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反戦運動は反米運動でしかないことの一例-平岡敬・元広島市長へのインタビューを読んで

2022-11-20 11:48:29 | ウクライナ侵攻
 前回、山本昭宏氏がインタビューで述べているように、日本で反戦運動が盛り上がるのは「米国の戦争」に対してだけだったという話をした。
 そしてそれは、必ずしも山本氏が言うように「『加担すること』と『巻き込まれること』を感じやすい」からだけではなく、要は反戦運動は反米運動の一手段でしかなかったからだという話をした。
 
 そのことを如実に示す記事が、8月17日の朝日新聞夕刊に掲載されていたので取り上げたい。
 平岡敬・元広島市長(任1991~1999)へのインタビュー。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15390386.html
(核に脅かされる世界に 被爆国から2022)平岡敬さん まず米国が謝らないと
2022年8月17日 16時30分

■元広島市長(94歳)

 在韓被爆者を長年取材し、冷戦終結後の1990年代に広島市長を務めた経験から、私はつねに、米国が原爆投下を謝らない限り、核兵器はなくならないと言い続けてきました。

 ロシアのプーチン大統領が核兵器を実戦使用しかねない発言をしたけれども、核を持っている国はすべてそう思っています。「使うぞ」と言わないだけ。核の保有自体が脅威なのです。

 冷戦が終わった時、これで核兵器の恐怖はなくなったと私たちは思いました。だけど米国は冷戦に「勝った」と考え、ロシアを弱体化させようとする基本政策をずっと続けてきました。それにウクライナが使われたと私は考えています。

 米国の責任を問わずにきたことが跳ね返ってきている気がします。プーチン氏の立場で考えれば、「米国は実際に核兵器を使ったのに謝ってもいない。米国に責められるいわれは全然ない。使って何が悪い」と

 いま日本で「核共有」や「敵基地攻撃」が論じられていますが、どこかの国を敵視すること自体が平和を阻害する要因です。

 民衆がナショナリズムに乗ったとき、結局、被害を被るのもすべて民衆です。支配者はほくそえむだけ。そういう構造を変えていかないといけません。

 今の状況はロシアと米国の戦争だと私は思っています。非はもちろんロシアにありますが、「戦争で犠牲になるのは市民だ」と言い続けなければならない。即時停戦させるべきなのに、武器をどんどんウクライナに渡すというのは、もっと戦争しろと言うことです。

 ロシアが武力行使に踏み切った背景もきちっと理解しない限り、この戦争の意味はわかりません。マスコミの仕事は「みんな冷静になれ、冷静になれ」と言うことに尽きると思います。もっと冷静になれ、と。(聞き手 編集委員・副島英樹)

     *

 ひらおか・たかし 1927年、大阪市生まれ。中国新聞の記者として在韓被爆者問題を掘り起こし、91~99年に広島市長。95年にオランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で核兵器の違法性を証言した。著書に「無援の海峡 ヒロシマの声 被爆朝鮮人の声」「希望のヒロシマ」など。》
〔太字は引用者による〕

 プーチン大統領が核兵器使用を示唆する脅しをしたことも米国のせい。
 きっとロシアが実際に核兵器を使用しても米国のせいだと言うのだろう。

 「米国は冷戦に「勝った」と考え、ロシアを弱体化させようとする基本政策をずっと続けてきました。それにウクライナが使われた」
 ロシアの言い分そのままではないか。
 「弱体化させようとする基本政策」とは具体的に何を指すのか。
 例えばいわゆるNATOの東方拡大か。
 しかし、国家には、どの軍事同盟に参加するか、あるいはしないかを選択する権利があるのではないか。
 そして、クリミアを支配されたウクライナが、反ロシアに傾くのも当たり前のことではないか。
 それとも平岡氏は、超大国の近隣国には主権など無いとお考えなのだろうか。
 ならばわが国もそうなのか。

 「いま日本で「核共有」や「敵基地攻撃」が論じられていますが、どこかの国を敵視すること自体が平和を阻害する要因です」
 「どこかの国」が自国を敵視して軍備を増強しているときに、それへの対応を検討することがなぜ「平和を疎外する要因」なのか。
 平岡氏は非武装中立論者で無抵抗主義なのか。

 「民衆がナショナリズムに乗ったとき、結局、被害を被るのもすべて民衆です。支配者はほくそえむだけ。そういう構造を変えていかないといけません」
 それはプーチン大統領に言うべき言葉ではないのか。
 侵略に対して抵抗しようとするナショナリズムが支配者をほくそえますだけのものなのか。
 平岡氏は大東亜戦争での中国の抗戦や東南アジアの反日運動に対しても同じことが言えるのか。 

 「即時停戦させるべきなのに、武器をどんどんウクライナに渡すというのは、もっと戦争しろと言うことです」
 即時停戦は侵攻しているロシアに言うべきことではないのか。
 外国から武器を供与しなければ、国力ではロシアに及ばないウクライナが抵抗を続けることは困難だ。
 抵抗のための戦争であってもしてはならないと言うのなら、それはそれで1つの考えだが。

 「ロシアが武力行使に踏み切った背景もきちっと理解しない限り、この戦争の意味はわかりません」
 何故かこの手の人たちはロシア(ソ連)や中国(中華人民共和国)、北朝鮮などに対してだけはこのように言う。
 わが国が真珠湾攻撃に踏み切った背景、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻した背景、米国がベトナム戦争に介入したりアフガニスタンやイラクで戦争をしたりした背景をきちっと理解すべきとは言わない。

 米国が原爆を投下した「背景もきちっと理解」すれば、米国が原爆投下を謝罪する必要はないのかもしれない。しかし彼らはそうは考えない。ロシアの言い分には耳を傾けるべきだが、米国に対してはそうではない。
 米国が核兵器を持っているからといって、ロシアもまた核兵器を持つことが必然ではない。「どこかの国を敵視すること自体が平和を阻害する要因」なのだとしたら。しかし彼らはロシアに対してはそうは考えない。
 謝罪すべき、譲歩すべきなのは常に米国、そしてわが国の側だけ。
 「非はもちろんロシアにあります」と口では言うものの、ではロシアを制止するための行動は全くとらない。あるのはただ米国批判のみ。

 反戦運動・反核運動が反米運動・反体制運動の一手段でしかないことを実によく示しているインビューだった。


山本昭宏「殺したらいけない」がなぜ言いづらい」を読んで-当たり前を無視した無理筋の反戦論

2022-09-05 06:57:52 | ウクライナ侵攻
 8月12日にウクライナ降伏論を説く豊永郁子氏の寄稿を載せた朝日新聞は、さらに17日には、ウクライナの徹底抗戦を疑問視する声がもっとあってもいいと説く山本昭宏・神戸市外国語大学准教授(歴史社会学)へのインタビューを載せた。
 その中に、山本氏の意図とはやや異なるだろうが、非常に重要だと思われる指摘があったので、感想と共に書き留めておく。

「殺したらいけない」がなぜ言いづらい 徹底抗戦が支持される危うさ
聞き手・渡辺洋介
2022年8月17日 10時00分

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、反戦や停戦を求める機運は広がらない。ベトナム、湾岸、アフガニスタン、イラク。過去、日本で反戦が大きなうねりとなった戦争と、何がどう違うからなのか。戦後の平和主義について詳しい神戸市外国語大の山本昭宏准教授(歴史社会学)に聞いた。

 ――ウクライナの徹底抗戦が叫ばれ、「戦争をすべきではない」という反戦や厭戦(えんせん)の声があまり聞こえてきません。

 「日本で反戦運動が盛り上がるのは『加担すること』と『巻き込まれること』を感じやすい『米国の戦争』に対してだったと考えています。例えば、反戦デモが広がったベトナム戦争では、日本の米軍基地から米軍機がベトナムに飛びたつことで戦争に加担しているという意識が背景にありました。2000年代のアフガニスタンやイラクの戦争では、『テロとの戦い』を掲げる米国に加担することで、テロの標的になり巻き込まれることへの反発がありました」

共有されない「戦争は二度とごめんだ」

 「しかし、今回のウクライナ侵攻は米国の関与が間接的支援にとどまっています。日本が加担することも巻き込まれることも感じにくく、巨大な反戦運動にはつながりにくいのです」
〔太字は引用者による。以下同〕》

 太字部分は全くそのとおりで、わが国において反戦運動が盛り上がるのは「米国の戦争」に対してだけである。
 だから、ソ連のアフガニスタン侵攻や、英国とアルゼンチンのフォークランド紛争、ベトナムのカンボジア侵攻、中越戦争、ユーゴ紛争、シリア内戦などなど、米国が直接関与しない戦争は、運動家にとってはどうでもよいことであり、反戦運動が盛り上がることはなかった。

 だがそれは、山本氏が言うように、「加担すること」と「巻き込まれること」を感じやすいからだとばかりは言えないと私は考える。
 2000年代のアフガニスタン戦争やイラク戦争に対して、わが国がテロの標的にされることを理由とする反対論が幅をきかせていただろうか。私には記憶にない。単に、米国が軍事力を行使することへの反発が強かっただけではないか。
 
《 「もうひとつは戦争体験者の減少です。1990年代ぐらいまでは国家の命令で海外に連れて行かれて人を殺したり戦友を殺されたりした経験を持つ戦場体験者がまだたくさん生きていました。家が焼かれ、友達が死に、息子が出征したという戦争体験者も残っていた。こうした体験者の『戦争そのものへの拒否感』が日本社会に反戦の根拠を提供し、長年にわたって戦後日本の平和の土台をつくりだしてきました。しかし、戦争体験者の数は少なくなり、『戦争は二度とごめんだ』という感覚は若い世代にまでうまく共有されていません」

 ――徹底抗戦や即時停戦をめぐる議論をどう見ていますか。

 「ロシアが悪いのは明白です。ですからウクライナの徹底抗戦という態度に否定し難いものを感じてもいます。しかし、戦争体験者がたくさん生きていたら、もっとゼレンスキー大統領に対して違和感を言う人がいてもおかしくないのではないかと思います。自らの戦争体験に基づき、『いかなる理由があっても国家によって人殺しをさせられるのは嫌だ』という思想を持った人が何人も思い浮かびます。彼らだったらプーチン大統領だけではなく、国民に徹底抗戦を命じるゼレンスキー大統領も批判の対象にしてもおかしくありません」》

 戦争体験者ではないが、前回取り上げた豊永郁子氏など、ゼレンスキー大統領の姿勢を批判する人はマスコミでもSNSでもしばしば目にする。ただ、ベトナム戦争のような大きな反戦運動になっていないだけである。

 それに、まだ少数残っている戦争体験者から、実際にゼレンスキー大統領を山本氏が言うような観点から批判する声が上がっているだろうか。単に山本氏の願望にすぎないのではないだろうか。

《やせ細る反戦の思想

 ――どういうことでしょうか。

 「つまり、そもそも『殺したらいけない』と言う人がいたわけです。ベトナム反戦運動のときだったら『殺すな』ということが掲げられました。今回のウクライナ侵攻でも、戦場に行きたくないのに殺し合いに巻き込まれているロシア兵がいるということへの想像力が強く働いたでしょう。体験者が多い社会ならば、停戦したほうがいいんじゃないかと言えたかもしれません。しかし、いまは言いづらい。抗戦か停戦かという二項対立だけではなく、戦争そのものの非道さを問うなど複数の論理を内在していた反戦の思想が、やせ細っているように思います」

 ――もっと戦争反対の声が出てきても良いということですか。

 「戦後日本社会が築き上げてきた平和論からすれば、徹底抗戦を支持する前に、『平和の架け橋になる』という言葉がもっと出てきてもいいと思います。つまり、徹底抗戦を支持せざるをえないという現状から踏み込んで、まずはロシアとウクライナに戦争を早くやめるよう求める手もある。いまは戦争状態にあるため、ウクライナの国内からゼレンスキー大統領に対する徹底抗戦への違和感は出にくいのではないでしょうか」

 「戦争に関しては、白か黒かを完全に切り分けるのは困難です。ロシアとウクライナの双方をより多角的にみるというのが『批判』という行為だと思います。わかりやすくゼロか100かになってしまっていることを懸念しています」》

 だが、その「殺すな」は米国にだけ向けられていた。解放戦線や北ベトナム軍に対して、米兵も同じ人間だから殺してはならないなんて説く反戦運動家なんかいなかった。
 そして、彼らの主張は「米国はベトナムから手を引け」というものであり、北ベトナムと南ベトナムの停戦など求めていなかった。だから実際に米国がベトナムから撤退した後、北ベトナムが南ベトナムに侵攻し、これを併呑しても、彼らは何も言わなかった。結果共産主義政権が40年以上続き、ベトナム人の人権が侵害されていても意に介さない。
 それは反戦運動が反米運動の一手段でしかなかったからだ。
 山本氏が主張する「戦後日本社会が築き上げてきた平和論」「平和の架け橋」など反戦運動のどこに存在したというのだろうか。

《〔中略〕
 目立つ「国家の言葉」

 ――「安全保障の言葉」だけではなく、個人的な感覚に基づいた言葉で平和を語る必要も指摘されています。

 「安全保障の言葉は、国民の財産と生命を守らねばならないという使命を背負った『国家の言葉』でもあります。それを否定することはできません。しかし、ウクライナ危機を語るときには、国家対国家の安全保障の言葉ばかりが目立ちます。繰り返しますが、ロシアは擁護不可能です。ただ、それと同時に、国家は国民を戦争に動員するという側面があることも認識するべきでしょう。戦後日本が培ってきた厭戦の心情からすれば、停戦や反戦を求めたり、ウクライナの徹底抗戦を疑問視したりするような多様な声がもっとあってもいいのではないでしょうか」(聞き手・渡辺洋介)》

 「戦後日本が培ってきた厭戦の心情」とは、戦争は嫌なものだという素朴な思い、そして自らが侵略者になってはならないという自戒の念ではあっても、侵略された時には無抵抗で降伏せよとか、侵略された国を支援せずに降伏を勧めるといったものではないだろう。だからこそ、国民は自衛隊の存続を容認してきたのではないのだろうか。
 そして、かつてのわが国は侵略した側であったが、今のウクライナは侵略されている側である。山本氏は白か黒かで割り切れないというが、少なくともロシアがウクライナ領に侵攻しているのであって、その逆ではない。
 侵略に抵抗している国に向かって反戦や停戦を求める機運が盛り上がらないのは、ごく当たり前のことだろう。
 山本氏はその当たり前を無視して、いろいろと無理筋な理屈づけを試みているだけとしか思えない。


豊永郁子「抗戦ウクライナへの称賛、そして続く人間の破壊」を読んで

2022-08-22 06:26:46 | ウクライナ侵攻
 8月12日付け朝日新聞朝刊に、豊永郁子・早稲田大学教授のウクライナ戦争についての寄稿「抗戦ウクライナへの称賛、そして続く人間の破壊」が掲載された。
 9条平和主義による降伏論の典型だと思われるので、感想と共に書き留めておく。

《〔前略〕
 ウクライナ戦争に関しては、2月24日のロシアの侵攻当初より釈然としないことが多々あった。むしろロシアのプーチン大統領の行動は独裁者の行動として見ればわかりやすく、わからなかったのがウクライナ側の行動だ。まず侵攻初日にウクライナのゼレンスキー大統領が、一般市民への武器提供を表明し、総動員令によって18歳から60歳までのウクライナ人男性の出国を原則禁止したことに驚いた。武力の一元管理を政府が早くも放棄していると見えたし(もっともウクライナにはこれまでも多くの私兵組織が存在していた)、後者に至っては市民の最も基本的な自由を奪うことを意味する。

 さらに英米の勧める亡命をゼレンスキー氏が拒否し、「キーウに残る、最後まで戦う」と宣言した際には耳を疑った。彼自身と家族を標的とするロシアの暗殺計画も存在する中、ゼレンスキー氏の勇気には確かに胸を打つものがあり、世界中が喝采した。これによってウクライナの戦意は高揚し、NATO諸国のウクライナ支援の姿勢も明確化する。だが一体その先にあるのは何なのだろう。

 市民に銃を配り、すべての成人男性を戦力とし、さらに自ら英雄的な勇敢さを示して徹底抗戦を遂行するというのだから、ロシアの勝利は遠のく。だがどれだけのウクライナ人が死に、心身に傷を負い、家族がバラバラとなり、どれだけの家や村や都市が破壊されるのだろう。どれだけの老人が穏やかな老後を、子供が健やかな子供時代を奪われ、障害者や病人は命綱を失うのだろう。大統領はテレビのスターであったカリスマそのままに世界の大スターとなり、歴史に残る英雄となった。だが政治家としてはどうか。まさにマックス・ウェーバーのいう、信念だけで行動して結果を顧みない「心情倫理」の人であって、あらゆる結果を慮(おもんぱか)る「責任倫理」の政治家ではないのではないか。》

 何が「釈然としない」「わからなかった」のか私にはわからなかった。
 侵略に抵抗するため一般市民に武器を供与し、総動員をかけることがそれほど不可解だろうか。
 国際連合広報センターのサイトの通常兵器に関するページには次のようにある。

すべての国は個別的もしくは集団的自衛に対して固有の権利を有し、国連憲章に従って武力を使用することができる。自国の軍隊もしくは治安部隊を武装することとは別に、ほとんどの国は、一般にある種の条件のもとに、民間の警備会社や市民による銃器もしくは武器の所有を許し、合法的な目的のためにはその使用を許可する。


《 日本には今、ウクライナの徹底抗戦を讃(たた)え、日本の防衛力の増強を支持する風潮が存在するが、私はむしろウクライナ戦争を通じて、多くの日本人が憲法9条の下に奉じてきた平和主義の意義がわかった気がした。ああそうか、それはウクライナで今起こっていることが日本に起こることを拒否していたのだ。

 冷戦時代、平和主義者たちは、ソ連が攻めてきたら白旗を掲げるのか、と問われたが、まさにこれこそ彼らの平和主義の核心にあった立場なのだろう。本来、この立場は、彼らが旗印とした軍備の否定と同じではない。だが彼らは政府と軍の「敗北」を認める能力をそもそも信用していなかったに違いない。その懸念は、政府と軍が無益な犠牲を国民に強い、一億玉砕さえ説いた第2次世界大戦の体験があまりにすさまじかったから理解できる。同じ懸念を今、ウクライナを見て覚えるのだ。》

 まあ、当時の「平和主義者」は、そういう者もいただろう。もっとも、正面からそう言い切った者はそれほど多くなかったように思うが。
 むしろ、ソ連の侵攻など有り得ないと、イデオロギーから、あるいは単なる願望から、そう思い込み、思考停止していた者が多かったのではないか。
 
 そして、開戦初期ならいざしらず、ウクライナが頑強に抵抗を続けている今の段階で、「無益な犠牲を国民に強い、一億玉砕さえ説」くことへの懸念をウクライナに覚えるということが私には理解できない。

《 人々が現に居住する地域で行われる地上戦は、凄惨(せいさん)を極め得る。4人に1人の住民の命が失われた沖縄の地上戦を思うとよい。第2次大戦中、独ソ戦の戦場となったウクライナは住民の5人に1人を、隣のベラルーシは4人に1人を失ったという。今、ウクライナはロシアの周辺国への侵攻を止める防波堤となって戦っているとか、民主主義を奉じるすべての国のために独裁国家と戦っているとか言われるが――ともにウクライナも述べている理屈だ――再びウクライナで地上戦が行われることを私たちがそうした理屈で容認するのは、何かとても非人道的なことに思える。米国などは、徹底抗戦も停戦もウクライナ自身が決めることとうそぶくが、ウクライナに住む人々の人権はどこに行ってしまったのだろう。》

 地上戦は凄惨だが、ロシアの占領下で行われた拷問や虐殺もまた凄惨だろう。朝日新聞は何度もその実態を報じているが、豊永氏はご覧になっていないのか。それとも、戦争による破壊よりは、占領下での蛮行の方がまだ容認できるとお考えなのだろうか。
 まさに「徹底抗戦も停戦もウクライナ自身が決めること」だろう。徹底抗戦を唱えるゼレンスキー大統領の下、ウクライナ国民がいやいや戦争させられているというならともかく、そんな証拠もないのに、人権を憂えて抵抗や支援を否定することの方が、私にはよほど「とても非人道的なこと」に思える。

《 20世紀を通じ、とくに2度の世界大戦を経て、私たちの間には国境を越えて人権の擁護が果たされなければならないという規範が形成され、冷戦が終わった1990年代以降はこれがいよいよ揺るぎないものになったと見えた。だがそうでもなかった。欧米諸国の政府は、間断なくウクライナに武器を供給し、ロシアへの制裁における一致団結ぶりを誇示することで和平の調停を困難にし、戦争の長期化、すなわち更なる人的犠牲の拡大とウクライナ国土の破壊を促している格好にある。そしてこれが主権、つまりは自己決定権をもつウクライナが望み、ウクライナ人が求めることなのだからそれでよいのだとする。また、国際秩序を乱したロシアに代償を払わせるという主張も繰り返される。しかし国際秩序の正義のためにウクライナ1国が血を流し、自らの国土で戦闘を続けよというのは、正義でも何でもないように思う。

 色々なことが少しずつおかしい。》

 ではウクライナ1国ではなく、欧米やわが国も血を流すべきだと豊永氏は説くのか。そうではあるまい。そんなことをしたら第3次世界大戦になってしまう。核戦争に至る危険がある。
 豊永氏によると、ウクライナが戦争の継続と支援を望んだとしても、欧米諸国はそれに応じず、和平の調停を図ることが、ウクライナ国民の生命と国土の破壊を防ぐという「正義」にかなうということになる。
 そうなのだろうか。同じことを日中戦争の中国、第二次世界大戦のポーランドに対しても言えるのだろうか。
 「おかしい」のは豊永氏の方ではないか。

《〔中略〕
 さて和平派の立場は、戦争がもたらしたエネルギーや食料の不足などの経済問題、核兵器の使用も含む戦争のエスカレーションへの懸念から説明されることが多い。だが、これらにあわせて戦争による犠牲の拡大について道義的な疑念が広く存在することを忘れてはならない。また、ロシアを、プーチン氏を敗退させることが現実的にどこまで可能かも疑問だ。

 そもそも戦闘はロシアの外で行われている。かつて中国大陸に侵攻した日本が、欧米諸国による経済制裁や膠着(こうちゃく)する戦線に苦しみながらも、決して軍事的に譲歩しなかったことが思い浮かびはしないか。結局、日本が大陸を諦めるのには日本本土の焦土化を要した。さらに戦争の長期化は、ロシア国内におけるプーチン氏の権力を弱体化するのではなく、強化する可能性があることも留意すべきだ。戦時体制を通じて全体主義体制が成立する可能性すらある。》

 日本のようにロシア本土を焦土化することはできないから、ロシアを敗退させることは現実的には不可能ではないかと言う。しかし、例えばソ連のアフガニスタン侵攻は、ソ連国内が戦場になったわけではないが、ソ連軍は約10年で撤退するに至った。
 また、戦争の長期化はプーチン大統領の権力を強化する可能性もあると言う。そうかもしれないが だからといって、ウクライナの降伏による戦争の終結が、プーチン大統領の弱体化をもたらすわけではあるまい。それもまた権力強化につながるのではないか。

《 最近よく考えるのは、プラハとパリの運命だ。中世以来つづく2都市は科学、芸術、学問に秀でた美しい都であり、誰もが恋に落ちる。ともに第2次世界大戦の際、ナチスドイツの支配を受けた。プラハはプラハ空爆の脅しにより、大統領がドイツへの併合に合意することによって。パリは間近に迫るドイツ軍を前に無防備都市宣言を行い、無血開城することによって(大戦末期にドイツの司令官がヒトラーのパリ破壊命令に従わなかったエピソードも有名だ)。

 両都市は屈辱とひきかえに大規模な破壊を免れた。プラハはその後、ソ連の支配にも耐え抜くこととなる。これらの都市に滞在すると、過去の様々な時代の息づかいを感じ、破壊を免れた意義を実感する。同時に大勢の命と暮らしが守られた事実にも思いが至る。

 2都市に訪れた暗い時代にもやがて終わりは来た。だがその終わりもそれぞれの国が自力でもたらし得たものではない。とりわけチェコのような小国は大国に翻弄(ほんろう)され続け、冷戦の終結によりようやく自由を得る。プラハで滞在した下宿の女主人は、お茶の時間に、共産主義時代、このテーブルで友達とタイプライターを打って地下出版をしていたのよ、といたずらっぽく語った。モスクワ批判と教会史の本だったそうだ。私は彼女がいつ果てるともわからない夜に小さな希望の明かりを灯(とも)し続けていたことに深い感動を覚えた。》

 降伏により都市は大規模な破壊を免れるのだから戦争を続けるよりその方がいい。地下活動で抵抗する道もあるよ、ということか。
 ロシアのウクライナ占領地域で何が行われたかが明らかになっているというのに、どうしてこんな呑気ことが言えるのか、不思議でならない。
 「徹底抗戦も停戦もウクライナ自身が決めること」である。
 
 朝日新聞デジタルの本記事には、「コメントプラス」として、三牧聖子・同志社大学大学院准教授とジャーナリストの江川紹子氏の秀逸なコメントが掲載されている。強く共感した。

ウクライナ侵攻についての諸発言 目次

2022-03-27 21:14:37 | ウクライナ侵攻
 2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻。
 ネットを見ていると、疑問を呈さざるを得ない反応が多々目につく。
 誰がどのような発言をしていたのか、将来のため記録しておく。

◇政治家・政党
原口一博
泉健太
松原仁
鈴木宗男
鳩山由紀夫

◇言論人
橋下徹
鳥越俊太郎
門田隆将
加藤清隆

◇団体
日本ペンクラブ・日本文藝家協会・日本推理作家協会
日本SF作家クラブ

◇外国政府・要人
薛剣(在大阪中国総領事)
駐日ロシア大使館




駐日ロシア大使館のウクライナ侵攻についての発言

2022-03-27 21:13:50 | ウクライナ侵攻
《28日参院予算委員会での宇山秀樹外務省欧州局長の発言について:

❗️🇯🇵日本の外務省は、歴史を忘れています。クリル諸島は、南クリルも含め、第二次世界大戦の結果として、連合国の決定に従い法的根拠に基づいて、我が国に譲渡されました。
午後10:45 · 2022年2月28日·Twitter for iPhone

《これは、日本が行った侵略とナチスドイツとの同盟に対する処罰の一部でもありました。

❗️にもかかわらず事実として、日本は100年も経たぬ間に二度もナチス政権を支持する挙に出ました。かつてはヒトラー政権を、そして今回はウクライナ政権を支持したのです。
午後10:46 · 2022年2月28日·Twitter for iPhone

《与党自民党の政治家は、ロシアがウクライナで戦争犯罪を犯したと虚偽の馬鹿げた発言を行っている。

❗️ユーゴスラビア、イラク、リビアへの不法軍事侵攻を行った、見解を🇯🇵日本と同じくする同盟国の🇺🇸米国とNATO加盟国こそが戦争犯罪で汚されていることを、思い出していただきたい。
午後8:08 · 2022年3月24日·Twitter for iPhone


▪️また🇺🇦ウクライナのナチスト政権は、8年間にわたり自国民に対するジェノサイドを行っている。

❗️女性や子供を含む何千という人々の命を奪ったこの蛮行を、🇯🇵日本が批判したという話は記憶にない。
午後8:09 · 2022年3月24日·Twitter for iPhone

《しかも日本は、米国の爆撃後の🇮🇶イラク復興に参加さえしている。
❗️日本は同盟国として、米国政府が戦争犯罪を犯すのを止めた方がよかったのではないか。そうすれば復興作業に携わる必要もなかったことだろう。
午後8:10 · 2022年3月24日·Twitter for iPhone

鳩山由紀夫氏のウクライナ侵攻についての発言

2022-03-27 21:10:39 | ウクライナ侵攻
《東西ドイツが統合される時、ゴルバチョフに対して西ドイツも米国もNATOの東方への拡大をさせない保証が大事と述べた。ところが統一後欧米は約束を破りNATOをどんどん東方へ拡大してきた。ウクライナのNATO加盟はロシアの脅威なのだ。この問題を棚上げすればウクライナ🆚ロシアの緊張は解けるのである。
午後6:46 · 2022年2月10日·Twitter for iPhone

《忘れられてる事実がある。東西ドイツ統一の時、嫌がるソ連を納得させるため、米独はNATOをドイツから東に1インチも拡大させないと約束した。ところが約束は破られNATOは東方拡大し遂にウクライナまで近づいた。G7側はドイツ統一の時に約束したようにこれ以上緊張を高めることはしないと言うべきだ。
午前11:43 · 2022年2月22日·Twitter for iPhone

《私はあらゆる戦争を非難する。ロシアは一刻も早く停戦すべきだ。同時にウクライナのゼレンスキー大統領は自国のドネツク、ルガンスクに住む親露派住民を「テロリストだから絶対に会わない」として虐殺までしてきたことを悔い改めるべきだ。なぜならそれがプーチンのウクライナ侵攻の一つの原因だから。
午前10:22 · 2022年3月1日·Twitter for iPhone

《元欧亜局長の東郷和彦さんの言葉:ロシアにとってウクライナにNATOが配備されることは、アメリカにとってキューバに核ミサイル基地が置かれるようなもので絶対に認められないことである。NATOとロシアの平和のパートナーシップは2008年のブカレスト首脳会議でNATOがウクライナ加盟に同意して崩壊した。
午後2:06 · 2022年3月1日·Twitter for iPhone

《ロシアのウクライナに対する核の威嚇は非難されなければならない。岸田首相は首脳電話会談で、被爆地広島出身の総理として「核による威嚇も使用もあってはならない」と強調した。その通りだ。岸田首相、それはアメリカに対しても、ですね。核に関して露はダメ、米国はいいという二重基準はいけません。
午後5:58 · 2022年3月1日·Twitter for iPhone

《ロシア軍がウクライナの原発を砲撃し制圧したという。とても許される行為ではない。プーチンは一刻も早く戦争行為を止めるべきだ。これで明らかになったことは、原発は戦争になれば狙われやすい施設だと言うことだ。友愛精神で戦争をなくすと共に原発は日本のみならず世界から無くさなければならない。
午前9:47 · 2022年3月5日·Twitter for iPhone

《安倍元総理は二十数回プーチンと会談して信頼関係を築いたと述べてましたね。こういう時こそ友愛精神を発揮すべきです。ウクライナに軍事的な装備品を提供するよりも、プーチンにウクライナから手を引けと訴え、返す刀でゼレンスキーにNATO加盟を諦めさせる平和外交を行うべきです。
午後2:52 · 2022年3月18日·Twitter for iPhone


《ウクライナのゼレンスキー大統領が国会で演説すると言う。私は訊きたい。なぜ彼はロシアの侵攻を止める外交努力をしなかったのか。熱狂の先に平和はない。今、日本人に必要なのは、誰を支持する、しないと叫ぶことではなく冷静になることである。そして、如何にして平和を創るかに協力することである。
午後5:19 · 2022年3月23日·Twitter for iPhone

日本SF作家クラブのウクライナに関しての声明文への違和感

2022-03-20 23:17:03 | ウクライナ侵攻
ウクライナに関しての声明文
2022年3月3日


日本SF作家クラブ理事会および賛同会員有志は、以下の声明を行います。

わたしたちは全ての戦争・侵略行為に反対します。

ウクライナで現在行われている武力行使がすみやかに終了し、一日も早く、ウクライナの人々が安心できる日が来ることを望みます。

加えて、核兵器を用いた安易な恫喝に対し、また、これを機会として核配備を進め、核兵器による恫喝の応酬を行おうとする行為に対し、人類の存続を危険に晒すものとして、強く非難し、反対します。

核兵器が使われることは二度とあってはなりません。

SF作家もこれまで、創作の力によって繰り返しそれを訴えてきました。

核兵器の恫喝合戦による破局、核実験が引き起こす連鎖的被害や、人類絶滅をふくめた核戦争後の凄惨な被害を描く多数の作品を通して、SFは核兵器の恐ろしさを幅広く伝え、核兵器抑止の一翼を担ってきました。

核兵器を用いた恫喝は、そのようにしてこれまで人類が少しずつ積上げてきた努力を無にし、破滅的な核戦争を近づけるものだと考えます。このような極めて無責任な恫喝が実行に移されないことを、わたしたちは心から願っています。

2022年3月2日

日本SF作家クラブ第3期理事会
(池澤春菜、榎木洋子、大澤博隆、太田忠司、霜島ケイ、
須賀しのぶ、長谷敏司、藤井太洋、門田充宏)および会員有志》

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「全ての戦争」に反対し、「ウクライナで現在行われている武力行使がすみやかに終了」「することを望む」とは、ウクライナによる反撃にも反対するということなのだろうか。

 また、声明文の半分以上が、核兵器使用の恫喝への批判であるのは何故なのだろうか。
 今、喫緊の課題はそこにあるのだろうか。

 そして、侵略したのはロシアであり、核兵器による恫喝を行ったのもロシアであるのに、声明文中に「ロシア」の文字が全くないのは何故なのだろうか。
 いったいこの作家たちは誰に何を忖度しているのだろうか。 
 

日本ペンクラブ・日本文藝家協会・日本推理作家協会のウクライナ侵攻に関する共同声明

2022-03-20 22:40:00 | ウクライナ侵攻
《「ロシアによるウクライナ侵攻に関する共同声明

 私たちは、ロシアによるウクライナ侵攻に強く反対します。
 これは、完全に侵略であり、核兵器使用に言及した卑怯な恫喝であり、言論の自由を奪い、世界の平和を脅かす許し難い暴挙です。
 私たちは表現に携わる者として、人々の苦悩や悲嘆、そして喜びを表してきました。しかし、新たな戦争の愚かさについてなど、書きたくはありません。
 ウクライナの人々の命、人々が築いた文化、産業、街や学校、施設などがこれ以上破壊されないように、そしてロシアの人々の自由と命も無用に奪われることのないように、一日も早い戦争の終結を願います。

2022年3月10日

日本ペンクラブ・日本文藝家協会・日本推理作家協会
各団体理事会および有志による声明文
日本ペンクラブ 会長     桐野 夏生
日本文藝家協会 理事長    林 真理子
日本推理作家協会 代表理事  京極 夏彦》

「ウクライナ侵攻に強く反対します」
「許し難い暴挙です」
としながらも、
「一日も早い戦争の終結を願います」
と述べるのみで、侵略国ロシアに対して何ら具体的な要求をしていないことに私は注目する。

さらに言えば、
「「ロシアの人々の自由と命も無用に奪われることのないように」
と、ウクライナによる反撃を牽制していることにも。

薛剣氏(在大阪中国総領事)のウクライナ侵攻についての発言

2022-03-20 17:04:18 | ウクライナ侵攻
《ウクライナ問題から銘記すべき一大教訓:
「弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚かをしては行けないこと!
仮に何処かほかの強い人が後ろに立って応援すると約束してくれてもだ。」

これと関連で更に言えば、「人に唆されて、火中の栗を拾っては行けないこと」だ
午後10:24 · 2022年2月24日·Twitter for Android