのは当然ではないのだろうか。

 後年、政治家に転身した岸本が有罪判決を受けた買収にしても、「「この程度の買収を摘発するなら多くの候補者が引っかかる」との同情論もあった」(渡邉文幸『検事総長』中公新書ラクレ、2009、p.127)ともいう。

 こんな恐るべき組織を、神聖不可侵であるかのように扱うことに、私はやはり疑問を覚える。

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検察菅の人事に政治家が介入した事例はある

2020-05-20 06:36:56 | 現代日本政治
 このたびの検察庁法改正案について、検察官の政治家からの独立を侵すものだという批判がある。
 例えば、朝日新聞デジタルで三輪さち子記者は次のように説明している(太字は引用者による)。

 Q:検察幹部の任命権は今も内閣にあるのだから、法改正をしても大して変わらないのでは?
 A:検察庁は行政機関の一つであり、検事総長と次長検事、検事長は現行法でも内閣が任免権を持つと定めている。その理由について、森雅子法相は15日の衆院内閣委で、「国民主権の見地から、公務員である検察官に民主的な統制を及ぼすため」と説明した。
 一方で、検察官は強大な起訴権限に加え、政治家の不正を捜査し、逮捕・起訴することもあるため、政治に対する中立性と一定の緊張関係が求められる。そこで戦後の日本では、内閣が任命権を持ちながらも、検察側が決めた人事案を尊重する慣例が続いてきた
 検察OBも15日の意見書で「政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例がきちんと守られてきた」と指摘した。
 だが、法改正されれば、内閣は任命という「入り口」だけではなく、定年という「出口」にも関わることになる。政治家の疑惑を追及した検察官の定年は延長せず、捜査しなかったり、不起訴にしたりした検察官の延長を認めることも可能になる。
 森氏は「時の政権に都合のいい者を選ぶということがあってはならない。検察官の独立性は害さない」と強調。安倍首相も「恣意的な人事はしない」と語り、延長を認める判断基準を事前に明確化する、とも訴えている。


 しかし、政治家が検察官の人事に介入した事例は、過去にある。
 例えば、宮沢内閣の後藤田正晴法相は、ロッキード事件で主任検事を務めた吉永祐介を検事総長にする道を開いたとされる〔註〕。
 保阪正康『後藤田正晴』(文春文庫、1998、親本は1993)はこう書いている。

平成五年に入ると、後藤田は、「実務肌の者が遠ざけられているので正した方がいい」という方針で、検察人事に手をつけた。ロッキード事件で田中逮捕を進めた吉永祐介大阪高等検察庁検事長を東京高等検察庁検事長に呼び戻したりもした〔引用者註:東京高検検事長は次期検事総長候補が就くポストとされている〕。
 〔中略〕法務、検察の人事は、この十年ほど捜査重視より政治重視になっていた。それは法務行政と政治家人脈にくわしい法務、検察官僚が幅をきかすという意味でもあった。現に、東京地検特捜部で捜査畑を歩いてきた実務肌の吉永や山口悠介、松田昇、石川達紘などは、地方にだされていた。これまでの検察人事は、ほとんど法務省の大臣官房や人事課が行なっていて、法務大臣が口を挟むことはなかった。
 〔中略〕後藤田は捜査畑で地方にでている検事正を次々に東京に戻した。中央で彼らに存分に力を発揮させようとしたのだ。吉永を補佐する東京地検検事正に北島敬介、東京地検特捜部長には宗像紀夫という布陣を布いた。(p.369-370)


 私は、Twitterで、ある検察庁法改正反対論者に、この後藤田の話についてどう思うか尋ねてみたが、返答はなかった。

 また、元共同通信記者の渡邉文幸が書いた『検事総長』(中公新書ラクレ、2009)によると、第3次吉田内閣で、大橋武夫・法務総裁(現在の法務大臣)が、木内曽益・次長検事を札幌高検検事長に転出させ、後任に岸本義広・広島高検検事長を据えようとしたところ、木内が抵抗し、結局木内が辞任するに至ったこともあるという(p.87-89)。

 朝日新聞の三浦英之記者は、「#検察庁法改正に抗議します」のハッシュタグを付けたツイートでこう書いた。

この法案が通れば、政治家の不正を取り締まる検察庁が「満州国」みたいになってしまう。枠組みは存在すれど、まるで日本政府の傀儡(操り人形)に。満州国を牛耳った「弐キ参スケ」の1人・岸信介は、現首相の祖父にあたります


 私は、検察官の人事に内閣が関与すべきではないという主張を聞いて、「関東軍」という言葉を思い出す。そして「統帥権干犯」という言葉も思い出す。

 「内閣が任命権を持ちながらも、検察側が決めた人事案を尊重する慣例が続いてきた」のなら、それは内閣に実質的な任命権がないということになる。
 民意により選ばれた政治家が手出しすることのできない、強大な権限をもつ官の集団が存在することになる。
 それで本当にいいのだろうか。

 検察に政治に対する中立性や一定の緊張関係が求められるのは当然だ。だが、内閣が一切検察の人事に関与すべきでないとは度が過ぎている。
 もし本気でそうしたいのなら、制度の運用によるのではなく、法律によって、例えば検察庁を法務省からも内閣からも独立させるなど、検察制度そのものを変えるべきだろう。
 そうなった場合、検察が暴走したときには誰が歯止め役となるのか疑問だが。

〔註〕
 もっとも、これには異説もある。
 前掲の渡邉『検事総長』にはこう書かれている。
 岡村〔泰孝。吉永の前任の総長〕は、自分の後継には同期で特捜部長の先任だった吉永を充てることを、早くから固めていた。この年四月、関西を回った岡村は、奈良で大阪高検の検事長となっていた吉永と会った。この会談で、吉永が七月に東京高検に上がり、年末に総長を交代することで合意する。「吉永起用は検察建て直しを図った後藤田人事」との風評が流れた。だがロッキード事件での嘱託尋問に疑義を唱える後藤田と吉永では水と油だ。後藤田はもともと検察嫌いだった。これも後藤田神話のひとつにすぎない。(p.260-261)
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検察庁法改正先送りの報を読んで

2020-05-19 12:15:56 | 現代日本政治
 18日、安倍首相は検察庁法改正の今国会での成立を断念したと報じられた。一般の国家公務員の定年引き上げなど、抱き合わせにした全ての改正案を、次の国会以降に先送りするのだという。
 朝日新聞デジタルはこう報じている。

 ツイッター上では、俳優や歌手ら著名人からも「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿が相次いだほか、元検事総長を含む検察OBからも反対する意見書が15日に法務省に出されていた。
 こうした世論の反発を受け、政府高官は18日朝、「今国会で成立しなくても困るものではない」と語った。自民党関係者も「検察庁OBの反発で官邸内の風向きが変わった」と話した。
 安倍首相は、新型コロナウイルス対応で必要となった2次補正予算案を27日をめどにとりまとめる指示をしており、改正案の成立を強行すれば、予算案の国会審議への影響が避けられないと判断した。自民党幹部は見送りの理由について「新型コロナのさなかに国論を二分するのは良くないということだ」と話した。


 確かに、政権にとって「今国会で成立しなくても困るものではない」だろうし、コロナ対策の方が重要だろう。このような政治判断になったのは理解できる。

 しかし、黒川氏を検事総長に就けることによって安倍首相が訴追を免れるだの、これまでにも黒川氏が自民党政治家の事件をつぶしてきただの、三権分立の危機だの国のかたちの根底を変えるだの、愚にもつかない批判を真に受けたツイートの拡散が国会審議に影響を及ぼすなんてことが、政治のあるべき姿なのだろうか。
 50年前に、わが国の立場を強化するための日米安保条約改定にわけもわからず反対して大騒ぎした時と、国民のレベルは変わっていないのではないか。

 安倍首相のこの転換は、先に新型コロナの支援金が減収世帯30万円から1人一律10万円に変えられたときと同様、この政権の性格が世評のように強権的だの独裁だのといったものではなく、むしろ情勢に合わせた柔軟な対応をとれる(弱腰と言ってもいい)ことを示していると私には思えるが、政権批判者がそのような認識を示すことはないだろう。
 
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検察OBの検察疔法改正に反対する意見書を読んで

2020-05-17 16:52:49 | 現代日本政治
 5月15日、元検事総長ら検察OB14人が検察疔法改正に反対する意見書を提出したと報じられた。

 「元検事総長ら」と言うから歴代の元検事総長がずらずらと名を挙げているのかと思いきや、検事総長だったのは松尾邦弘氏(77)1人だけだった。

 朝日新聞デジタルに掲載された意見書全文を読んでみて、次のように思った。

2 一般の国家公務員については、一定の要件の下に定年延長が認められており(国家公務員法81条の3)、内閣はこれを根拠に黒川氏の定年延長を閣議決定したものであるが、検察庁法は国家公務員に対する通則である国家公務員法に対して特別法の関係にある。従って「特別法は一般法に優先する」との法理に従い、検察庁法に規定がないものについては通則としての国家公務員法が適用されるが、検察庁法に規定があるものについては同法が優先適用される。定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない。


 定年については検察庁法に規定はあるが、定年延長については検察庁法に規定はない。それを「定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない」と書くのは、一種のトリックではないだろうか。
 確かにそういう解釈もできるだろうが、それが唯一絶対の解釈と言えるのだろうか。

これは従来の政府の見解でもあった。例えば昭和56年(1981年)4月28日、衆議院内閣委員会において所管の人事院事務総局斧任用局長は、「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言しており、これに反する運用はこれまで1回も行われて来なかった。すなわちこの解釈と運用が定着している。
 

 人事院事務総局斧任用局長は、「「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言して」はいない。
 このブログの以前の記事でも述べたように、国会会議録を確認すると、

検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。


と答弁している。
 この「今回の定年制」とは、に、国家公務員法の改正で定年は60歳とされたことを指すとみるべきではないか。
 既に検察疔法で検事総長は65、その他の検察官は63が定年とされているから、国家公務員法の60歳は適用されないという趣旨ではないか。
 国家公務員法の定年延長に関する規定をも適用されないという趣旨とは、必ずしも読めないのではないか。

 例えば、検事総長を務めた故・伊藤榮樹氏の著書『逐条解説 検察庁法』をひもといても、国家公務員法の定年延長が検察官には適用されないとは書かれていない。

3 本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。


 安倍首相は2月13日の衆議院本会議で「従来の解釈を変更することにした」と述べたと広く報じられているが、実際はそう述べてはいない。
 このブログの前回の記事にもあるように、「衆議院インターネット審議中継」の動画で確認すると、安倍首相はこう発言している。

検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。
他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。


 「変更」という言葉は用いていない。
 これは、これまでは国家公務員法の定年延長についての規定が検察官に適用できるかどうかの解釈がなかったところ、今般適用できると解釈することとしたという趣旨ではないか。

 また、意見書はロッキード事件の栄光を強調しているが、検察はロッキード事件で何をしたのか。
 わが国の法律で認められていない刑事免責を認め、おまけに最高裁にも認めさせた上で、作成された嘱託尋問調書を証拠としたのではなかったか。
 これは「本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに」行われた「三権分立主義の否定にもつながりかねない」行為ではないのか。
 嘱託尋問調書は最高裁判決で証拠能力を否定されたが、彼らは何か反省を口にしただろうか。

特捜部が造船疑獄事件の時のように指揮権発動に怯(おび)えることなくのびのびと事件の解明に全力を傾注できたのは検察上層部の不退転の姿勢、それに国民の熱い支持と、捜査への政治的介入に抑制的な政治家たちの存在であった。
〔中略〕
黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。


 ロッキード事件の時の政権が「捜査への政治的介入に抑制的」であったとすれば、それは、当時の検察が政権にとって都合が良い存在であったためではないのだろうか。
 三木首相、稲葉法相は、事件を政権維持に、あるいは自らの政治的立場の強化に、利用してはいなかったか。

 今回の検察庁法改正は、内閣が、他の国家公務員と同様、検察幹部の定年延長を必要に応じて認めるというものにすぎない。
 検察官の身分保障に関する条文に手を触れるものではない。
 たかだか数年の定年延長をちらつかされただけで、検事総長や検事長が政権の言いなりになり、検察が政権の意のままに動く組織に変貌するというのか。
 検察はいつからそんな脆弱な組織になったのか。

 およそ非現実的な想像だと思うし、この意見書に名を連ねるOBが少人数にとどまったことも、それを裏付けているのではないか。
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安倍内閣は検事長の定年延長で本当に「解釈を変更」したのか

2020-05-14 12:55:18 | 現代日本政治
 昨日の話を続ける。
 今、安倍内閣が批判を浴びている検察庁法改正のきっかけとなった、黒川検事長の定年延長は、本当にそれほどの大問題なのか。
 昨日は国会での発言を確認するため会議録を見てみたが、今日は法律の条文を見てみよう。

 一般の国家公務員の定年は、国家公務員法に次のように規定されている(太字は引用者による。以下同じ)。
 
(定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
○2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

(定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。


 この国家公務員の定年は1981年の法改正によって設けられたものだが、検察官については、それ以前から、検察庁法第32条で定年が設けられていた。

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。


 そして、検察庁法には、次のような条文もある。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。


 国家公務員法附則第13条を見てみると、

第十三条 一般職に属する職員〔引用者註:これには検察官も含まれる〕に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。


とある。
 ちなみに、国家公務員法第1条とは、

第一条 この法律は、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。
○2 この法律は、もつぱら日本国憲法第七十三条にいう官吏に関する事務を掌理する基準を定めるものである。
○3 何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀してはならない。又、何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令の施行に関し、虚偽行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。
〔後略〕


といったものである。

 さて、このたびの黒川検事長の定年延長を違法だと主張する人々は、検察庁法第32条の2により、国家公務員法の定年に関する規定よりも検察庁法第22条が優先すると説く。
 しかし、検察庁法第22条が定めているのは、検察官の定年についてのみである。定年延長については言及していない
 一般の国家公務員の定年を定めているのは国家公務員法第81条の2である。一般の国家公務員の定年は60だが、検察庁法第32条によって、検事総長は65、その他の検察官は63とする検察庁法の定年の規定が特例として優先する。これはわかる。
 しかし、定年延長について定めているのは国家公務員法第81条の3であり、81条の2とは別の条文である。これをも検察庁法第32条による特例に含まれると言い切れるのか。

 仮に検察菅には国家公務員法第81条の3の定年延長は適用されないと考えるなら、1981年の国家公務員法改正の際に、検察庁法にそのような条文が盛り込まれるべきではなかったのか。
 そうなっていないということは、立法者はそのような事態を想定していなかったということではないのか。
 ならば、検察官の定年については検察庁法が適用されるが、定年延長については国家公務員法が適用されるという政府答弁は、必ずしも誤っていないのではないか。
 もちろん、定年延長については認めるべきではないという見解も有り得るだろう。だが、政府の法解釈をするのは、検察庁法については法務省、国家公務員法については人事院であり、それを調整するのは内閣である。

 この問題で、政府はこれまでの法の解釈を変更したと広く伝えられ、批判されている。
 例えば。朝日新聞デジタルの2月13日付の記事は、こう報じている。

首相、検察官の定年延長巡り「法の解釈変更」 批判必至

 東京高検検事長の定年延長問題をめぐり、安倍晋三首相は13日の衆院本会議で、国家公務員法に定める延長規定が検察官には「適用されない」とした政府の従来解釈の存在を認めたうえで、安倍内閣として解釈を変更したことを明言した。時の内閣の都合で立法時の解釈を自由に変更できるとなれば法的安定性が損なわれる恐れがあり、批判が出ることは必至だ。
 立憲民主党の高井崇志氏への答弁。定年延長を含む定年制を盛り込んだ国家公務員法改正案を審議した1981年の国会での政府答弁と、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長の整合性について認識を問われ、首相は「当時、(検察官の定年を定めた)検察庁法により除外されると理解していたと承知している」と認めた。一方で、「検察官も国家公務員で、今般、検察庁法に定められた特例以外には国家公務員法が適用される関係にあり、検察官の勤務(定年)延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と述べた。
 検察庁法は検察官の定年は63歳と定める。黒川氏は63歳の誕生日前日の今月7日に退官予定だったというが、政府は先月末、国家公務員法の規定を根拠に延長を閣議決定した。(永田大)


 しかし、解釈を変更したのではなく、検察官の定年延長について初めて解釈を示したのではないか。
 この時の発言について、国会会議録検索システムでは何故か見当たらなかったが、「衆議院インターネット審議中継」に動画があったので見てみると、安倍首相はこう答弁している(1:35:34あたりから)。

検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。
他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。


 やはり、朝日が書いている「国家公務員法に定める延長規定が検察官には「適用されない」とした政府の従来解釈の存在を認めた」りはしていない。

 この答弁を「解釈を変更したことを明言した」と断じるのは、昨日の記事でも述べたのと同様、一種のフェイクニュースではないだろうか。
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黒川検事長の定年延長は本当に大問題なのか

2020-05-13 07:40:13 | 現代日本政治
 今回の「#検察庁法改正案に抗議します」騒動の発端は、黒川弘務検事長の定年を特例として延長し、検事総長への道を開いたことにある。
 例えば、5月12日付朝日新聞3面の記事「検察庁法改正案 問題は」はこう述べている。

黒川氏の定年延長をめぐる政府答弁は迷走した。当初、定年延長の法的根拠は国家公務員法の延長規定だと説明した。定年を63歳に定める検察庁法に延長規定がないためだ。
 しかし、立憲民主党の山尾志桜里衆院議員(その後離党)が2月、「国家公務員法の定年延長は検察官に適用しない」とする1981年政府答弁の存在を示し、矛盾を指摘。人事院の松尾恵美子給与局長も、81年の政府見解は「現在まで続けている」と答弁し、安倍内閣による国家公務員法の延長規定を使った黒川氏の定年延長は法的根拠がなく、違法である疑いが浮上した。
 批判が高まるや、安倍晋三首相は法解釈そのものを変えたと説明。松尾氏も「つい言い間違えた」と自身の答弁を撤回し、首相に追従した。その一方で政府は、解釈変更を裏付ける明確な資料を示せなかった。


 私は以前、この2月10日の山尾議員の衆院予算委員会での質問の記事を読んで、なるほどなと思いつつも、何か違和感を覚えた。
 元々、検察庁法には定年の規定があったが、国家公務員法にはなかった。1981年の国家公務員法改正で一般の国家公務員にも定年が設けられたが、検察官の定年は検察庁法の規定が適用されるとされた。当然だろう。
 しかし、定年延長の規定が検察庁法にないのなら、国家公務員法の規定を援用してはならないのだろうか。
 1981年の政府答弁とは、本当にそれを禁止する趣旨のものなのだろうか。

 あれよあれよという間に、すっかり定年延長を問題視する見解がマスコミでは定着していった。
 この「#検察庁法改正案に抗議します」騒動で再び気になったので、ちょっと国会会議録を調べてみた。
 (久しぶりに国会会議録検察システムのサイトを見てみたが、調べやすくかつ見やすくなっている!) 

 1981年4月23日、第94回国会の衆議院内閣委員会で、中山太郎・総理府総務長官(国務大臣)は、国家公務員法を改正して定年を設ける趣旨を次のように説明している(太字は引用者による。以下同じ)。

○中山国務大臣 ただいま議題となりました国家公務員法の一部を改正する法律案及び国家公務員等退職手当法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案について、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 初めに国家公務員法の一部を改正する法律案について申し上げます。
 国家公務員については、大学教員、検察官等一部のものを除いて、現在、定年制度は設けられていないわけでありますが、近年、高齢化社会を迎え、公務部内におきましても職員の高齢化が進行しつつあります。したがって、職員の新陳代謝を確保し、長期的展望に立った計画的かつ安定的な人事管理を推進するため、適切な退職管理制度を整備することが必要となってきております。このため、政府は、昭和五十二年十二月に国家公務員の定年制度の導入を閣議決定し、政府部内において準備検討を進める一方、この問題が職員の分限に係るものであることにかんがみ、人事院に対し、その見解を求めたのであります。人事院の見解は、一昨年八月、人事院総裁から総理府総務長官あての書簡をもって示されましたが、その趣旨は、より能率的な公務の運営を確保するため定年制度を導入することば意義があることであり、原則として定年を六十歳とし、おおむね五年後に実施することが適当であるというものでありました。
 政府といたしましては、この人事院見解を基本としつつ、関係省庁間で鋭意検討を進めてまいったわけでありますが、このたび、国における行政の一癖の能率的運営を図るべく、国家公務員法の一部改正により国家公務員の定年制度を設けることとし、この法律案を提出した次第であります。
 次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。
 改正の第一は、職員は定年に達した日から会計年度の末日までの間において任命権者の定める日に退職することとし、その定年は六十歳とするというものであります。ただし、特殊な官職や欠員補充が困難な官職を占める職員につきましては、六十五歳を限度として、別に特例定年を設けることとしております。
 改正の第二は、定年による退職の特例であります。これは、任命権者は職員が定年により退職することが公務の運営に著しい支障を生ずると認める場合には、通算三年を限度とし、一年以内の期限を定めてその職員の勤務を延長することができるというものであります。
 改正の第三は、定年による退職者の再任用であります。これは、任命権者は定年により退職した者を任用することが公務の能率的な運営を確保するため特に必要がある場合には、定年退職の日の翌日から起算して三年を限度とし、一年以内の任期でその者を再び採用することができるというものであります。
〔後略〕
 

 そして、公明党の鈴切康雄議員の質問に対し、藤井貞夫人事院総裁はこう答弁している。

○鈴切委員 戦前の官吏及び現行公務員法制下においては、裁判官あるいは検察官などの一部の公務員を除いて定年制がなかった理由というのは何であるのか、またこのような中で今回定年制を導入しようとしたのはどういう理由なんでしょうか。

○藤井政府委員 戦前におきましては、お話のように裁判官、検察官あるいは実質的にこれにならう者といたしまして大学の教授がございました。これらについてはいわゆる定年制というものがあったわけですが、その他の公務員については、定年制というものがなかったことは事実でございます。
 これは沿革的にいろいろな事情があるわけですが、やはり一番主たる理由は、公務員全般の年齢がそう高くなかった。先生も御承知のように、戦前では、無論大変特殊な例ですが、知事でも四十歳代でなった人があるくらいでして、後進に道を譲るというようなことから実質上の任意引退をしていくということで、定年制の必要性がなくて事実上の新陳代謝が行われておったということがございました。そういうことで、制度としての定年制を設ける必要は別になかったということから、それが制度化されていなかったのだというふうに私は理解をいたしておるのであります。
 ただ、午前中もお話が出ておりましたが、地方団体におきましては、やはり相当の年配の人がいるところがございまして、特に当時の五大都市におきましては、職員の数も多いし、また学校を出てからすぐ入って何十年と市吏員としての生活をやりまして定着をしている、これが地方自治の面から言っても好ましい形であったのだと思うのですが、そういうことから、事実上新陳代謝の必要性があるということで定年制の制度化が行われておりまして、全国的に言って約九百ぐらいだったと思います。特に制度的にきちっとしておったのは五大市が一番その模範であったと思います。そういうところでやっておりましたが、国家公務員については一般的には定年制がなかったということで今日まで来ておるわけであります。
 戦後においても、この事態はそれほど変わっておりませんで、特に各省庁で、無論苦心はしておりますけれども、勧奨退職というものが実質上行われておったということがございまして、それほど深刻な職場の空気の沈滞というようなこともなかったかと思うのであります。
 ところが、いま総務長官もお話しになりましたように、最近では社会一般に高齢化の現象が非常に顕著にしかも急速に進んでおるという事態が起きてまいりまして、これは公務の場においても例外ではございません。高年齢者が非常にふえてきた、したがって平均年齢もどんどん上がっていく。特に戦後いろいろな事情から一時的に非常に急激に採用いたしました職員層が、いまや非常に大きな、一般的にこぶと言われておりますが、ふくらみとなって押し寄せてきておるという状況がございます。そういうようなこともございまして、そのうち勧奨というものも、大変苦労いたしましてもなかなか実効が上げ得られないような、そういう形も現実に出てくるんではないだろうか、そういう現象が目前に迫っているように感ぜられるのであります。ということになりますと、適正な新陳代謝を図りますとともに、長期的な人事管理の体制を打ち出せなくなる、それが十分でないということから、いろいろな問題がそこに起きてまいるということがございますので、そういう点をさらに将来を見越して考えまする場合、民間においても大部分が定年制を実施しておるということがございますので、一種の勤務条件についての情勢適応の原則あるいは官民との均衡というような点から申しまして、この際定年制を公務員にも導入するということが大変意義のあることではないかということで、人事院といたしましてはお答えを申し上げたということでございます。


 このあと鈴切議員と藤井総裁とのやりとりがしばらく続くが、検察官の定年については全く取り上げられていない。

 そして、上記の朝日記事が言う「1981年政府答弁」は、同月28日の内閣委員会でなされた。
 民社党の神田厚議員と斧誠之助・人事院事務総局任用局長とのやりとり。

○神田委員 次に、指定職の適用の問題について御質問申し上げます。
 指定職の適用職員は現在千五百人弱いるわけでございますが、その中で現在定年が定められている者の数、割合はどういうふうになっておりましょうか。

○斧政府委員 指定職は先生おっしゃいますとおり約千五百名でございます。そのうち定年制の定められております職員は、国立大学と国立短期大学の教官でございます。大学の学長及び教授の中に指定職の方がいらっしゃるわけですが、約六百六十名ばかりいらっしゃいます。

○神田委員 指定職の高齢化比率が非常に高いわけでありますが、五十四年現在で六十歳以上の者の占める割合は約四〇・一%。定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、さらには教育公務員におきましては国立大学九十三大学の教員の中から何名か出ているわけでありますが、これらについてはどういうふうにお考えになりますか。

○斧政府委員 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。


 神田議員は続いて定年と勧奨退職との関係に質問を移し、検察官の定年については何も触れていない。

 ここで斧局長が答弁したのは、検察官と大学教官については既に別の法律で定年が設けられているから、今回の国家公務員法改正による定年は適用されない、それ以外の指定職には適用されるという、それだけのことだろう。
 だが、この答弁をもって、中山長官が述べていた「特殊な官職や欠員補充が困難な官職を占める職員につきましては、六十五歳を限度として、別に特例定年を設けることとして」いること、つまり特例による定年延長をも、検察官には適用されないと解釈すべきなのだろうか。

 今年2月10日の会議録を見ると、山尾議員はこう述べている。

つまり、このときの国会議論は、当たり前ですけれども、定年制というのはパッケージなわけです。定年の年齢だけ切り出している議論はどこにもないんです。そして、政府委員がはっきり言っているのは、この国家公務員法の定年制は検察官には適用されないと言っているんです。


 しかし、「政府委員がはっきり言っている」のは、検察官には既に定年制があるから、国家公務員法改正により新設される定年制は適用されないということではないのか。
 この会議録で森雅子法相が

○森国務大臣 検察庁法を所管する立場としての解釈を申し上げますけれども、検察庁法で定められる検察官の定年の退職の特例は、定年年齢と退職時期の二点であり、検察官の勤務延長については、一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものと解しております。


と答弁している解釈は、本当に全く成り立つ余地がないものなのだろうか。
 私にはそうとは思えない。

 冒頭で挙げた朝日記事は、人事院の給与局長も81年の政府見解は「現在まで続けている」と答弁したと言うが、特別法である検察庁法を所管するのは人事院ではなく法務省である。

 なお、朝日記事は「「国家公務員法の定年延長は検察官に適用しない」とする1981年政府答弁」と言うが、実際の答弁は、上に示したとおり、検察官には「現在すでに定年が定められております」から「今回の定年制は適用されない」というもので、定年延長は適用しないとは述べていない。
 ましてや、4月21日付社説のように「政府はかねて検察官の定年延長は認められないとの立場をとってきた。」とか、5月12日付社説のように「ことし1月、長年の法解釈をあっさり覆して、東京高検検事長の定年を延長したのは、当の安倍内閣ではないか。」などと唱えるのは、一種のフェイクニュースと言えるのではないか。

 私は会議録を読んでそう思った。関心のある方には自ら確認することを勧めたい。

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「#検察庁法改正案に抗議します」でお祭り騒ぎの朝日新聞を読んで

2020-05-12 17:24:20 | マスコミ
 今朝の朝日新聞の1面トップ記事の見出しは
「抗議ツイート急拡大
 検察庁法改正案 なお強行」。

 1面の記事には、

ツイッター上では9日夜以降、俳優や歌手ら著名人から「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿が相次いだ。リツイートも繰り返され、投稿の数は、11日午後8時すぎで680万件を超えた。


とある。
 Twitterをよく知らない人が見たら、680万人もの人が抗議しているのかとさぞ驚いたことだろう。

 2面は
「「火事場泥棒」「後付け」批判」
「検察内にも異論「唐突な特例」」。
 3面は法制法案の問題点、4面は国会での論戦を大きく取り上げ、10面の社説は「検察庁法改正 国民を愚弄する暴挙だ」、25面にも「芸能人に変化? 政治的ツイート続々」。
 お祭り騒ぎである。

 社説のタイトルを見て、どう国民を愚弄しているというのかと読んでみたら、末尾に

 コロナ禍で人々は検察庁法どころではないし、最後はいつも通り数の力で押し切ればいい。政権がそう思っているとしたら国民を愚弄(ぐろう)すること甚だしい。


とあるのをタイトルにとったようだ。
 たらればの話で「愚弄する暴挙だ」と断じるとは、こちらが愚弄されている気にさせられる。

 25面の記事には、こうある。

歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんは、いったんは法案への反対を表明したが、おって削除した。ファン同士で意見が割れ、「激論が繰り広げられて悲しくなり消去させて頂きました。」と理由を書き込んだ。「政治を勉強してから発言を」「歌手は歌っているだけで良い」といった攻撃も目立つ。


 だが、削除を伝えるツイートできゃりーさんがこう続けていることには触れない。

若い方でもわかりやすいように画像を掲載させて頂きました(この画損は間違えてる等の指摘も頂きました。ごめんなさい)


 きゃりーさんが載せていた画像とはこれである。



 間違えているというか、端的に言って誹謗中傷ではないかと私は思う。
 いちいちどこがどうと口にしたくもない、くだらないレベルのものである。

 今日、「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグを付けたツイートでこんな画像も見かけた。



 なるほどこれらの事件は確かに不起訴になっている。
 しかし、黒川氏が不起訴にしたとはどういう意味だろうか。事件を直接担当した検察官でもなく、その直属の上司でもない黒川氏が、どのように影響力を行使したというのだろうか。
 仮に黒川氏一人の力でこれらの事件が不起訴になったのなら、その他の検事総長をはじめとする検察官はいったい何をしていたのだろうか。
 検察がそんな無能者の集団なら、黒川氏の検事総長就任を阻止したところで、いったい何を期待できるというのだろうか。

 小渕優子氏を除く4件は、検察や警察が自ら立件したものではない。市民(?)からの告発を受けて事件となったものだ。
 もともと無理筋だったのではないか。
 こんな見方を肯定するなら、裁判で無罪になろうが何だろうが、とにかく政治家を起訴するのが良い検察だということにならないか。

 また、黒川氏が自民党政治家の事件をつぶしていると見るなら、彼が東京高検検事長に就任してから、先に自民党の秋元司衆議院議員がIR事業をめぐる収賄で逮捕、起訴されたことや、現在、自民党の河井案里参議院議員と河井克行衆議院議員が公職選挙法違反で捜査を受けていることをどう見るのだろうか。

 今日の朝日の2面の記事も、こう伝えている。

 一線の若手検事は「総長が誰になろうとも、現場にはあまり関係がない」。黒川氏をよく知る検察幹部も「黒川氏が官邸の意向で事件をつぶしたことは全くなく、能力的にも総長に適任だ」と話す。ただ、「『政権と近い』と見られている人物が総長になれば、検察が公正とみられなくなる」との不安はあるという。


 「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグに同調した多くの方々は、こうした画像や主張の存在を承知で、それに応じたのだろうか。
 そうではないと思いたい。

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「#検察庁法改正案に抗議します」 理解した上での行動ですか

2020-05-10 17:03:42 | 現代日本政治
 本日Yahoo!ニュースに転載された共同通信の記事。

検察庁法改正に抗議のツイート 野党や著名人ら3百万以上
5/10(日) 15:17配信

 会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で9~10日にかけ、検察庁法改正に抗議意思を示す野党議員や著名人とみられるツイートが相次ぎ、約300万以上を記録した。検察官の定年を延長する検察庁法の改正部分を含んだ国家公務員法改正案を巡っては、検察庁の独立性が安倍政権にゆがめられる危険性を指摘する声が出ている。

 ツイートが相次いでいるのは「検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検索目印)を付けた投稿。ツイート数は、注目されている投稿の傾向を示しており、このハッシュタグは、ツイッターのトレンドワードで国内上位に入った。


 私のタイムラインにもこのハッシュタグを付けた著名人のツイートが次々に流れてきた。

 辻真先氏はこう述べた。

左右に関わらず大切な読者で視聴者だと思うぼくが、左右に関わらず反対すべき事案と考えてツィートしました。日本のあるべき姿を根底から崩します。コロナより怖い! #検察庁法改正案に抗議します


 谷山浩子氏はこう。

右とか左とか、どの政党を支持してるとかしてないとか、政治に関心があるとかないとかも関係なく、さすがにこれはどこから見てもダメでしょう。抗議するる #検察庁法改正案に抗議します


 文章はなく、ハッシュタグのみでツイートしている方もおられた。

 ちょっと待ってくれ。
 あなた方は、本当にこの検察庁法改正案の趣旨を理解した上で「抗議」しているのか。

 この法案は、一般の国家公務員の定年を65歳に延長するのに合わせて、検察官の定年も65歳とするというものにすぎない。
 そうするべきではないという合理的な理由を説明できるのか。

 いや、63裁を役職定年とする一方で、特例により政府がそれを延長することができるのが問題だという意見がある。
 そういう人は、そもそも検事総長や検事長の任免権が内閣にあることを忘れているのではないか。
 
 こんなひどいツイートもあった。

黒川弘務が検事総長にならないと、安倍晋三がお縄になってしまうらしいよ!最高だねー!

だから下のハッシュタグをどんどん広めましょう!
#検察庁法改正案に抗議します


 黒川氏は既に検事長としての定年が延長されているから、この法案は関係ない。
 現在でも検事総長の定年は65歳なのだから、この法案が成立しなくても黒川氏は検事総長になれる。

 内閣が検察の人事に関与するのが危険だと言うが、検察が内閣の統制に服さずに勝手に動き出す方が危険ではないのか。
 帝人事件を知らないのか。

 かつて吉永祐介氏が検事総長になれたのは後藤田正晴法相の強い意向によるものだったが、あれはいいのか。

 政権側が訴追を逃れるために訴追に消極的な検察幹部の定年を延長するという運用のされ方が警戒されているようだが、例えば、政権側の訴追の追及に積極的な検察幹部がいたとして、その人物が役職定年を迎え、次の総長候補は消極的な人物だったらどうだろう。世論は、特例を設けてでも定年を延長して総長に据えるべきと言い出しはしないか。

 検察は首相をも訴追できる強大な権限を握っているというが、では首相をも有罪にできる最高裁判所の長官は誰が決めているのか。
 わが国最強の暴力装置たる自衛隊のトップは誰が決めているのか。
 少し落ち着いて思い起こしてみてはどうだろう。

 「左右に関わらず反対すべき」なんて見解は、以前の「盗聴法」や特定秘密保護法、安保法制の騒動、古くは60年安保闘争と同様、ただ騒ぎたいだけではないのか。
 政権批判勢力に利用されているだけとしか思えない。
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間違いだらけの国籍法改正反対論(下)(過去記事転載)

2019-06-14 22:49:08 | ブログ見聞録
(この記事は、2009年9月20日に私のYahoo!ブログに掲載したものです。
Yahoo!ブログが本年12月にサービスを終了するため、こちらに転載するものです。
引用部分の表示の仕方がYahoo!ブログとgooブログでは異なるため、そのままではわかりにくい箇所があるので、本文を若干修正しました。
文中敬称略)


(前回の記事はこちら

 さて、問題とされている12月4日の参議院の法務委員会での発言阻止ですが、この記事中の賛成派議員による

《賛成派議員 「理事会で決まってんでしょ」》

《賛成派議員 「自民党どうするんですか!国対委員長!国対で話し合ったでしょ !」
 賛成派議員 「理事会で決まってるでしょ!国対委員長!委員長しっかりしなさいよ!」》

といった発言からは、法務委員会の理事会や、各党の国会対策委員長による協議により、既に結論は出ており、採決を待つばかりという段階だったことがうかがえます。

 なお、この改正案に対する質疑は、11月27日に行われています。
 その内容は、国会会議録検索システムで確認することができます(丸山和也議員も発言しています)。

 無宗ださんは、このパピヨンさんの記事を転載した自分のブログで、

日本には言論の自由があったはずだが…


とコメントしていますが、言論の自由とは、いつなんどきでも、いかなる場所においても、自由に発言できるという趣旨ではないことは言うまでもありません。

 この法務委員会では、記事にあるように、改正案は全会一致で可決されました。ということは、丸山和也議員も賛成しているわけです。何かしら、発言したいことはあったのでしょうが、反対意見を封殺されたというわけではなさそうです。

 記事がリンクを張っているYouTubeの動画のタイトルには「「音声とめて!」 民主党、千葉景子が国籍法をゴリ押し」とありますが、自民党の反対を押し切って民主党が採決を強行したというわけではなく、単に予定外の発言を封じたというだけですから、「国籍法をゴリ押し」という表現は不適切でしょうし、仮に発言封じを批判するにしても、その責任は議事進行役である澤雄二委員長(公明党)にあります。千葉批判は筋違いです。

 可決後、この動画にも収録されているように、理事である千葉景子が、附帯決議案を提案しています。これは、民主党・新緑風会・国民新・日本、自由民主党、公明党の各派共同提案です。

 この附帯決議の全文は、次のとおりです。

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
 一 本法の施行により、生後認知された子も胎児認知された子と同様、届出のみで我が国の国籍を取得することができることとなることにかんがみ、本法の趣旨について十分な周知徹底に努めること。
 二 我が国の国籍を取得することを目的とする虚偽の認知が行われることがあってはならないことを踏まえ、国籍取得の届出に疑義がある場合に調査を行うに当たっては、その認知が真正なものであることを十分に確認するため、認知した父親に対する聞取調査をできる限り実施すること、当該父親と認知された子が一緒に写った写真の提出をできる限り求めること、出入国記録の調査を的確に行うこと等につき、調査の方法を通達で定めること等により、調査のための万全な措置を講ずるよう努めること。
 三 本法の施行後、改正後の国籍法の施行状況について、当分の間半年ごとに当委員会に対し報告するとともに、その施行状況を踏まえ、父子関係の科学的な確認方法を導入することの要否及び当否について検討する等、虚偽の届出を防止するために必要な措置を講ずること。
 四 ブローカー等が介在して組織的に行われる虚偽の認知による不法な国籍取得の動きが生じてはならないことを踏まえ、入国管理局、警察等関係当局が緊密に連携し、情報収集体制の構築に努めるとともに、適切な捜査を行い、虚偽の届出を行った者に対する制裁が実効的なものとなるよう努めること。
 五 本改正により、重国籍となる子供が増加する事態が起こり得ることにかんがみ、重国籍に関する諸外国の動向を注視するとともに、我が国における在り方について検討を行うこと。
   右決議する。


 前回引用した衆議院での附帯決議と比較すると、趣旨は基本的に同じであり、かつ偽装認知防止策について強化したものであることがわかります。
 この附帯決議も賛成多数で可決されました(全会一致ではない)。

 法案は、翌12月5日に参議院本会議で可決、成立しました。
 その投票結果は、会議録によると、

  投票総数         229
  賛成           220
  反対            9

だったそうです。反対者の内訳はわかりませんが、自民党も大多数は賛成していることがわかります。

 パピヨンさんの記事の本文に戻ります。

民主党・公明党は、どうしても在日韓国・朝鮮人・中国人、つまり特定アジア・反日3カ国の人々に参政権を与えたいわけですね。


 上記の最高裁判決は、いくつかの事例についてまとめて違憲だと認めたものですが、いずれも母はフィリピン人です。
 ウィキペディアには現在〔転載者註:2009年9月20日当時〕「国籍法改正騒動」という項目があり、その中で偽装認知を試み逮捕された事例があったと書かれていますが、その外国人とはペルー人です。

 この記事の筆者の頭の中には、日本国籍を取得したい外国人といえば中韓朝の3か国しか思い浮かばないようです。
 この3か国の国民に日本国籍を与えることに反対なのであって、それ以外の国民による偽装認知はどうでもいいようにも受け取れます。

 記事にはこうもあります。

麻生内閣が議論もせずに通してしまったように言っていますが、例によって売国政策を推進する民主党と公明党が主導なので、自民党が悪いわけではありません。


 繰り返しますが、内閣提出法案ですから、当然麻生内閣に責任があるのです。
 それでも自民党は悪くないと言い張るこの記事の筆者の姿勢からは、問題の本質を理解する意志はなく(能力もないのかもしれませんが)、ただ民主党・公明党叩きと外国人排斥ムードを作り出すためにこの騒ぎを利用したいだけだという意図が読み取れます。

 さて、偽装認知の問題は確かにありますし、それへの厳正な対処は必要でしょう。
 しかし、ではDNA鑑定を要件とすべきだったのでしょうか。
 この騒動の当時、衆議院の法務委員会のメンバーだった自民党の稲田朋美議員(弁護士)は、2008年11月27日付産経新聞「正論」欄で、最高裁判決を批判しながらも、DNA鑑定を要件にすることには慎重な姿勢を示しています。

【正論】「国籍付与」は国会の重い課題
〔前略〕
 今回改正について多くの反対意見が寄せられた。ほとんどが偽装認知の横行への不安から、DNA鑑定を必須条件にせよというものだ。偽装認知は防がなければならない。だがDNA鑑定を要件とするのは、日本の家族法制度に変容をきたす恐れがないか慎重に検討しなければならない。

 昨年自民党内で民法772条の300日規定が見直されようとしたとき、私はDNA鑑定を法制度にもちこむことの危険性を主張した(昨年4月17日本欄)。民法は「親子関係=生物学的親子」という考え方をとっておらず、法的親子関係は子の安全な成長を確保するための法制度である。安易にDNA鑑定を取り入れることは、生物学的親子関係をすべてとする風潮につながりかねない。

 これに対し、国籍付与の前提としての認知にDNA鑑定を行うことは「血統主義」をとる我が国では当然であり、民法の親子関係に直接影響を与えるものではないと主張する人もいる。

 しかし仮にDNA鑑定を要件とすれば、今までなら父の認知後、父母が婚姻をして準正により当然に国籍を付与した場合にも鑑定を要件としなければ平仄(ひょうそく)が合わない。なぜなら最高裁は「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かは、子にとっては自らの意思や努力では変えることのできない身分行為」である。これによって区別することは憲法14条の差別としたのだから、認知しただけの非嫡出子にDNA鑑定を要件とするのなら、父母が結婚した嫡出子にも鑑定を要件としなければ再度憲法違反をいわれる恐れが大きいからだ。

 しかし、父母が結婚している場合にまでDNA鑑定を要件とすることは、婚姻中に妻が懐胎した子を夫の子と推定している民法772条についても、真実の父を確定するためのDNA鑑定を持ち込まないとつじつまがあわなくなる恐れがある。

 そもそも国籍法上の「血統主義」は子の出生時に母または父が日本国籍であることを要求することである。そこにいう「父」は生物学上の父ではなく法律上の親子関係の発生した父を指す。つまり血統主義だから鑑定を義務付けるのが当然とはならない。

 むしろ国籍付与の条件としての父子関係と民法上の父子関係とは違うとして、国籍付与の場合にのみ鑑定を要件とするという考え方は、法的父子関係を複雑にし、理論上はありえても法制度として妥当とは言いがたい。


 私はこの稲田の記事を読むまで考えもしなかったことなのですが、要するに、わが国では法律上の親子関係は必ずしも生物学的に親子であることを意味しない(ということは、そうでない実例があるということなのだろう)から、そうした現状に波及しかねないDNA鑑定の要件は妥当ではないというのです。
 もっともな話だと思います。

 DNA鑑定を要件とすることによる偽装の防止と、民法の家族制度のあり方への影響は慎重に検討しなければならない。衆議院の付帯決議には課題として『父子関係の科学的確認を導入することの要否、当否を検討する』との文言が入った。現時点では届け出の際認知した日本人男性との面談を義務付け、母と知り合った経過を確認するなどして運用面での偽装防止策を充実させる方途を模索すべきである。


 私もこの稲田の結論に同意します。
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間違いだらけの国籍法改正反対論(上)(過去記事転載)

2019-06-12 22:30:32 | ブログ見聞録
(この記事は、2009年9月20日に私のYahoo!ブログに掲載したものです。
Yahoo!ブログが本年12月にサービスを終了するため、こちらに転載しておくものです。
 なお、引用部分の表示の仕方がYahoo!ブログは独特であり、そのままgooブログで表示すると本文とのつながりがわかりにくい箇所があるので、本文を若干修正し、ついでに言葉足らずの点に補足を加えました。)


 以前から交流のある無宗ださんのブログで、次のような記事を見つけた。

「速記止めて!音声止めて!」参議院での国籍法改悪の瞬間

 これは転載記事で、オリジナルはこちら。パピヨンさんという方の「木漏れ日の中で 」というブログの記事である。

 この国籍法改正は昨年12月に成立し、本年1月1日から施行されているのだが、民主党叩きのために未だにこの問題をむしかえしたい人々がいるらしい。

 私はこの国籍法改正にそれほど詳しくないのだが、それでも、この記事が間違いだらけであることはわかる。

 記事にはこうある。

民主党、公明党が推進していた、国籍法改正。

例によって民主党と公明党が推進していました。


 違います。
 この改正案は内閣提出法案です。議員立法ではありません。

 では、何故内閣が提出したのか。
 法務省のホームページに、この国籍法改正案の要綱や本文、理由、新旧対照条文が載っています。
http://www.moj.go.jp/HOUAN/houan40.html
 その「理由」の全文を次に掲げます(太字は引用者による。以下同)。

出生後日本国民である父に認知された子の日本の国籍の取得に関する国籍法の規定は一部違憲であるとの最高裁判所判決があったことにかんがみ、父母が婚姻をしていない場合における認知された子にも届出による日本の国籍の取得を可能とする等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


 この最高裁判決とは、2008年6月4日に言い渡された以下の2件

平成19(行ツ)164 国籍確認請求事件  
平成20年06月04日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36416&hanreiKbn=01

平成18(行ツ)135 退去強制令書発付処分取消等請求事件  
平成20年06月04日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36415&hanreiKbn=01

を指します。

 裁判所には、違憲立法審査権があります。最高裁で違憲判決が確定したら、その違憲状態を解消するために所管官庁が法律を改正しようとするのは当然のことです。
 別に民主党と公明党が推進していたのではありません。

 いわゆる外国人参政権の問題で両党が導入に積極的なのは事実です。しかしこの国籍法改正はそれと全く別の話です。

 パピヨンさんの記事はこう続きます。

日本国籍を得るために嘘をついた場合の罰則は、懲役一年以内。20万円以内の罰金。日本国籍のパスポートは世界でも信頼性が高く、日本国籍を得られることのメリットと比べれば、ほとんど罰則の意味をなさず、抑止力にもなりません


 それだけではすみません。
 法務省民事局のホームページにある「改正国籍法Q&A」には次のようにあります。

Q3 なぜ罰則が設けられたのですか。

A3 今回の改正により,日本人男性と子の間に実際には親子関係がないのに,親子関係があると偽って認知届をし(偽装認知),その認知事項が記載された戸籍謄本を添付書類として国籍法第3条の国籍取得の届出書を法務大臣に提出して不正に日本国籍を取得しようとする事案が発生する懸念があります。

そこで,改正法では,虚偽の国籍取得の届出書を提出した者(本人が15歳未満のときは父母などの法定代理人)に対する制裁として,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する刑罰が設けられました(国籍法第20条)。

なお,虚偽の認知届を提出する行為及び虚偽の国籍法第3条の国籍取得届によって不正に取得した国籍証明書を添付して戸籍法第102条の国籍取得届をする行為についても,公正証書原本不実記載罪(刑法第157条第1項)等により,それぞれ5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。


 パピヨンさんはこうも述べています。

DNA検査などは特に必要なく、「自分の子だ」と認めればいいだけですから。


 では、DNA鑑定を要件にすべきなのでしょうか。
 この点については、後述します。

 さらに、パピヨンさんはこう続けます。

さて、ろくに審議もされずに衆議院を通過してしまいましたが、そのあと、その危険性を感じた多くの国民が抗議して、考えなしに法案を通してしまった衆議院でも、慌てて対応を取りました。付帯決議を付けたのです。

1.本当に二人の間の子であることを科学的に証明する必要性があるのではないか

2.罰則を現実的な効力を持ったものにした方が良いのではないか

この2点について参議院で議論して欲しい、ということでした。


 附帯決議というのは、法案の可決に伴って決議するものです。「そのあと」「付けた」のではありません。

 そして、「参議院で議論して欲しい」というものではありません。法律の施行に伴い政府に対して要望する事項などを明記したものです。

 この記事を書いた人が、何もわかっていないことがわかります。

 ちなみに、衆議院での附帯決議の全文は次のとおりです。

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 日本国民から認知された外国人の子が届出により我が国の国籍を取得することができることとなることにかんがみ、国外に居住している者に対しても、本法の趣旨について十分な周知徹底に努めること。

 二 我が国の国籍を取得することを目的とする虚偽の認知が行われるおそれがあることを踏まえ、国籍取得の届出に疑義がある場合に調査を行うに当たっては、その認知が真正なものであることを十分に確認するため、調査の方法を通達で定めること等により出入国記録の調査を行う等万全な措置を講ずるよう努めるとともに、本法の施行後の状況を踏まえ、父子関係の科学的な確認方法を導入することの要否及び当否について検討すること。

 三 ブローカー等が介在し組織的に虚偽の認知の届出を行うことによって日本国籍を取得する事案が発生するおそれがあることを踏まえ、入国管理局、警察等関係当局が緊密に連携し、情報収集体制の構築に努めるとともに、適切な捜査を行い、虚偽の届出を行った者に対する制裁が実効的なものとなるよう努めること。

 四 本改正により重国籍者が増加することにかんがみ、重国籍に関する諸外国の動向を注視するとともに、我が国における在り方について検討を行うこと。


 パピヨンさんが述べる付帯決議の内容とはだいぶ違うようですね。

 なお、この法案は11月18日に衆議院法務委員会を全会一致で可決し(この際に附帯決議も可決されました)、その日のうちに本会議も全会一致で可決しています。
 言うまでもなく、当時の衆議院は自民党が圧倒的に多数です。
 議員全員が出席する本会議はともかく、分野別に設けられている委員会では、出席者が審議すべき法案の内容を理解しているのは当然です。でなければ職務怠慢でしょう。
 衆議院の会議録によると、この日の法務委員会のメンバーは次のとおりです。

   委員長 山本 幸三(自民)
   理事 大前 繁雄 理事 桜井 郁三
   理事 塩崎 恭久 理事 棚橋 泰文
   理事 谷畑  孝 理事 加藤 公一
   理事 細川 律夫 理事 大口 善徳
      赤池 誠章    伊藤 忠彦
      稲田 朋美    近江屋信広
      木村 隆秀    笹川  堯
      清水鴻一郎    杉浦 正健
      平  将明    丹羽 秀樹
      萩山 教嚴    早川 忠孝
      町村 信孝    武藤 容治
      村田 吉隆    森山 眞弓
      矢野 隆司    柳本 卓治
      若宮 健嗣    石関 貴史
      枝野 幸男    河村たかし
      中井  洽    古本伸一郎
      神崎 武法    保坂 展人
      滝   実

 自民党では法相経験者や派閥の領袖、党3役、保守派の「青年将校」と呼ばれた人物などの名が目につきますが、彼らの目が皆節穴だったと、この記事を書いた人は考えているのでしょうか。

(続く)
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