昨日の記事に関連して、この騒動についての全国紙の社説を比較してみた(引用文中の太字は引用者による)。
28日付け朝日。
29日付け毎日。
28日付け日経。
28日付け読売。
28日付け産経。
朝日と毎日は辺野古移設中止を、日経、読売、産経は移設推進を説いているようだ。
個人的には、日経に最も説得力を覚えた。
複数の新聞で同じような表現が見られるのは、共通のタネ本のようなものがあるからだろう。とりわけ今回の朝日と毎日の文章はかなり似通っている。
昨日の記事でも触れた「市民団体」の所業について、批判しているのが読売と産経の2紙のみとはなげかわしい。
注目すべきは、朝日を除く4紙は、辺野古移設が中止された場合、普天間が現状のまま固定化されることに言及している点だ。
「もっとも懸念されるのは、移設計画が頓挫し、「世界一危険な基地」普天間が固定化されることである。
米議会は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費を12会計年度の国防予算から全額削除したが、13年度も同様の措置が取られれば、普天間の固定化がますます現実味を帯びてくる」(毎日)
「沖縄側にも考えてほしいことがある。いまの移設案が葬られた場合、いちばん影響を受けるのは沖縄だということだ。
辺野古への移設を断念すれば、普天間基地は少なくとも当面、いまの場所に残らざるを得ない。仮に日米で移設先を再交渉できたとしても、すぐに妙案が見つかる保証はない。
普天間基地の周辺には家や学校が密集している。基地の現状が固定されれば、地元の人々は何の見通しもないまま、事故の危険と隣り合わせの生活を強いられる。
移設の実現に残された猶予は長くない。米議会は普天間移設とセットになっている沖縄からグアムへの米海兵隊移転の予算凍結を決めた。移設が進まなければ予算が完全に削除されかねない」(日経)
「辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の現状が長年、固定化される。海兵隊8000人のグアム移転と、普天間など米軍6施設の返還も白紙に戻ってしまう。
政府と沖縄県はまず、この点で認識を一致させる必要がある。普天間問題の実質的な進展がない限り、米連邦議会がグアム関連予算の凍結を解除しないからだ」(読売)
「普天間が現状のままで固定化される危険にも思いをめぐらす必要がある」(産経)
たしかにそのとおりで、例の更迭された田中聡前沖縄防衛局長も、オフレコ懇談会の場で、
との趣旨の発言をしたとされている。
辺野古移設への賛否はともかく、移設中止によって普天間が現状維持となる可能性については、十分考慮されなければならないだろう。
ところが、全国紙5紙のうち朝日のみが、今回の社説でこの点について触れていない。
「日米両政府は、いまこそ立ち止まるべき」であり、「新しい解決策を見つけるのは難しい」が「立ち向かうしか道はない」と、とにもかくにも辺野古移設中止を求めるのみだ。
普天間の現状維持についての言及は、移設を中止せよとの主張の説得力を削ぐと考えているのだろうか。
では朝日は普天間の件も含めて、どのような解決策が望ましいと考えているのだろうか。
もちろん、新聞がいちいち解決策の具体像まで示す必要はない。それは政治家や官僚の仕事である。
そしてそれをあれこれ論評するのが新聞の仕事である。
にしても、何ともお気楽なものだと思う。
こういう論調が、十分な代案も持たずに「最低でも県外」と言い放ち、結局自滅した鳩山由起夫のような政治家を生むのではないだろうか。
28日付け朝日。
辺野古アセス―またまた見切り発車だ
沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題で、民主党政権がまた「見切り発車」を重ねた。
名護市辺野古沖を埋め立てて代替滑走路をつくるための環境影響評価(アセスメント)の評価書を県に送ろうとしたのだ。
沖縄県議会が全会一致で反対決議をするなど、地元の拒否姿勢は明確だ。11月には、沖縄防衛局長が提出時期をめぐって「犯す前に犯すよと言いますか」という趣旨の暴言をはき、反発の火に油を注いでいた。
反対派の市民らに、配送業者による県庁への搬入が阻止されるという異常事態は、この問題の難しさを象徴している。
それでも野田政権が行政手続きを進めるのは、「年内提出」を米国に事実上約束していたからだ。しかし、その米国では上下両院が、辺野古移設とセットの沖縄海兵隊のグアム移転費用を12会計年度予算から削除した。膨大な財政赤字を抱え、軍事費といえども聖域ではなくなっているのだ。
沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事は、評価書の提出自体は容認した。しかし、県外・国外移設を求める立場は崩しておらず、埋め立てを認めない意向も明言した。
来年度の沖縄振興予算が大幅に増額されたことは評価しても、辺野古反対を掲げて再選した経緯からいって、県民世論の大勢に反して受け入れることはあるまい。
沖縄は来年、5月に本土復帰40年を迎え、6月には県議選がある「政治の季節」になる。野田政権はアセス完了後、来夏にも、知事への埋め立て免許申請を視野に入れるが、そんなことをすれば、沖縄の不信と反発をいっそう大きくするだけだ。
日米両政府は、いまこそ立ち止まるべきだ。
辺野古案は沖縄の負担軽減と在日米軍の抑止力維持という、矛盾する二つの目的を両立させようと、両政府が長い交渉を経てまとめたものだ。その努力を踏まえれば、白紙から見直しても簡単に新しい解決策を見つけるのは難しいだろう。
だが、それ以上に現状には展望がない。
来年は米国、中国、ロシア、韓国、台湾で、最高指導者を選ぶ選挙や指導層の交代が予定されている。北朝鮮の代替わりもあり、東アジア情勢は不透明感を増している。
日米関係が揺らげば、地域の安定を損ない、双方の外交基盤を弱めるだけだ。
打開策を探る作業は困難で、細心の注意を要するが、立ち向かうしか道はない。日米の政治指導者は、そう覚悟すべきだ。
29日付け毎日。
未明の評価書搬入 愚かなアリバイ作りだ
本来、政府職員が持参して提出すべきものを配送業者に委ね、これが失敗すると、通常の業務時間外の未明(午前4時過ぎ)に県庁守衛室に運び込む……。
米軍普天間飛行場の移設計画に基づく環境影響評価(アセスメント)評価書の沖縄県への提出をめぐるドタバタは、沖縄が反対する同県名護市辺野古への「県内移設」を推進する難しさを象徴している。
反対派住民の抗議行動による混乱を避けたい、というのが政府の言い分である。仲井真弘多知事は評価書提出は行政手続きであるとして認める意向を表明していた。しかし、そのやり方はとても正常とは言い難く、拙劣に過ぎる。普天間問題の解決を目指す政府の誠実さ、真剣さを問う声が上がるのは当然だろう。
搬入されたのは、県条例が定める評価書の必要提出部数(20部)に足りない16部だった。政府は追加提出の方針である。県は対応を検討したが、結局、受理を決めた。
政府がここまで「年内提出」にこだわったのは、それが対米公約になっているからだろう。
評価書の提出を女性への性的暴行にたとえた前沖縄防衛局長の不適切発言、普天間問題のきっかけとなった少女暴行事件を「詳細には知らない」と述べた防衛相の国会答弁。沖縄ではこれらの発言に対する怒りが渦巻いている。沖縄との信頼回復をなおざりにしたままの評価書提出は、野田政権の米政府向けアリバイ作りとしか言いようがない。
7000ページに及ぶ評価書には、沖縄県が危険性や騒音問題を懸念する垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」について問題なしとする記述もある。これで沖縄側を説得できるとは到底、思えない。
評価書に対しては、仲井真知事が滑走路部分については45日以内、埋め立て部分は90日以内に意見を提出する。これで、政府が埋め立てを知事に申請する条件が整う。しかし、知事は埋め立てを承認しない考えを表明している。展望が見えないまま辺野古への移設の手続きを進めることに、強い疑問を覚える。
政府と沖縄との溝は深くなるばかりだ。もっとも懸念されるのは、移設計画が頓挫し、「世界一危険な基地」普天間が固定化されることである。
米議会は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費を12会計年度の国防予算から全額削除したが、13年度も同様の措置が取られれば、普天間の固定化がますます現実味を帯びてくる。
辺野古への移設か、普天間の固定化か--この二者択一で沖縄に圧力をかける手法では展望は開けない。野田佳彦首相は、この現実を踏まえて普天間問題に取り組むべきだ。
28日付け日経。
猶予許されぬ普天間の移設
米軍普天間基地の移設問題の出口が見えない。このままでは現行の移設案が白紙となり、行き場のないまま基地がいまの場所にとどまるという、最悪の事態になりかねない。
防衛省は普天間基地を沖縄県名護市辺野古に移すために必要な環境影響評価書を、同県に発送した。政府は来年前半にも、移設先の海面の埋め立て許可を仲井真弘多知事に申請したい考えという。
しかし、移設に反対する沖縄の姿勢に、いっこうに軟化の兆しは見られない。こうした事態を招いた責任は政府、とりわけ鳩山由紀夫元首相にある。鳩山氏は政権交代前、何の目算もないまま「県外移設」を約束し、地元の期待をあおった。
その後を継いだ菅直人前首相も自ら行動しようとせず、最近では前沖縄防衛局長の不適切な発言もあった。これでは沖縄の人々が反発するのは当然だ。
そのうえで沖縄側にも考えてほしいことがある。いまの移設案が葬られた場合、いちばん影響を受けるのは沖縄だということだ。
辺野古への移設を断念すれば、普天間基地は少なくとも当面、いまの場所に残らざるを得ない。仮に日米で移設先を再交渉できたとしても、すぐに妙案が見つかる保証はない。
普天間基地の周辺には家や学校が密集している。基地の現状が固定されれば、地元の人々は何の見通しもないまま、事故の危険と隣り合わせの生活を強いられる。
移設の実現に残された猶予は長くない。米議会は普天間移設とセットになっている沖縄からグアムへの米海兵隊移転の予算凍結を決めた。移設が進まなければ予算が完全に削除されかねない。
こうしたなか、政府は2012年度の沖縄振興予算を今年度より25%以上増やした。普天間問題とは連動していないというが、これだけ予算を配分する以上、同問題でも進展が期待される。そのためにも政府はもちろん与党も沖縄の理解を得る努力を尽くすべきだ。
28日付け読売。
「普天間」評価書 基地や振興で包括的な合意を
本来、淡々と実施されるべき行政手続きが、政治問題化して、混乱を招いたのは残念だ。
政府は、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に関する環境影響評価書を沖縄県に発送した。配送業者の車は県庁に着いたが、移設反対派の市民団体に阻まれ、評価書は搬入できなかった。
仲井真弘多知事は、関連法令に従って評価書を受理する方針を表明している。正当な行政手続きが反対派の妨害行為で滞ったのは、法治国家として問題だ。
評価書は、代替施設における新型垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを含む全機種の騒音が、国の環境基準を下回るとしている。代替施設の埋め立て工事の環境への影響も限定的とされる。
代替施設工事に伴う環境問題は、科学的根拠に基づき、冷静に議論されるべきだろう。
評価書の提出は、移設手続きの一つの節目にすぎない。
肝心なのは、公有水面埋め立ての許可権限を持つ仲井真知事が、辺野古移設を容認することだ。知事は27日、「承認には、まずならない」と述べ、埋め立てを許可しない可能性に言及した。
政府は沖縄の負担軽減と日本の安全保障を両立させるため、知事の説得に全力を尽くすべきだ。
辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の現状が長年、固定化される。海兵隊8000人のグアム移転と、普天間など米軍6施設の返還も白紙に戻ってしまう。
政府と沖縄県はまず、この点で認識を一致させる必要がある。普天間問題の実質的な進展がない限り、米連邦議会がグアム関連予算の凍結を解除しないからだ。
辺野古移設と海兵隊移転を同時並行で進めるか、どちらも断念するか、の二者択一しかない。どちらの選択が良いのか、政府と沖縄県は冷静に話し合ってほしい。
政府は、来年度の沖縄振興予算を大幅に増加させた。普天間問題の前進を期待し、沖縄県に異例の配慮をしたものだが、これは来年度に限った措置にすぎない。
米軍施設返還後の跡地を利用した地域振興など中長期的な沖縄の将来像について協議を深め、沖縄県との接点を探る必要がある。
普天間以外の米軍再編や米軍訓練の県外・国外移転による地元負担の軽減や、日米地位協定の運用見直しなども話し合い、包括的な合意を追求してはどうか。
仲井真知事の決断が重要だ。何が沖縄と日本のためになるのか、慎重に判断してもらいたい。
28日付け産経。
辺野古評価書 宅配では誠意が伝わらぬ
防衛省がまとめた米軍普天間飛行場移設に必要な環境影響評価書の運送が沖縄県庁前で反対派に阻止されるという異様な事態になった。
評価書提出は環境影響評価法に基づく行政手続きだ。仲井真弘多県知事も法に従って受理する意思を表明していた。にもかかわらず、一部反対派の違法といえる阻止行動は法治国家として許されない。政府と県は決然と手続きを進めるべきだ。
また、この事態を招いた第一の責任は、移設に明確な指導力を発揮してこなかった政府にある。野田佳彦首相は改めて政治生命を懸ける覚悟で地元の説得などに全力を挙げねばならない。
評価書は、日米合意に基づき名護市辺野古に建設する代替施設が環境や住民生活に及ぼす影響や対策をまとめたものだ。米軍が導入する新型輸送機やジュゴンの生息環境などについても「支障や影響はない」としている。知事は最大90日以内に意見書で回答する。
来年春にも政府が埋め立て申請に進むために、評価書の提出は重要なかぎを握る。移設問題の「明確な進展」を示す上で、野田首相の対米公約ともなっていた。
ところが、沖縄防衛局長や一川保夫防衛相自身の相次ぐ暴言問題が地元の反対運動を勢いづけ、これに政府側がひるんだことが異常な事態を招いたといえる。
当初は「必要なら現地に出向いて説明する」とした一川氏が評価書送付を宅配会社に委ねたのは情けない。与党内でも「政務三役などが堂々と持参すべきだった」と厳しく批判されたのは当然だ。姑息(こそく)としかいいようがない。
県側にも問題がある。24日の沖縄政策協議会で沖縄振興費や一括交付金の大幅増を獲得し、日米地位協定見直しも進んだ。評価書受理を知事自らが示しており、粛々と法の手続きを進めるべきだ。
違法な阻止活動に流されていては、法治国家の面目を世界に失うばかりではない。普天間が現状のままで固定化される危険にも思いをめぐらす必要がある。
移設先の辺野古などでは移設を容認し、歓迎する住民も少なくない。防衛相以下、政府に今求められるのは、足繁く現地に通い、住民の一層の理解を求める努力と誠意を積み重ねることだ。
とりわけ野田首相は一度も沖縄入りしていない。一刻も早くそうした姿勢を見せてもらいたい。
朝日と毎日は辺野古移設中止を、日経、読売、産経は移設推進を説いているようだ。
個人的には、日経に最も説得力を覚えた。
複数の新聞で同じような表現が見られるのは、共通のタネ本のようなものがあるからだろう。とりわけ今回の朝日と毎日の文章はかなり似通っている。
昨日の記事でも触れた「市民団体」の所業について、批判しているのが読売と産経の2紙のみとはなげかわしい。
注目すべきは、朝日を除く4紙は、辺野古移設が中止された場合、普天間が現状のまま固定化されることに言及している点だ。
「もっとも懸念されるのは、移設計画が頓挫し、「世界一危険な基地」普天間が固定化されることである。
米議会は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費を12会計年度の国防予算から全額削除したが、13年度も同様の措置が取られれば、普天間の固定化がますます現実味を帯びてくる」(毎日)
「沖縄側にも考えてほしいことがある。いまの移設案が葬られた場合、いちばん影響を受けるのは沖縄だということだ。
辺野古への移設を断念すれば、普天間基地は少なくとも当面、いまの場所に残らざるを得ない。仮に日米で移設先を再交渉できたとしても、すぐに妙案が見つかる保証はない。
普天間基地の周辺には家や学校が密集している。基地の現状が固定されれば、地元の人々は何の見通しもないまま、事故の危険と隣り合わせの生活を強いられる。
移設の実現に残された猶予は長くない。米議会は普天間移設とセットになっている沖縄からグアムへの米海兵隊移転の予算凍結を決めた。移設が進まなければ予算が完全に削除されかねない」(日経)
「辺野古移設が頓挫すれば、普天間飛行場の現状が長年、固定化される。海兵隊8000人のグアム移転と、普天間など米軍6施設の返還も白紙に戻ってしまう。
政府と沖縄県はまず、この点で認識を一致させる必要がある。普天間問題の実質的な進展がない限り、米連邦議会がグアム関連予算の凍結を解除しないからだ」(読売)
「普天間が現状のままで固定化される危険にも思いをめぐらす必要がある」(産経)
たしかにそのとおりで、例の更迭された田中聡前沖縄防衛局長も、オフレコ懇談会の場で、
(防衛省の)審議官級の間では、来年夏までに米軍普天間飛行場の移設問題で具体的進展がなければ辺野古移設はやめる話になっている。普天間は、何もなかったかのようにそのまま残る。
との趣旨の発言をしたとされている。
辺野古移設への賛否はともかく、移設中止によって普天間が現状維持となる可能性については、十分考慮されなければならないだろう。
ところが、全国紙5紙のうち朝日のみが、今回の社説でこの点について触れていない。
「日米両政府は、いまこそ立ち止まるべき」であり、「新しい解決策を見つけるのは難しい」が「立ち向かうしか道はない」と、とにもかくにも辺野古移設中止を求めるのみだ。
普天間の現状維持についての言及は、移設を中止せよとの主張の説得力を削ぐと考えているのだろうか。
では朝日は普天間の件も含めて、どのような解決策が望ましいと考えているのだろうか。
もちろん、新聞がいちいち解決策の具体像まで示す必要はない。それは政治家や官僚の仕事である。
そしてそれをあれこれ論評するのが新聞の仕事である。
にしても、何ともお気楽なものだと思う。
こういう論調が、十分な代案も持たずに「最低でも県外」と言い放ち、結局自滅した鳩山由起夫のような政治家を生むのではないだろうか。